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余命宣告を無視して生き続ける元NFLプレーヤーのドキュメント映画「ギフト 僕がきみに残せるもの」

清藤秀人

2017/07/10(最終更新日:2017/07/10)


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余命宣告を無視して生き続ける元NFLプレーヤーのドキュメント映画「ギフト 僕がきみに残せるもの」 1番目の画像
 ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した元NFLのスター選手が、やがて生まれてくる我が子のために撮影したビデオダイアリーが、一編のドキュメンタリー映画になった。

 しかし、「ギフト 僕がきみに残せるもの」は単にトップアスリートが難病と闘う姿を追った難病ドキュメントではない。そこから、父と息子の普遍的な関係や、アメリカ人気質とアメリカという国の仕組みが見えてくるのだ。

災害に見舞われたニューオーリンズの希望の星

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 主人公のスティーヴ・グリーソンは、NFLニューオーリンズ・セインツでディフェンスの要セイフティとして活躍。

 ハリケーン“カトリーナ”により甚大な被害を被ったニューオーリンズが、2015年10月16日、災害後初めてホームにアトランタ・ファルコンズを迎えた試合で、見事、パントブロックを決めて人々に希望を与えた伝説のプレーヤーだ。

 だからこそ、彼が引退後、ALSであることが判明した時の衝撃は、本人と家族、ニューオーリンズのみならず全米のフットボールファンを打ちのめした。希望が打ち砕かれたと感じた人も多かったはずだ。余命は2年、長くて5年。だが、スティーヴはただ死を待つだけの消極的な選択を拒絶する。

 診断から6週間後、愛妻ミシェルの妊娠を知った彼は、まだ見ぬ息子のために自分のまだ元気な姿を日々ビデオに収めることで、そこに新たな希望と生き甲斐を見出そうとするのだ。

スティーヴのビデオレターはよりアクティブに

 スティーヴ本人が撮ったセルフィ映像を、旧友のフィルムメーカーで介護人でもあるデヴィッド・リーとタイ・ミントン=スモールが受け継ぎ、さらにドキュメンタリー作家のクレイ・トゥイールが最終的に構成したドキュメンタリー映画が凄味を増すのは、これ以降。

 残り少ない健康を謳歌するため、スティーヴがミシェルを伴い、シュノーケリングやトライアスロン、果てはスカイダイビングにまでチャレンジする姿は、可能性を徹底追求するアメリカ人のポジティブシンキングそのもの。我々日本人には希薄な特質だ。

やがて社会全体を巻き込みムーブメントに

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 やがて、診断から9カ月後、初めてメディアの前に現れたスティーヴは、ALSの啓蒙に努め、同じ病に苦しむ多くの患者たちを応援するための財団チーム・グリーソンの設立を発表。

 ALS患者にとって唯一のコミュニケーションツールである、視力入力した文字を肉声に換える音声合成機器の保険適用を時の政府に直訴し、受理される。

 オバマ大統領(当時)が承認したその法案はスティーヴ・グリーソン法と呼ばれ、それと連動して実施された寄付活動が、セレブなどが挙って氷入りバケツを頭から被り、一部では物議を醸した例の“アイス・バケツ・チャレンジ”だった。難病の支援活動が社会全体を巻き込んだムーブメントになるのもアメリカならではだろう。

病気によって人間関係が破綻し、修復されていく

 一方で、カメラは病の進行と、それに伴う人間関係の変化にも容赦なく切り込んでいく。待望の長男リヴァースに恵まれ、当初は困難な中にも笑いが絶えなかった夫婦生活だが、財団の設立によってスティーヴの注目度が高まるに連れ、夫婦間の対話が少なくなっていく。

 ミシェルが夫に対する周囲のイメージと現実のギャップに苦悩し、それがストレスとなって彼女を苦しめる様子は、ポジティブ思考の裏返し。皮肉な副産物である。

初めて互いに理解し合える父と息子

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 そして、このドキュメントが観客の心に最も深く突き刺さるのは、スティーヴが病気の診断直後に決意する人間関係修復の一環として、独特の宗教観を持つ父親のマイクと初めて心を通じ合わせるシーン。

 自分が信じる救いの手段を我が子にも押しつけようとして来たマイクに対し、病気が原因で言葉も自由に発せられないスティーヴが、「パパ、僕は僕なりに救われているんだ」と涙ながら絶叫すると、マイクも泣きながら「お前は俺の息子だよ」と応じる場面は、父と息子が互いの存在を本当の意味で認め合う瞬間。2人の関係はそのまま、衰えゆく父、スティーヴと彼の下ですくすくと成長していくリヴァースにも、確実に受け継がれていくことだろう。

そして、スティーヴ・グリーソンは今も生き続ける!

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 ALS発症以来、全身の筋肉が衰えて自らの力で痰を吐き出すことも、大便を排泄することも出来なくなったスティーヴは、それでも今、人工呼吸器を付けてミシェル、リヴァースと共に人生を生き続けている。

 「息子のためにも生きられる限り、生き続けたい」と言い切るスティーヴの考え方は、地獄もちゃんと体験したポジティブシンキングのある意味到達点なのではないだろうか。

【作品情報】
「ギフト 僕がきみに残せるもの」
公式サイト:transformer.co.jp/m/gift
8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷他にて全国順次ロードショー
©2016 Dear Rivers, LLC

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