全国の地域で活発化する「創業支援」。一方で「創業前支援」という言葉をご存じでしょうか?今回のSTORYでは、創業への関心を高めるための取り組み「創業前支援」にスポットを当て、これからの日本が創業機運を醸成するために必要なことについて紐解きます。
中小機構 創業・ベンチャー支援部にて創業前支援に取り組んでいる野﨑 知史さんをお迎えし、マホラ・クリエイティブ株式会社代表の櫻井との対談にて、これまでの活動で感じたことや創業前支援の本質についてお話を伺いました。
〈対談者プロフィール〉
写真右:
野﨑 知史
独立行政法人中小機構基盤整備機構 創業・ベンチャー支援部 創業・ベンチャー支援企画課 課長代理
同志社大学商学部卒業
中小企業診断士
2011年~新卒で地域金融機関にて勤務、2021年~大学の研究支援・社会連携センターでコーディネーターとして勤務した後、2022年8月 中小機構に入構。中小機構では創業・ベンチャー支援部に配属となり、主に高校生に対する起業家教育や、自治体の創業前支援のサポートを行う。
写真左:
櫻井 亮
MAHO-LA CREATIVE株式会社 代表取締役/中小機構 地域支援アドバイザー/東京デザイン専門職大学 講師
組織変革の専門家、学びと実践に徹底集中をする学習ファシリテーター。
全国の中高大学にて「情報デザイン」や「問いを立てる」ワークに関する講義を多数実施。「実践学習で日本と若者の未来を描く」想いのもと2011年から2017年まで学生団体の支援、社会問題解決イベントを開催。2023年開学の専門職大学講師に着任。2023年に若者支援事業を行う別事業を設立し現在人生で7つ目の法人化を準備中。
日本人が「創業無関心」を脱却するために
ーまず、中小機構の役割について教えてください。
野﨑:中小機構は、国の中小企業政策の中核的な実施機関である独立行政法人です。起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の成長ステージに合わせた幅広い支援メニューを提供しています。
起業・創業期の支援では、起業家や中小企業の新事業展開など、新たな一歩を踏み出そうとしている経営者をハードとソフトの両面からサポートしています。具体的には、全国の29拠点でのインキュベーション施設(創業支援拠点)の運営、創業前・創業準備中の方を対象としたセミナー・ワークショップの提供、アクセラレーションプログラムなどを通じた成長支援や、創業に関する各種の情報提供などを行っています。また、数多くのベンチャーファンドへの出資を行っており、将来的に有望なスタートアップ企業へのリスクマネーの供給という役割も果しています。
私はその中の創業・ベンチャー支援企画課の創業前ラインに在籍しており、創業前の方々に対する支援を担当しています。
ー野﨑さんが所属されている「創業前ライン」はどのような役割を担っているのでしょうか?
野﨑:創業前ラインでは、主に創業前の方に対しての支援を行っています。具体的には、「創業無関心層の方に対して起業・創業に関心を持っていただくためのアプローチ」、「創業に関心がある創業前の方(創業関心者層)を創業準備者に引き上げるためのアプローチ」、「既に創業準備を行っている方が実際に創業するまでの支援」の3つを行っています。
特に今力を入れて取り組んでいるのは、創業無関心層・創業関心者層の方へのアプローチになります。
ー創業前支援とは具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
野﨑:創業無関心層の方へのアプローチで言いますと、創業に関心を持っていただくために、高等学校等に対する起業家教育の導入支援や地方自治体での創業機運醸成イベントの開催支援を主に行っています。その取り組みの中で、櫻井さんのような外部講師を学校や地方自治体に派遣して講義やワークショップをしていただくということを行っています。
高校へは、中小企業庁が定めたカリキュラムがあるので(現在中小機構にて改訂中)、高校に導入してもらう為の支援を行っています。
櫻井さんには2023年から現在(※2024年9月現在)まで21都道府県、59案件をご一緒していただきましたね。
櫻井:本当に様々な地域を回りましたね!
▲中小機構×マホラ・クリエイティブとしての活動実績
▲高校への出張講義の様子
ーなぜ今創業前支援に力を入れているのでしょうか?
野﨑:この30年の経済成長で日本が停滞している理由の一つとして、開業率の低さが挙げられます。これは起業への関心度が低く、実際に起業する数も少ないということが背景にあります。
日本人の起業関心度は他の国に比べて低く(※1)、開業率においても日本は5%程度、欧米諸国は10%前後(※2)とほぼ倍近くの差があり、大きな開きがあると言われているんです。
(※2)出典:厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-
まずは、起業への関心を持つ層の母数を増やして、結果的に起業する人を増やしていこうということで、近年国を挙げて創業前支援に力を入れるようになりました。
櫻井:日本人は創業という選択肢すら頭の中にない人が多いですよね。
野﨑:そうなんです。でも一方で、日本は無関心層は多いものの、創業準備者が創業する割合は世界的に見ても低くない、むしろ高い、というデータもあります。そのため、創業に興味を持つ母数を増やすことで、創業数も必然と増えていくと考えて積極的に活動をしています。
ーなぜ日本は創業関心者が少ないのでしょうか?
櫻井:国柄も関係するのですが、日本と海外でリスクの取り方が全然違うということが要因として挙げられると思います。リスクには「テイク」と「ヘッジ」の2種類がありますが、日本人は圧倒的に「リスクヘッジ」をすることが多いんです。危ないものは一旦避ける、という考え方はもちろん間違ってはいないのですが、時に「リスクテイク」をする、つまり、ある程度のリスクを受け入れて大きなチャンスを掴むという選択をする必要もあるように思います。
起業にリスクはつきものなので、リスクをいかにテイクできるかが重要になってきます。日本は代々リスクヘッジをして時代を生き抜いてきたので、テイクしようとする文化が薄いと言えます。そして、そのために必要なのが、どこまでテイクできるのかの見極めと力量把握なんですね。それは実践学習で培われていきます。
本当はリスクテイクをした時の本質を子どもの頃から学んでおくと、チャレンジをする機会も増え、いざという時に多くの人が起業という選択肢を取れるんです。私が起業家教育というカテゴリの中で機運情勢、意識改革の重要性をもって学校を回っているのはそういう背景もあります。
ー創業への関心が低い要因は日本文化の影響以外にどんなことが考えられますでしょうか。
櫻井:他に創業への関心が少ない理由として、「創業なんてそんな大それたことはできない」と思っている人が多いことも一つだと思います。
現代では副業や複業など、創業のバリエーションもすごく増えて割と「自ら事業を行う」ということが一般的になってきましたよね。それこそ、サラリーマンをしながら兼業で農家をしている人もいれば、趣味に近い形でイラストを描いて売っている人もいます。
でも、それがイコール創業だというイメージが湧かないんです。きっと子どもからすると「創業は社長になること」というイメージが先行していると思うので、創業した後の働き方や、起業家とはどういう人たちのことなのかを伝えていくことも大事だと思っています。
野﨑:あとは、開業率の低さも影響して周りに起業家が少ないということも創業に興味を持てない理由として挙げられると思います。この課題を解消するために、創業前支援の取り組みの一つとして、50校ほどの高校に起業家を派遣して起業や起業家とは何かということを講義をしてもらうという取り組みを行っています。
文科省や東京都や各自治体等も学校への起業家の派遣を始めているので、子どもたちが起業家のことを知る機会はこれからかなり増えていくのではないかなと思います。
様々な仕掛けで分かりやすさを追求するマホラ・クリエイティブ流講義
ーたくさんの支援アドバイザーの方がいる中でなぜマホラ・クリエイティブを推薦してくださるのでしょうか?
野﨑:やはり櫻井さんのことを信頼しているというのが一番大きいですね。ものすごい数の案件を対応してくださっていることもそうですし、数日連続で講義が続いても絶対に手を抜くこともありません。同じ講座でも参加者に合わせて内容を少しずつ変えてくださるのもありがたいです。参加者や自治体、先生も名指しで櫻井さんを指名される方がかなり多いです。
あとは教えられる内容の振り幅が広いのも櫻井さんの特徴だと思います。どんなテーマのリクエストでも受けてくださいますし、講師だけでなくファシリテーターやイベントの案件にも対応してくださるなど櫻井さんにお願いしたら大体どんな案件もこなしてくださる安心感があります。
ー櫻井さんの講義の仕方については特徴はありますか?
野﨑:事例をたくさん入れてくださるので、難しいことが苦手な地域の挑戦者の方や学生でも分かりやすいというのが一つですね。参加者のレベル感を見ながらそれぞれが分かりやすいと思うところまで噛み砕いて説明してくださいます。
難しいことを難しく話せる方、というのは有識者を探すと意外と見つけることができます。学者だけでなく実際に活躍されておられる実践者の方でもご自身たちは分かっている、出来てしまっている、ことなのでさらっと話してしまう。しかし、「何が分からないか分からない」という学生に向けてシンプルにして分かりやすくし話をするというのは実はそんなに簡単なことではないと感じています。櫻井さんにはそれをしていただけるので派遣していても学生の反応が見えて楽しい瞬間がたくさんあります。
櫻井:ありがとうございます。10年以上前から大学生たちと一緒にプロジェクトを立ち上げるなど若い人たちと常に触れてきたことが学生や若い世代の方にどう伝えれば良いかを鍛える経験になっているように思います。
野﨑:あとはワークも特徴的だと思います。一つのワークを長い時間やるのではなく、「1分間横の人と喋ってみよう!」くらいの短いワークをたくさん入れてくださいます。一般的にはワークを入れようと思うと30分ほどの長いワークをすることが多いと思うのですが、ショートワークを小刻みに入れていくことで講義の流れも途切れることがなく、とてもいいなと思っています。
櫻井:創業前支援の参加者の方々は、知識をより深めたいというというよりも、これから何をやればいいのか分からないと不安を感じながら参加している人が多いと思うんですよ。「私なんかが喋っても…」という気持ちを払拭するような仕掛けとして気軽に、気楽に話してもらうワークをたくさん入れるようにしています。
あと、このやり方だと大人数でもできるのが良いところなんですよね。300人に講義をすることもあるのですが、300人をグループ分けして30分ぶっ続けでワークをやろうとすると、講師側や支援してくださる学校の先生もサポートしきれないし、集中力が切れてしまい、結果、遊んでしまうグループも出てきます。人数が変わってもクオリティや講義の質を下げないために、こういった細かな授業の設計もこだわるようにしています。
高校生の将来に「起業」という選択肢を
ー先程、高校にカリキュラムとして起業家教育を行っているというお話がありましたが、なぜ今高校生向けに起業家教育を行うのでしょうか?
野﨑:創業を意識するのに、大人になってからの方が良いということはなく、むしろ早ければ早いほど選択肢が広がるのではないかと思っています。高校生になると文理選択をしますが、そのタイミングで将来のキャリアを決める高校生がとても多いのです。だからこそ、自分の将来を決めるその前に、数ある選択の中で創業という選択肢もあるんだよ、ということをまずは知ってもらいたいと思っています。
ー今すぐ起業はしなくても選択肢として頭に入れておいてもらいたいということですね。
櫻井:昔、私自身が高校卒業後に地方から東京近郊に上京した時、都会と地方の情報格差は少なくないと感じました。今、全国の学校を回っているとデジタル社会の令和においても、地方と都会の高校生では驚くほど情報に格差があると感じます。
将来のことにおいても、地方だと先生になるか地元の企業に勤めるか、という選択肢しか知らないという学生もいるので、「起業という選択肢もあるよ」ということを都会・地方関わらず全国の学生に伝えていく中小機構のこの活動はとても重要なことだと感じています。
ー高校へはどのように起業家支援を導入しているのでしょうか?
野﨑:今高校では文科省により探究学習の時間が定められています。探求学習の時間等を活用して起業家教育をしたいという高校に手を挙げていただき、起業家教育のカリキュラムを導入する為の支援を実施しています。その支援の中で、起業家や外部講師を複数回派遣させていただくという流れになっています。
2024年度は、30校以上の学校に応募いただき、そのうち20校の支援を行っています。
櫻井:探究学習の経験に長けていてノウハウのある先生の中には、探究学習をより良いものにしていこうと、敢えて中小機構さんのプログラムで外部の講師を呼び、意識的に活用されている方もいますよね。
ーどのような理由で起業家教育導入に応募する高校が多いのでしょうか?
野﨑:理由は様々ですね。起業というものを生徒に知ってほしいという先生もいますし、起業しなくてもいいから起業家精神を生徒に養ってほしいと言ってくださる先生もいます。はたまた、正直探究学習で何をしたらいいか分からないからコンテンツの一つとしてまずはきっかけづくりのつもりで導入したい、という学校もたくさんあります。
学校の種類も普通科や高専、通信制、商業コースなど多種多様です。進学校では、全員が医者目指すような賢い子たちに起業という道も知ってもらいたいというニーズがあったり、高専では5年間専門性を突き詰め続けるという特性から、起業家教育はとても親和性が高いと感じたのを覚えています。
櫻井:最初は「起業の話なんて…」とちょっと関心なさそうに無関心を装っていた学生が授業後に、「実は誰にも言ってないんですけど、本当は僕、将来起業したいと思っていて…」と話してくれる子がいたり、40人ぐらいのクラスで講義をすると、大体1〜2人は、目を輝かせて大きくうなずいて話を聞いてくれるんです。もちろん全員が起業しようという気にはならないけれど、いつも3〜5%ぐらいの学生には大きく響いている、半数以上の子たちに変化の反応が見られるという感覚がありますね。
このパーセンテージは全然低いものではないと思っていて、このまま高校生への創業前支援としての活動を全国に広げていければ若い世代の創業関心層がじわじわ増えていくと思います。そうなる未来が楽しみですね!
ー多くの学生が起業という選択肢を知ることで、日本の将来はさらに明るくなるかもしれないですね!貴重なお話をありがとうございました!
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〈関連情報〉
起業家教育や創業前支援でお困りの方・支援者をお探しの方へ
マホラ・クリエイティブでは、独自で開発したビジネスデザインプログラム「キホンのキ」を取り入れ、学びのデザインの仕組みを作ることから支援させていただきます。
また、代表櫻井が大企業の組織変革のコンサルを行ってきた経験や専門大学の教授として体系的な視点を通して学生に講義を行っていることから「実践」 と「学び」の両面からアドバイザーとして介入させていただくことも可能です。
起業家教育や創業前支援がうまくいかず悩んでいるご担当者様や地域で起業したいがどうしたらいいかわからないという方は、ぜひマホラ・クリエイティブにご相談ください。
BUSINESS DESIGN PROGRAM キホンのキについて
ISSUE設定やJOB理論、バリュー・プロポジションなど、新しいことを事業にするために役立つ概念と知識を、ビジネス視点・スキルの基礎として5回シリーズで学んでいきます。学びを深めて実践に生かすための MAHO-LA CREATIVE独自の「変革の方程式」という考えを採用したプログラム内容・構成となっています。
大企業から中小企業までの企業研修や、中小機構さん・地域のアクセラレーションプログラム・スタートアップコミュニティなど全国各地で開催しています。
2.5時間の講演から、2時間×数回シリーズのレクチャーまで柔軟に対応可能です。
記事「変化の激しい時代に必要なビジネススキルを学ぶ、BUSINESS DESIGN PROGRAM キホンのキとは」
https://note.com/mahola/n/nabe91a135a2b
【変革の方程式とは】
MAHO-LA CREATIVE株式会社 公式HP
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