10月25日、スコッチウイスキーで名を馳せるシーバスリーガルが主催する「シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金」(以下ヤングアントレプレナー基金)のイベントが、目黒の「Impact HUB Tokyo」で開催された。
この基金は、シーバスリーガルが優秀な起業家・プロフェッショナルを発掘・支援する目的で、幻冬舎発行の雑誌「GOETHE(ゲーテ)」協力のもとに設立。2012年の創設以来、毎回1,000万円もの助成金を交付し、有望な若手ビジネスパーソンをサポートしてきた。2016年度も、11月25日まで応募を受け付けている。
2015年(第3回目)以降の受賞者には、シーバスブラザーズ社主催のアントレプレナー世界大会「THE VENTURE(ザ・ベンチャー)」へ日本代表として出場する権利も授与。総額100万USドルが提供され、世界各国の出場者とともにビジネスアイデアを競い発展させる場となっている。
今回のイベントでは、「社会起業でスタートアップするには?」をテーマにトークセッションや交流会を実施。ソーシャルビジネスで起業した方々をパネリストに迎え、忌憚ない意見が語られた。その模様をレポートしよう。
受賞を機に事業が加速 、世界の起業家との出会いも
イベントは、主催者であるペルノ・リカール・ジャパン株式会社アレクシ・ドメジ氏(上写真)の挨拶からスタート。シーバスリーガルの生みの親であるシーバス兄弟の功績、彼らが果たした社会貢献、そしてヤングアントレプレナー基金設立の経緯が語られた。
トークセッション第一部には、ヤングアントレプレナー基金第3回受賞者の株式会社センスプラウトの川原圭博氏(上写真:中央)、第4回受賞者の株式会社MOLCURE(モルキュア) 小川隆氏(上写真:右)が登壇。起業家と投資家をつなぐ株式会社THE BRIDGEの池田将氏(上写真:左)をモデレータに、「THE VENTUREに参加して」というテーマでそれぞれの思いを語り合った。
川原氏は、東京大学大学院で准教授を務める研究者。家庭用インクジェットプリンタで電子回路を印刷する技術を研究していたが、それを農業に活用したのがセンスプラウトだ。
「現在、世界規模で食糧問題、水問題が起きています。野菜を作るには水が必要です。さらに、牛肉となる牛を育てるにも牧草や穀物が必要なため、果てしない量の水を使います。そこで印刷技術を使い、土の中の水分量を正確に測定し、必要最小限の水で農作物を作るのがセンスプラウトです。必要なコストは従来の約1/10。より品質の高い農作物が作れるうえ、労働コストも削減できます。現在は日本の農家に寄り添い、彼らに喜んで使っていただけるものをお届けするのがミッション。その後、インドやアメリカなど世界で使ってほしいと考えています」(川原氏)
MOLCUREの小川氏も、もとは慶応義塾大学の科学者。2009年に設立したITベンチャー企業Synclogue.の事業部から、ドラッグディスカバリー、つまり創薬を専門とするMOLCUREが誕生した。現在、次世代シーケンサーと人工知能を組み合わせて、抗がん剤などに用いる高機能抗体を創出するプラットフォームを開発している。
「目指すのは、病気の原因を探し出し、それを解決するためのモノづくりです。世界トップの製薬会社でも、成功するのは20プロジェクトのうち1つ程度。残りの赤字を、成功したプロジェクトで回収するという構造になっています。我々は、本来なら成功するはずだったプロジェクトの取りこぼしを見つけ、成功率を上げるお手伝いをしています。それにより、平均的な開発期間とコストを下げる狙いです」(小川氏)
2人とも、アントレプレナーの世界大会「THE VENTURE」にも出場したことがある。そこで得た経験は、現在の事業にも大きく役立っていると話す。その感想を問うと、川原氏は「アントレプレナーシップが鍛えられました」と即答。
「16カ国もの代表が集まり、サンフランシスコで起業家としてのビジネスプランを競い合いました。ただ競うだけでなく、プレゼンの手法や考え方、成功談などからも大きな刺激を受けました」(川原氏)
日頃から学会や国際会議に参加している小川氏も、「『THE VENTURE』は密度が違います」と賛辞を贈る。
「世界各国のアントレプレナーと寝食を共にするのは、他では得られない体験でした。彼らはビジネスプランが優れているだけでなく、人間的にも強い。いっしょに過ごすことで、人間としても鍛えられました」(小川氏)
現在は2人とも、研究ステージが終わりつつある段階。ヤングアントレプレナー基金のおかげで、日本のメディアからの関心が高まったと小川さんは話す。
「今年になって国内の製薬会社3社と話ができましたし、受賞を機に海外との距離も近くなりました。現在は海外のバイオテックベンチャーとも交渉を進めています。トライアルでプロジェクトを進めながら実績を作り、今後につなげていきたいです」(小川氏)
川原氏も、受賞が結んだ縁で事業が広がりつつあると語る。
「『THE VENTURE』のアルゼンチン代表が、農業関係の事業を展開する方でした。受賞を機に何かいっしょに始めようと考えているところ。シーバスリーガルが取り持つ縁ですね」(川原氏)
ソーシャルビジネスを長続きさせるのは「面白がる心」
トークセッション第二部のテーマは、「気鋭の社会起業家と語る熱い未来、爆発前夜のソーシャルビジネス最前線」。第一部の川原氏、小川氏のほか、クラウドファウンディングサービス「READYFOR」を展開するREADYFOR株式会社でCEOを務める米良はるか氏(上写真:右から2番目)、NPO法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表の古橋大地氏(上写真:右端)も加わり、総勢4名で熱いトークを展開した。
2011年にスタートしたREADYFORは、ソーシャル系クラウドファンディングサービス。当時は東日本大震災の影響から、社会的な活動をしたいと考えるベンチャー企業が増えた時期でもある。多くの人々の共感を得て、さまざまなプロジェクトで資金調達を成功させてきた。
古橋氏も、READYFORで資金調達を試みたひとり。青山学院大学の教授として地図学を研究する中で、ドローンを活用した災害マップの作製に新たな可能性を見たという。そこで、ドローンを操縦できる隊員を育成し、クライシスマッピングを行なう『ドローンバード』というプロジェクトを立ち上げたそうだ。
4人のパネリストは、社会起業の意義についてそれぞれの意見を語ることに。古橋氏がソーシャルビジネスで重視するのは、サステナブル、つまり「継続性があるかどうか」だ。
「伊能忠敬のように地図づくりをどこまで続けられるか、世の中にどのように役立つか。その点を意識して事業展開を考えます」(古橋氏)
では、ソーシャルビジネスを長続きさせるにはどうすればいいのだろうか。米良氏は「面白がる気持ち」が大切だと話す。
「『社会問題を解決しなければいけない!』と気張る人より、『社会に欠けている部分をみんなでサポートしたら面白いだろうな』『せっかく今の時代に生きているなら、人に役に立てれば生きている実感がありそうだな』と考える人のほうが、長続きする気がします。かつては一攫千金を狙って起業する人が多かったようですが、今は最低限暮らせるお金があればいいから社会起業をしたい人、『面白い』が原動力になっている人が増えている気がします」(米良氏)
小川氏、川原氏も、楽しみながらソーシャルビジネスに取り組んでいるとのこと。小川氏は「ベンチャーは楽しくないと続きません。僕自身、中小企業でも参入できるようなプラットフォームを提供し、よりたくさんの薬を世に送り出すことに魅力を感じます。そもそも僕自身もがん家系。がんに有効な薬の開発は、人類にとっても重要なミッションです。その役割の一翼でも担えるのが、喜びにつながっています」と話す。
川原氏も「大学での研究とは違う楽しさがあります」と、社会起業のやりがいを語る。「大学で研究をしていても、実用化されるのか不安を覚えます。でも、自分たちが開発した技術でプロダクトを作り、農家に納品すると、お金をいただけるうえに『ありがとう』と言われるんです。事業家には当たり前かもしれませんが、研究者にとっては衝撃的な体験。社会の役に立っていると実感できました」と、笑顔を見せた。
トークセッションが終わると、パネリストたちを交えた交流会が開かれた。最後まで多くの来場者が残り、「シーバスリーガル18年」(上写真:左)、日本限定の「シーバスリーガル ミズナラ」(上写真:右)を味わいながら、ソーシャルビジネスについて話に花を咲かせていた。
※応募は11月25日まで受付中
今回のパネリストたちは、食糧問題や病気、災害などの課題に取り組む社会起業家たち。しかし、彼ら4人は「社会起業家になること」を目的としたわけではない。社会奉仕、自己実現の結果として、ソーシャルビジネスを立ち上げた人たちばかりだ。
社会起業は、堅苦しいものではない。好奇心や探究心のおもむくままに行動を起こし、その結果、世界にポジティブな変化がもたらされればそれでいい。シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金なら、楽しみながら世界に革新をもたらすビジネスパーソンを手厚くサポートしてくれるはずだ。
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