11月の「児童虐待防止推進月間」によせて
いつ・誰に・どんな 支援が求められるのかデータから見る児童養護施設退所者(ケアリーバー)の多様性と退所後支援の現状
■『トラッキング調査』とは
私たち「ブリッジフォースマイル(以下B4S)」は、2020年度から10年計画で、年1回『退所者トラッキング調査』を行っています。4回目の2023年度は、全国47都道府県にある児童養護施設558カ所にアンケートを送り、129カ所から2597人分の回答を得ました。退所者の「進学・就労」「支援制度の利用」「住まい」の状況や、「親族との関係」「メンタル面での課題比較」「性別による傾向」「施設とのコミュニケーション」「支援の方向性」など、さまざまな角度から得た回答とその分析を報告書(81ページ)にまとめています。「概要版」「詳細版」は、B4Sのホームページ(https://www.b4s.jp/tag/research/)から、過去の報告書と合わせてご覧いただけます。
■6施設に1施設は、アフターケア(施設退所後の支援)の担当職員がいない
2016年の児童福祉法改正で、児童養護施設にアフターケア(施設退所後の支援)を行う職員の配置が進められましたが、まだ担当職員を配置できていない施設が15.5%あります。また、アフターケアは、未だ職員個人の努力に委ねられている部分が大きく、施設外での飲食費など経費で認められる項目が施設によってまちまちです。さらに、退所後の緊急事態に短期的にでも金銭不安なく生活できる場所の提供など、ケアリーバーたちの再出発を後押しする取り組みに、施設は一層の期待がかけられている状況となっています。
■家庭復帰者の高校中退率56.6%。施設退所者全体の中退率9.4%と比べてとても高い
今回初めて、満18歳3月を待たずに家庭復帰した子どもたち7学年分(2016~2022年)の高校卒業状況を集計しました。家庭復帰した子どもの数は、同じ7学年分の全退所者(3748人)の11.2%にあたる422人いました。そのうち、家庭復帰した子どもたちの高校中退者は239人で、中退率は56.6%となっております。これは、全退所者の中退率9.4%と比べると非常に高い数値です。
このデータは、大きく2つのケースに分けられます。1.「高校を中退したため施設を退所」と、2.「退所し家庭復帰後に高校を中退」です。1.「高校を中退したため施設を退所」の背景は、生活規則がある施設生活への不満や、学業意欲の低下による中退、18歳成人の主張などです。一方、2.「退所し家庭復帰後に高校を中退」の背景は、高校卒業へのモチベーションを維持できない家庭環境が大きく、そもそも退所後に施設との関与を望まない保護者や子どもがほとんどです。施設側も家庭復帰後のアフターケアを積極的に行う状況にはなっていません。
■制度の後押しにより、大学等への進学率は着実に増加。しかし、中退率は依然高い
2020年度からはじまった日本学生支援機構による給付型奨学金制度の後押しもあり、2022年度退所者の大学等への進学率は、初めて40%を越しました。施設生活経験者の4年生大学への進学に関しては2016年(15.5%)と2022年(29.3%)を比べると2倍に増えていますが、それでも一般の2022年4年生大学進学率59.5%と比べると2倍ほどの格差があります。
さらに、中退率を見てみると大学等中退率は入学1年後で7.5%、入学4年後で27.5%となっており、中退の割合は依然高いままです。中退の理由は、「学習意欲の低下」がいちばん多く、次いで「メンタル不調」「出席日数不足」「人間関係」「生活の乱れ」となっています。奨学金制度の拡充により解消されたかに思われた「経済問題」もあり、中退予防のための継続的な伴走支援が欠かせないことがわかります。
■高校卒業直後に就労する人のうち、4人に1人は福祉就労
児童養護施設全体において、なんらかの障害を持っている児童の割合が増えています。退所後は、障害福祉サービスを受けながら自立した生活を目指していくという傾向が定着しつつある今日、障害福祉系ホームへの入居は全体的に広がってきています。今後は、転職を含めた福祉就労の支援強化が必要と考えられます。
■困難な状況/「不登校」「自傷行為」「メンタル治療」経験者の中退率・離職率は高い
困難な状況を経験した人たちは、進学率が低く、中退率は高い傾向にあります。また、無職の割合や離職率も高くなっています。コミュニケーションや感情コントロールを苦手とするケースが多く、孤立しやすい環境です。アフターケアの制度拡充が進む中、心理士による「医療連携支援」が始まっていますが、現在のところカウンセリング等の費用は自己負担となっています。今後、様々な面でのより手厚い支援が必要です。
親を頼ることができない子どもたちのため、社会全体での関心と理解がまだまだ必要です。
持続可能な支援体制を確立すべく、メディアの皆さまのご協力をお願いいたします。
2024年4月から、ケアリーバー(児童養護施設の退所者など)への支援の取り組みが強化!児童福祉法の改正※に伴い、「支援年齢の上限撤廃」や、各都道府県に「施設入所等の措置等を解除された者等(措置解除者等=ケアリーバー)の実情を把握し、その自立のために必要な援助を行うこと」が義務づけられます。このような法改正も大きな1歩ですが、社会全体での温かなまなざしもまた必要です。「社会的養護下の子どもたち」の存在を、一人でも多くの方に知っていただけるよう、メディアの皆様のご協力をお願い申し上げます。
※「児童福祉法等の一部を改正する法律」が2022年6月8日に成立し、2024年4月に施行されます。今回の改正により、支援年齢の上限撤廃や、各都道府県に【施設入所等の措置等を解除された者等(措置解除者等=ケアリーバー)の実情を把握し、その自立のために必要な援助を行うこと】が義務づけられることになりました。しかしながら、このアフターケアは、地域格差や施設格差が大きく、まさにこれから様々な課題が現れることになると思われます。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/jidouhukushihou_kaisei.html 厚生労働省)
『トラッキング調査2023』報告会を兼ねた 『第18回 全国施設職員オンライン勉強会』
メディアの皆様もご参加いただけます
メディアの皆さまは、『第18回 全国施設職員オンライン勉強会「アフターケアのいま」』(11月6日(月)14:00~16:30)にご参加いただけます。詳細は、こちら。 https://www.b4s.jp/post-7067/
お問い合わせ・取材のお申し込み
当団体の取り組みや、当団体代表・林恵子への取材などお気軽にお問合せください
認定NPO法人ブリッジフォースマイル 広報:藤好千晶 TEL:090-1252-1651
〒107-0062 東京都港区南青山3-1-30 PASONA SQUARE
Email:info@b4s.jp URL:http://www.b4s.jp
メールマガジン登録 https://onl.tw/cUDTkgv
いつ・誰に・どんな 支援が求められるのかデータから見る児童養護施設退所者(ケアリーバー)の多様性と退所後支援の現状
■『トラッキング調査』とは
私たち「ブリッジフォースマイル(以下B4S)」は、2020年度から10年計画で、年1回『退所者トラッキング調査』を行っています。4回目の2023年度は、全国47都道府県にある児童養護施設558カ所にアンケートを送り、129カ所から2597人分の回答を得ました。退所者の「進学・就労」「支援制度の利用」「住まい」の状況や、「親族との関係」「メンタル面での課題比較」「性別による傾向」「施設とのコミュニケーション」「支援の方向性」など、さまざまな角度から得た回答とその分析を報告書(81ページ)にまとめています。「概要版」「詳細版」は、B4Sのホームページ(https://www.b4s.jp/tag/research/)から、過去の報告書と合わせてご覧いただけます。
■6施設に1施設は、アフターケア(施設退所後の支援)の担当職員がいない
2016年の児童福祉法改正で、児童養護施設にアフターケア(施設退所後の支援)を行う職員の配置が進められましたが、まだ担当職員を配置できていない施設が15.5%あります。また、アフターケアは、未だ職員個人の努力に委ねられている部分が大きく、施設外での飲食費など経費で認められる項目が施設によってまちまちです。さらに、退所後の緊急事態に短期的にでも金銭不安なく生活できる場所の提供など、ケアリーバーたちの再出発を後押しする取り組みに、施設は一層の期待がかけられている状況となっています。
■家庭復帰者の高校中退率56.6%。施設退所者全体の中退率9.4%と比べてとても高い
今回初めて、満18歳3月を待たずに家庭復帰した子どもたち7学年分(2016~2022年)の高校卒業状況を集計しました。家庭復帰した子どもの数は、同じ7学年分の全退所者(3748人)の11.2%にあたる422人いました。そのうち、家庭復帰した子どもたちの高校中退者は239人で、中退率は56.6%となっております。これは、全退所者の中退率9.4%と比べると非常に高い数値です。
このデータは、大きく2つのケースに分けられます。1.「高校を中退したため施設を退所」と、2.「退所し家庭復帰後に高校を中退」です。1.「高校を中退したため施設を退所」の背景は、生活規則がある施設生活への不満や、学業意欲の低下による中退、18歳成人の主張などです。一方、2.「退所し家庭復帰後に高校を中退」の背景は、高校卒業へのモチベーションを維持できない家庭環境が大きく、そもそも退所後に施設との関与を望まない保護者や子どもがほとんどです。施設側も家庭復帰後のアフターケアを積極的に行う状況にはなっていません。
■制度の後押しにより、大学等への進学率は着実に増加。しかし、中退率は依然高い
2020年度からはじまった日本学生支援機構による給付型奨学金制度の後押しもあり、2022年度退所者の大学等への進学率は、初めて40%を越しました。施設生活経験者の4年生大学への進学に関しては2016年(15.5%)と2022年(29.3%)を比べると2倍に増えていますが、それでも一般の2022年4年生大学進学率59.5%と比べると2倍ほどの格差があります。
さらに、中退率を見てみると大学等中退率は入学1年後で7.5%、入学4年後で27.5%となっており、中退の割合は依然高いままです。中退の理由は、「学習意欲の低下」がいちばん多く、次いで「メンタル不調」「出席日数不足」「人間関係」「生活の乱れ」となっています。奨学金制度の拡充により解消されたかに思われた「経済問題」もあり、中退予防のための継続的な伴走支援が欠かせないことがわかります。
■高校卒業直後に就労する人のうち、4人に1人は福祉就労
児童養護施設全体において、なんらかの障害を持っている児童の割合が増えています。退所後は、障害福祉サービスを受けながら自立した生活を目指していくという傾向が定着しつつある今日、障害福祉系ホームへの入居は全体的に広がってきています。今後は、転職を含めた福祉就労の支援強化が必要と考えられます。
■困難な状況/「不登校」「自傷行為」「メンタル治療」経験者の中退率・離職率は高い
困難な状況を経験した人たちは、進学率が低く、中退率は高い傾向にあります。また、無職の割合や離職率も高くなっています。コミュニケーションや感情コントロールを苦手とするケースが多く、孤立しやすい環境です。アフターケアの制度拡充が進む中、心理士による「医療連携支援」が始まっていますが、現在のところカウンセリング等の費用は自己負担となっています。今後、様々な面でのより手厚い支援が必要です。
親を頼ることができない子どもたちのため、社会全体での関心と理解がまだまだ必要です。
持続可能な支援体制を確立すべく、メディアの皆さまのご協力をお願いいたします。
2024年4月から、ケアリーバー(児童養護施設の退所者など)への支援の取り組みが強化!児童福祉法の改正※に伴い、「支援年齢の上限撤廃」や、各都道府県に「施設入所等の措置等を解除された者等(措置解除者等=ケアリーバー)の実情を把握し、その自立のために必要な援助を行うこと」が義務づけられます。このような法改正も大きな1歩ですが、社会全体での温かなまなざしもまた必要です。「社会的養護下の子どもたち」の存在を、一人でも多くの方に知っていただけるよう、メディアの皆様のご協力をお願い申し上げます。
※「児童福祉法等の一部を改正する法律」が2022年6月8日に成立し、2024年4月に施行されます。今回の改正により、支援年齢の上限撤廃や、各都道府県に【施設入所等の措置等を解除された者等(措置解除者等=ケアリーバー)の実情を把握し、その自立のために必要な援助を行うこと】が義務づけられることになりました。しかしながら、このアフターケアは、地域格差や施設格差が大きく、まさにこれから様々な課題が現れることになると思われます。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/jidouhukushihou_kaisei.html 厚生労働省)
『トラッキング調査2023』報告会を兼ねた 『第18回 全国施設職員オンライン勉強会』
メディアの皆様もご参加いただけます
メディアの皆さまは、『第18回 全国施設職員オンライン勉強会「アフターケアのいま」』(11月6日(月)14:00~16:30)にご参加いただけます。詳細は、こちら。 https://www.b4s.jp/post-7067/
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