2016年9月、中国、杭州でG20サミットが開催される。積極的な対外政策で存在感を増している中国が初の議長国となる。その政策の中でもAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立は日本でも大きな注目を集めた。本記事では、経済が議題の中心となる今回のサミットを前に、中国の覇権経済戦略を見ていきたい。
アメリカに代わる経済の牽引役だった中国
出典:www.cryptocoinsnews.com「無極」の時代に突入した現代
現在の世界情勢は不安定だ。第二次世界大戦後はアメリカとソ連の二極構造でそれぞれ抑止しあうことで大きな衝突が起こらなかった。しかしソ連が崩壊した後はアメリカが圧倒的な軍事力と経済力を武器に世界をリードしてきた。だが、リーマンショックでアメリカの国力が落ちたことで圧倒的な大国がなくなった。
当時、毎年のGDP成長率が10%を超え、躍進を続けていた中国もリーマンショックの影響を被ったが、欧米ほどではなく、世界で最初に景気回復を果たした。それ以降世界をリードする極といえる存在はなく、無極の時代が続いている。
中国は新しい秩序を作ろうとしているのか
アメリカ主導の国際社会で国外に対しては消極的な姿勢を見せていた中国だったが、リーマンショックで一転して積極的な対外政策をとることとなった。日本でも大きく報道されている南シナ海への進出、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立。これらの政策から見えるのは、IMF(国際通貨機関)やADB(アジア開発銀行)のように欧米、日本が作った世界秩序に代わる、中国主導の新しい秩序を作ろうという意図を読み取ることができる。
では、中国が主導しようという新たな秩序は日本にとってどんな影響を与える存在なのだろうか。
中国が挑戦する経済の新秩序
出典:www.photolibrary.jp 中国の覇権政策の一つとして紹介したAIIB(アジアインフラ投資銀行)。日本はアメリカに追従する形で不参加を表明したが、AIIBは日本と敵対する存在なのだろうか。そもそも、AIIBとなんなのだろうか。本項ではAIIBを含めた国際金融機関を解説するとともにAIIBの日本への影響を分析していきたい。
IMF
出典:pencilshade.deviantart.com IMFはブレトン・ウッズ会議で設立されたアメリカ主導の国際金融機関。出資国ランキングはアメリカが17.41%、日本6.46%、中国6.39%で、現在でもアメリカが最も発言力が強い。近年、財政危機で大きく取り上げられているギリシャへの融資などもIMFの活動の一環だ。
ADB
出典:devpk.wordpress.com ADBもまた中国の発言力がアメリカや日本に比べると高くない。出資国ランキングは日本が15.6%、アメリカ15.6%、中国6.4%だ。ADBはIMFと異なり、アジアの発展途上国の経済開発の支援を主な機能としている。
AIIB
出典:ap-perspective.blogspot.com では、AIIBはどういった立ち位置にあるのか。AIIBは先ほどから述べている通り中国主導で設立した国際金融機関だ。活動内容はADBと類似しており、アジアのインフラ開発の援助を主な活動としている。融資の審査基準が低いことからADBで融資を受けられない発展途上国も融資を受けられるので、ADBの補完的な役割が期待されている。
創設国は57か国で今後30か国が加盟を希望しているとされている。アメリカと日本はその中の一国に入っていない。AIIBの運営体制や資金調達の不透明性から不参加を表明したが、実際は政治的要因から参加を見送ったとみられる。アジアで覇権を強めたいという中国の思惑を阻止するアメリカの意図がうかがえる。日本はといえばアメリカを置いて参加することができないためにすぎない。
AIIBは日本とって害なのか
日本の一部メディアは日本が中国が独善的なAIIBへの参加を見送ったことを妥当な判断とする報道が目立つが、単に中国色が強い金融機関と決めつけるのは軽率だ。アメリカと日本は不参加を表明したが、イギリスを始めとする西欧諸国は参加する価値があると判断した。このことは西欧諸国がAIIBで必ずしも中国が権利を独占しないと見極めた上での判断だと推測できる。
日本主導のADBの競争相手となることは間違いないが、対立関係にあるわけではない。AIIBはADBの運営体制から組織の腐敗防止や環境への配慮など優れた慣行を学ぼうとしている。また、AIIB、ADBの共同融資も視野に入れている。
実際にパキスタンの高速道路建設プロジェクトへの共同融資が進められている。AIIBをADBの単なる競争相手とみなすだけでなく、途上国の発展のためのより良いパートナーとしての一面を見出すことができる。
中国色があまりに強く、独善的な運営体制だと指摘されるAIIBには確かに不透明性が高く、覇権戦略的な要素であることは否めないが、日本にとって単に害になる存在と言い切ることはできない。
今年のサミットのテーマは「革新・活力・連動・寛容の世界経済を構築」と中国が決定した。経済が議題の中心となるサミットで中国が議長国としてどのような姿勢で臨むのか注目したい。
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