HOMEインタビュー LGBTQ+の従業員が自分らしく働くために必要な「DEIB」とは? JobRainbowに聞く、企業が求められていること【後編】

LGBTQ+の従業員が自分らしく働くために必要な「DEIB」とは? JobRainbowに聞く、企業が求められていること【後編】

Honoka Yamasaki

2024/03/27(最終更新日:2024/03/27)


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JobRainbow執行役員CSO(最高戦略責任者)・ダイバーシティ採用事業部 ゼネラルマネージャーの海老根さん

日本の企業におけるLGBTQ+当事者への取り組みは、まだ完全に浸透しているとはいえません。実施率は大企業では約4割(39.0%)に対し、中小企業では約2割以下(18.0%)となっています。

トランスジェンダーの従業員に向けた配慮や制度がある企業はわずか2割程度であり、特に中小企業では取り組みが少ない傾向です(※1)。LGBTQ+の就活生やビジネスパーソンが自分らしく働くため、企業に求められることとは何でしょうか。

前編では、ダイバーシティ求人サイト「JobRainbow」を運営する株式会社JobRainbow 執行役員CSO(最高戦略責任者)・ダイバーシティ採用事業部 ゼネラルマネージャーの海老根さん、ダイバーシティ採用事業部の大朋(仮名)さんにLGBTQ+の就労における現状を伺いました。

そして今回は、企業側・非当事者の視点に立って、周りができるアクションについて話してもらいます。

(※1)出典:Indeed「企業のLGBTQ+当事者の従業員への取り組みに関する調査」

企業に不可欠な「D&I」の視点

ーーーどのような企業が求人サイト「JobRainbow」を利用しているのでしょうか?

海老根:企業の取り組み状況に関してはさまざまですが、先進的な取り組みをされている企業様、女性活躍推進から力を入れ始めた企業様など、従業員と誠実に向き合いたいという思いをもたれている印象です。

大朋:打ち合わせをするなかでも、一緒に働く仲間に対して想いをしっかりともっていらっしゃる企業様が多いと感じます。当事者からしても、制度が完璧に整っている企業よりも、1人ひとりのことを真剣に考えてくれている企業の下で働きたいという思いがあるように感じています。

ーーーJobRainbowが創業した2016年から今までの約8年間、LGBTQ+に関する企業の取り組みや意識に変化はみられましたか?

海老根:以前からD&IやLGBTQ+に関する取り組みへの関心度は高まっていますが、特に2023年あたりから企業が積極的に取り組みをしなければならないといった雰囲気が感じられます。

ーーーここ1年で関心をもつ企業が増えた背景は何だと考えられますか?

海老根:人手不足がいよいよ深刻になってきたという側面が大きいと考えています。

2023年から労働需給バランスがマイナスに転じているといった報告がされ、働きたい人が仕事に就いたとしても人手不足が解消されないという危機的状況下に置かれているのがここ1年の状況なのかなと(※2)。

(※2)出典:リクルートワークス研究所「Works Review2023」

ーーー人手不足解消の側面からも、労働環境に大きな変化が見られるようになりましたね。

海老根:国も移民を積極的に受け入れたり、雇用に対する法整備を進めていたりしています。法整備に関しては、育児・介護休業法、女性活躍推進法、障害者差別解消法の改正やパワハラ防止対策の義務化などが進んでいる状況です。

企業が優秀な人材を自社にとどめ、かつ採用するためにも、D&Iの重要性は不可逆的に高まっています。実際に、2023年には企業様からのお問い合わせが3倍に増えました。

D&Iだけでなく、その先の「DEIB」にも意識を

ーーーD&Iを意識した企業が増えるからこそ、LGBTQ+を都合よく利用する企業も出てくるのではないでしょうか。

海老根:本質的なD&Iの実現というよりも、表層的な取り組みに止まってしまう企業が一部いらっしゃるのも事実です。そういった意味でも、今はD&Iだけでなく、その先の「DEIB」の考え方が必要になると考えています。

DEIBとは、D&Iに「Equity(公平性)」と「Belonging(帰属性)」の概念を加えた言葉で、誰もが公平に活躍でき、組織やグループに自分がメンバーとして受け入れられている安心感があることをいいます。

企業を主語に置くのではなく、従業員が何をどう感じているのか、どういうことに課題を感じているのかなど、働く個人を考えることがDEIBに求められていることです。

ーーーD&IやDEIBの取り組みを積極的に行っている企業の見極め方はありますか?

海老根:企業のホームページにも取り組みに関する情報は記載されている場合がほとんどですが、実際に働く人がどのような認識をもっているかを知ることも大切です。そのために、実際に会社説明会に参加し、人事担当者に質問してみるのも良いかもしれません。

大朋:私自身、会社説明会に足を運んだ際、企業が使う言葉などを意識的に聞いていました。

たとえば、「夫婦」ではなく「パートナー」という言葉を使っているか。はじめから「男性/女性」と決めつけるのではなく、全員に対して「〜さん」と呼んでいるかなど、普段社内で使われている言葉や表現が無意識に出るため、見極めをする際の1つのポイントにしていました。

社会構造から個人の視点をもつ

ーーー仮に入社前後でギャップがあったり、悩みがあったりした場合、当事者が行えるアクションはありますか?

海老根:安心できる人や守秘義務のある人事担当者に相談するなど、当事者が自分自身で抱え込まないことが大切だと思います。以前お問い合わせいただいた企業様で、ホルモン治療を行うトランスジェンダーの従業員がいらっしゃり、その方はフロントラインに立ってお客様に対応するポジションで働かれていました。

治療をするなかで見た目に変化がみられ、体調も万全ではなく、お客様から差別的な言動を受けるといった経験をし、当事者の方から人事に対して「別の部署に異動したい」と相談がありました。

結果、相談をいただいたことにより、その方が希望する部署への異動がかない、異動先のLGBTQ+研修が実施されたというケースもあります。もちろん無理のない範囲ではありますが、勇気をもって助けを求めることで、生まれる変化はきっとあると思っています。

ーーー当事者が相談しやすい雰囲気をつくるために、周りができることはありますか?

大朋:LGBTQ+を象徴するカラーでもある、レインボーグッズを身につけることは効果的だと思います。私は東京レインボープライド(LGBTQ+コミュニティを祝福し、平等な社会を目指すためのイベント)でいただいたキーホルダーをつけています。レインボーステッカーやキーホルダーをつけていることで、当事者からするとLGBTQ+フレンドリーであることが伝わるので、話がしやすくなったりします。

大朋:あとは、たとえば人事担当者や上司から「不安に感じることなどがあれば、些細なことでもいいからちゃんと伝えてね。◯◯さんが伝えてくれたことを誰かに話したりは絶対しないから」などと言ってもらえるだけでも心理的安全性は高まると思います。

ーーーLGBTQ+の理解を深めるため、今後企業に必要なことは何ですか?

海老根:社会全体を捉える視点を持つことです。「当事者も、当事者でない方も同じ人間なんだから関係ない」とおっしゃる方もいますが、フラットにコミュニケーションを取ることにはリスクがあります。

というのも、周りにアライ(LGBTQ+を理解し支援する人)やLGBTQ+フレンドリーであることを表明する人がいても、過去に自身のセクシュアリティーを理由にファーストキャリアをうまく歩めなかった方や、学校でいじめを経験して学歴に差が出てしまった方などが実際に存在し、社会構造によるマイナスの影響を根本的に解消することにはつながりません。なので、個人の視点だけでなく、(企業が)社会構造から問題を捉え、次の行動につなげることが求められています。

大朋:D&IやLGBTQ+という言葉を耳にする頻度は多くなり、認識が広がってきたと感じています。しかし、まだ言葉が独り歩きしている印象です。LGBTQ+だけではなく、さまざまなバックグラウンドを抱えている人がいるなかで、当事者に対する無意識の発言や行動で当事者を傷つけていることをまだ十分に認識できていないケースが多くあると感じます。

まずは理解をすることから始めて、1人ひとりがアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見や思い込み)を認識し、アクションにつなげていくことが求められると考えています。
 

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