4月1日は「サーチファンド誕生の日」。サーチファンドを用いた事業承継事例2社をご紹介
サーチファンドを推進するGrowthix Investment株式会社(本社:東京都中央区、代表:奥井夏樹、竹内智洋、以下Growthix Investment)は、4月1日を「サーチファンド誕生の日」として一般社団法人日本記念日協会に認定していただいております。サーチファンドは日本の事業承継を解決する糸口として広まりつつあるM&A手法です。しかし、生身の人間同士が関わる事業承継には困難なことが伴うことも事実です。今回は「サーチファンド誕生の日」にちなみ、弊社が関わる企業のうち2社を取り上げ、課題や問題を乗り越え、改革に取り組んだサーチファンドの実態をご紹介し、その有効性を伝えます。
■親族内に承継者がいない。日本の中小企業が抱える「後継者不在」問題は深刻
国内企業の99.7%は中小企業で成り立っている日本。しかし、中小企業庁によると、経営者の平均引退年齢である70歳を超える事業者が245万社にものぼり、そのうちの約半数127万社は後継者が未定です。
これまで親族内承継が主流であった日本の中小企業は、少子化問題を中心に倒産の危機に瀕しています。家族に引き継ぐことができない、社内に適切な人材がいない、承継準備が間に合わない等の理由から、身近にある会社やサプライチェーンを担う会社がなくなる可能性があります。このまま放置すると、累計650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると中小企業庁は2017年に算出しました。
■日本の企業文化にあわせた事業承継が適うサーチファンド
そこで活用できるひとつの手段がサーチファンドです。サーチファンドは、経営者を志す個人(=ネクストプレナー/サーチャー)がファンドや投資家から資金を調達して、自ら経営したい企業を探し、その資金で企業を買収・経営者となるアメリカ発祥のM&A手法。ネクストプレナー個人が買収前に何度も企業に足を運び現社長とコミュニケーションをとるため、社長はネクストプレナーの人柄や能力、価値観、熱意などから会社を譲渡するかを判断することができます。こうした個人が主体となるM&Aであることから、企業文化や人との繋がりを重んじる日本の中小企業の事業承継に適合しています。
日本においては、ファンドを運営するサーチファンド事業者が投資家から資金を調達して、大株主としてネクストプレナーを支える仕組みが主流です。
■Growthix Investmentは後継者不在問題の解決を第一に考えるファンド
日本国内でサーチファンド型M&Aを実施している事業者は主に6社※ありますが、弊社はその中でも特に後継者不在問題の解決を最大の目的に創設しました。サーチファンドを活用した投資実行件数は5社。それらの企業を成長させてまいりました。「人」を大切にし、ネクストプレナーと事業承継先との付き合い方を企業毎に工夫するGrowthix流のサーチファンドは、ファンドらしくない泥臭さも特徴です。※ファンドの組成実績のある事業者数
<事例1>鹿島精機工業株式会社
中島氏が社長に就任してわずか9か月で社員8名増!必要な制度を整備し、成長中!
背景に現状把握のために汗水垂らした新社長とファンドの絆
鹿島精機工業(http://kashimaseiki.com/)は創業61年を迎えるバルブプレートのグローバルニッチトップメーカーです。
国内3工場のほか、中国、マレーシア、インドネシアにも製造工場を有し、世界シェアはおよそ30%と推計されています。
バルブプレートは、家庭用エアコンやカーエアコン内部の冷却・暖房を制御するコンプレッサーに用いられる金属部品で、エアコンの心臓弁として機能性や耐久性が求められる非常に重要な部品です。また鹿島精機工業は、バルブプレートのリーディングカンパニーとして製造における専門施設や特殊技術が顧客から高く評価され、世界のエアコン生産におけるサプライチェーンの一翼を担うかけがえのない会社です。創業以来、親族内承継をしていましたが、2023年6月に会社の成長を考えてサーチファンドを用いた初めての親族外承継が実現しました。
新社長に就任した中島祐氏は電気機械器具の製造会社での現場経験があり、また経営者として企業再生や成長戦略の立案・実行にも携わった経験があります。
作業服で製造現場の仕事に参加
「製造業では現場を見ることが大事。実際にやってみないとわからない。従業員と一緒になって作業をすることで初めて気づくことがある」と話すファンド担当者の竹内は前職で製造業に関わった経験を有します。
もちろん、投資実行前に会社の経営状況などの資料でわかる範囲は確認していたものの、安全性やオペレーション、現場の方が重要視していることを深く理解するためにはまずは実際に働くことが大切だと考えました。竹内および案件担当者の坂野研人(以下、坂野)、そして新社長に就任した中島氏の3人で作業服で数日間に渡り社員の方々と一緒に製造現場の仕事を経験。鹿島精機工業だけの技術の再確認や作業効率、機械の老朽化問題などを目の当たりにしました。また、働きながら社員の皆さんとも会話をし、会社をどう思っているのか、自分たちの仕事内容をどこまで理解しているのかなども確認していきました。
全社員との個別面談を実施し、社内の状況を細かに把握
中島氏が社長に就任した時、社員の皆さんは今後会社や自分たちがどのようになるのか不安でした。そこで食堂に全社員を集めて説明したのち、一人一人と個別の面談も実施し、不安に感じていることを一つずつ紐解いていきました。本社だけでなく、長野県の工場や海外拠点にも足を運び、全員と会話をしました。
見えてきた鹿島精機工業の“強み”と“改善点”
社員と会話する中で、第三者視点から見えてきた強みがいくつもありました。
〔強み〕
■技術力が素晴らしく、部品が緻密で良い。
■海外の成長にも対応できる技術力で、中国をはじめとする需要の高まる国で部品を扱ってもらえている。
一方で、課題も明らかになり、ファンド側と中島氏で改善策を立てました。
特に、海外拠点とのコミュニケーションの活発化は良い影響をもたらしており、海外で部品の相談が持ち上がった時には日本の金型や技術の応用方法をアドバイスするような動きも出てきています。
ファンドであるGrowthix Investmentは相談役
個人で事業を承継すると全責任を負う孤独な経営に陥りがちです。ですが、サーチファンドを用いれば、新社長をファンドが支える仕組みができます。
鹿島精機工業の場合は大きく3つの役割をファンド担当者が担っています。
1.特に重要なPMIにコミット
PMI(M&A成立後に行う統合プロセス)の中でも特に重要な業務においては、ファンド担当者である竹内や坂野もしっかりと入り込みます。ホームページのリニューアルのようなマーケティング関連業務や、現場の機械稼働率を見える化するための仕組み化など、多岐にわたっています。
PMI期間が終了してからも、必要に応じハンズオン支援を継続しています。
2.中島氏の相談役
一般的にファンドを用いて事業承継した場合、資金提供元であるファンド(株主)の存在を考え、社長は社内で問題が発生した際に火消に走りがちです。しかしながら、鹿島精機工業の場合はファンドが社内経営にも深く携わっているため社長の相談役として一緒になって冷静な判断ができます。社長の精神面での支えになることもあり、ファンドと社長はほぼ毎日連絡を取り合って経営方針の相談をしています。
3.中島氏の代理役
後継社長という立場からは伝えづらいメッセージや客観的に伝えるべきメッセージをファンド担当者が代理で伝えることもあります。このように役割を分担することができるからこそ、大胆な施策も取りやすくなります。
社長に就任して約9カ月 中島祐氏 コメント
社長就任当初、後任の紹介はあったものの、サーチファンドが何たるか等、詳細な説明が事前にされていないこともあり我々に対して社員の皆さんから良い印象は受けていないと感じました。ですが、竹内さんや坂野さんの物腰の柔らかさや社員の方々への姿勢からファンドの悪いイメージが少しずつなくなり、会社を売りさばかれるのでは!?という怖いイメージはなくなっていったように感じます。特に、現場の製造ラインに入ったり、検査を実施したり、食事をするということを繰り返すうちに、社員の方々は「目線をあわせてくれるんだ」と驚いたようです。
一般にファンドというとファンドの意向が強く、定期的にあがってくるレポート等をもとにトラブル毎に関与することが多いと思いますが、Growthix Investmentは現場の考えを大事にしてくれます。投資家としての立場を押し付けず、相談しながら進められます。私にとっても竹内さんや坂野さんは相談役であり、また私のかわりに動いてくれることもあるメンバーの一員です。社長就任時には竹内さんや坂野さんが社員の皆さんから本音を引き出してくれたためとても良かったです。
社員からは海外展開を積極的に行った二代目社長に似ていると言われることもあり、最大の誉め言葉だと嬉しく思っています。
現在では、ビジネスを積極的に売り込むことも増えてきておりチャレンジ精神が会社全体に少しずつ芽生えているようです。必要経費にはしっかり投資することも会社を伸ばす上では大切だと思っています。
社員の方々の声
<インドネシア工場、マレーシア工場 兼任ディレクター 池田誠氏>
海外拠点を担当して10年、やりがいを感じていたので、これまでとは異なる日本の業務を担当することになるのではないかという不安が初めは大きかったです。しかしながら、承継後も希望する業務を継続できており、不安は減りました。
ファンドというとドラマの影響もあってか怖いイメージを持っていましたが、竹内さんや坂野さんは丁寧に接してくださり、今もその姿勢は変わらず、会社のために一緒になって取り組んでくれる方々だと感じています。
新体制になって大きく変わったことは日本国内との連携です。これまでは海外は海外で、日本は日本でと分断されていましたが、今は海外と日本で連携してグローバルで考えられるようになりました。
また、目標値が明確に定められたことで、責任感も増しました。インドネシア工場は経理面の弱さがあるのですが、これまでは自分に知識がなく何もできていない状態でした。しかし、中島社長と竹内さん、坂野さんはそこに早くから気づき改善してくれています。現在は中島社長とはほぼ毎日やり取りをして仕事を進めています。
<営業部長 新藤和重氏>
率直に言うと、会社を売られたのかな!?と最初は思い、今後どうなっていくのだろうという不安が先にありました。ファンドが何かも分からなかったので調べたり。しかし、竹内さんや坂野さんにお会いしたら接しやすく、フレンドリーな方たちだという印象に変わりました。従業員一人一人への個人面談では会社を良くしていこうとする姿を見せていただきました。
これまで同族経営だったこともあり、社長の意思決定が絶対的な部分もありましたが、会社の体制が変わり、より会社らしくなったと感じます。部署間の会議も増え、営業らしい仕事をしています。
また、海外拠点とのコミュニケーションが頻繁になりました。海外拠点のみで取引している日系企業を紹介してもらったり、日本では作れない部品を海外拠点に相談したりと、営業する窓口も広がってきています。拠点が海外にある強みを活かせるようになってきました。中島社長ともやり取りが多く、社員一人一人に目配りしていただいているのがわかります。
鹿島精機工業の今後:目標はインドへの進出
エアコンは世界に目を向けるとまだまだ普及していません。特に東南アジアはこれから市場が伸びると予測しており、各エアコンメーカーも海外への進出を拡大しています。エアコンメーカーの部品を製造する鹿島精機工業もインドへの進出を目標にしています。日本の誇れる技術を海外に広げていく予定です。
<事例2>エヌ・エス・システム株式会社
事業承継して2年で売上高は1.5倍に!社員数1.5倍と「人」に投資。
社長自ら新入社員を育てるプログラムには、前社長から受け継いだある思いが…
エヌ・エス・システム株式会社(http://www.n-s-system.co.jp)は社員食堂における自動精算システム「食堂楽」の開発・販売を行う会社で、RF-IDを用いるシステムの製造・開発・販売・保守をワンストップで対応することができます。現在、「食堂楽」は日本全国950の主に大手企業の社員食堂に導入されています。
創業者である井川雅文氏はネクストプレナーの西澤氏であればエヌ・エス・システムをより付加価値の高い企業へと発展させてくれると確信し、承継者として指名しました。
西澤氏は、類似事業の経営者としての経験があったことに加え、エヌ・エス・システムに対する並々ならぬ情熱や、事業承継することへの強い覚悟を持って新社長に就任しました。
創業者の井川前社長はネクストプレナーの西澤氏に社員・取引先・そして会社の成長を託す
西澤氏が社長に就任した時、創業者である井川前社長は顧問として挨拶の場をセッティングしてくれました。社員の皆さんの前でファンド担当者と西澤氏が挨拶をしたあと、経営を西澤氏に引き継ぐことを井川前社長自らが説明。こうして、西澤氏による経営はスタートしました。
エヌ・エス・システムの場合、西澤氏に会社を託すという井川前社長の思いが非常に強いことを理解していたGrowthix Investmentは、西澤氏の裏で経営相談に乗る“裏方的役目”に徹しています。
社員の不安を取り除くため本気の姿勢を見せる
井川前社長が西澤氏を信頼しているとはいえ、社員の方々にとっては不安です。ましてやファンドに対して怖いイメージを抱いている方もいる様子でした。西澤氏は安心感を与えなくてはと思い、「何をしに来たのか」「この会社はすごいポテンシャルがあるよ」「世に出していきたい」ということが滲み出るような行動を心がけることで、社員からも少しずつ安心感が広がりました。
特に社員からの安心と信用を得るために重要視したことはスピード感です。社員から吸い上げた会社の課題や西澤氏が気づいた課題に迅速に対応できるように、特にPMI期間には取締役会を高頻度で開きました。ファンドは西澤氏を支える裏方として、時には1日7~8回の電話でのやり取りを行い、西澤氏とファンドとで常に最新の情報を共有し合うこともありました。発覚した課題への対応策について協議し、決定する取締役会を翌日にも実施し、スピーディーに決断・実行しました。
また承継時は必ず銀行とのコミュニケーションが生じますが、これは竹内をはじめとしたファンド担当者が担いました。ただでさえ不安を抱える社員一人一人と西澤氏との信頼関係の構築に最も尽力いただきたいと考えていたからです。
「従業員の成長と教育」のため、社長お手製の社員研修を実施
井川前社長は西澤氏に会社を引き継ぐ前から社員の成長と教育体制について気にされていました。西澤氏はその思いを受け取り、始めたことは社長お手製の「教育プログラム」の実施です。
西澤氏は商社をはじめとする様々な企業で知識やノウハウを培ってきました。これらを惜しみなく新入社員や中途入社の若手に伝えるため、数か月間毎週朝の時間を用いて研修を行いました。具体的には、メールやレポートの書き方など社会人としての基礎的な内容から、財務諸表の見方や財務三表の繋がり、典型的な契約書の作成方法、契約の読み方、事業計画の作り方等、非常に多岐に渡ります。入社した社員たちに「大手企業に匹敵もしくはそれ以上のトレーニングや経験を積んでもらいたい」という思いが溢れています。実際、受講した社員達は非常に喜び、家族にも報告してくれました。
営業組織の変革と社内連携の強化で、より価値のある提案ができる会社に
会社価値を上げるために、マーケティング強化とイノベーション強化を行っていますが、具体的に大きく次の2つの改革を行いました。
1つは組織における指揮命令系統の変更です。管理職にはどのような責任や役割があるのかを明確にしました。また、これまでの個人の業績を重視していた傾向から、チーム全体の成果に目を向けてもらえるように意識改革を徹底しました。
2つめは、個人の成果を追い求める会社の方針から密なチーム連携を重視する方針への転換です。例えば、他社員がどんな仕事をしているのか、営業がどんなセールストークをしているのかさえ共有されていない状態でした。この状態を改善するため、社長に就任してすぐに顧客管理・営業支援ツールを導入し、社員の活動の見える化・共有化を図ると同時に、社員の意識改革を徹底的に行いました。ツールの導入については竹内をはじめとするファンド側との話し合いで、迅速に決定されました。
西澤泰夫氏 コメント
井川氏は「当社を世の中で堂々と存在し社会に役に立つ会社にしたい」と常日頃仰っていました。この言葉を忘れることはありません。また、私自身も中小企業であるこの会社をなんとか上場させて社会的に堂々と役に立つ存在感のある会社にしたいと思っていますが、創業者の思いが私自身の思いに連続して継続していることを意識しています。
また、井川氏は「従業員の教育・育成体制をどのように構築していくか」ということを私に引き継ぐ時にとても気にされていました。私はその創業者の思いをいつも思い出し大切にしています。創業以来、社長としてたった一人で頑張ってきた中で、もしかしたらその点が十分できなかったと感じていたかもしれず、まさにその点にこそ、私が体得してきた従業員の教育・育成のノウハウや知恵を当社に活用して欲しいという思いがあったのではないか感じ、私を後継者として選んだ一つの理由ではないかと非常に真摯に、身の引き締まる思いで経営に常に反映させてきています。すなわち、創業者のその思いを常に意識して、従業員の教育・育成体制に特に心を配り続けて経営してきております。
承継の初日からドラッガーが定義する“トップマネジメントの仕事”を意識して日々の経営を行ってきていますが、歴史と顧客と従業員を有する会社に社長として単独で参画するのは大変孤独でエネルギーが必要な仕事です。2年以上にわたり、竹内さんとは様々なことを日々相談して経営を行ってきていますが、 全てこのドラッガーが定義するトップマネジメントの仕事に本質的に関係しており、深い文脈で相談してきています。特にGrowthix Investmentとそのグループの方々は若く、進取の気性に富んでおり、起業家精神を持ったチャレンジ精神旺盛の若手であるため、事業承継した当社を大きく成長させたいと考えている私を大いに励ましてくれる一方、本業であるファイナンスに猛烈に強い方々ですので、私の孤独の戦いにおいて、常に新鮮で、論理的で、かつ暖かいアドバイスをもらえる存在です。
エヌ・エス・システムの今後:食堂楽のデータを活用した健康経営サポートへ
950の企業が利用している社員食堂における自動精算システム「食堂楽」には、毎日数十万人ものデータがたまります。これらのデータを活用することで、今後企業にとって益々重要となる健康経営のサポートができると考え、現在データを活用した新たな事業にチャレンジしています。
これまでレジを売ることがメインの業務でしたが、今後は社員の食事データの分析や食事パターンの見える化などのコンサル要素を強化し、クラウドやAiを駆使してデータ価値をさらに高めて、「モノ売りからコト売り」へとシフトしていく予定です。また、さらに多くの企業や大学、病院にも導入していただき、価値提供をしていきたいと考えています。
Growthix Investmentによるサーチファンドを活用した事業承継案件 一覧
〇Growthix Investment株式会社
【所在地】東京都中央区日本橋兜町22-6 東京セントラルプレイス6階
【代表者】竹内智洋、奥井夏樹
【設立】令和3年6月1日
【URL】https://growthix-investment.com/
【事業内容】ファンドの設立およびその運営
サーチファンドを推進するGrowthix Investment株式会社(本社:東京都中央区、代表:奥井夏樹、竹内智洋、以下Growthix Investment)は、4月1日を「サーチファンド誕生の日」として一般社団法人日本記念日協会に認定していただいております。サーチファンドは日本の事業承継を解決する糸口として広まりつつあるM&A手法です。しかし、生身の人間同士が関わる事業承継には困難なことが伴うことも事実です。今回は「サーチファンド誕生の日」にちなみ、弊社が関わる企業のうち2社を取り上げ、課題や問題を乗り越え、改革に取り組んだサーチファンドの実態をご紹介し、その有効性を伝えます。
■親族内に承継者がいない。日本の中小企業が抱える「後継者不在」問題は深刻
国内企業の99.7%は中小企業で成り立っている日本。しかし、中小企業庁によると、経営者の平均引退年齢である70歳を超える事業者が245万社にものぼり、そのうちの約半数127万社は後継者が未定です。
これまで親族内承継が主流であった日本の中小企業は、少子化問題を中心に倒産の危機に瀕しています。家族に引き継ぐことができない、社内に適切な人材がいない、承継準備が間に合わない等の理由から、身近にある会社やサプライチェーンを担う会社がなくなる可能性があります。このまま放置すると、累計650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると中小企業庁は2017年に算出しました。
■日本の企業文化にあわせた事業承継が適うサーチファンド
そこで活用できるひとつの手段がサーチファンドです。サーチファンドは、経営者を志す個人(=ネクストプレナー/サーチャー)がファンドや投資家から資金を調達して、自ら経営したい企業を探し、その資金で企業を買収・経営者となるアメリカ発祥のM&A手法。ネクストプレナー個人が買収前に何度も企業に足を運び現社長とコミュニケーションをとるため、社長はネクストプレナーの人柄や能力、価値観、熱意などから会社を譲渡するかを判断することができます。こうした個人が主体となるM&Aであることから、企業文化や人との繋がりを重んじる日本の中小企業の事業承継に適合しています。
日本においては、ファンドを運営するサーチファンド事業者が投資家から資金を調達して、大株主としてネクストプレナーを支える仕組みが主流です。
■Growthix Investmentは後継者不在問題の解決を第一に考えるファンド
日本国内でサーチファンド型M&Aを実施している事業者は主に6社※ありますが、弊社はその中でも特に後継者不在問題の解決を最大の目的に創設しました。サーチファンドを活用した投資実行件数は5社。それらの企業を成長させてまいりました。「人」を大切にし、ネクストプレナーと事業承継先との付き合い方を企業毎に工夫するGrowthix流のサーチファンドは、ファンドらしくない泥臭さも特徴です。※ファンドの組成実績のある事業者数
<事例1>鹿島精機工業株式会社
中島氏が社長に就任してわずか9か月で社員8名増!必要な制度を整備し、成長中!
背景に現状把握のために汗水垂らした新社長とファンドの絆
鹿島精機工業(http://kashimaseiki.com/)は創業61年を迎えるバルブプレートのグローバルニッチトップメーカーです。
国内3工場のほか、中国、マレーシア、インドネシアにも製造工場を有し、世界シェアはおよそ30%と推計されています。
バルブプレートは、家庭用エアコンやカーエアコン内部の冷却・暖房を制御するコンプレッサーに用いられる金属部品で、エアコンの心臓弁として機能性や耐久性が求められる非常に重要な部品です。また鹿島精機工業は、バルブプレートのリーディングカンパニーとして製造における専門施設や特殊技術が顧客から高く評価され、世界のエアコン生産におけるサプライチェーンの一翼を担うかけがえのない会社です。創業以来、親族内承継をしていましたが、2023年6月に会社の成長を考えてサーチファンドを用いた初めての親族外承継が実現しました。
新社長に就任した中島祐氏は電気機械器具の製造会社での現場経験があり、また経営者として企業再生や成長戦略の立案・実行にも携わった経験があります。
作業服で製造現場の仕事に参加
「製造業では現場を見ることが大事。実際にやってみないとわからない。従業員と一緒になって作業をすることで初めて気づくことがある」と話すファンド担当者の竹内は前職で製造業に関わった経験を有します。
もちろん、投資実行前に会社の経営状況などの資料でわかる範囲は確認していたものの、安全性やオペレーション、現場の方が重要視していることを深く理解するためにはまずは実際に働くことが大切だと考えました。竹内および案件担当者の坂野研人(以下、坂野)、そして新社長に就任した中島氏の3人で作業服で数日間に渡り社員の方々と一緒に製造現場の仕事を経験。鹿島精機工業だけの技術の再確認や作業効率、機械の老朽化問題などを目の当たりにしました。また、働きながら社員の皆さんとも会話をし、会社をどう思っているのか、自分たちの仕事内容をどこまで理解しているのかなども確認していきました。
全社員との個別面談を実施し、社内の状況を細かに把握
中島氏が社長に就任した時、社員の皆さんは今後会社や自分たちがどのようになるのか不安でした。そこで食堂に全社員を集めて説明したのち、一人一人と個別の面談も実施し、不安に感じていることを一つずつ紐解いていきました。本社だけでなく、長野県の工場や海外拠点にも足を運び、全員と会話をしました。
見えてきた鹿島精機工業の“強み”と“改善点”
社員と会話する中で、第三者視点から見えてきた強みがいくつもありました。
〔強み〕
■技術力が素晴らしく、部品が緻密で良い。
■海外の成長にも対応できる技術力で、中国をはじめとする需要の高まる国で部品を扱ってもらえている。
一方で、課題も明らかになり、ファンド側と中島氏で改善策を立てました。
特に、海外拠点とのコミュニケーションの活発化は良い影響をもたらしており、海外で部品の相談が持ち上がった時には日本の金型や技術の応用方法をアドバイスするような動きも出てきています。
ファンドであるGrowthix Investmentは相談役
個人で事業を承継すると全責任を負う孤独な経営に陥りがちです。ですが、サーチファンドを用いれば、新社長をファンドが支える仕組みができます。
鹿島精機工業の場合は大きく3つの役割をファンド担当者が担っています。
1.特に重要なPMIにコミット
PMI(M&A成立後に行う統合プロセス)の中でも特に重要な業務においては、ファンド担当者である竹内や坂野もしっかりと入り込みます。ホームページのリニューアルのようなマーケティング関連業務や、現場の機械稼働率を見える化するための仕組み化など、多岐にわたっています。
PMI期間が終了してからも、必要に応じハンズオン支援を継続しています。
2.中島氏の相談役
一般的にファンドを用いて事業承継した場合、資金提供元であるファンド(株主)の存在を考え、社長は社内で問題が発生した際に火消に走りがちです。しかしながら、鹿島精機工業の場合はファンドが社内経営にも深く携わっているため社長の相談役として一緒になって冷静な判断ができます。社長の精神面での支えになることもあり、ファンドと社長はほぼ毎日連絡を取り合って経営方針の相談をしています。
3.中島氏の代理役
後継社長という立場からは伝えづらいメッセージや客観的に伝えるべきメッセージをファンド担当者が代理で伝えることもあります。このように役割を分担することができるからこそ、大胆な施策も取りやすくなります。
社長に就任して約9カ月 中島祐氏 コメント
社長就任当初、後任の紹介はあったものの、サーチファンドが何たるか等、詳細な説明が事前にされていないこともあり我々に対して社員の皆さんから良い印象は受けていないと感じました。ですが、竹内さんや坂野さんの物腰の柔らかさや社員の方々への姿勢からファンドの悪いイメージが少しずつなくなり、会社を売りさばかれるのでは!?という怖いイメージはなくなっていったように感じます。特に、現場の製造ラインに入ったり、検査を実施したり、食事をするということを繰り返すうちに、社員の方々は「目線をあわせてくれるんだ」と驚いたようです。
一般にファンドというとファンドの意向が強く、定期的にあがってくるレポート等をもとにトラブル毎に関与することが多いと思いますが、Growthix Investmentは現場の考えを大事にしてくれます。投資家としての立場を押し付けず、相談しながら進められます。私にとっても竹内さんや坂野さんは相談役であり、また私のかわりに動いてくれることもあるメンバーの一員です。社長就任時には竹内さんや坂野さんが社員の皆さんから本音を引き出してくれたためとても良かったです。
社員からは海外展開を積極的に行った二代目社長に似ていると言われることもあり、最大の誉め言葉だと嬉しく思っています。
現在では、ビジネスを積極的に売り込むことも増えてきておりチャレンジ精神が会社全体に少しずつ芽生えているようです。必要経費にはしっかり投資することも会社を伸ばす上では大切だと思っています。
社員の方々の声
<インドネシア工場、マレーシア工場 兼任ディレクター 池田誠氏>
海外拠点を担当して10年、やりがいを感じていたので、これまでとは異なる日本の業務を担当することになるのではないかという不安が初めは大きかったです。しかしながら、承継後も希望する業務を継続できており、不安は減りました。
ファンドというとドラマの影響もあってか怖いイメージを持っていましたが、竹内さんや坂野さんは丁寧に接してくださり、今もその姿勢は変わらず、会社のために一緒になって取り組んでくれる方々だと感じています。
新体制になって大きく変わったことは日本国内との連携です。これまでは海外は海外で、日本は日本でと分断されていましたが、今は海外と日本で連携してグローバルで考えられるようになりました。
また、目標値が明確に定められたことで、責任感も増しました。インドネシア工場は経理面の弱さがあるのですが、これまでは自分に知識がなく何もできていない状態でした。しかし、中島社長と竹内さん、坂野さんはそこに早くから気づき改善してくれています。現在は中島社長とはほぼ毎日やり取りをして仕事を進めています。
<営業部長 新藤和重氏>
率直に言うと、会社を売られたのかな!?と最初は思い、今後どうなっていくのだろうという不安が先にありました。ファンドが何かも分からなかったので調べたり。しかし、竹内さんや坂野さんにお会いしたら接しやすく、フレンドリーな方たちだという印象に変わりました。従業員一人一人への個人面談では会社を良くしていこうとする姿を見せていただきました。
これまで同族経営だったこともあり、社長の意思決定が絶対的な部分もありましたが、会社の体制が変わり、より会社らしくなったと感じます。部署間の会議も増え、営業らしい仕事をしています。
また、海外拠点とのコミュニケーションが頻繁になりました。海外拠点のみで取引している日系企業を紹介してもらったり、日本では作れない部品を海外拠点に相談したりと、営業する窓口も広がってきています。拠点が海外にある強みを活かせるようになってきました。中島社長ともやり取りが多く、社員一人一人に目配りしていただいているのがわかります。
鹿島精機工業の今後:目標はインドへの進出
エアコンは世界に目を向けるとまだまだ普及していません。特に東南アジアはこれから市場が伸びると予測しており、各エアコンメーカーも海外への進出を拡大しています。エアコンメーカーの部品を製造する鹿島精機工業もインドへの進出を目標にしています。日本の誇れる技術を海外に広げていく予定です。
<事例2>エヌ・エス・システム株式会社
事業承継して2年で売上高は1.5倍に!社員数1.5倍と「人」に投資。
社長自ら新入社員を育てるプログラムには、前社長から受け継いだある思いが…
エヌ・エス・システム株式会社(http://www.n-s-system.co.jp)は社員食堂における自動精算システム「食堂楽」の開発・販売を行う会社で、RF-IDを用いるシステムの製造・開発・販売・保守をワンストップで対応することができます。現在、「食堂楽」は日本全国950の主に大手企業の社員食堂に導入されています。
創業者である井川雅文氏はネクストプレナーの西澤氏であればエヌ・エス・システムをより付加価値の高い企業へと発展させてくれると確信し、承継者として指名しました。
西澤氏は、類似事業の経営者としての経験があったことに加え、エヌ・エス・システムに対する並々ならぬ情熱や、事業承継することへの強い覚悟を持って新社長に就任しました。
創業者の井川前社長はネクストプレナーの西澤氏に社員・取引先・そして会社の成長を託す
西澤氏が社長に就任した時、創業者である井川前社長は顧問として挨拶の場をセッティングしてくれました。社員の皆さんの前でファンド担当者と西澤氏が挨拶をしたあと、経営を西澤氏に引き継ぐことを井川前社長自らが説明。こうして、西澤氏による経営はスタートしました。
エヌ・エス・システムの場合、西澤氏に会社を託すという井川前社長の思いが非常に強いことを理解していたGrowthix Investmentは、西澤氏の裏で経営相談に乗る“裏方的役目”に徹しています。
社員の不安を取り除くため本気の姿勢を見せる
井川前社長が西澤氏を信頼しているとはいえ、社員の方々にとっては不安です。ましてやファンドに対して怖いイメージを抱いている方もいる様子でした。西澤氏は安心感を与えなくてはと思い、「何をしに来たのか」「この会社はすごいポテンシャルがあるよ」「世に出していきたい」ということが滲み出るような行動を心がけることで、社員からも少しずつ安心感が広がりました。
特に社員からの安心と信用を得るために重要視したことはスピード感です。社員から吸い上げた会社の課題や西澤氏が気づいた課題に迅速に対応できるように、特にPMI期間には取締役会を高頻度で開きました。ファンドは西澤氏を支える裏方として、時には1日7~8回の電話でのやり取りを行い、西澤氏とファンドとで常に最新の情報を共有し合うこともありました。発覚した課題への対応策について協議し、決定する取締役会を翌日にも実施し、スピーディーに決断・実行しました。
また承継時は必ず銀行とのコミュニケーションが生じますが、これは竹内をはじめとしたファンド担当者が担いました。ただでさえ不安を抱える社員一人一人と西澤氏との信頼関係の構築に最も尽力いただきたいと考えていたからです。
「従業員の成長と教育」のため、社長お手製の社員研修を実施
井川前社長は西澤氏に会社を引き継ぐ前から社員の成長と教育体制について気にされていました。西澤氏はその思いを受け取り、始めたことは社長お手製の「教育プログラム」の実施です。
西澤氏は商社をはじめとする様々な企業で知識やノウハウを培ってきました。これらを惜しみなく新入社員や中途入社の若手に伝えるため、数か月間毎週朝の時間を用いて研修を行いました。具体的には、メールやレポートの書き方など社会人としての基礎的な内容から、財務諸表の見方や財務三表の繋がり、典型的な契約書の作成方法、契約の読み方、事業計画の作り方等、非常に多岐に渡ります。入社した社員たちに「大手企業に匹敵もしくはそれ以上のトレーニングや経験を積んでもらいたい」という思いが溢れています。実際、受講した社員達は非常に喜び、家族にも報告してくれました。
営業組織の変革と社内連携の強化で、より価値のある提案ができる会社に
会社価値を上げるために、マーケティング強化とイノベーション強化を行っていますが、具体的に大きく次の2つの改革を行いました。
1つは組織における指揮命令系統の変更です。管理職にはどのような責任や役割があるのかを明確にしました。また、これまでの個人の業績を重視していた傾向から、チーム全体の成果に目を向けてもらえるように意識改革を徹底しました。
2つめは、個人の成果を追い求める会社の方針から密なチーム連携を重視する方針への転換です。例えば、他社員がどんな仕事をしているのか、営業がどんなセールストークをしているのかさえ共有されていない状態でした。この状態を改善するため、社長に就任してすぐに顧客管理・営業支援ツールを導入し、社員の活動の見える化・共有化を図ると同時に、社員の意識改革を徹底的に行いました。ツールの導入については竹内をはじめとするファンド側との話し合いで、迅速に決定されました。
西澤泰夫氏 コメント
井川氏は「当社を世の中で堂々と存在し社会に役に立つ会社にしたい」と常日頃仰っていました。この言葉を忘れることはありません。また、私自身も中小企業であるこの会社をなんとか上場させて社会的に堂々と役に立つ存在感のある会社にしたいと思っていますが、創業者の思いが私自身の思いに連続して継続していることを意識しています。
また、井川氏は「従業員の教育・育成体制をどのように構築していくか」ということを私に引き継ぐ時にとても気にされていました。私はその創業者の思いをいつも思い出し大切にしています。創業以来、社長としてたった一人で頑張ってきた中で、もしかしたらその点が十分できなかったと感じていたかもしれず、まさにその点にこそ、私が体得してきた従業員の教育・育成のノウハウや知恵を当社に活用して欲しいという思いがあったのではないか感じ、私を後継者として選んだ一つの理由ではないかと非常に真摯に、身の引き締まる思いで経営に常に反映させてきています。すなわち、創業者のその思いを常に意識して、従業員の教育・育成体制に特に心を配り続けて経営してきております。
承継の初日からドラッガーが定義する“トップマネジメントの仕事”を意識して日々の経営を行ってきていますが、歴史と顧客と従業員を有する会社に社長として単独で参画するのは大変孤独でエネルギーが必要な仕事です。2年以上にわたり、竹内さんとは様々なことを日々相談して経営を行ってきていますが、 全てこのドラッガーが定義するトップマネジメントの仕事に本質的に関係しており、深い文脈で相談してきています。特にGrowthix Investmentとそのグループの方々は若く、進取の気性に富んでおり、起業家精神を持ったチャレンジ精神旺盛の若手であるため、事業承継した当社を大きく成長させたいと考えている私を大いに励ましてくれる一方、本業であるファイナンスに猛烈に強い方々ですので、私の孤独の戦いにおいて、常に新鮮で、論理的で、かつ暖かいアドバイスをもらえる存在です。
エヌ・エス・システムの今後:食堂楽のデータを活用した健康経営サポートへ
950の企業が利用している社員食堂における自動精算システム「食堂楽」には、毎日数十万人ものデータがたまります。これらのデータを活用することで、今後企業にとって益々重要となる健康経営のサポートができると考え、現在データを活用した新たな事業にチャレンジしています。
これまでレジを売ることがメインの業務でしたが、今後は社員の食事データの分析や食事パターンの見える化などのコンサル要素を強化し、クラウドやAiを駆使してデータ価値をさらに高めて、「モノ売りからコト売り」へとシフトしていく予定です。また、さらに多くの企業や大学、病院にも導入していただき、価値提供をしていきたいと考えています。
Growthix Investmentによるサーチファンドを活用した事業承継案件 一覧
〇Growthix Investment株式会社
【所在地】東京都中央区日本橋兜町22-6 東京セントラルプレイス6階
【代表者】竹内智洋、奥井夏樹
【設立】令和3年6月1日
【URL】https://growthix-investment.com/
【事業内容】ファンドの設立およびその運営
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