漠然としたビジョンを抱えているが、それをどのように実現すればいいのか、また自分に実現できるのか分からず、一歩踏み出せないでいる人は多いのではないだろうか。
山口功士良さん(21歳)が代表を務める21歳のこうしろう株式会社は昨年11月、手ぶらで来て手ぶらで購入し、商品を後日北海道から直送する新しい形の物産展「新 北海物産展」を福岡県・博多で開催した。
山口代表が以前から抱えていた「大好きな北海道に貢献したい」というビジョンを実現させた物産展だ。どのようにしてビジョンを形にし、コロナ禍での開催を実現させたのか?山口代表に取材した。
コロナ禍に生まれた新しい物産展
「新 北海道物産展」は、北海道の各地域から最も新鮮な商品を集め、後日自宅へ直送する独自システムの物産展。
会場展示している計100種類の道産食材・グルメの中から、注文したい商品の番号を注文用紙へ記入して料金を支払うと、後日、北海道から最も新鮮な状態の商品が産地直送で自宅に届く。
来場者は、ネット通販の画面では分からない商品の香りや音を実際に感じながら買い物できるうえに、生産者の移動コストがかからない分お得に商品を購入することが可能。また、当日重い荷物を持ち帰る必要がないので、買い物後の行動も制限されない。
コロナ禍により、遠方の物産展に参加するのが難しくなった生産者にも嬉しいサービスだ。
自分起点で心と頭を動かし行動
山口代表は1999年生まれの21歳、北海道札幌市出身。18歳からフリーランスとして活動し、メディアでの記事執筆やWebコンテンツ制作事業の立ち上げなどを経験して、2020年5月に同社を創業した。
-----起業した経緯を教えてください。何か、きっかけとなった出来事があったのですか?
山口代表:バイトとして働いていた時に、どうしても「雇用」に納得がいきませんでした。
同じ職場とはいえ、違う仕事内容・違う仕事量・違う仕事結果なのに、全員一律の時間ごとに決められた給料。
1時間ごとに810円、1620円……と数える自分。1時間あたりの給料を食事単位に変えてしまう自分。「やっと1時間経った、これで1杯ラーメンが食べられる……」そんな自分の思考回路に嫌気がさしていました。
また、バイトをしている中で、当時抱えていた自信が壊されてしまったことも、きっかけになったという。
山口代表:自分は、市内でやや進学校の類に入る高校に3年間在籍していましたが、狭い世界しか見ておらず、大変失礼な話ですが、同じ職場のお母さま世代の方々に対して「この人たちよりは仕事ができる」という思考を持っていました(今は一切思っていません)。
しかし実際は、仕事の質も要領も結果も、長年働いている彼女たちの方が何もかも遥かに上手で、到底及はず、「この方々と同じ土俵ではやっていけない」「追い抜くどころか追いつくこともできない」「だから意欲が湧かない」という悪循環に陥りました。
そのような中で、「恐らく、給料を目的に仕事を選び、給料をエネルギーにしている限り、どんな仕事をしていてもそうなのだ」ということに気がつきました。
起業したのは、自分自身の心と身体を動かすため、生きていくためです。
ただ、今でも自分自身において“起業”というワードへの意識はほとんどありません。「自分起点で心と頭を動かしてあらゆる行動をしている状況」という認識です。
漠然と抱いていた思いを実行に移す
-----手ぶらで来て手ぶらで帰れる“新しい物産展”を企画したのはなぜですか?
山口代表:「大好きな北海道に少しでも貢献できることを、人生で1回は行いたい」「九州のことが個人的に好きで、九州の人に北海道をもっと身近に感じてほしい」と考えていました。
その中で、北海道のことを好きだけれど北海道に来ることができない・来ていない人に対して、北海道の中でも特に志あふれる作り手による美味しい食材やグルメを知る機会・食べてもらう機会をつくりたいと、数年前から思っていました。
そうしたところ、コロナ禍により北海道物産展の開催が難しくなった状況を受け、「周りがやらないのなら、うちがやる」「今こそ、遠い地の人が、北海道の食材やグルメを本当の意味で求めているのではないか」と考え、企画しました。
そうして、それまで漠然と思い描いていたアイデアを実行に移し、具体的な開催までのプロセスを計画。約3カ月かけて、開催を実現させたという。
まず理想のテーマを決め、メリットをプラス
-----来場者にも出品側にもメリットのある仕組みは、どのように考えましたか?
山口代表:先ほどの「〜機会を作りたい」「〜北海道に貢献したい」などのミッションを実現するにあたり、これまでの大型店舗での大人数集客前提による物産展のモデルでは、費用面から実現できないと思っていました。
ただタイミングを踏んで覚悟を決めた以上、そうも言ってはいられません。
思案を重ねたところ、そのうち自然と「いかにお金をかけずに理想の物産展を実現させるか」が今回の事業テーマとして固まり、仕組みにつながる全てのアイデアの源泉となりました。
事業テーマが固まった後は、まず、そのテーマだけで初期の仕組みを構築。その後に「生産者と来場者のメリットとも合致する点」を見つけていき、全員にメリットがある物産展の形をつくったという。
山口代表:「来場者と出店者の双方のメリット」と「事業システム(仕組み)」をすり合わせて、物産展への来場者と出品するお店側の両方のメリットを実現させた、かつ事業者としても理想の事業システムを作りました。
テーマを定めてアイデアを沸かせて初期システムを作り、事業に必要な関係者の参画メリットを初期システムとすり合わせて実際の事業(システム/仕組み)にする。
これが今回の仕組みを作った一連の流れです。
役割をつくり、人を巻き込むことで実現
-----同物産展を実現するために、どのように動きましたか?
山口代表:1人で作った仕組みに役割をつくり、人を巻き込みました。
それぞれの役割を担ってくれる各分野のプロフェッショナルの方と一緒に、その人ならではの視点や経験から生まれる意見や考えをもとに、当初の仕組みを検証し改善。
そうして最終的に、それぞれの役割を集約させて「チームの事業」としました。
-----物産展への反響を教えてください。
山口代表:「いいところを突いてきたね。面白い」「車を持っていないから、家に届けてくれるのは助かる」といったお声をいただきました。
多くの来場者に、同物産展のシステムやメリットを理解していただき、たいへん有難いお声やお褒めの言葉をかけていただいたことを、とても嬉しく思っています。
その結果は数字にも表れており、来場者のうち3人に1人が実際に購入され、またご購入者様の平均購入額は9900円を記録しました。
「自分がどうしたいのか」をとことん追求
今後は、生産者とより一層深くコミュニケーションを取り、物産展の形や地域、食材に限定せず、あらゆる角度から“作り手の価値に出会いの機会を生むこと”を実現していきたいと考えているという。
-----これまでの経験をどのように活かして、キャリア・ビジネスを展開していますか?また、「キャリアの活かし方」を、どのように考えていますか?
山口代表:キャリアは「計画」ではなく「意志」だと捉えています。
何年後にこれを始めて、次はこれをして…、という“道筋”よりも、自分は何者で、何がしたくて、そのために何が必要で、その過程において、今の自分にはこれができるから「今」ここ。
その「今」に対して「過去をこれまでのキャリア(経歴)」「未来をこれからのキャリア(計画)」と捉えることが多いです。
また、その道筋にある無数の選択肢において、自分が決断する判断基準を打ち立てることも大切だと考えているという。
山口代表:自分に付いて来たものと、今より先のことで思い浮かんだもの、その中で取捨選択と順番を決めたものが、俗に言うキャリアと言うものなのかもしれません。
しかし、それを決めたのは自分の意志だとすると、「どこにいくかより、どこにいきたいと自分が思っているのか」「どちらを選ぶかより、どうやって自分がどちらかを選ぶのか」を考えてみる方が、僕は楽だし楽しいです。
答えはいつ出るか分かりませんし、今出た答えが明日には変わっているかもしれません。ですので、「自分自身では、どうしたいのか」をとことん突き詰めて、今日のこの時間なりの答えを出すようにしています。
生まれ育った北海道に貢献したいというビジョンをもとに、時代に合った新しいビジネスを作り出した山口代表。
その考え方とビジネスを実現させるまでの道のりは、起業を志している人だけでなく、さまざまな業界で働く若手ビジネスパーソンの参考になりそうだ。
出典元:21歳のこうしろう株式会社
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