北海道広尾郡にあるMEMU EARTH HOTEL(メムアースホテル)は7月1日(水)より、「ごみを出さないお弁当『産と市~with Bread~』」のサービスを開始した。
十勝食材を活用したパンと8種類のオードブルをテイクアウトで提供。オードブルは全て瓶詰めにして提供し、2回目の受け取りの際は、容器分を割引いた金額で購入可能。また、使用しなくなった瓶をホテルに持っていくと、デポジット費用500円が返却される。
テイクアウトの課題でもある包装材コストとごみの問題を抑えつつ、容器のやり取りを通じて地元客のマイクロツーリズム促進へとつなげることを狙ったサービスだ。
1つのサービスで2つの課題を解決に導くこの企画は、どのように生まれたのか?同ホテルのプロデューサーであるオレンジ・アンド・パートナーズの佐藤剛史さんに、企画の経緯や出し方について取材した。
「地球に泊まり風土から学ぶ」がコンセプト
同ホテルは、「地球に泊まり、風土から学ぶ」をコンセプトとする、地域資源と人との共生について考え、体験とデータ化を通じて世の中に発信していくプロジェクト型のホテル。
多くのサラブレッドを輩出した牧場の跡地が、寒冷地実験住宅施設へと姿を変え、日本を代表する建築家らの作品が点在する建築の聖地に。
そして、2018年11月、施設内の実験住宅や牧場の記憶を継承するリノベーション建築をホテルへとコンバージョンするかたちで、同ホテルが誕生した。
先進的な建築と十勝の無垢なる自然を原体験として楽しんでもらうサービスとしての一面に加え、資源再読をテーマとしSDGsに向けた様々な研究者と協業。ホテル利用者から得られるデータを基にした社会実装のプロセスを国内外に向けて発信している。
コロナをチャンスと捉え、できることを模索
佐藤さんは大手印刷会社を経て、2015年にオレンジ・アンド・パートナーズに入社。地域ブランディングや企業プロモーションを手がけながら、2016年夏に同ホテルのトライアルを開始。2017年11月に法人として同ホテルを設立し、2018年11月にホテルを本格オープンした。
今回の企画「ごみを出さないお弁当『産と市~with Bread~』」の発案者の一人だ。
-----「ごみをださないお弁当『産と市~with Bread~』は、どのような経緯で誕生しましたか?
佐藤さん:開発の理由はいくつかあります。
1.新型コロナの影響で、宿泊利用客が大幅に減り、別軸の売上を作りたかったこと。
2.地元客が訪れにくい場所であることを、コロナを機に開放するチャンスと感じたこと。
3.地域の生産者をつなぐハブとしての機能をホテルが担うことを、開業当時から目標としていること。
同ホテルは東京からの利用客比率が高く、コロナの影響を大きく受けたという。
佐藤さん:主に都市圏に暮らす方々にとって、プライベート感があり特別な自然体験・クリエイティブ体験ができる場所であることは強みであるものの、逆の見方をすれば、地元客とのコミュニケーションに課題があり、生産者・事業者との提携は積極的に行うものの、多くの地元の方々とつながる開放的な場所でありませんでした。
今後、パブリック向けの利用施設の開放や企画を考える方針はもともとあったので、今回コロナをチャンスと捉えて、今できることを模索しはじめたことが動きのきっかけです。
地域を巻き込みながら、新しいビジネスを
同ホテルは、生物にとって最も大切で、最も日常的な行為である“食べる”ことを通じ、様々な地域資源の価値を感じてもらう企画「EATcation」(食べること×学び×交流による造語)を実施している。
その1つとして昨年、十勝の食材とパンを組合わせたオープンサンドで風土を表現するローカルフード企画「産と市」を実施。「ごみを出さないお弁当『産と市~with Bread~』」は、そのスピンアウト企画だという。
佐藤さん:社内の打ち合わせで、「産と市」を展開することで、地域を巻き込みながら、今までの十勝にはなくホテルのブランドイメージも踏襲した、新しいビジネスモデルを作ろうと持ち上がりました。
第1弾は、オンラインコミュニケーションとして「産と市 ~Country Sandwich~」をAirbnbの体験コンテンツとして配信しました。生産者とシェフのやり取りのなかで、特別なオープンサンドをつくるオンラインのクッキング教室です。
そのさらにスピンアウト版として、地元との交流のためのテイクアウト企画として、今回のアイデアが立ち上がりました。
デポジットをコミュニケーションの機会に
-----最初から「包装材コスト・ゴミ問題」と「マイクロツーリズム促進」という2つの課題を解決させることを狙っていたのですか?
佐藤さん:テイクアウトを考えるときに、包装材・ごみの問題は、ホテルのコンセプトから最初に話が上がりました。
ごみを出さないことを念頭に置くと、必然的に容器をデポジットする案が浮かび、何度も足を運んでもらうのであれば、「それをコミュニケーションの機会として拡張できないか?」と、自然な流れでストーリーが出来ました。
「ごみを出さないお弁当」という、分かりやすく、親しみやすく、かつオシャレさも感じるコピーも素敵だ。
-----このコピーはどのように考えたのですか?
佐藤さん:テイクアウトに関する社内打ち合わせの、ほとんど最初に出てきたコンセプトワードのようなものです。
一番最初のインスピレーションがそのままコピーになった形です。
根本には「十勝の食文化を盛り上げたい」
-----同サービスにおいてこだわっている点は何ですか?また、それをどのように実現させましたか?
佐藤さん:デポジットなどの手法論もありますが、根本には「十勝の食文化を盛り上げたい」という思いです。
十勝は食材が豊富で、全国的に見ても非常にレベルが高いですが、「食べ方」という点では、まだまだ余白があると感じています。
地元生産者の旬の食材を良い状態で仕入れ、調理によって想像よりも美味しく・楽しい食事を提供する。そうすることで自分たちの身の回りの食材にもっと興味をもち、地域に可能性を感じたり、地元を好きになる可能性があると思います。
そんな思いも込めて、「瓶詰」という制限の中で、家族や友人との時間が楽しくなる、美味しく・面白い食事の風景をイメージしてこのサービスを作りました。
コンセプトを深掘りして、企画を選ぶ
「ごみを出さないお弁当」は、エコロジーかつwithコロナにより発生した課題にも対応する、まさに時代にぴったりのサービスだ。
-----時代に合った企画をどのように生み出していますか?企画力の源や企画を生み出すために大切にしていること、企画を出すためのコツなどを教えてください。
佐藤さん:一つは、自分たちの事業コンセプトをとにかく深堀りして腹落ちさせることです。
何が良くて何が悪いのか、何を選んで何を選ばないのか。社内でもよく、「これはメムっぽい」「これはメムっぽくない」という話をしますが、「っぽい」という言葉が社内で出てくるようになるのは、自分たちのブランドが社内に浸透している一つの目安になると思います。
また、もう一方で「世の中の時流を、変わるものと変わらないものの両方の視点から見ておくこと」も大切にしているという。
佐藤さん:コロナは事業へのインパクトは非常に大きかったですが、マーケットの動きとしては、不謹慎ですがとても面白さを感じました。
世界中全ての人が同じ気持ちになり、同じ方向を向くことは、この多様性の時代には非常に珍しいことだと思うので、こうした人たちのニーズをとらえたり、悩みを解決する企画が出せれば、自分たちでも世の中を少し動かせるのではないかと感じることもありました。なので、スピード感は大切にしていました。
また、変わらないこととしては、文化というのは常に行き過ぎるとカウンターカルチャーが生れる傾向にあります。
近年AIやIoTなどの技術進歩のスピードが高まり、オンライン上のコミュニケーションですべてが賄えるのではないか、という考えが市場全体にありました。
この行き過ぎた思考のギャップから近年、アウトドアやサウナなど身をもって体感することや、自然回帰の潮流が生まれて来たと感じていますが、頭でっかちな時代だからこそ、それを理解した上で「体感するもの、手触りのあるものを作る」といったことを狙っています。
そういう意味では、「時代やカルチャーのエッジ部分を常に探して、そこを突く」というのは常に意識をしています。
時流の変化に柔軟に対応しつつも、「地球に泊まり、風土から学ぶ」というコンセプトをとことん追求して、同ホテルらしい企画を生み出していくメムアースホテル。
同ホテルの取り組みが今後地域社会にどのような効果をもたらし、また、その持続可能なアイデアがどのように国内外に広がっていくのか、楽しみだ。
出典元:MEMU EARTH HOTEL
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