有田焼や瀬戸焼、江戸硝子といった日本各地の伝統工芸品の器を、季節や好みに合わせて月額定額制で楽しめるサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」は5月、家庭向けサービスを開始した。
毎月交換できるので、収納スペースを心配することなく、季節や好みに合わせた工芸品の食器を楽しむことが可能に。使用する工芸品は、自分で選んでも良いし、プロに任せることもできる。
伝統ある本物の工芸品を気軽に楽しむことができる画期的なサービスを、どのように実現させたのか?同サービスの共同代表である株式会社Culture Generation Japanの堀田卓哉代表取締役と合同会社Catal 代表社員の浦田修伍さんに、実現までの道のりやキャリアについて取材した。
「もったいない」から生まれたサービス
堀田さんは大学卒業後、株式会社セリクでフランスの技術や商品を日本企業に導入する仕事に携わった。その後、モナコ大学でMBAを取得し、株式会社ホンダコンサルティングにてHONDAグループの経営再建に着手。2011年に、文化の継承と革新を事業テーマに掲げるCulture Generation Japanを設立した。
浦田さんは幼少期を中国・ドイツで過ごし、大学在学中よりUI/UXデザイナーとしてITスタートアップ企業でサービス設計や情報設計を担当。2019年に合同会社Catalを設立し、ブランド設計や地域での観光商材の開発、新規事業創出のモデルづくりを行っている。
同サービスは、もともとは昨年6月に飲食店向けとして始めたが、コロナ禍により自宅時間をより楽しもうという機運が高まっていることを受け、伝統工芸品の器を多くの人々に気軽に楽しんで貰えるよう、新たに家庭向けサービスを開始した。
-----工芸品を購入するでのではなく、サブスクで楽しむサービスを発案した経緯を教えてください。何かきっかけとなった出来事があったのですか?
堀田さん:弊社の事業として展開している「地域企業の支援コンサル」という業務上、地域の工芸品メーカーや職人さんの工房にお邪魔することがよくあります。
そこには、技術を生かした逸品ながら、価格という点で市場に流通していない在庫が多く眠っていました。
ライフスタイルの変化や高いデザイン性を好むトレンドなど、「作り手」が対応すべき市場の変化も確かにあるのですが、ただ「価格」という一点で、これらの素晴らしい商品が流通していかないのはもったいないなぁと感じたのがきっかけです。
共同で事業を行うメリットとは
二人は、JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOLという全国の産地を活性化するローカルプロデューサー育成の場で出会ったという。
堀田さんは、伝統工芸品のリース事業という漠としたアイデアは持っていたが、1人でできることではなく、またチームとして運営したいという思いを強く持っており、浦田さんに声をかけたそうだ。
-----共同で事業することには、どのようなメリットがありますか?
堀田さん:自分が全体企画、浦田さんがサービス詳細設計とうまく役割分担ができたことで、企画立案からローンチまで約半年というスピード感で進めることが出来ました。
また、お互いに世代が違うこともあり(自分が40代、浦田さんが20代)、アイディアやネットワークも良い意味でバラけられるのもメリットだと思います。
形式上、自分が代表をしておりますが、浦田さん、キュレーターを務めてくれている安田さん、物流・仕入れを担当してくださっている井澤コーポレーションの井澤社長、土田さんと、それぞれ専門領域を持ったプロが集まっているチームで運営しているのが最大の強みです。
浦田さん:CRAFTALをはじめた経緯としては、全国の作り手さんと出会い倉庫に眠っている大量の在庫を目の当たりにしたことに加え、そもそも若者世代では日用品といえば大手量販店の安くてシンプルなものが多く、生活の中で工芸品に触れる機会が少ないことのギャップを縮めたいと思ったからです。
また、伝統工芸品業界では、分業体制の生産地域が多いこともあり、中間事業者が入ることで作り手と使い手のマーケットが乖離しています。
CRAFTALは双方を透明化して、小さい流通の渦を作り、その規模を徐々に拡大していくことで、大きな流通の畝りを作っていきたいと思っています。
その中で、それぞれ役割や得意分野が異なるチームだからこそ、サービスを立ち上げることができ、コロナ渦の社会の変化に柔軟に対応できていることがメリットだと思います。
海外経験から見えた、日本の工芸品の可能性
2人は共に、生活や仕事で海外に関わった経験がある。なぜ、サブスクで取り扱う商品として、海外の品物ではなく、日本の工芸品を選んだのか。
-----取り扱う商品として“日本の工芸品”を選んだ理由は?
堀田さん:バブル崩壊後の日本を見限って外国に留学したつもりが、そこで気づいたのは日本人としてのアイデンティティでした。
帰国後に住んだ浅草で出来た友人の職人たちからは「次世代に伝統をつなぐ」ことの誇りを身近に学ぶことができ、会社の起業につながりました。
上記のとおり、会社の業務として職人さんと話すことが多いのですが、「もうこの仕事も俺でおしまいだな」と近い将来に廃業を考える職人さんが多く、これから5年以内に失われていく技術も多いのが現状です。そういうのは、もったいない、と単純に自分は思ってしまいます。
なので、「価格」が理由で流通に乗らないのであれば、新しい流通の形を作ってしまおうと考えた次第です。
もし、海外にそのまま住んで、海外の職人さんと仲良くなっていたら、海外の品物を扱っていたかもしれません(笑)。
なので、質問に戻ると、日本の工芸品を選んだ理由は「出会った職人さんに惹かれているから」でしょうか。
浦田さん:海外での日本の紹介を見ると、今でも「着物」「忍者」「柔道」など従来のコンテンツが多く並んでいます。
確かに僕も海外に滞在している時に、日本のことを紹介するときはそのような代表的なコンテンツを紹介していたと思いますが、実際日本では着物を着ている日本人よりインバウンドで訪日している外国人の方が多いのも現実です。
僕の場合、帰国した際にこのギャップに違和感を覚えたことが、きっかけだったと思います。
全国の工芸品の生産事業者は、これまでの伝統技術を駆使し、日々新たな商品の開発に力を注いでおり、とても素敵な商品が多いです。私はCRAFTALでスタートして日本の工芸品流通の渦を海外にも持っていくことで、新たな日本の魅力発信の流れを作っていきたと思っています。
新たな仲間と共に困難を乗り越える
-----同サービスを実現するまでに大変だったことは?また、それをどう乗り越えましたか?
堀田さん:まだ全然乗り越えてはいないですが(笑)
最初のサービス設計のころは、提携産地の職人さんから取り扱いカタログを取り寄せて、分厚い電話帳のようなサイズの本を5~6冊、飲食店のオーナ―シェフに渡して、「こっから選んでください」という形式を考えていました。その形式でどうか?と何人かのシェフにヒアリングしたところ、「忙しいから、こんなの探せないっす」という返答が100%でした。
そこで、「選択すること」を逆に付加価値として提供できないかと考え、プロのキュレーターである安田さんにチームに入ってもらいました。3人目の仲間です。
そして、2019年6月にローンチイベントを開催し、メディアにも掲載され、想定以上の問い合わせや注文が入ってきました。
正直、その時点では、まだオペレーション設計が全くできておらず、自分の事務所でお皿を梱包して発送したり、開けたら割れていた、とか問題点だらけでした。
そこで、きちんとオペレーションを回せる会社にチームに入ってもらった方がいいと、安田さんの紹介で井澤コーポレーションの井澤社長とお会いしました。
井澤コーポレーションさんは、美濃で産地商社を営んでいらっしゃる老舗企業ながら、井澤社長は非常にフットワーク軽く発想が柔軟な方で、CRAFTALにもすぐに参加を決めてくださいました。井澤コーポレーションさんの加入によってオペレーションが安定し、今に至っています。
浦田さんも、新たな仲間に入ってもらったことで、困難を乗り越えることができたと話す。
浦田さん:一番大変だったことは、商品のラインナップと流通の構築ですね。
ただ、そこはキュレーターの安田さんと井澤コーポレーションの方々といった、思いを共にした心強い仲間に入っていただいたことで無事にサービスを展開することができました。
その他では、最初は伝統工芸品を利用することの価値ポイントをどのように飲食店の方々へ伝えるかに苦労しました。
外食産業では利益をあげるために、売上を上げるかコストを下げるかが必要で、できるだけ安い仕入先を探します。その中で月額の月額固定費用は経営負担になってしまうので、「工芸品を利用することで新たに生み出す売上」にポイントを絞り、どのような工芸品が効果があるか検証を進めてきました。
ベースを基に自分をアップデート
-----同事業を展開するにあたって、今までのキャリアをどのように活かしていますか?キャリアへの考え方も聞かせてください。
堀田さん:僕はコンサルとして長く勤めてきましたので、今でも思考のベースにあるフィロソフィーはその時代に培われてきました。クライアントファーストであったり、成果創出にこだわることであったり。
またCRAFTALに関しても、コンサル時代に長く携わっていた自動車業界におけるリースやローンモデルにヒントを得ています。
時代に合わせて自分自身をアップデートしていくことはもちろん必要ですが、ベースとなる部分がないと自分自身が不安定になってしまうのかなと思います。
徹底的にやる→成果を出す→自信が持てるの繰り返しで、だんだんとベースは出来上がってきて、一旦ベースが出来れば、変化にも対応できるのだと思います。
「自動車業界から全然違う業界に転進したんですね」と言われることも多いのですが、やっていることの原理原則はそんなに変わっていないと自分では思っています。
浦田さん:私はこれまで地域の魅力発信事業やサービス設計、価値開発の活動をしてきました。
工芸品はこれまで一度購入してしまうと、どのような利用者がどのような用途で使っていて、どのようなところに煩わしさを感じているのかが見えていませんでした。また、利用者も価格コストにより日常に取り入れるハードルが高く、多くの工芸品に触れることができなかったりしています。
CRAFTALでは、お試し利用のような形で、実際に使った上で購入するか決めることができるので、これまでにない工芸品との接点の創出と、その中の価値検証で得たデータを、今後のものづくりにも活かすことができると思っています。
産地・飲食店の力になる循環を生み出す
-----昨年から始めた飲食店向けサービスの利用状況や反響は?
堀田さん:おかげさまで、都内の複数店舗でご利用いただいており、反響も上々です。
例えば、百貨店などで器を買うと、窯元のストーリーまでは聞くことができませんが、CRAFTALでは産地のストーリー(どんな産地で、どんな職人さんが作っているのか)を使い手であるシェフにしっかり伝えます。上質な器を容易に借りることができて、知識も得られると好評です。
サービス利用店舗は、カウンターがメインのようなしつらえの店が多いのですが、お料理はもちろんですが、器の話でも会話が盛り上がっています。
-----今後のビジョンを聞かせてください。
堀田さん:2020年5月にローンチした「ご家庭向け」CRAFTALを軌道に乗せていきたいと思います。
おうち時間が増える中で、自炊、デリバリー、テイクアウトなど、ご自宅で料理を楽しむ機会が増えています。皆さんの毎回の食卓をより楽しんでいただきながら、より気軽に工芸品に触れていただけるようなサービスに成長していきたいと思っています。
飲食店向けサービスとご家庭向けサービスが、良い循環を生み出し、今はコロナ禍で苦しんでいる飲食店の一助にもなれたらと考えています。
浦田さん:工芸品の器を通して、産地の魅力や、作り手の魅力発信に繋げていきたいと思います!
培ってきた経験をベースに、自分自身をアップデートさせて新たな事業に挑む2人。
1人では難しいことも、思いを共にする仲間を見つけてチームとして動くことで、柔軟かつスピーディな実現を可能とした。
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