1. 「サッカー選手だけで終わりたくない」 元サッカー日本代表選手が考える“セカンドキャリア”の形とは

「サッカー選手だけで終わりたくない」 元サッカー日本代表選手が考える“セカンドキャリア”の形とは

元サッカー日本代表の鈴木啓太氏は、引退後、ビジネスの世界に入ることを発表した。そのことに驚きをもって受け取られた方々も多いと思う。ビジネスの世界のビジネスプロフェッショナルと同じように、自身のスキル・技能のみをベースに道を切り開いていくプロフェッショナルのアスリートの世界。そこから第二のキャリアとして選んだヘルスケアの新ビジネスの立上げについて、その背景や考え方を鈴木啓太氏に伺った。

セカンドキャリアの考え方。「サッカー選手だけで終わりたくない」

Q:引退発表の時に、「腸内フローラ解析事業」を始めることについて発表されていました。これまでのサッカー選手の引退後のイメージとは異なる発想だと思いますが、現役当時、引退後のキャリアについてどのように考えていましたか。

鈴木啓太さん(以下 鈴木):僕がサッカー選手になった頃というのは、まだJリーグができて6年くらいの時でした。今では、解説者になる方や、華やかなテレビの世界に入る方もいますが、当時は引退後の活躍の場というものは前例もなかったし、正直言ってイメージがなかったです。また、チームに入った当時はとにかくがむしゃらにやるだけだと思っていたので、引退後のことは全く考えていなかったですね。

ただ、選手になり数年たって「サッカー選手だけで終わりたくないな」という気持ちは漠然と持つようになりました。ちょうど中田英寿さんがヨーロッパに行かれたり、会計士の資格をとるために勉強されていることが話題になったり、そんな時期でした。「僕も引退してから何か活躍の場を持つことができたらいいな、サッカー選手だけで終わりたくないな」と。でも、これをやりたいとか具体的なものはなかった。

その年その年、全力でやらなければプロの世界では生きていけませんから、深く考える時間さえなかったのかもしれません。漠然とサッカーだけでは終わりたくない、でもどうしていいかわからないというのが正直な気持ちでした。

Q:ビジネスの世界で身を立てていくというお考えはあったのでしょうか。

鈴木:そうですね。ありました。一つのきっかけとしては、以前オフで海外旅行をした時、ある外国人選手の家を訪ねる機会があったんです。その時に、その選手が持っている会社にも遊びに行きました。その選手がいうには、引退するまではお兄さんに会社を任せて、辞めたら自分がそこの社長になると。日本のサッカー選手と感覚が全く違うわけです。

海外の選手は、サッカーに身を捧げるとかそんな感覚ではなく、サッカーの次のことも考えています。その会社は僕が遊びに行った当時、70人くらいの社員数だったんです。その後、彼が引退して3~4年くらい経って連絡したら「啓太、社員が倍になったよ!140人くらいになったよ」と言うわけです。そういう感覚なんですよね。なんかこう、ビジネスに対しても余裕があると言うか。

今まで自分がスポーツ選手として第一線でやってきたという自信も大きいと思います。ピッチの上で戦ってきたのと同じように今度は自分のビジネスで戦っているんだなというのを見て、かっこいいと思いました。そういう感覚っていいなと。日本において自分もそういった1つのモデルケースになりたいという気持ちはありました。

腸内フローラ解析事業のきっかけは、過去の経験の中に

Q:引退後、腸内フローラ解析事業のAuB(オーブ)株式会社を立ち上げられました。この新ビジネス立上げのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

鈴木:腸内フローラというのは、腸の中の細菌の群集のことをいうのですが、これら「細菌の集団」が私達の健康に大きな影響を及ぼしていることがわかってきました。 僕は、もともとお腹の中のことにすごく興味があったんです。

ずっとサッカーをやっていたので母親が僕の健康にとても気を遣ってくれていて、実は昔から市販されているヒト腸内からとれた細菌を飲んでいたんです。それこそ中学、高校の頃からですね。だから、腸内がやっぱ健康じゃなきゃいけないってことは自然と自分の頭の中にすり込まれていました。そういった経緯もあって、健康を維持するビジネスにはとても興味があったんです。

現役時代に、トレーナーともよく話していたのですが、身体と心の健康は50%50%だと。パフォーマンスを出すには身体だけのことを考えてても足りない。心が充実していれば、ある程度、身体は後からついてくる。でも当然、身体も疲弊するわけで。やっぱり行きつくところは心と身体のバランスなんですよね。

おもしろいもので、腸内細菌について調べていくと自律神経によって腸内環境って全く変わることがわかります。作用し合うんですね。自分がプロのサッカー選手としてプレーする中で体感していた腸内細菌の力と、実際に科学的に証明されていることがリンクしているとわかった時、これってすごく自分にとってやりがいのある仕事だと感じました。これに自分のセカンドキャリアを賭けてもいいんじゃないかと思えたのは大きかったですね。

そんな中、現在のAuB株式会社のメンバー達との出会いもありました。この分野での第一人者の教授や連続起業家の方、スタートアップの経営者の方など、とてもいいメンバーが集まりました。昨年、ウンログ株式会社の田口敬さんと知り合ったことがきっかけで一気に話がまとまりました。

トップアスリートの腸内には特定の細菌群が多く分布している

Q:AuB(オーブ)株式会社はどのような人々のための会社なのでしょうか。

鈴木:最初は腸内フローラ(腸内細菌叢)を解析することでアスリートのために何かできないの?という話からスタートしたビジネスでした。トップアスリートの腸内フローラには、きっと病気の人や一般大衆の健常者にはない特定の腸内フローラ構成や細菌群が多く分布しているというのが、僕らのメンバーである森田教授の見解です(森田英利氏:岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)。森田教授はネイチャー誌にも論文を出しているこの分野でも第一人者といえる研究者で、この方が参画いただいているのは、非常に心強いです。

トップアスリートの腸内フローラのベストな状態を解析し、良いとされる腸内細菌を保つことができればアスリートのコンディションの維持であったり、パフォーマンスの向上に大きく役立つはずだと考えました。

トップアスリートに役立つのなら、もちろん一般の方々の健康維持、健康増進や美容にも転用できます。トップアスリートの腸内フローラの研究をしつつ、一般の方々にもライトなかたちで還元していきたいというのが今のイメージです。

腸内フローラから、トップアスリートのパフォーマンスを向上させる

Q:なぜ腸内フローラが選手のコンディション維持やパフォーマンス向上に繋がるのでしょうか。

鈴木:腸内フローラをベストな状態に保つことは、回復力や免疫力の向上に大きく関連しているそうです。例えば、選手のパフォーマンスの向上のためには、日々のトレーニングが重要ですよね。

トレーニングをすると筋細胞が壊れる。回復段階でトレーニングを重ねてもたいした上積みありません。一度コンディションを100%回復した状態に戻さなければ大きな効果は期待できない。

だから次のトレーニングまでに万全な状態にコンディションを戻したいわけです。細胞の回復スピードが早ければ早いほど強度の高いトレーニングが何度も繰り返しできますから、その視点からすると若い選手ほど有利なんです。

高い頻度のトレーニングができるから、必然的にパフォーマンスも上がる。年齢と共にパフォーマンスが落ちる理由は、回復力が遅くなるのでリセットするためのコンディション維持に苦労するからなんですよね。トレーニングの頻度が落ちれば筋力も落ちる。うまくやらないと悪循環に陥ります。

ですから、コンディションを100%のところに早く戻すために、つまりそれを科学的にその選手達が理解するために腸内フローラの解析事業が生きると考えています。アスリートとして国の重みを背負う経験をした自分だからこそ、トップアスリートの悩みを少しでも解決したい。

今、僕達はトップアスリートの腸内フローラの「ベストな状態」とはどのようなものかを解析しているフェーズですが、次の段階ではその環境にどれだけ近づけられるのかをトライしていきます。今年1月、本社を岡山大学内にある岡山大インキュベータ内に移転するため、岡山まで視察にも行ってきました。今年2月、AuB株式会社本社を岡山大学の近くに移転し、岡山大学との研究を加速しています。さらに、3月には最新の解析設備を導入し体制を整えて、一気に研究を進めてサービス化を目指します。楽しみですね。 

専門家:鈴木啓太(すずき・けいた)

AuB株式会社 CEO(オーブ:Athlete micro-biome Bankの略)。 1981年7月8日静岡生まれ。元プロサッカー選手。2000年、浦和レッズ入団。その後、日本代表を経験。2016年1月、16年間在籍した浦和レッズを引退。その後は起業家としてビジネスの世界に転身。岡山大学大学院環境生命科学研究科の森田教授他数名にて、腸内フローラ解析事業を行うAuB株士会社を設立。人の腸に生息している数十兆個の細菌の集合体である腸内フローラ(腸内細菌叢)。良い腸内環境の維持は肉体機能の向上に役立つと考えており、食事や睡眠、運動量などを厳密に管理しているアスリートの腸内フローラのベストな状態を把握することで最良の腸内環境を維持・再現できる方法を模索。アスリート支援はもちろん一般生活者の健康づくりに役立てていくことを目的とし、現在、ヒト腸内フローラの解析に取り組む。


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