1. 企画書は未完成にしろ。――番組プロデューサーとCMプランナーが「今後のテレビ」を語る

企画書は未完成にしろ。――番組プロデューサーとCMプランナーが「今後のテレビ」を語る

前回はお二人の仕事のスタンスや企画術についてお伺いしたが、今回はおふたりの仕事術について、さらに掘り下げていきていきたいと思う。

前回:

丸山俊一 プロフィール

まるやま・しゅんいち 
1962年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。制作局教養番組部ディレクターなどを経て、 現在、編成局コンテンツ開発センターエグゼクティブ・プロデューサー。「英語でしゃべらナイト」、「爆笑問題のニッポンの教養」、「ソクラテスの人事」、「仕事ハッケン伝」、他、多くの異色教養エンターテイメントを企画、プロデュース。 現在は「ニッポンのジレンマ」「ニッポン戦後サブカルチャー史」の他、「課外授業  ようこそ先輩」「奇跡のレッスン」なども制作統括。早大、藝大、明学大で、社会学、映像文化論など非常勤講師を兼務。著書『すべての仕事は「肯定」から始まる』(大和書房)『異化力!』(NHK出版  水高満との共著)

福里真一 プロフィール

ふくさと・しんいち/CMプランナー/コピーライター/文筆家 
1968年、鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業後、92年電通入社。2001年よりワンスカイに所属。これまでに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」など。著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)。月刊『創』に「このすばらしき、ろくでもないCMプランナー」連載中。

時代の流れを見るためにテレビのチェックは欠かさない

————今、他の人の番組やCMで気になるものはありますか? 

福里  これが気になるというよりは、テレビ全体をなるべく見るようにしています。テレビ全体の雰囲気がわからないと、どんなCMを流せばいいのかわからないので。どんなCMが目立ちそうか、とか、どんなタレントさんに出演していただくとよさそうか、とかいったことは、やはりCMがテレビでオンエアされるものである限り、テレビの様子がわからないとわからない。 

まあ、他人がつくったヒットCMをうらやましく思うことはありますね。「ソフトバンク」の犬のお父さんとか、最近だと「au」の三太郎シリーズとか。桃太郎、浦島太郎、金太郎で、あそこまでヒットするとは、と、度肝を抜かれました(笑)。やっぱり日本人における昔話の力ってすごいのかもしれないですね。本当に、何がヒットするかは、やってみないとわからないです。 

丸山  僕も時代の空気を知るために、というか、基本的に映像が好きなので、いろんなCMや番組は見ています。5年、10年に1本くらい「こんな切り取り方があるんだ」という作り手の明確な意志を感じさせる、番組に出会うことがあります。『英語でしゃべらナイト』をはじめたくらいの頃に、フジテレビで『トリビアの泉』という番組が始まったんですね。これだけ豊かになってしまった社会の中で無駄を探すというのは、バラエティなんだけど一つの文明批評だなと思いましたね。出演のタモリさん、高橋克実さん、八嶋智人さんのトリオというのも新鮮でした。 

最近だと『怒り新党』がすごいと思いましたね。こちらも、出演者はトリオで、視聴者の怒りのお便りに答えていくシンプルな悩み相談みたいなものですけど、すごく興味深い。マツコ・デラックスさん、有吉弘行さん、夏目三久さんの3人で、1通のメールから話題を広げて、視聴者の悩みを解消していく形をとりながら時代をを批評していると思います。やっぱり何年かおきに生まれる魅力的な番組、シンプルだけど時代への批評として刺さる番組というのは、3人の組み合わせで生まれるんだなと、あらためて、思いましたね。 

福里  トリオという視点は僕はもったことなかったですけど、何かあるんですかね、トリオには。

丸山  そうですね。トリオって、王道なんだなと漠然と思いましたね。3は数学ではnの始まり、一般化の始まり、ですし(笑)。 

福里  桃太郎、浦島太郎、金太郎もトリオですもんね。そうか、トリオが効いているのか。ぜひ、今後の参考にさせていただきます(笑)。ちなみに、丸山さんは番組の企画ってどんどん思いつくものなんですか?それとも悩みに悩んで思いつくものなんですか? 

丸山  僕の場合は、常にバラバラといろんなものが同時並行で浮かび上がってくる感じですね。様々な番組を抱え、走りながら考える、と言いますか。それぐらいの方が自分のモヤモヤをうまく外に出せる気がするんです。NHKの中にもいろんなタイプの人間がいて、1つの番組に半年や1年かけて情熱を燃やすタイプもいますが、僕はいろんな番組をあえて同時に走らせることで、視聴者の方と、時代と呼吸する気分がもてた気がして、むしろ楽なんですよね。物理的には大変ですが(笑)。 

ある意味、すべては「対話」をするための場の提供なんですよね。『英語でしゃべらナイト』をはじめたときも、英語という題材で異文化コミュニケーションの「場」を提供するという裏のテーマがありましたし。『東大の教養』、『爆笑問題のニッポンの教養』も、東大の先生と爆笑問題さんが哲学の議論をしてもいいんじゃないかという、これまた「場」の提供なんです。風通しのいい、気持ちのいい議論の場所で一見全く価値観の違う人たちをぶつけてみたときに、どこまでが人と違うのか、そしてどう分かり合えるのか、ということをみんなと共有していこうという気分で考えることが、私の番組づくりのベースになっているかもしれません。

企画書には“未完成の部分”があったほうがいい

福里  番組を思いついたときは、口頭で提案するんですか?それとも企画書をつくって提案するんですか? 

丸山  それなりの企画書はつくりますね。 

福里  提案する相手は? 

丸山  局内で、プレゼンのようなことをします。 

福里  ちゃんとしたプレゼンというよりは、仲間でもある人たちに説明する、みたいな感じでしょうか? 

丸山  仲間ではあるんですけど、もちろん厳しい意見をいただくことはありますね。むしろ、楽には進まないことの方が多いぐらいです(笑)。新しい発想を言葉にするのは本当に難しいですね。

ただ、番組は生き物なので、企画文章ばかり面白いものにしても、番組が面白くならない気がしているんです。どこかで突っ込みどころがあって、未完成なんだけれども、視点だけはしっかり持つことが大切で。転がしてみるなかで何かが生まれてくるだろうっていう期待を持たせなきゃいけないと思うんです。そういう伸びしろがあるようなものは、あえてキレイにまとまらないように、どこか無意識にしているのかもしれませんね。 

福里  ウソを書きたくないっていうのもあるんじゃないですか? 

丸山  それもあると思いますね。企画書の段階で固めてしまうと、福里さんにとっての樹木希林さんみたいな(前編参照)、現場でサプライズを与えてくださるような方に制作のプロセスで出会えたときに、柔軟性がなくなっちゃう気がするんです。本当に番組で訴えないといけないコアな部分はブレていないと思うんですけど、徹底的に考えているからこそ、晴れた日に撮影する予定だったのに雨が降っても、出演者の人が台本と違ったセリフを言い始めても、どこかのベースには返れると思っていて......。演出イメージを細かく決めすぎてしまうと、番組つくるときにつまらなくなってしまう気がするんですね。

ですが、福里さんの世界はもっとシビアなイメージがありますが......。 

福里  たしかに。僕がプレゼンする方々は決して仲間ではないので(笑)。 

一同  ははは(笑)。 

福里  いや、本当は仲間なんですけどね。広告の送り手という意味では。広告主さんって、電通や博報堂が悪いのか、だいたい広告屋は騙しにくるに違いないと思っていらっしゃるので(笑)、ちゃんとした説明は必要になりますね。かなりきちんと理屈で説明できないと通用しない。ただ、今回は商品をこう見せるのがいい、といった大きい理屈の部分できちんと合意することで、細かい表現の部分はまかせてもらって、現場で面白くしていく余地を残していくことは大事ですね。ですから、意外と丸山さんのおっしゃっている、企画書に書き込みすぎないという部分も共通しているのかな、と。ただ、広告主さんって、商品が売れないと大変なことになりますから、プレゼンの時のピリピリ感は、だいぶちがうかもしれませんけどね。

あと、僕が思ったのは、広告って、必ずつくるということは決まった上で、提案することが多い。つまり、ゴールがある状態でスタートしているという意味では、むしろ楽なところもあるのかな、と思いました。番組の場合は、絶対にその番組をつくらないといけない、と決まってはいないことも多いでしょうから、そこで企画を通していくのは、むしろCMより大変なんじゃないかな、と思います。

あえて一般人の立場で「無責任」に考えてみる

————福里さんは毎回企画を出す際に、プレッシャーを感じたりしますか? 

福里  僕らがプレッシャーを感じてしまうとよくないと思っています。プレッシャーを感じすぎてしまうと、通りすがりの世の中の目線と離れた広告表現になってしまうので。広告主さんがわざわざ僕らに広告を頼んでいる理由はそこにあって、どうしても商品に思い入れが強い分、ひとりよがりな広告になってしまう。だから僕らは、商品に何の思い入れもない、一般人代表として、ある意味で気軽に、無責任に、広告を考える必要があるんだと思います。 

————企画を通すためにプレゼンを頑張ることもあるのでしょうか。 

福里  僕はまったく戦わないタイプなんですよね(笑)。反論された瞬間に、すぐに「わかりました」となるタイプ。性格もあるんでしょうけど。プレゼン自体も、決して何か得意技があるわけでもなく、自分が考えた理屈と、その結果できたCM案を淡々と説明する、という感じです。で、通らなければ、また新しい案を考える。 

BOSSの宇宙人の企画は、わりとすんなり通った記憶がありますね。ふつうはそんなに簡単には通らない企画かもしれないんですけどね。サントリーさんは、広告を文化だと思っている会社で、ただ商品を広告するだけでなく、「広告を通じて世の中に何かを提供したい」という想いを持っているんです。だから、ジョーンズがこの惑星の調査をすることで、ある種の文明批評のようなことを提供できる企画フレームを、気に入っていただけたのではないでしょうか。 

もともとBOSSのCMの発想は、ニュース番組の逆をやる、というものだったんです。ニュース番組って、世界中から戦争とか犯罪とか、人間のネガティブな情報ばかりを集めてきて伝えるものだから、それとは逆に、人間のちょっと可愛げがあるところとか、捨てたもんじゃないなというところとかを、宇宙人が発見して報じていく、ということで考えました。まさか10年も続くとは思いませんでしたけどね。

これからは“大人っぽい”を目指してみる

————今後やってみたいことはありますか? 

福里  CMって、だんだん表現のクオリティを高めて、山の頂上を目指す、というようなものではないと思うんです。ずっと同じところでグルグルと、ちょっと面白かったり、親しみがわいたりするCMをつくり続けることが大事なんじゃないかな、と思っています。ただ、ひとつ思ったのは、今回丸山さんの本を読んだり、番組を観たりして、テレビって、もっと大人っぽくなったほうがいいのかなと。

丸山さんの番組って、どこか大人っぽい雰囲気を発していて、それがとても魅力的だと思うんです。で、考えてみると、そもそも昔のテレビって、もうちょっと大人っぽい空気を発していた気がする。もちろん僕が子どもだったこともあるんですけど、あのテレビの画面の中には、もっと怪しかったり、もっと訳がわからなかったり、子どもには理解できない大人の世界があったと思うんですよね。ましてや、今の日本は高齢化が進んでいて大部分が大人なわけですから、テレビはもっと大人っぽくていい気がするんです。 

CMって、つくっているのはおっさんたちが多いんですけど、なぜか全体的に子どもっぽい方向にいってしまっている。妙に明るかったり、妙にわかりやすすぎたりしているので、この対談を機に、“大人っぽい”をしばらくキーワードにしてみようかな、と思いました。 

丸山  “大人っぽい”ということにからめて言いますと、全く見たことがないものや新しいものに出会ったときに、そうした異質な価値観を楽しんで、共存していけるのが「大人」だと思うんです。大人であれば、全く違う価値観を持つ人を同化しないで面白がって見ることもできると思うんですよね。確かに、そういうテレビを作っていきたいと思いますね。全く違う考え方を持ってそうなものや、異質なものに出会ったときに、自分の尺度で解釈してしまったり、見なかったことにしてしまったりすることは、もったいないと感じてしまいます。

昔より今の時代の方が多様性を受け入れてくれる

丸山  あえて意外と思われるかもしれないことを言いますが、少し見方を変えれば、高度経済成長期だった頃の方が実は多様性が許されないところもあったと思うんですよ。テレビもある一面を見れば子どもっぽくなっているかもしれませんが、それはそれとして、おじさんたちも今は若い人たちに気を遣っているところもあるわけで(笑)。若い人たちが大変な環境の中で働いているということは、もちろん、いつも「ジレンマ」などでも認識していますが、見方を変えれば、実は意外と選択肢がある、とも言えると思うんです。 

新入社員が飲み会でビール以外の選択肢が許されなかったように(笑)、すべて一丸という企業文化が薄れた今、もっと伸びやかにやれる道もあるような気がします。

福里  絶対目指さないといけない“何か”なんて、今の時代はないですからね。 

丸山  バブルの時なんかもっとイケイケで、「派手な表現をするのがクリエイターだ」なんて、一般に思いこまれているような空気がありましたからね。 
すべて、いろいろな眼差しがフラットになって生きやすい。そんな考え方もできると思うんです。若い人もそうですし、僕らみたいなタイプには(笑)。 

福里  この前たまたま『就職戦線異状なし』っていう映画を妻が録画していたので観たんですよ。そうしたら、その映画の中での学生たちの価値観が「フジテレビに就職するのが一番素晴らしい」というもので、それに対して主演の織田裕二さんが反発するっていう話だったんですけど、「そうか、当時ってテレビ局に就職することが絶対正義みたいな時代だったんだ」って思って、すごく新鮮でしたね(笑)。まさに僕と同世代の、バブル入社組の話だったんですけど、今そんなことを思っている若者ってあんまりいないでしょうからね。もっと地に足がついている感じがする。
丸山  まさにそういう流れから降りにくい時代だった、という言い方もできると思います。その方が生きづらいかもしれない。今は先が見えない分、多様な価値観が受け入れられやすいし、試しやすいという考え方もできると思います。 

福里  今の若者って、大人っぽいんですよね。僕が大学生の頃なんて本当になーーーんにも考えてなかったですからね(笑)。今、ごくたまに若者と話すと、世の中をよくすることに少しでも貢献したいとか、自分なりに豊かに生きていきたいとか、とにかく何がなんでもフジテレビに入ってモテまくりたい、なんていう人は全然いない(笑)。これだけ若者が大人っぽいんですから、大人が提供するものは、ますます大人っぽくてもいいのかもしれないですね。

前編後編にわたり、番組プロデューサーとCMプランナーであるお二人から2回にわたり仕事に対する考え方についてお伺いしてきました。これからクリエイターを目指したい方も、今クリエイターとして活躍している方も、お二人の仕事術をぜひ参考にしてみてください。

Interview/Text: 田尻亨太
Photo: 森弘克彦

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