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大企業がテレワーク導入できない5つの理由

U-NOTE編集部

2022/10/12(最終更新日:2022/10/12)


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荒木賢二郎氏/提供:テレワーク・テクノロジーズ株式会社

大企業がテレワーク(リモートワーク)を導入する上でどんな障壁があるのでしょうか。テレワーク・テクノロジーズ株式会社代表取締役CEOの荒木賢二郎氏に大企業がテレワークを導入する上でぶつかる5つの壁についてご寄稿いただきました。

大企業がテレワーク導入できない5つの理由

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、接触を避けるための緊急避難として在宅ワークを推奨するというテレワークの導入が進みました。

毎日一斉出社することが当たり前だった日本ではテレワークは定着しないと言われていましたが、いざ導入してみると一部の業界では思ったよりも仕事ができるという評価や、DXを進めて生産性を高める良いキッカケにする企業も生まれました。「コロナ騒動が収まればまた一斉出社に戻る」と言われながらも2年以上が経過し、一部ではテレワークは定着しそうな空気感です。

私は、テレワークの専門家として企業のテレワーク導入をサポートしてきましたが、テレワークを導入したいという企業であっても、実際に導入する際にはさまざまな課題を抱えています。

今回は、これからテレワークを導入検討する企業へ向けて、企業でテレワークを導入する際にどんな課題があるのかを大きく5つに分けて解説したいと思います。

導入課題①労務関係の規約改訂

企業がテレワークを導入するにあたって、私が一番大変だと感じていることは、初めて社内のテレワークプロジェクトを率いる担当者が、各種リテラシーに乏しいことです。

例えば、テレワークを導入するためには就業規則の改変、テレワーク規則の新設などを担当者主導で行うことになります。しかし、「就業規則をどう変えればいいのかわからない」「社労士へ依頼したいけれど、何を依頼したらいいのかわからない」と悩む担当者はたくさんいます。

一般的に、就業規則では働く場所がオフィスに限定されているので、テレワークを導入する際は、これを自由にするために就業規則の“改変”を行います。自由といっても、会社が指定した場所を原則として、会社指定以外の場所であれば1週間前に上長の承認を取るといった規定を作ることになります。

ただ、テレワークは在宅ワーク・モバイルワーク・サテライトワーク・ワーケーションの4つに分けられるので、それぞれのケースで場所を想定することが必要です。

また、テレワーク規定では、各テレワークスタイルに合った場所の想定に加えて、後ろから覗き込まれないような場所だけを許可したり、フリーWi-Fi利用時のルール設定や、セキュリティ・データの取り扱いについてのルールを設けたりすることも求められます。

さらに「在宅ワーク中の怪我は労災対象なのか」「ワーケーションの移動中事故は労災対象なのか」「会社指定場所ではないカフェで仕事をしていた際の情報漏洩は損害賠償の対象なのか」など、あらゆるケースを想定して規程を定めなければなりません。

このように、考えるべきこと・決めるべきことが多いため、初めてテレワークプロジェクトを率いる担当者の負担が大きくなってしまうのです。

導入課題②ITリテラシー

就業規則やテレワーク規定などをクリアしたら、次に問題になるのは新しく導入するITツールです。テレワークでは社員が遠隔で働くため、これまで対面や紙で行っていた作業をオンライン上で進められるように、ITツールを活用する必要があります。

例えばビジネスチャットツールやビデオ会議ツール、勤怠管理ツール、プロジェクト管理ツールや領収書精算ツールやセキュリティ対策ツールなど、テレワークで活用するツールはたくさんあります。必要なツールをリストアップできても、似たようなツールがいくつもあるため、各種ツール間の連携を含めて最適なツールを選ぶことは容易ではありません。

各社のクラウドツールをSaaSと呼びますが、最近では「何十種類ものSaaSを管理するSaaS」が登場しており、SaaSを活用するだけでなく管理するためにもITリテラシーが不可欠となっています。

情報システム部や総務部のITリテラシーが乏しい場合、導入したツールや使い方が原因で社内や顧客にまつわるデータの漏洩が起こる可能性があるため、「テレワークを導入しない」と判断するケースがあるでしょう。

確かに、一斉出社を変えなければ情報は流出しません。しかし、こうした保守的な考えがテレワークに踏み出せない原因になっているのではないでしょうか。

導入課題③社員のメンタルケア

実はテレワーク導入後に総務部が最も気にしていることは、生産性の向上ではなく社員のメンタルケアです。現在、積極的にテレワークを実施している企業はコロナ対策というよりも、中長期的な人材確保を目的として、時間や場所に捉われないテレワークを導入しているという背景があります。

テレワークによって柔軟な働き方が実現できる一方で、オンラインでのやり取りでは、対面のように「同僚や上長がチームメイトに声をかけて、相手の変化に気がつくこと」が難しく、社員のメンタルケアが難航しています。

「周りに人がいない分、リラックスして仕事ができるのでは」という指摘があると思いますが、企業の中には5分間マウスやキーボードが動かない場合、上長に通知が届くというシステムを導入している企業もあり、厳しい監視の中で心身に不調をきたす人もいるようです。

社員の業務状況を管理することは大切ですが、定期的な面談やサーベイなどで上長が社員のメンタルを気にかけることも大切です。最近は、メンタルケア専門のツールをはじめ、顔の表情や口調からメンタルの調子を可視化する診断ツールが登場しており、今後さらに発達していくことが期待できます。

導入課題④オフィス削減とテレワークスペース手配

テレワークを導入する際は、働く場所の問題もあります。出勤が減った分だけオフィス面積を減らして、削減した家賃で社員が利用できるシェアオフィスを借りるのが理想的ですが、実際に行うととても大変です。

まず、オフィス削減とテレワークスペース手配における課題の一つに「オフィスが簡単に解約できないケースがあること」が挙げられます。「持ちビルで売却の意思決定が難しい」「賃貸で長期契約を結んでいる」「会社同士の付き合いや関連会社がらみで退去が難しい」という理由から、オフィスを解約できない場合があるのです。

オフィスが複数ある場合は「どのオフィスを削減したらいいのか」「どの程度減らしたらいいのか」という問題が浮上します。

仮にオフィスの削減が進まない場合、社員に提供するシェアオフィスといったテレワークスペースに予算が割けないので、社員から不満の声が上がりかねません。そのため、テレワークの導入とオフィスの削減はセットで考える必要があります。

オフィスを削減したら、次は社員にオフィスの代わりとして働ける場所を提供する場所の手配へと移行します。しかし、大企業の場合は全国に社員が住んでいるため、都内でシェアオフィスを何個か契約しただけでは足りないというケースがあるでしょう。

日本中のコワーキングスペースと契約すればいいのかもしれませんが、現実的に100系列と契約した場合、社員は100系列全部別々のメールアドレスとパスワードでログインして予約をするのでしょうか。社員数が1万人の企業が100系列のスペースを管理する中で100万個のIDが存在し、今月100人退社して来月300人入社することを想像すると、管理が難しそうですよね。

結局、都心に住む一部の人だけがシェアオフィスを使えて、郊外の人は在宅ワークという体制で業務を進めることになります。ただ、在宅ワークで働く人の中には「毎日家にいるとパートナーが不機嫌になる」「子どもが夏休みで家にいるから大変」「そもそも家では集中できない性格」などの理由から、仕事に集中できない人もいます。

そのため、オフィスと在宅でしかテレワークが認められていないはずの社員が、会社に無断でファミレスやカフェで仕事をするという状況が生まれているのです。私はこれを“闇テレワーク”と呼んでいますが、いつか事故が起きそうですし倫理的にもよくないですよね。場所手配は想像よりも大変なのです。

導入課題⑤地方格差

テレワークについては東京を中心とした一都三県と他のエリアでは、少々熱気が異なるようです。例えば全国47都道府県でテレワークが望まれているかというと、やはり東京に住んでいる社員からのテレワークニーズが一番多いといいます。

おそらく東京は通勤にかかる時間がドアトゥードアで往復2時間かかってしまうことや、満員電車での精神的な疲労、高額な家賃を背景にした自宅での仕事スペース確保の難しさなど、地方とは環境が異なることが、温度差の原因でしょう。

一方で、テレワークを導入した企業では「全国どこに住んでもいい」という新たな試みが始まっています。“定年後は田舎に住みたい”と夢見ていた夫婦でも、今すぐ移住できるのです。

また、地方に住む人がテレワークを通じて、給料が高い東京の企業で働くことも可能です。こうなってくると「テレワークスペースは全国に必要なのか」「スペース提供は東京だけで、地方の社員には在宅ワーク100%をお願いするのか」「在宅100%では難しいことは地方でも同じなのでやはりスペースが必要なのか」という判断が難しくなりますね。

確かに、全国に住む社員の徒歩圏内にスペースを提供することは不可能ですが、大きな駅にオフィス代わりの施設を作って社員が集まれるようにしたらどうでしょうか。それを人はオフィスと呼びます。

悩みの多い地方の問題ですが、いいこともたくさんあります。例えば、昨今は「家で仕事をしていいなら旅行先から仕事をしてもいい」というワーケーション導入に興味を持っている企業が増えているそうです。

もしも転職時にA社とB社がどちらも同条件である場合片方から「当社はワーケーションの制度があるので1週間前までに申請すればいつでもどこにでも旅行にいけるし、国内ならホテル代も20%会社が補助します」と言われたら、そちらに気持ちが傾く人は多いでしょう。

旅行好きな人にとってはもちろん、社員のメンタルケアを気にしている会社側にとっても、社員が気分転換に出かけられる環境はいいものだということで注目が集まっているようです。

荒木賢二郎氏/提供:テレワーク・テクノロジーズ株式会社

著者プロフィール

荒木賢二郎
テレワークの専門家
テレワーク・テクノロジーズ株式会社代表取締役CEO

2003年、大卒後起業し創業者/共同創業者として複数社のEXITを経験。2019年、友人女子が満員電車でベビーカーを蹴られて泣いていた場面に遭遇し、残りの人生で満員電車を無くすミッションを決め、現職を創業。

現在は、テレワークスペースの提供者と利用者を結ぶウェブサービス「テレスペ」運営のほか、大企業を中心に企業のテレワーク導入とテレワーク場所手配をサポート。東京農工大学工学部卒、早稲田大学ビジネススクール修了(MBA/優秀修了者)。趣味は新規事業、企業分析。テレワークスペース手配が専門だが、自宅ではリープチェアとウルトラワイドモニタを愛用し外に出たくないと思っている。https://twitter.com/arakens

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