一人では難しい仕事やプロジェクトも、周囲の人と連携することで実現できることがあります。しかし、ビジネスにおけるパートナーや協力者とどのように出会い、どうやってその関係性を維持していけばいいのでしょうか?
島田舜介さん(26歳)が代表取締役CEOを務める株式会社ITONAMIは4月、全国各地から回収したデニム製品を資源に新たな製品をつくる「回収デニムプロジェクト『FUKKOKU(フッコク)』」をスタートしました。さまざまな店舗や企業、お客さんと連携して実施するプロジェクトです。
一緒にビジネスに取り組む仲間とどのように出会ったのか?また、その関係性をどのように育ててきたのか?島田さんに取材しました。
デニムを刻み、再び作る「FUKKOKU」
FUKKOKUは、デニム製品を全国各地から回収。工場と連携し、デニムを粉砕して再び糸にする技術を用い、それを資源にさまざまな製品を新たにつくるプロジェクト。
岡山県倉敷市で設立し、130年以上に渡って糸づくりを続けてきた倉敷紡績株式会社(クラボウ)の技術を活かし、全国各地の個人・団体から回収したデニム生地やジーンズを反毛(はんもう)技術により再び糸に。
完成した糸を広島県福山市の製織工場 篠原テキスタイル株式会社によってデニム生地とし、回収に協力してくれた個人や団体に使用してもらう他、同社オリジナル製品としてデニムを販売します。
目標回収本数はジーンズ1000本。デニム生地1000メートルの製造を目指します。(回収期間は6月30日・水曜まで)
人との出会いの中で、自然と起業の道へ
同社代表取締役CEOの島田舜介さんは1994年12月生まれ、現在26歳。
2016年、大学3年生の時に兄の山脇耀平さんと一緒に起業し、デニムブランド「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げました。2020年に「ITONAMI」にリニューアルし、現在は瀬戸内のデニム工場と連携し、オリジナル製品の企画販売を中心に活動。
2019年には、ジーンズ工場の街・岡山県倉敷市児島に宿泊施設「DENIM HOSTEL float(デニムホステル フロート)」をオープン。泊まれるデニム屋、海の見えるホステルとして宿泊事業も展開しています。
-----学生起業したそうですが、いつ頃からどのようなキャリアを思い描いていたのですか?
島田さん:大学入学時は全く起業したいと考えていませんでした。
起業したのは、大学入学から数カ月後に、起業人材やビジネス人材の育成、社会人との交流などを幅広く手掛けている学生団体に加入したことがきっかけです。
-----起業を決断した経緯は?
島田さん:決断したというのではなく、人との出会いの中で、自然に起業という道を選びました。
僕はもともとジーンズ製品に興味を持っていたのですが、所属していた学生団体が開催した講演会・懇親会で出会ったジーンズブランドのデザイナーにジーンズの製造現場に連れて行ってもらい、実際のモノづくりの現場や職人の姿を目の当たりにして感動しました。
しかし、その一方で、生産が安い海外にシフトしているなど苦しい状況に置かれている日本のジーンズ工場の現状を知り、「自分に何かできることはないか」という想いを抱きました。
そうして、まずは自分と同世代に向けてジーンズについてもっと知ってもらうために、ジーンズ工場の職人や経営者に取材して情報発信するWebメディアの運営をスタートしたそうです。
島田さん:そうしているうちに、文章と写真だけで情報を発信するだけではなく、「実際の商品を通してモノづくりや技術について知ってもらいたい」「『この工場がつくった製品はこれです』ときちんとわかるような形でお客さんに製品を届けたい」という思いが強くなり、工場の方と一緒に製品づくりを始めました。
起業したのは、製品をつくるにあたって事業化する必要があったからです。
価値観が近い仲間に囲まれ、不安はなかった
-----大学卒業後の進路として、就職は考えなかったのですか?
島田さん:就活を始める前に起業していたので、就職を考えたことはありませんでした。
-----周りの学生が就活・就職する中で、起業の道を進むことに不安や迷いはありませんでしたか?
島田さん:確かに、大学内では就活・就職する学生が多かったです。
ただ、僕は大学入学後の早い段階から学外で活動していたので、起業を目指している人や自分と意識・価値観が近い人が多い環境にいたので、不安はありませんでした。
むしろ、「今やっていることをやめるほうがもったいない」という意識のほうが強かったです。
兄弟でスピード感を持って事業を展開
-----どういった経緯で、兄弟で一緒に起業したのですか?
島田さん:当時大学生だった兄が、僕の活動や考えに興味を持ってくれて、一緒にジーンズについて発信するWebメディアのプロジェクトをやっていくことになりました。
兄はもともとファッションや文章に興味を持っていたので、起業前に運営していたメディアでは僕が取材を担当し、兄が取材の音声等のデータをもとに原稿をつくる、という役割分担で一緒に活動していました。
その流れで、自然と一緒に起業することになりました。
-----兄弟で仕事をすることのメリットは?
島田さん:意思疎通が早いことです。
「これが良い」「これはダメ」といった考え方が近いので、すばやく意思決定をすることができます。
-----逆に、兄弟で仕事をすることの難しさを感じたことはありますか?
島田さん:兄弟以外で仕事をした経験がないのでわからないのですが、あえて言うなら、他の人がプロジェクトに加わった時に、兄弟間では言葉にしなくても伝わっていた感覚を第三者にきちんと伝えることが難しかったです。
それを解決するために工夫したことは、役割分担を明確化することです。自分たちとほかのメンバーの役割をきっちりと分けてプロジェクトを進めるようにしたところ、問題が発生することも少なくなりました。
お客様に助けてもらいながら経験を積んだ
-----起業してからこれまでに、どのような困難がありましたか?
島田さん:何もわからず知識もない状態での学生起業だったため、資金面や生産面で困ったことがありました。
大きい金額のお金を動かすことが初めてだったので、自分の手元にどれだけのお金を置いておけばいいのか、どれくらいをフローとして動かしていけばいいのか全くわからず、いざ新しいものを作ろうとしたときにお金が足りなくなったことがありました。
生産面においては、アパレル業界で仕事した経験があるわけでもないので、業界の常識や工場とのやり取りなど分からないことだらけでした。当初は、手探りしながら進めていたため、納期が遅れてお客様を待たせてしまったことがありました。
-----その困難をどう乗り越えましたか?
島田さん:生産面においては、僕たちの事業は、展示会で手売りするなど、お客様に直接物を届ける“お客様との関係性”があるビジネスだったので、ありがたいことに納期の遅れについても理解を示していただけることが多かったです。
お客様に助けてもらいながら経験を積み、学ばせてもらいました。
資金面ではクラウドファンディングなどを活用しました。それも、お客様との関係性がこれまでの関わりの中でできていたからこそ可能だったと思います。
“一緒に行う”ことで関係性を維持できる
-----回収デニムプロジェクト「FUKKOKU」を発案したキッカケは?
島田さん:もともとブランドとして、「モノを長く大事に身に着けてほしい」という想いがあり、そのためのモノづくり・届け方として、「お客様に参加してもらう企画をしたい」と思うようになりました。
これまでやっていたようにストーリーを届けるだけでは、どうしても自分とは遠い出来事だと思われてしまいがちです。
お客様にも参加してもらい、お客様も作り手側にまわることで、モノづくりへの興味や愛着が深まる“1人ひとりが主役のモノづくり”を実現できるのではないかと思いました。
また、使い終わったモノとの関係性の終わりを、捨てるのでも、フリマアプリ等で売るのでもなく、再生して生まれ変わらせる“新しい循環の在り方”を創りたいと思ったことも、同プロジェクトが生まれた理由です。
-----同プロジェクトには、多くの企業や店舗がパートナーとして参加しています。ビジネスに活きる関係性をつくり、それを維持していくために大切なことは何だと思いますか?
島田さん:“小さくてもいいので、何か一緒にできることを考える”ことが大切だと思います。
いくら知り合いがたくさんいても、一緒にできることがなければ、関係性は薄まっていってしまうのではないでしょうか。
それを防ぐために大切なのは、自ら主導して、何か人と一緒にできる、人を巻き込む企画やプロジェクトを考えて行動すること。それが、さらに新しい出会いや関係性、企画などに繋がり、関係性が更新され続けていくのだと思います。
早く始めて、想いを発信することが大事
-----最後に、これまでを振り返って、若手ビジネスパーソンにオススメしたい、役に立ったと思う経験や学び・行動などを教えてください。
島田さん:早く始めること。また、自分のやりたいことをなるべく多くの人にどんどん発信することが、とても大事なのではないかと思います。
温めることが大事な場面もありますが、何事も早く始めて、「自分はこういうことに興味がある」「これをやりたいと思っている」と日頃から多くの人に発信することで、相手の中で自分をラベリングしてもらうことができ、何かあった時に声をかけてもらったり、情報を貰えたりするきっかけになります。
また、小さくてもいいので、実行することも大切だと思います。自分のやりたいことを発信しながら、少しでもいいので行動を始めることで、相手に「言うだけではなく、実行力もある」と思ってもらえ、一緒にビジネスをする仲間として捉えてもらうことができるのではないでしょうか。
自分の興味があること・やりたいことを人に話すことで、人との関係性のきっかけを創り出し、また、彼らと一緒にできることを企画することでその関係性をさらに深め、新しいビジネスにも繋げている島田さん。
今の時代、人と直接会うのは難しくても、SNSなどを活用して自分の想いを発信することはできます。
もし、「これをしたい」「これが好き」といった夢や情熱を持っているのだったら、内に秘めるだけではなく、勇気をもって発信してみてはいかがでしょうか。
出典元:ITONAMI/“メイド・イン・わたしたち”。みんなでつくる回収デニムプロジェクト「FUKKOKU」
出典元:ITONAMI
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