「自分が理想とする世界をビジネスで実現させたい」「ビジネスを通して社会課題の解決に貢献したい」という想いを抱いているけれど、果たしてそんなことができるのか自信が持てず、行動に移せないでいる若手ビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
株式会社ブイクック 代表取締役の工藤柊さん(22歳)は、自身の経験から「誰もがヴィーガンを選択できる社会」を目指し、現役大学生ながら事業を展開。3月1日(月)に、ヴィーガン惣菜のサブスクリプションサービス「ブイクックデリ」を正式リリースしました。
自らの想いをどのようにビジネスに繫げ、事業を展開しているのでしょうか。工藤代表に話を聞きました。
ヴィーガンスタートアップ「ブイクック」
株式会社ブイクックは、ヴィーガン事業を展開するスタートアップ。
「誰もがヴィーガンを選択できる社会を、食卓から」をミッションに掲げ、ヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」を基盤に、レシピ本の出版やヴィーガン商品の開発・販売、食品メーカーへのマーケティング支援などを展開しています。
新たに正式リリースする、ヴィーガンの冷凍総菜を定期宅配するサービス「ブイクックデリ」では、大豆ハンバーグやミートローフ、エビと野菜のチリソースなど、12種類のヴィーガン惣菜を定期的にお届け。
食べたい時にレンジで温めれば、気軽に本格的なヴィーガン料理を楽しむことができます。
全てのメニューにはタンパク質が11.5グラム含まれており、また、野菜や食物繊維なども豊富なため、ヴィーガンの人だけでなく、栄養バランスが気になる人にも嬉しいサービスです。
18歳でNPOを設立、21歳で起業
同社代表取締役の工藤柊さんは、1999年生まれの22歳。高校3年生だった2016年に、交通事故にあった猫を見たことをきっかけに、動物愛護・環境保全に興味を持ち、ヴィーガン生活を実践するようになったそうです。
しかし、当時は、ヴィーガンについての情報や理解を得ることが難しく、また、自分と同じようにヴィーガン生活の実践に苦労している人たちがいることを知り、「ヴィーガンを実践したい人が簡単に始められる環境を創りたい」と考え、大学食堂へのヴィーガンメニュー導入やヴィーガンカフェの店長などの活動をスタート。
18歳の時にNPO法人「日本ヴィーガンコミュニティ」を設立し、翌2019年にヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」をリリース。もっと多くの人にサービスを届けたいと考え、2020年4月に同社を設立しました。現在は大学を休学して事業に専念しているそうです。
「船のような会社をつくりたい」と奮闘
-----NPO設立や起業にむけて、どのように動きましたか?
工藤代表:経験のないことだらけだったので、その都度調べたり、相談にのってもらったりしながら進めました。
ヴィーガン料理レシピ投稿サイト「ブイクック」は、エンジニアとして協力してくれた大学の先輩と一緒にシェアハウスにこもって開発し、リリースしました。
ブイクックを事業化するために株式会社を立ち上げるにあたっては、右も左も分からない状況だったので、起業している先輩や同期の友達などにノウハウやポイントなどを相談。
ブイクックデリを立ち上げる際には、このサービスが本当に世の中に求められているのかを調査するために、クラウドファンディングでテスト販売を実施。300人以上から支援が集まり、正式リリースに至りました。
-----起業するにあたって、「不安」「勇気が出ない」など、心理的なハードルはありませんでしたか?また、それをどう乗り越えましたか?
工藤代表:「もう止めようかな」と思うことが何回もありました。
しかし、自分が目指している「ヴィーガンを誰もが簡単に始められ、続けられる社会」「その先にある持続可能で平和な世界」というのは、日本にいる多くのヴィーガンが抱えている想いです。
そのような日本にいるヴィーガンの中で、一番動きやすいのは大学生の自分だと考えて、行動に移しました。
自分は大学生なのでまだ働いてもいませんし、扶養家族もいないので、生活を変えるハードルもそう高くなく、身軽に動けます。また、失敗したとしても戻れる場所もあるし、失うものもありません。
自分がまずリスクをとってスタートし、ある程度軌道に乗り始めた時に、他の人たちに参加してもらうことができる“船のような会社”を作る事ができないかと考えて、自分が前を走ろうと決心しました。
大手食品メーカーともコラボ
現在、同社にはエンジニアや管理栄養士、動画作成、カメラマン、メディアディレクター、顧客対応など、さまざまな分野の人々がメンバーとして参加しています。
また、新しくリリースした「ブイクックデリ」で提供するヴィーガン惣菜12種類のうち5メニューは、大手食品メーカーを含む他企業とのコラボメニューだそうです。
-----一緒に事業を行うメンバー・仲間を、どのようにして得ることが出来ましたか?
工藤代表:こちらから声をかけたメンバーもいますが、もともとブイクックの利用者だった人や、ヴィーガンとして活動したいと参加してくれた人たちも多いです。
「自分に何かできることはないか」と声をあげて、集まってくれました。
-----事業に協力してくれる企業とは、どのように出会ったのですか?
工藤代表:最近は、大手メーカーでも、ヴィーガンのプロダクトを作っている会社が増えてきています。
ヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」を運営する中で、ヴィーガンに取り組んでいる複数の企業と、ユーザーへのリサーチやマーケティング、記事広告などを通して以前から関係を築いていました。
今回、ブイクックを通して、ヴィーガンに向けた取り組みを行っている企業の活動を知ってほしいという想いもあり、何社かに声をかけてコラボを実現させました。
既に注目されている領域との関係をアピール
-----日本ではまだ注目が集まり始めたばかりの分野で事業を展開するにあたって、どのような工夫をしていますか?
工藤代表:欧米等では広く浸透していることなど世界的な広がりを伝え、日本での可能性をアピールしました。
また、まだ知らない人が多い領域なので、既に多くの人が関心を持っている領域とも関係があることを伝えるように意識しています。
例えば、ブイクックデリのECサイトでは、これまで同サービスにより削減できた二酸化炭素排出量を自動車の走行距離に換算して紹介するなど、ヴィーガンの意義を、自分のこととして捉えてもらえるように具体的な数字で紹介しています。
これにより、まだヴィーガンを知らない人や興味がない人にも「ヴィーガンではないけど、環境問題に貢献できるなら、たまにはヴィーガン生活を送ってみようか」と思ってもらえたら嬉しいと考えています。
BtoBからBtoCに方針転換
-----これまでに、どのような困難があり、それをどう乗り越えましたか?
工藤代表:チームの運営と事業方針について悩みました。
チーム運営においては、もともと組織を作った経験もビジネスの経験もなかったので、せっかく想いを持った人が多く集まってくれても、その人たちに上手く活動に参加してもらえる機会を提供することができませんでした。
そういった人たちに、納得して活動に参加してもらうために、その人たちの生活を担保できるような事業にしないといけないと考えたことは、株式会社設立や資金調達等を実施する理由の1つでもあります。
事業方針に関しては、レシピ投稿サイト「ブイクック」は、もともは広告収入で運営しようと考えていました。しかし、収益化の課題や、コロナ禍で飲食店へのアプローチが難しくなったことから、自分たちでプロダクトを作ってそれを直接ユーザーに届けるBtoCへ方針を転換しました。これにより、当事者の声を直接聞くことができるという大きなメリットも得ることができました。
焦らず、まずは手が届く範囲から
-----工藤代表にとって「働く」とはどういうことですか?仕事・働くことへの向き合い方を聞かせてください。
工藤代表:僕はもともとNPOやボランティアに興味を持っており、社会課題の解決に向けて取り組みたいと思っていました。
それを実践するにあたって、普通に就職して、仕事をしながら活動する選択肢もありましたが、週5日間・フルタイムで時間を使って向き合いたいと考え、自分で働く場所を自分でつくる現在の働き方になりました。
きちんとビジネスとして事業を展開しつつ、環境問題や困っている人々が幸せでいられる未来・社会課題が解決されている未来をつくりたいという想いも強く持って活動しています。
-----最後に、「自分の理想をビジネスで実現させたい」「挑戦したい」と考えている同世代の若者に向けて、一言メッセージをお願いします。
工藤代表:僕もまだ、事業を始めたばかりで未熟な面は多いのですが、あまり焦らなくてもいいのではないかと思います。
起業家や派手に活躍している人々と自分を比べるのではなく、まずは自分の手が届く範囲で、副業でもいいのでスタートすればいいのではないでしょうか。
僕も、大学食堂へのヴィーガンメニューの導入やヴィーガンカフェの店長など、一つずつできる範囲から活動を開始しました。
まずは自分の手の届く範囲から始め、丁寧に取り組む。焦らずに、本当に困っている人の話を聞いて、自分がそれにどう貢献できるのかに焦点を合わせ、一つずつ丁寧に取り組んでいくことが大切なのではないかと思います。
大学食堂へのヴィーガンメニューの導入といった、自分の手が届く範囲のことからスタートし、大企業とのコラボメニューを出すまでに事業を拡大している工藤代表。
最初から大きいことに挑戦するのではなく、まずは自分ができることから小さく始め、コツコツと取り組みづづけることこそが、理想をビジネスで叶えるための道に繋がっているのかもしれません。
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