働き方が多様化し、パラレルワークや副業・複業などさまざまな働き方が広がっている中、副業としてベンチャー企業を創業し、その仕事を本業にした経営者がいる。
鳥獣被害対策のためのイノシシやシカの捕獲機(罠)を販売する株式会社refactoryは10月、2年間の副業期間を経て、副業から本業に、本格操業をスタート。副業での1億円超の売上実績をベースに、ものづくり企業への変革を図る。
副業と本業をどのように両立させ、会社を成長させたのか?また、副業にはどのようなメリットがあるのか?守屋将邦代表取締役に取材した。
副業としてベンチャー企業を創業
refactoryは2018年2月に、守屋代表が副業として創業したベンチャー企業。
守屋代表が当時在職していた会社が副業を解禁したこと、また、個人的に町工場の経営者から相談を受けたことをきっかけに、町工場の販路拡大のために副業として同社を創業した。
創業のきっかけとなった町工場が製造していた罠の通販サイト「イノホイ」の運営に加え、現在は、他工場への製造委託や、国内外のメーカーから関連商材の販売代行を行うまでに成長。創業2年で1億円以上の流通を実現した。
町工場の経営者からの相談がきっかけ
守屋代表は1985年4月10日生まれ、現在35歳。宮崎県出身で、2007年に株式会社アラタナに入社。新規事業の立ち上げや営業・マーケティングを担当、また、経営企画室長として株式会社ハニカム・株式会社ターミナル(アラタナ完全子会社)の事業運営を手がけた。
2018年2月に副業として株式会社refactoryを創業。今年4月に株式会社アラタナを退職し、株式会社refactoryの本格操業を開始した。
-----町工場の経営者から相談を受けたことが創業のきっかけとのことですが、どのような相談を受けたのですか?
守屋代表:当時私が勤めていた会社(株式会社アラタナ/現:株式会社ZOZO)に、イノシシの捕獲機を製造されている企業の社長が来社されたことがきっかけでした。
相談内容は、“ZOZO=インターネット通販”というイメージを持たれていたようで、「自社で製造している捕獲器をインターネット通販で販売したい」ということでしたが、当時のアラタナはアパレル以外のインターネット販売サイトの構築を請け負っていなかったため、お断りするしかありませんでした。
しかし、「この人をこのまま帰してはダメだ」という私の直感が働き、ご相談いただいた内容を個人的に調査したところ、捕獲機の市場はそこまで大きくはないが、商品の競合優位性もあり、私の個人的な資金で簡単に始められそうだということが分かりました。
また、当時社会は働き方改革の真っ只中で、自分が務めていた会社でも副業が解禁されたことも後押しとなりました。
ビジネスが始められやすい環境が揃っていたので、承ったという経緯です。
-----副業にはさまざまな形がありますが、なぜ副業として“会社を創業”したのですか?
守屋代表:もともと目的があり商業法人にしたのではありません。最初の4ヶ月ほどは個人事業として業務にあたっていました。
売上規模が大きくなってきたことで、収入の申告や経費科目としての計上を鑑みたところ、個人事業という形より商業法人の方が有利であったこともあり、起業しました。
多忙な毎日、当初は“気持ち”で乗り越えた
-----創業からこれまでの道のりについて聞かせてください。
守屋代表:個人事業の時期も含めると、創業から3年が経とうとしています。
立ち上げ当初から専務と二人三脚でイノシシの捕獲器を販売してきましたが、売上が上がるたびに二人で喜んでいました。
私が20歳の頃から勤めていた株式会社アラタナでは長年、ECサイトを運営されている方々の事業支援(マーケティング支援・システム開発支援)を行っていました。
ですので、副業として始めたこのEC運営にも、その仕事で得たノウハウを生かすことができました。
「自分がやればこれだけ売れるんだぞ」という自信にも繋がってきましたし、一言で言うと「楽しかった」というのが初期の頃の感想です。
-----副業と本業を両立させるのは大変ではありませんでしたか?どのような苦労があり、それをどう乗り越えましたか?
守屋代表:近しい家族や知人は、私と専務が働きすぎなのではないかと心配していたのではないかと思います。
売上が上がれば、「売上を高くしたい」「もっと利益を出したい」と考えるもので、そうすると在庫を抱える必要があるため、事務所として構えていた3LDKのマンションが、足の踏み場もないほど捕獲器だらけになりました。
また、製造していただいているメーカーさんからは「発注が大量なので、製造が追いつかない」と言われ、お客様からはクレームをいただき、出荷をお願いしているパートさんたちは自分が事務所に常駐していないのでマネージングもできず放置状態。
主業の仕事を終えた後に、夜、誰もいない事務所で明日の仕事の段取りをする……という日々でした。
正直、このタイミングまでは気合というか、何か特別な工夫をして課題を乗り越えたということはなく、気持ちで乗り越えていました。
「もう一度、愛される会社を」と本格操業へ
-----なぜ今回、副業として続けるのではなく、本業として本格操業を始めたのですか?
守屋代表:大きなきっかけは2つあります。
1つは、勤めていた株式会社アラタナが5年前にZOZOの子会社となり、そして2020年3月に吸収合併され、“アラタナ”という社名がなくなったこと。
もう1つは、自分自身を見つめなおすために自分の内面に向き合った結論として
、「もう一度愛される企業をつくって、 世の中の経済に関与したい」という気持ちに至れたことです。
株式化会社アラタナは、守屋代表が20代の時間とエネルギーを投資した会社。良かったことも、辛かったことも、全てが詰まっていた愛する会社の社名までもがなくなることが、人生のターニングポイントになったという。
守屋代表:そこで残った選択として、副業として起業した会社(refactory)がありました。
しかし、残ったからそれをやるということではなく、「この先、自分自身がどんなビジネスマンとしてありたいか」「どんな人とどんな仕事をして、家族を守っていきたいか」と、いろいろな観点から自分自身を見つめ直すため、経営のコーチングも受けながら、自分の内面に向き合いました。
そうして、1つの結論として、「もう一度アラタナのような、ZOZOのような、愛される企業をつくって、世の中の経済に関与したい」という気持ちに至り、その手段としてrefactoryという企業をピカピカに磨いていくことを決断し、本格操業を開始しました。
北海道から移住したメンバーも
そうして、今年の4月にアラタナ(現ZOZO)を退職。
そこから、会社の背骨になるVMV(Vision・Mission・Value)を3カ月かけてつくりあげたという。
守屋代表:また、併せて会社のウェブサイトやロゴを作成したりと、「会社としてどうありたいかということ」をデザインすることに注力しました。
その中で出来上がったVision「ワタシ、自由自在。」という言葉には特に思い入れがあります。
私自身が自由自在だということではなく、「誰しもが変化することに恐れず、前を向いて歩いていければ、きっとそんな人の人生は自由自在だ」という意味を込めています。
VMVが仕上がり、「私の会社はこんな会社です」と説明しやすいものができたタイミングで、「この人とまた働きたい」と感じた人を一生懸命口説いて、数名のメンバーに入社してもらいました。
正直、大きな企業ではないので、メンバーを増やすときは、過去に一緒に働いていて素敵だなと思った方に声をかけていきました。中には、北海道から宮崎に移住してもらったメンバーもいます。
「代表作だ」と言える企業へ、磨き続ける
-----本業になったことで、貴社はこれからどのように変わっていきますか?
守屋代表:事業としては、製造業のサプライチェーンをECやそれ以外のデジタルツールを用いて、人やモノ、お金の流れをもっと合理的にする事業を推進していく予定です。
また、イノシシの捕獲器以外にも、町の鉄工所で製造されるあらゆるものをインターネットに載せて販売・製造していく予定です。
企業としては、アラタナやZOZOのような、「今の自分の会社が代表作だ」と言えるような企業にピカピカに磨き続けます。
主業だけでは得られないスキルが身につく
副業からスタートした同社は、副業を“関わる人のキャリアや人生に好影響を及ぼす素晴らしい制度”だと考えており、今後もメンバーの副業を認め、推進していくという。
-----およそ2年間の副業経験を経て実感した「副業への考え方・メリット」を教えてください。
守屋代表:副業は仕事における筋トレだと思っています。
今、目の前にある業務に集中することももちろん大事ですが、経済はもっと多角的で立体的です。
例えば、ZOZOで洋服を販売している一方で、中山間地域の方々は農業被害に苦しんでいて、イノシシの捕獲器を購入して被害を食い止めなければいけない、ということが日本の中で同時に起きています。そのことを知りながら、自分のポジションを理解することで、主業だけでは得られないスキルセットが身についてくると考えています。
これは副業でも主業でも同じですが、私は仕事を選ぶ際のプライオリティとして「知的好奇心を満たせるか?」「それを行うことで社会の経済にどんな関与がもたらされるのか」ということを優先しています。
また、副業のメリットでいうと、やはり「起業したい」「転職したい」と考えた時に、現状のサラリーも維持しながら、他の仕事を実践できるという点は大きいのではないでしょうか。
副業と本業それぞれに懸命に取り組むことで、自らのスキルを高め、新しいステップに挑戦するという、新しい働き方を実践する守屋代表。
副業からはじまった同社がこれからどのように成長していくのか、また、同社メンバーが副業と本業の相乗効果でどのようなビジネスを生み出していくのか、楽しみだ。
出典元:refactory
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