近年、休刊や廃刊となる雑誌が増加している。お気に入りの雑誌がなくなってしまい、悲しい思いをしたことがあるという人も少なくないのではないだろうか?
そのように、雑誌にとって厳しい時代が続く中、“休刊した雑誌ブランドの再生支援”に取り組み、復刊を実現させた企業がある。
雑誌オンライン書店Fujisan.co.jpを運営する株式会社富士山マガジンサービスは、休刊した雑誌ブランドの再生支援サービスを提供。今年9月には、3月で休刊したファッション誌「LARME(ラルム)」を新体制で復刊させ、2020年秋号(046号)を発売した。
一度休刊した雑誌をどのように復刊させているのか?事業開発GMの松延秀夫さんに、復刊を実現させるまでの道のりやファンビジネスを拡大するために大切なことについて取材した。
ニッチ領域を残し、多様化する興味を満たす
松延さんはインテリアメーカー勤務を経て、1993年より出版業界に入った。フリーランスエディター・自動車雑誌編集長などさまざまな経験を経て、2004年にアシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社し、男性誌副編集長・女性誌編集長・デジタル部門長などを歴任。
2018年に同社に転職し、出版社と向き合う部門「事業開発グループ」のGMを務めると共に、関連子会社magaportおよびIDEAの代表取締役も兼務している。
-----貴社が“休刊した雑誌ブランドの再生支援”を始めた経緯を教えてください。
松延さん:雑誌出版業界全体で市場規模が縮小しており、雑誌の発行を続けることが難しい出版社が増えています。
雑誌は特定の興味関心を持つ読者(ファン)が集まるという特性上、ニッチな領域を扱う雑誌もあり、ひとつひとつの雑誌の読者規模が小さい場合もあります。しかし、個々人が持つ興味関心は多様なため、規模が小さいからといってなくしていいものではなく、ニッチな領域こそ今後も継続していく価値があると考えています。
富士山マガジンサービスには、デジタル活用や収益構造の改善、他社との連携など、小規模でも雑誌ブランドを継続していくためのノウハウが集まっています。
ファンとの関係を維持し、同じ興味関心を持つコミュニティである雑誌の定期購読を活性化することで、これからも多様化する人々の興味を満たしていきたいとの思いから雑誌ブランドの再生を支援しています。
時代に合わせた雑誌ビジネスを提案
-----休刊した雑誌を再生させるまでの道のりは?何が必要と考え、どのように動きましたか?
松延さん:「雑誌=紙媒体での発行」だけではなく、デジタル活用も含めた成長戦略をともに考えるところから始めます。
コンテンツのデジタル化に加え、雑誌ブランドを活用したイベントの開催やECサービスの提供、会員制オンラインサロンなどのメンバーシップサービスへと領域を広げ、収益構造の改善を支援します。
コンテンツの制作や編集に関わる雑誌出版プロセスの上流工程にも携わり、ツール導入による作業効率化のアドバイスや、データ管理を一元化するプラットフォームの提供によるコスト削減なども支援しています。
従来のビジネスモデルから考え方をシフトし、今の時代にあわせた雑誌ビジネスを提案することで、コンテンツ提供側、消費側の双方にとって最もよいかたちで信頼できるコンテンツの流通を目指しています。
例えば、9月に復刊したファッション誌「LARME」の場合は、次のような取り組みを行ったそうだ。
松延さん:編集長が商標を譲り受けての新体制での再スタートであったため、出版機能全般に関するサポートや、事業計画に関するコンサルティングを実施しました。
また、元の出版社との関係維持や、資金調達面でのアドバイスも実施しました。
復刊後も、特にデジタル領域での成長戦略について協議しながらサポートを続けています。
人々が求める情報を信頼できる形で届ける
-----一度休刊した雑誌を再生させるのは大変ではありませんでしたか?復刊を実現させたバイタリティーの源は?
松延さん:興味関心にマッチした、人々が求める情報を信頼できるかたちで届けられる仕組みをつくり、維持することは、私たちの使命であると考えています。
また、雑誌とともにある富士山マガジンサービスにとって、雑誌出版業界をもり立てることにもつながる再生支援は重要な取り組みの一つです。
雑誌に対する編集長の思い、ファンとのつながりの持続を大切にし、雑誌ブランドの再生支援に取り組んでいます。
ファンのニーズを把握しアプローチ
休刊した雑誌「LARME」を復刊させるにあたっては、定期購読からファンビジネスを拡大するメンバーシップサービスなどを提供。
また、同社は雑誌定期購読サービスにおいても、定期購読者を“同じ興味関心を持つ雑誌ファン=メンバーシップ”と考え、雑誌ブランドを軸としたメンバーシップサービスの強化に取り組むなど、“ファンビジネス”に力を入れている様子が伺える。
-----ファンを増やすことは、さまざまなビジネスにとって重要なことだと思います。ファンビジネスを拡大させるためには、どのようなことが必要だと考えていますか?
松延さん:ファンが望むことをしっかりと把握し実現することや、潜在ニーズへのアプローチが必要だと考えています。
従来の方法で難しくなったことは今に合った新しいかたちに変えていく柔軟性や、売って終わりではない会員制のサービス(メンバーシップサービス)のようなビジネスモデルにより、持続可能性を考えることも大切だと思います。
富士山マガジンサービスでは、デジタルを活用したファン同士やクリエイターとファンの「つながり」強化を特に意識しています。また、安定収益につながる定期購読(サブスクリプション)を推進し、さらなる拡大の基盤をつくることも重要視しています。
持続可能な雑誌ビジネスを創造へ
-----雑誌ブランドの再生支援を通して、実現したいビジョンを聞かせてください。
松延さん:デジタルの発達により新しいメディアが生まれており、「個人」も社会へ向けて発信できるようになっています。今後は、個人による出版や、休刊・廃刊した雑誌の編集長個人によるMBOの増加も予想しています。
このような「個人」を支援していくことと、これまで取り組んできた雑誌出版社との連携の両方をサポートすることで、ニッチな領域をもカバーして人々の興味を満たす、持続可能な雑誌ビジネスの創造を目指しています。
求められるものを求める人に届け、コンテンツ提供側と消費側双方向のコミュニケーションを可能にするプラットフォームを提供することで、興味関心を軸に「好き」を仕事にしたり、得意なことで人の役に立ったり、興味が生きがいになる世の中になることで、より豊かな人生を過ごせる社会の実現に貢献したいと思っています。
ニッチな領域も大切にし、そのニーズを把握、また掘り起こして時代に合わせたビジネスを展開する富士山マガジンサービス。
多様な価値観を持つ人たちの、それぞれの興味・関心を満たすことで、多くの人々に日々の楽しみや生きがいが生まれるとともに、コミュニティが育つことで、その領域がより豊かに成長していくことも期待できる。
同社の取り組みを通して、雑誌という媒体や多様な興味・関心のコミュニティがどのように盛り上がっていくのか、楽しみだ。
出典元:Fujisan.co.jp
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