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THE IMPRESSION|ABC Coffeeが目指す「Don’t be Evil」ビジネス

U-NOTE編集部

2017/05/23(最終更新日:2017/05/23)


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 2017年4月22日に東京・自由が丘にオープンしたカフェ「ALPHA BETA COFFEE CLUB(アルファベータコーヒークラブ)」。このショップを手掛けるのは、コーヒー豆の会員制通信販売サービスを運営する「ABC Coffee(エービーシーコーヒー)」だ。

 ABCの創業者は、Googleでアジア太平洋地域のデジタルマーケティング責任者を務めた経験のある大塚ケビンさん。若干28歳にして異色の経歴を持つケビンさんに、起業家としてのマインドや今後のビジョンを聞いた。

大塚ケビン|KEVIN OTSUKA
ABC Coffee創業者・CEO
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1988年生まれ。スタンフォード大学卒業後、Googleに入社。アジア太平洋地域のデジタルマーケティング責任者を務める。会社勤めの傍ら2014年に会員制のコーヒー豆通販サービス「ABC COFFEE CLUB」を立ち上げ、その後独立。「ALPHA BETA COFFEE CLUB」は現在2店舗目の出店を検討中。

スキルではなく“学び方”を学んだ学生時代

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――ケビンさんのご出身はどちらですか? 日本語がとてもお上手ですね。

ケビン:僕が生まれ育ったのはハワイです。母は九州出身で、大学時代にアメリカに渡ったそうです。彼女は日本語と英語のバイリンガル。父はハワイ育ちの日経3世で、日本語はあまり話せません。僕自身は日系2世なのか4世なのか、それとも両親の平均をとって3世なのかよくわからないですね。

高校卒業をきっかけにハワイを出て、スタンフォード大学に進学しました。それ以降はずっと海外に住んでいます。

――在学中はマーケティングの勉強をされていたのですか?

ケビン:大学では経済学と東アジア研究の両方を専攻していました。あちらの大学は「ダブルメジャー」といって、複数の学科を専攻できるんです。スタンフォードは、マーケティングなどのビジネススキルを学ぶ授業があまりなかったですね。

ビジネスは理論を学ぶだけでできるものではないので、さまざま学問を経たうえで、自分で学びたいことを探していくというスタイルが主流。学校ではスキルを学ぶというよりも、“学ぶ方法“を学ぶという感じです。

――日本で人気の大学や学部は、どちらかといえば社会に出たときに役立つことを学ぶイメージなので少し違いますね。大学卒業後に新卒でGoogleに入社されていますが、Googleを志望するきっかけはあったのですか?

ケビン:やはりスタンフォードという大学は、Googleが非常に近い存在だったと思います。創業者のひとりであるラリー・ペイジもセルゲイ・ブリンもスタンフォードの出身者ですし、同級生や先輩が有名な会社をいくつも立ち上げていましたしね。

世界中の人がGoogleを使っているのはすごく面白いことですし、インパクトのある会社だと思いました。Googleならではの文化も有名ですし、この企業なら学ぶことがあるんじゃないかと思って選んだんです。

Googleで学んだ社会貢献の精神

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――Googleに入社されてからはどういったお仕事をされていたのですか?

ケビン:デジタルマーケティングがメインでしたね。Googleは広告収入がメインなので、それを伸ばすためにどういったキャンペーンを打ち出すかという戦略を練るのが主な仕事です。

本国で1年ほど働いていましたが、アジアでも同様のキャンペーンを展開するということで、東京のオフィスに移りました。東京では3年勤めましたね。

――アメリカから日本のオフィスにやってきて、接する人達の人種も習慣も大きく変化したと思うのですが、そのなかで苦労したことは?

ケビン:日本には旅行で何度も来ていたのでカルチャーショックは強く感じなかったですが、ビジネスーンでは少し違いを感じました。

そのひとつが、「根回し」の習慣です。アメリカでは、会議までにそれぞれが準備を入念に進めて、会議中にみんなで相談して、その場で結論を出すという文化でした。

しかし、日本では、あらかじめみんなが賛成しそうな意見を相談のうえで決めてから会議をするので、結果がわかっている中で話し合うんですね。これはGoogleの中でも本社と日本で大きな違いだと感じました。

――ケビンさんは、本社で1年、日本で3年お勤めされましたが、Googleという企業でどういったことを学ばれましたか?

ケビン:ビジネスを自分たちのメリットにするだけでなく、社会に対して良いことをしようという意識ですね。以前、Googleには「Don’t be Evil」、つまり「邪悪になるな」というスローガンが掲げられていましたが、私はビジネスをするうえでその精神をいまも心がけています。

例えば、会社としては少し難しいことであったとしても、顧客やユーザーにとってのメリットならやるべきなんじゃないかと。あと、こうしたほうがいいのではないかと思うことがあれば、「じゃあやろう」っていう考え方は大切にしたいですね。

“Win-Win-Winの世界”を可能にするためのビジネス

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――Googleを辞められてコーヒーの世界に入って来られたわけですが、別のことをやろうと思ったきっかけはあったのですか?

ケビン:ハワイにいた頃、実はコーヒーを飲んでいなかったんです。ハワイはコナコーヒーが有名ですが、あの暑い土地でホットコーヒーが飲みたいとはあまり思わなくて(笑)。でも、大学生になって勉強をするときに、寝てしまわないようにと食堂のおいしくないコーヒーを飲み始めたのがきっかけです。

大学はサンフランシスコに近かったので、ブルーボトルコーヒーなどのオシャレなカフェもたくさんあって。そういうお店で飲んでみて、「コーヒーってこんなにおいしかったんだ!」と初めて気が付きましたね。

日本オフィスに移った頃は、ちょうどサードウェーブコーヒーがブームになり始めていたので、いろんなカフェを巡りました。そうやって楽しんでいるうちに、これから人気になるコーヒーをITで支援できないかと思い始めたんです。

個人的にマーケティングもしていたので、コーヒーのECサイトもアリなんじゃないのと思って始めたのが、「ABC Coffee Club」です。これが2014年の終わりですね。
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ALPHA BETA COFFEE CLUBでは、ABC Coffee Clubで提供しているコーヒー豆を実際に店頭で注文できる。この日提供されていたのは、ブラジル、エチオピア、ルワンダの農園のもの。それぞれ焙煎所が異なる。
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店頭ではコーヒーだけでなく、フードも提供。フードコーディネーターには、サンフランシスコの高級レストラン出身のケイティー・コール氏を迎えた。
――その頃はもうGoogleを辞めていたのですか?

ケビン:いいえ、会社員をしながらです。まずはウェブサイトを始めてみて、人が買うのかをちょっと見てみましょうっていうノリでのスタートでした。

ABC Coffee Clubは、毎月3種類のシングルオリジンコーヒーが3種類の自家焙煎のコーヒー屋さんから届く定期購入サービスです。

コーヒーは製法や生産方法によって味が違います。あと季節や、年によっても違うんです。これはワインに似ていて、ワインと同じように飲み比べを楽しむ意味で、ひとつの農園から豆が届くようにしています。
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ALPHA BETA COFFEE CLUBのおすすめメニューは、窒素を注入してビールのように泡立てた「ニトロコールドブリュー」(500円)。店内のサーバーで1杯ずつ丁寧にグラスに注がれる。
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カウンター内のコーヒーポットの下にはセンサーが設けられており、お湯を注ぐスピードなどをデータ化している。スタッフ間でのレシピ共有や、ユーザーの好みを把握するなどの使い方を考慮している。
――今回オープンされた「ALPHA BETA COFFEE CLUB」ですが、ECサイトだけでなく実店舗を構えるに至った経緯をお聞かせください。

ケビン:カフェを通してお客様と繋がりを持ったり、自分たちのコンセプトやストーリーを伝えてABC Coffee Clubの存在を知ってもらったりすることを目標にこのカフェをスタートしました。

あと、ABC Coffee ClubはNPO法人と提携していて、障害を抱えている人たちに豆をパッケージするなどの作業を“仕事”としてお願いすることで、経済的な支援をしています。ほかにも、「石巻工房」という宮城県・石巻にあるDIYメーカーに店内のテーブルなどをお願いして、東北の支援もしています。

今後はそういったイベントなどをALPHA BETA COFFEE CLUBで開催していきたいと思っていますね。
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カフェとしてだけでなく、バーとしての利用も踏まえて、ビールやワインも提供する。アルコールの定額制会員の導入も検討中だ。
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同店では「サブスクリプション型(会員制)」のビジネスモデルを導入。月額7,500円のパスでコーヒーが飲み放題になる特典などを受けられる。会員カードには「RFIDチップ」が用いられており、レジのリーダーにかざすだけで認証が完了する。
――ECサイトと聞くとビジネスの側面が強いと思っていたのですが、いまのお話だと社会貢献の色合いも強いんですね。

ケビン:そもそも、ビジネスは社会をサポートしながらやっていくものだと思っています。また、ビジネスを広げていくためにも社会貢献は必要なことだと考えているんです。

そういったビジネスモデルを世界中で展開したいという気持ちがあります。僕達がWinで、お客様もWin。さらに周りの世界もWinになる「Win-Win-Win」ですね。これが可能になるビジネスをこれから考えていきたいです。

起業に必要なのは「トライ&エラー」の精神

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――これまではITの世界にいらっしゃいましたが、カフェをオープンして飲食という別の業界に来たことで戸惑ったことはありませんか?

ケビン:IT業界にいた頃は、とりあえずキャンペーンをリリースして、間違えていたらデータを見ながらその都度改善していくというスタイルでしたが、お店はそれができないのが大変ですね。一度設置してからでは、「カウンターはあっちのほうが良かった」と思っても簡単にはできないですし。これまでの考え方を変えていくことの必要性は感じました。

――世界的に大きな企業に努めていて、そこから新しいことを始めることに不安はなかったのですか?

ケビン:もちろんありましたが、「いましかできない」という想いが強かったです。あと、やってみないとわからないっていう気持ちもありますし。僕はまだ独身でキャリアもそんなに進んでいないので、30歳前後というこの年令での起業はちょうどいいのかもしれません。

あと、最近のアメリカでは、企業してたとえ失敗したとしても、それが経験として糧になっている例がたくさんあります。そういった失敗を評価して、「うちで勤めてほしい」と言ってくる企業も増えていると思います。

――ケビンさんの今後の目標をお聞かせください。

ケビン:お金を稼ぎながら、社会にインパクトを与えたいという想いが強いです。ビジネスで成功するなかで、社会支援もできることが理想。ビジネスモデルのなかに社会支援を含めていき、ビジネスの拡大とともに社会に影響を与えられるモデルを作っていきたいですね。

――これから起業を目指す20~30代のビジネスマンへのアドバイスをお願いします。

ケビン:ひとつだけ言えるのは、“頑固でいるのを辞めること”ですね。いろんなアイデアをほかの人よりもできるだけ早く試してから物事を決めたほうがいいと思います、最初に考えたアイデアはもしかすると意味がないかもしれませんが、とにかくトライ&エラーを繰り返すことです。

【Shop info】
住所/東京都目黒区自由が丘2-10-4 ミルシェ自由が丘3F
営業時間/平日7:00~23:00、土・日・祝日10:00〜23:00
定休日/なし

INTERVIEW/TEXT:今西絢美(ゴーズ)
PHOTO:海老澤芳辰

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