1. 「多くの人に幸せになってもらいたい」 パタゴニア・辻井隆行が語る「生きる上で必要なバランス」とは

「多くの人に幸せになってもらいたい」 パタゴニア・辻井隆行が語る「生きる上で必要なバランス」とは

ギャルモデルであり、現役・慶応義塾大学大学院生でもある鎌田安里紗さん

10代、20代を中心に支持を集める彼女はエシカル・プランナーでもあり、多数のファッションブランドとコラボをしたり、「エシカル」に興味を持ってもらえるようなイベントやスタディツアーを手がけたりと、様々な形で発信をしている。

今回、そんな彼女が「この人の発想はこれからの暮らしを考える上でヒントになりそう!」と感じた人たち10人にインタビュー。生活のこと、暮らし方のこと、自然との関わり合いのこと、自分を大切にすることなどについて、じっくりお話を聞いていきたい。

今回のお相手は、環境保護と社会問題解決に積極的なアウトドアアパレルブランド、パタゴニアの日本支社長、辻井隆行さん。

辻井隆行 プロフィール

つじい・たかゆき/米国のアウトドアアパレルブランド、パタゴニア日本支社長。 
1968年東京生まれ。会社員を経て、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。
1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア日本支社に入社。2009年より現職。入社後も長期休暇を取得し、グリーンランド(2003年)やパタゴニア(2007年)でシーカヤックと雪山滑降を組み合わせた旅などを行う。2014年より、長崎県の石木ダム建設計画見直しを求める活動(ishikigawa.jp)を通じて、市民による民主主義の重要性を訴える。

定性的なものが評価されにくいビジネス社会の現実

鎌田   辻井さんとはエシカル・ファッションのイベントなどでご一緒させていただいているのですが、今回改めてお話しさせていただくことになって、今までに出ている記事をいろいろと拝読しました。

そのなかで、辻井さんが行きすぎた資本主義や近代合理主義のパラダイムに問題があるのではないかとおっしゃっていたところに非常に共感しています。

それについてもう少しお聞きしたいのですが、まずは辻井さんが今の経済の仕組みや資本主義のあり方のどんなところが問題だと思っていらっしゃるかを教えてください。

辻井   僕が今、世の中を見ていて思うのは、バランスが非常に悪いということです。

たとえば、企業内で売り上げに貢献するとか、経費削減をしたということはまちがいなく評価の対象になりますよね。でも、「あの人は誠実だね」とか「あの人は嘘をつかないね」ということは、給料にはほとんど反映されません。 

定量的なものばかりが評価されて、定性的なものが評価されない世の中だと感じます。そうやって、数値化できるもののみを考え、合理性や効率ばかりを重視していると、持続可能性が低くなります。

たとえば、紙を作るために木を切る時、その木が成長するのに30年かかるとすると、30年待ってから再び木を切り、紙を作るのであれば、自然が回復するスピードと同じだから持続可能です。先住民の人たちがカヌーを作る時などは、そうやって木が成長するスピードを考えた上で、つまり森が持続できる範囲内で切っていました。

でも、30年待たずに別の木をどんどん切って紙を作った方が効率は良いし、儲かるわけですよね。そうなると自然は自分の力では回復できなくなってしまう。持続可能ではないわけです。 そういう状況から、今、私たち人間は地球1.5個分の資源を使っていると言われています。

ところが定性的な価値を重視した途端に、「30年経つ前に木を切るのは、未来の世代に対して誠実な態度なのだろうか?」という議論が出てきます。そうすると持続可能な生産の仕方を考えるようになっていきますよね。

鎌田   辻井さんは、定性的なものと定量的なもののバランスが大事なのであって、定性的なものだけが絶対に正しいというお考えではないのですよね。

辻井   そうですね。人間にはそもそも定量的なものを重視する性質があると思いますから。

スポーツでも勝ち負けが大事だったりするでしょう?  でも負けたけど意義があったという試合もあって良いはずです。両方大事で、バランスが大切なんです。
鎌田   パタゴニアには定量的なものだけではなく、定性的なものを評価する仕組みがあるのでしょうか。

辻井   いい質問ですね(笑)。定性的なものを評価するのはとても難しいのですが、1つ言えるのは、企業が社員を評価するとき大切なのは「あなたがこういうことをしたら評価しますよ」という約束を事前にしておくことです。

たとえば、パタゴニアのケースで言えば、スノーボード用ジャケットとクライミング用のジャケットって、だんだん融合してきているのですが、よく見ると機能上の理由からディテールのデザインはやはり違うんです。 

だから、お客さんが赤いスノーボードジャケットを求めてやってきたときにそれがないからといって、スタッフが一見良く似ている同じ素材で造られた赤いクライミング用ジャケットを売ってしまったら、お客さんは満足しない可能性があります。

もし、最初に「出来るだけ多く売り上げをあげてくれれば評価します」という約束をしていたのなら、そのスタッフは評価されるべきでしょう。 しかし、わたしたちの評価軸は、「お客様の必要を満たす」ということであって、「売り上げをあげる」ということではないんです。

だから、そのスタッフには「そのクライミング用ジャケットでスノーボードをやったら、実際に使った時に、裾から雪が入って困るはずだから、お客さんのニーズを満たせない。だから、売り上げをあげても評価しませんよ」と伝えなければなりません。 

そうやって、価値基準を共有しながら評価していくことが大事です。 とはいっても、こうした評価を常に実行するのはなかなか難しい。それでもちょっとずつ価値基準を共有していくのが大切ですね。

時代に合った価値観を見極めるべき

鎌田   今、定性的なものが評価されにくい世の中になっている理由を辻井さんはどうお考えですか?

辻井   世の中、つまり自分たちの生きている社会を考えるには、地球規模の話だけでなく、住んでいる地域や国の特性を考えなければならないと思いますが、日本でいうと戦争の影響もあるかもしれません。

僕が若いころ、うちの親父は外食時に料理をたくさん頼むことがよくありました。なんで余るってわかっているのにこんなに頼むのだろうと、一方的に文句を言っていたんです。 

でもある時、どうしてこんなに頼むのか理由を聞いてみました。すると、小学校低学年の頃、学童疎開をしていた時に食べ物がなくて、芋を盗んで生で食べたりしていたと教えてくれたんです。だからとにかくたくさん食べ物に囲まれていないと嫌なんだと。

僕の実家は東京なのですが、親父が15歳のときに戻ってきたら、街はバラック小屋だらけで皆まだ貧しかった。そういう状況では、復興するために「早く道路を作らなきゃ、早くお金を稼がなきゃ、早く食べ物を生産しなきゃ」と考えるのは自然なことです。

そういうなかでは、定性的な価値よりも、定量的な価値の方が高まるのは言ってみれば当然のことです。だから、僕は近代合理主義そのものが悪いとは思っていないんです。

鎌田   その時代には必要だったということですよね。でも今の日本は、基本的には戦後の復興時のような切実さは必要ないですよね。

辻井   そうですね。今の時代で考えると、定量的な価値観ばかりが優先され過ぎていると感じます。すでに食べ物もありますし、洋服も余っていますから。だったら今度は、質をあげることや平等性について考えてもいいですよね。

鎌田  定性的なものをもっと大切にするという価値観に、変わっていくべき時期ということですよね。

できるだけ多くの人や動物が幸せになるために

鎌田   価値観を変えていかなくてはならない時代ということですが、辻井さんにとって理想の未来というのはどんなものですか?

辻井   難しいですね。ただ、できるだけ大勢の人や動物が幸せになったほうがいいとは思います。たとえば製品づくりだったら、関わる人たち全てが、その人の住む世界できちんと生きていけるようになるべきです。

パタゴニアは直営の工場を持っていないので、世界中の80くらいの工場と契約しています。そこの従業員がどういう環境で働いているのかをきちんと把握して、必要な改善を行うよう努力しています。

一方、原材料の生産者までさかのぼると、コットンやヘンプなど詳細をしっかり把握できているものもあれば、実態を把握しきれていないものもあるのが現状です。たとえばダウン製品についてはこんなことがありました。ダウンはガチョウなどの水鳥の胸元の羽なのですが、その調達で問題になり得ることが2つあります。 

1つは、ライブ・プラッキング。ダウンをとるときに、生きたまま羽をむしってしまう方法です。ガチョウは強い苦痛を味わいますが、数回羽を取れるため、コストは安くなります。 もう1つの問題は、食用のガチョウから副産物としてダウンを取る場合の、ガチョウの飼育方法。フォアグラ生産のためにクチバシを落とし、強制的に給餌する飼育方法が問題となっています。

パタゴニアではもちろん両者を避けていたのですが、数年前にヨーロッパの動物愛護団体がやってきて、「パタゴニアは環境に配慮している素材を使うと言っているのに、使っているダウンは違う」と指摘されたんです。

そこで調べてみたら、健全な方法で取られたダウンと、そうでないダウンが混ざってしまっていることがわかったのです。 そこで数年かけて両方の素材が混じらない仕組みを作りました。今パタゴニアで使用しているのは100%トレーサブル(追跡可能)なダウンです。

鎌田   数年かけるのですね。普通の会社だったらやらないことですね。目先の利益だけみていると、その判断はできないですよね。

辻井   経済合理性だけを考えればやらないですよね。とても大変ですから。でも、工場や原材料といったサプライチェーンを適切に管理して、できるだけ大勢の人が幸せになる状況を作ることは、パタゴニアのミッションに照らしてみてもとても大切なことなんです。

多くの人を巻き込み、一体となって目的を達成する

鎌田   そうやって指摘してくれると、いろいろなことが見えてきますね。

辻井   そうなんですよ。だから僕たちにとってフィードバックは宝物です。お客様や関係者の指摘に基づいて、地道に改善を続けつつも成長していくと、関心を持ってくれる人も増えてくるんですよ。

鎌田   他の企業が興味を持つということですか?

辻井   2009年にウォルマートという、世界最大のスーパーマーケットチェーンであり売り上げ高も世界最大の企業がパタゴニアに関心を持ち始め、創業者のイヴォン・シュイナードに社内向けの講演会で話をしてほしいと依頼が来たのです。

ウォルマートは、「大量生産・大量消費・大量廃棄型」の発想で成長してきた企業で、創業者一族の資産を合わせると、ビル・ゲイツを上回るそうですが、あるとき「このまま大量消費でやっていって、自分たちのビジネスは持続可能なのだろうか」と真剣に考え始めたといいます。 

その当時のCEOが半年間いろいろな調査を行い、専門家に相談をした結果、ビジネスのあり方を転換する必要があるという結果が出て、パタゴニアに興味を持ったらしいんです。

そういう縁があって、イヴォンはウォルマートの1200人のバイヤーを相手に話をしたのですが、その後で当時のCEOが言ったそうです。 「これまでは、とにかく安くたくさん仕入れてくることがあなた方の仕事だったけれど、今後は自身の取引先の社会的、環境的な面を調査する必要がある。 この仕事が自分にとって負担だと思う人は今すぐウォルマートを辞めた方が良い。おもしろいと思う人には良い未来が待っています」と。

そういうウォルマートを見て、「今までさんざん大量消費を煽ってきたのに、急にグリーン・ウォッシュをやるなんて」と思う気持ちもわかります。でも、本当に持続可能な社会を作っていきたいなら、エゴを抑えてノウハウを各社で共有した方が実現には近づきますよね。

「あなたのそこが悪いですよね」と指摘して対立するよりも、イヴォンのように同じ方向を見て「この先、どうします?」って話をした方が建設的だと思います。 人は言い負かされると、「次は勝ってやろう」と思ってしまう。勝ち負けにしてしまうと、ずっと同じ状況が続いてしまうから、敵を作るようなやり方よりも共通点を見出す方がずっと健全だと感じます。

人を変えていくにはポジティブな発信がいいのか? ネガティブな発信がいいのか?

鎌田   消費者が、質のいい物を積極的に選ぶようになれば、企業も変わらざるを得ないですよね。だから私もブログやSNSを見てくれているファンの子たちにも伝えていきたいと思っています。

ただ、お買い物って本来楽しいもの。みんな地球のこととか社会のこととか重たく考えたくないだろうなと……。だからどうやって伝えていけばいいのかなといつも考えていて。 辻井さんは何か情報発信をするときに心がけていることはありますか?

辻井   会社として気をつけているのは、ポジティブな形で伝えること。「これをしたらこんなに悪いことが起こりますよ」と伝えるよりも「こうしたら、こんな良いことが起こりますよ」と伝えた方が気持ちいいですよね。

ただ、先日、違う方法もありなのかもしれないなと感じることがありました。 ある大学で、コットン生産の現場で年間数万人が薬害で亡くなるような現状を説明した上で、どうやってオーガニックコットンを広めていったらいいかを考えてもらうという授業をしたんです。 

そうしたら、学生たちが「こんなにひどいことが起こっていると知ったらみんな変わります」って言うんです。ヴァンダナ・シバさんというアクティビストは、企業名をあげてネガティブな部分を話しますし、最近ではファストファッションの裏側の悲惨な現状を描いた映画「The True Cost」も注目を集めていますよね。

鎌田   私も「もっとネガティブことをちゃんと伝えなきゃダメ」と言われることもあります。

辻井   いろいろな考え方があって、いろんなアプローチでやるといいのでしょうね。誰もが「敵は作らない」「ポジティブな発信をする」と決めてしまうと、まったく耳を傾けない人も出てくるかもしれない。

イヴォンもよく多様性の話をするのですが、自然界は多様性がないと保たれません。僕たちも多様なアプローチがあっていいのでしょうね。ただ、僕自身はショック療法って長続きしないと思っています。スポーツでもなんでもそうですが、怒るとか、どやすだけでは、モチベーションは長続きしないはずです。

鎌田   そうなんですよね。ショックを受けると、もうそれに対して見聞きしたくなくなって、心を閉ざしてしまうこともあるなと感じます。一切その話に触れなくなってしまうこともありますよね。

辻井   はい。だから、やっぱり消費者とも共通点を探した方がいいと僕は考えています。そもそも僕たちは、「環境に良いから買ってください」という言い方はしません。
スノーボードのジャケットを買おうとしている時に「機能がちょっとイマイチで雪が入ってくるジャケットなんですが、完全にリサイクル素材で石油フリーです」って言われても嫌じゃないですか(笑)。

だから僕たちは、まず、完全にスノーボードに集中できて、機能も万全なジャケットを作る必要があります。そうした上で、お客さんが同種のものと比較するときに「温暖化になって雪が減ってしまうのは嫌だから、パタゴニアの方を買おう」と思ってくれれば良いですね。

都市は「切り身」である

鎌田   スノーボードやサーフィンなど、アウトドアスポーツをやっていると自然が身近になるから、環境に対して敏感になるのでしょうね。

辻井   そう思いますね。僕たちは楽しいから、挑戦のしがいがあるからアウトドアスポーツに夢中になっていますが、一方で、自然を感じる手段であるという意義もあるのではないかと思います。普段は「良い雪が降らないかな、新雪が滑りたいな」としか思いませんが(笑)、何かのきっかけでふっと思うんですよ。健全な自然があるからできるんだなって。

鬼頭秀一という大学の先生が書かれているのですが、都市に住んでいる人と自然の関係って「切り身」なんですよね。 魚は文字通り切り身でスーパーに並んでいますし、ご飯を食べるのに魚を殺したり、鳥を絞めたりする人は都市にはあまりいません。食べるために、手を汚さないんですよね。 でも食べることって、本来は「生身」の命をいただくことです。

鎌田   私は、父が環境や生態系に関わる仕事をしていて、実家も徳島ですし、昔から山や川で遊んでいたので、自然が身近なのです。だから比較的、自然について考えやすいし感じやすいのですが、都会で生活していると自然との繋がりって非常に感じにくいですよね。おっしゃる通り、食べ物も「命」ではなく「製品」として売られていますし。

そんな状況の中で、都会で暮らしている人が自然との繋がりを取り戻していくにはどういうところを入り口にしたら良いのだろうかと考えています。

辻井   それは生き方の問題にも関係してきますよね。先ほどのバランスの話にもつながりますが、給料がとにかく高い方が良いと思って生きていると、自然を感じる時間は取れないですよね。そんなことより働いた方が給料は増えるから。

でも、「給料が高い方が良い」という価値以外の価値を探し始めると、バランスが取れてくるんだと思います。 暑いときに涼しく爽やかな風が吹くとクーラーよりも気持ちが良いと感じたり、緑が多いところで森林浴をするとリラックスできたりします。自然を心地よいと感じる能力は全ての人間にはあるはずですから、そういう感覚を大切にすることが大事だと思います。

社会でバリバリ働いている人のなかにもアウトドアスポーツを熱心にやっている人もけっこういますが、きっとそういうバランスが高次元で取れているんでしょうね。

入浴中に自分に向き合う時間を作る

鎌田   バランスをとるということが、なかなか難しいんですよね。

辻井   周囲の人たちの目や、両親の意見などを気にし過ぎて、自分自身に向き合うことが少なかったり、忙しすぎたりすると、バランスをとるのは難しいでしょうね。

鎌田   前提条件が先にあるとバランスをとるのが難しくなってしまいますよね。働いている人だったら「稼ぎが良い方が良い」「利益をあげた方が良い」とか。10代の子だったら「良い学校に行かなきゃいけない」とか。

親や先生に言われたことが知識として頭にあって、自分が何をしたいかよりも外からの情報によって判断している人が多いように思います。 でも、自分自身に矢印を向けることができれば、生活は変わるし選ぶものも変わっていくと思うんです。 

辻井さんは、生活のなかで自分自身に向き合う時間を意図的に取っていらっしゃいますか?

辻井   意図的にそういう時間を作らないと、僕の場合は本当に全然考えないんです(笑)。だから意識して時間を取っています。

メディテーションとかヨガみたいな本格的なことはやっていないですけれど、朝ちょっとお風呂を沸かして、湯船につかりながら自分と向き合ったりはしていますね。ほんの5分くらいですけど。

鎌田   その5分でどういうことを考えるんですか?

辻井 1週間を振り返ったり、体調を確認したり、自分の日々の発言が周囲にどういうインパクトを与えたかを振り返ったり、基本的には「なりたい自分」とのギャップについて考えたりしています。

鎌田   それは昔からやっていることなのですか?

辻井   いえ、3年くらい前からです。サティッシュ・クマールさんという方に会っていろいろとアドバイスをもらったことがきっかけです。

サティッシュさんは、9歳で出家してジャイナ教の僧侶になり、18歳の時にガンジーさんの活動に心を動かされて、何かアクションを起こしていかなくてはと還俗した方です。そして、核保有国の首相や大統領に徒歩で手紙を届けてまわるEarth pilgrimという活動を行いました。

現在は、70年代に「Small is beautiful」という経済のあり方を提唱した経済学者のエルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーの思想を受け継いだ、イギリスのシューマッハー・カレッジのカリキュラム責任者をされています。

そのサティッシュさんに会って、いろいろと悩みを聞いてもらったんです。その時に、たくさんの言葉をかけてもらいました。 

たとえば「エコロジーとエコノミーは一対になる言葉だ」と。「エコ」は古代ギリシャ語で「我が家」とか「国」という意味で、「ロゴス」は「論理」や「学ぶ」などという意味、「ノモス」は「法律」や「運営する、うまくやりくりする」という意味。

だから、森林の自然についてきちんと学ばないで、伐採ばかりやっていたら、森林がなくなるまで木を切りつくしてしまいます。でも、学んでばかりでは生きていけないから、両方のバランスをとることが必要なんだと。 実は、今日お話している「バランス」というキーワードも、サティッシュさんとの話の中で印象に残った言葉なんです。

「Medicine(薬)」と「メディテーション」が、「自分の心の声を聞く」という意味の「メディタール」を語源に持っていることも教わりました。 昔の人は頭が痛くなったら、自分の生活を振り返ってストレスがないかを見極め、内的な要因がなかった時に初めて外的な要因を疑って、森に入って薬草をとって生薬を飲んでいたわけです。でも現代人は、頭が痛いとすぐに頭痛薬を飲んでしまう。だからバランスを崩すまで働いてしまったりするんですよね。

僕も、サティッシュさんにメディテーションをするように勧められたんです。子供の頃からじっとしているのが苦手なので無理だなと思ったんですが、サティッシュさんが「シャワーを浴びながらちょっと考えごとをするだけでもいい」と言ってくれたんです。

「ほしいもの」と「必要なもの」には線引きをする

鎌田   辻井さんの普段の生活についてもお聞きしたいのですが、普段の生活の中で、何かを買う時に気をつけていることはありますか。

辻井   意識しているのは、「ほしいもの」と「必要なもの」の線を自分の中で1回引いてみるということです。それはパタゴニアに教わったことなのですが、どんなに環境インパクトを抑えた素材で物を作れるようになったとしても、そのやりかたで経済が拡大し続ければ、やはり持続可能ではない。

Tシャツ1枚を作るのに原料の栽培から染色、仕上げの工程まで入れると、水を2000リッターも使うんです。それはフェアトレードだったり、オーガニックコットンでTシャツを作っていたりしても同じこと。安易にTシャツを買って捨てると、その都度、2000リッターの水を捨てている計算になります。 だから本当に必要なものを見極めて買うことが必要です。

鎌田   自分でちゃんと、それが「ほしいもの」なのか「必要なもの」なのかを見極めるということですね。

辻井   そうですね。ただ、我慢するという話ではないんですよ。「ほしいもの」と「必要なもの」は、1人ひとり違います。たとえば、僕はサーフボードを5本も持っています。他の人にしてみたら、「何でそんなに必要なの」って思うかもしれないですよね。でも、波やコンディションに合わせて板を変えたほうが、海に入る貴重な時間が充実すると思うのであれば、それは当人にとっては「必要なもの」なんです。

鎌田   「ほしいもの」と「必要なもの」を見極める習慣がない人はどうしたらいいと思いますか? 辻井さんは若い頃からそういう習慣があったのでしょうか。

辻井   こういう習慣がついたのは、パタゴニアで働くようになってからです。イヴォンや日本支社を作った先輩など、さまざまな人から影響を受けたのですが、一度自分がとことん気に入ったものを買うと、見極める習慣がつくのではないかと思います。

今、僕が使っている名刺入れは、マザーハウスの山口絵理子さんの話を聞いて感動して買ったものなのですが、名刺交換の時にポケットから出す度にいちいち気分がいいんですよ。山口さんに見せてもらったバングラデシュの生産者の方々の顔が思い浮かんだり、山口さんの頑張りを思ったりして、とても誇らしい気持ちになります。

鎌田   よくわかります! とことん気に入ったものを買うと大事にしますし、そんなにたくさんほしいとは思わないですよね。特に、顔が見える関係でも買い物や、そのものの背景が見える商品を買うと、それを実感します。 

「地球のことを考えていて偉いね」って言われることもあるのですが、そうじゃないんですよね。単純に、楽しみが増えますよね。

辻井   楽しいし、豊かな気持ちになるんですよね。たとえばワインでも、機械でブドウを潰して量産したものよりも、手足で一生懸命に楽しそうにブドウを潰している人の姿がわかるもののほうがおいしく感じますよね。

鎌田   そうですよね! 食べ物に関しては何か意識していらっしゃいますか?

辻井   僕は料理が上手いわけではないし、一人暮らしだと食材を余らせて無駄にしちゃうからほとんど外食なんですよね。でもせっかくだから、時間があれば、農家さんと顔の見える関係を築いているところとか、ビオワインを置いているところに行っています。

結局、同じところにばかり行っていますけれど、そうすると「辻井さん、多分このワイン好きだから飲んでみて下さいよ」と、お店の人とも良い関係が出来たりして楽しいですね。

鎌田   そういう関係もすてきですね。

辻井   その代わり、値段はあまり気にしないようにしています。それは支社長だからということではなくて、普段あまりモノを買わなくなってきたし、体も心も満たしてくれる食べ物にこそちゃんとお金を払おうと思うんです。

鎌田   必要なものと、ただほしいだけのものがちゃんと見極められているからできることですね。

辻井   見極めができるようになると、「みんながあれを着ているから自分も……」なんて考える必要もなくなります。

鎌田   値段や周りの人の意見だけを価値基準にするのではなく、多くの人が自分の基準で必要なものを考え、楽しみながら顔の見える関係のものを買うようになれば、いいですね。

今日はおもしろいお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

Interview/Text: FELIX清香
Photo: 三橋優美子

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