1. 西田宗千佳のトレンドノート:マイクロソフトがWindows 10のブラウザーを「Chromeベース」に変える理由

西田宗千佳のトレンドノート:マイクロソフトがWindows 10のブラウザーを「Chromeベース」に変える理由

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マイクロソフトは4月8日(現地時間)、同社製の新しいウェブブラウザーである「Microsoft Edge」の開発者向けプレビューを公開した。Windows 10を使っている人であれば誰もが無料で利用できる。

ただし、現状はあくまで「開発者向け」なので、技術に自信がない方のインストールはお勧めしない。一般向け公開は、技術者向けバージョンでの不具合確認が終わったのち、別途開始される予定だ。 

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マイクロソフトは「Microsoft Edge」の新しい開発者版を公開。無料で使えるが、技術者以外にはお勧めしない。

Microsoft Edgeは、同じ名前のウェブブラウザーが、すでにWindows 10に組み込まれて出荷されている。今回公開されたものは、名前こそ同じ「Edge」だが、中身はまったく異なる技術に変わる。ベースになるのは、Googleが開発し、オープンソースにもなっているウェブブラウザーである「Chrome」の技術だ。 

なぜマイクロソフトは、ライバルのブラウザーをベースに、わざわざ開発し直すのだろうか? そこには深遠な理由が隠れている。 

マイクロソフトはブラウザーで「自社技術主義」を諦めた

現在、Windows 10の上では、主に3つのウェブブラウザーが使われている。

OSに組み込まれているのは、「インターネット・エクスプローラー(IE)」と、Edge。IEの利用はすでに推奨されておらず、あくまで「互換性の維持」が目的だ。日常的なブラウジングのためには「Edgeを使う」ことが推奨されている。

古いウェブブラウザーを使い続けることは、セキュリティ面でも動作保証の面でも望ましいことではない。マイクロソフトは、今のニーズにあった「最新の技術」として、2015年春にMicrosoft Edgeを公開、現在まで利用を推進してきた。

一方で、多くのユーザーは、ウェブブラウザーとして「Google Chrome」を使っている。ChromeはGoogleが開発し、無料公開しているウェブブラウザーだが、現状のEdgeよりも使いやすいことなどから、わざわざダウンロードして使っている人もかなり多い。

全世界でのウェブブラウザーの利用状況調査は複数存在する。数字は調査によって異なるが、シェアトップがChromeであることは、すべての調査で共通している。

「statcounter」という調査サービスのデータによれば、Chromeは7割近くの圧倒的なシェアをもっており、Edgeは10%に満たない。それどころか、IEもまだ同じくらい使われている。

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「statcounter」による全世界でのウェブブラウザーシェア。圧倒的に量が多いのがChromeで、Edgeを含む他の製品はかなり少ない。

このことは、マイクロソフトにとって大きな課題だった。 

そこで同社は大胆な戦略転換をする。自社開発だったEdgeを、オープンソースで開発が続けられている「Chromium」をベースにしたものに入れ替えることにしたのだ。今回公開されたのは、このChromiumベースのEdgeである。 

Chromiumは、Chromeの開発に使われている技術のオープンソース版で、元々はGoogleが開発したもの、といえるのだが、現在は誰もが開発基盤として自由に活用できる。マイクロソフトはこれをコア技術に採用した。そういう意味でいえば、マイクロソフトは、ウェブブラウザーの自社独自開発を諦めたのだ。

「EdgeよりIEが使われるジレンマ」がChrome採用の引き金に

マイクロソフトとGoogleはある意味ライバル。ブラウザーのような基盤ソフトで自社技術を諦めることに、驚きを感じる人もいるのではないだろうか。

1990年代後半、IT業界には「ブラウザー戦争」という言葉もあった。マイクロソフトと、当時のライバルであったネットスケープなどが、いかにウェブブラウザーで大きなシェアをとるかを争い、独占禁止法に問われるなど、様々な事件を生み出した。

だが、時代は変わった。実のところ、マイクロソフトにとっても、ウェブブラウザーが「独自技術である」ことは、望ましくはあっても必須ではなく、別のことの方が重要になっている。 

それが「使う側が安心して使えること」「システムを作る企業が楽に開発できる」ことだ。 

ウェブの表示や動作は、ウェブブラウザーの種類によって少しずつ異なる。使える機能も同様だ。システムを開発する側は、複数のウェブブラウザーに対応させることを避けたい。

そうなるとどうするか? シェアだけを見るとChromeで、ということになるのだろうが、企業などの場合、Windowsにさらにウェブブラウザーを別にインストールする、という手間をかけたくないところもある。そこでは、過去のOSと現在のOSが混在しており、「ならば、古い技術だけど、EdgeではなくIEにしよう」と考えるところもある。 マイクロソフトはこれを止めさせたいのだ。

IEからの移行をスムーズにするには、「OS標準のブラウザー」のシェアが高いことが望ましい。ならば、自社技術にこだわるより、元々シェアの高いChrome=Chromiumをベースにしたものに変えることで、「ソフト追加なしにIE以外のブラウザーが使える環境」を強化すべき……という結論に達したのである。 

重要なのは「クラウド連携での競争」に

開発者版のChromium版Edgeをつかってみると、その表示や機能が驚くほど「Chromeに似ている」のに気付く。メニュー構成などは多少異なるものの、動作は既存のEdgeよりChromeに近い。 

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Chromium版Edge。画面を見ても、ChromeやEdgeとの差はあまり感じられないだろう。


個人にとってなにより大きいのは、Chromeで使える「拡張機能」が、ほぼそのままChromium版Edgeでも使える、ということだ。 

拡張機能は、ブラウザーを使いやすくするために機能を追加するために使う小さなアプリのようなものだが、Edgeでは「Edgeのために作られた拡張機能」のみが利用できた。

Edge向けの拡張機能は数が少なく、Chromeのものに比べ見劣りしていた。だから、その点だけを採っても、「Chromium版Edgeは、今のEdgeより良い」と言えるだろう。Chromeがすでに入っていた環境ならば、「お気に入り」やブラウザーのキャッシュなどの情報も引き継がれる。

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Chromium版Edgeでは、Chromeのために開発された多数の「機能拡張」がそのまま使えるようになる。

だが、である。

実のところ、個人が使うだけならば、Edgeも悪いウェブブラウザーではない。Chromeでないから困る、というシーンはかなり少ないはずだ。そもそも個人の場合、困ったら無料のChromeを入れればいい。Edgeにこだわる理由は薄く、それがシェアの差につながっている。

ChromeはGoogleのプロダクトなので、Googleのサービスとの連携に秀でている。Chromium版Edgeはあくまでマイクロソフトのプロダクトなので、Googleのサービスとの連携は弱く、マイクロソフトとの連携が軸になる。

マイクロソフトのサービス、特にWindowsやMicrosoft Officeとの連携が重要であるなら、Edgeを選ぶべきだ。例えば、マイクロソフトは、複数機種で閲覧履歴や作業履歴を同期する機能を提供中だが、これはEdgeでの閲覧が前提になっている。今後は、Chromium版Edgeでも使えるようになるだろう。

マイクロソフトはChromium版Edgeの「Mac版」も開発することを表明している。OSを問わず、自社のサービスを使ってもらえるようにすることが、今のマイクロソフトの方針だからだ。そのためには、サービスと連携したウェブブラウザーの存在が必要である。

結局、ブラウザーを介して、マイクロソフトとGoogleが対決姿勢にあることに代わりはない。ただ、「ブラウザーの表示機能」が軸なのではなく、「クラウドと連携する独自機能」の部分が軸なのだ。

その部分が判断できるようになるまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。

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