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カストロ亡きキューバのジレンマ:観光業と社会主義

Ai Maeda

2017/01/22(最終更新日:2017/01/22)


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カストロ亡きキューバのジレンマ:観光業と社会主義 1番目の画像
 2016年11月、キューバ革命の指導者であるフィデロ・カストロが死去した。カストロによりアメリカ合衆国の独裁を逃れ社会主義国となったキューバであったが、晩年に彼は半世紀ぶりにアメリカ合衆国との国交正常化に踏み切った。鎖国状態を崩壊させたのだ。
 
 2015年7月に両大使館で結ばれた国交は「キューバの雪解け」とも呼ばれ、両国に新しい風を吹かせている。これを機に国を興す観光業へ期待が高まるキューバだが、社会的な発展とのジレンマも抱えているのだ。

 今回は、カストロという指導者を失ったキューバのこれからについて考えたい。

フィデロ・カストロの功績

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 フィデロ・カストロの最大の功績はキューバ革命だろう。弁護士だった彼は、アメリカ合衆国と癒着し、甘い蜜をすする政府と富裕層を倒すことを決意した。一度目の蜂起は失敗に終わったが、二度目にして成功する。この時に登場したのが後に英雄と呼ばれるチェ・ゲバラだ。

 知識人であったカストロとカリスマ性を持つゲバラは絶妙なコンビネーションを見せ、1958年にバティスタ政権は国外へ逃亡。翌年1月1日にカストロが革命政権樹立を宣言した。

 ここまでは問題なく進んでいた革命だが、2年後の1961年にカストロ政権が賄賂の温床となっていた米企業の資産を没収し国営化したところから、キューバの道は変わっていく。

 当時、ソビエトと冷戦下にあった米国は米の裏庭と呼ばれたキューバが社会主義化することを恐れ、カストロの導くキューバと思想が合わず亡命したキューバ人に武器を渡しクーデターを起こさせようとするも失敗。経済制裁に踏み切った。

 以降、米国による経済制裁の影響で、米の同盟国とも貿易が難しくなったキューバは慢性的な物資不足に苦しむ。その時に救済の手を差し伸べたのが米の最も恐れていたソ連であり、キューバはこの国と密月関係になるも、1962年にはソビエト製ミサイルのキューバ配置をめぐって米ソ核戦争への緊張が高まり穏やかとはかけ離れた国に。俗にいうキューバ危機であり、これにより国交が断絶した米とキューバの関係は半世紀の間、改善されることはなかった。

 カストロは社会主義者でも米国嫌いでもなく、ただ自国の腐った政治の清浄化を望むだけであったのだが、時世がそれを許さなかったとも言える。

 しかし、望まなかった社会主義にも良い点が出てきた。キューバでは医療費と教育費が無料なのだ。各地域にファミリードクターの診療所が設けられており、義務教育である中学校以上の大学や専門学校の学費も無料。キューバ革命後の識字率向上プロジェクトにより現在では98%の国民が読み書きをすることができるという高い水準を誇っており、他の南米地域にもこれを進めようとしている。

 配給される食糧では足りないので国民はみな副業に勤しんでいるが、幼い子供がいる家庭には普通より多い食料が渡される。そのためキューバの子供はたっぷりと栄養を溜めころころとしている場合が多い。

 社会主義にはマイナスなイメージを持つかもしれないが、バティスタ政権時の苦しみに比べると、いくらか救われている部分もあるのかもしれない。キューバを旅した人のコメントによると、老人の多くはフィデロのことを不満も含め身内の話をするように語り、最後には「でもフィデロがいなかったら、今頃この国はどうなっていたか」と締める。ここからも、彼が開いた道というのがいかに輝かしいことであったかが伺えるだろう。

カストロの功績

  • キューバをバティスタ政権からの独立に導いた
  • 富も貧も国民が平等に暮らす社会を作った

アメリカ合衆国との国交正常化

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  キューバ危機以降、国交が断絶していたキューバとアメリカだが2015年に国交を回復した。これにより長きに渡り続いていた経済制裁もなくなり、キューバは自由貿易が可能となった。

 国民の最大の悩みであった物資不足から解放されるかもしれないのだ。医療費が無料なのに物資が足りないため治療が受けられず、物資不足なはずなのに観光客向けの高額な治療費がかかる医療施設には物資がある状態を壊すことができるかもしれない。

 貿易だけではない。今までは米企業が運営するクレジットカードは他国民であってもキューバ国内で使用することはできなかったが、マスターカード・アメックスカードなどの使用も可能となりUSドルの使用も緩和される。大手クレジットカードの使用が可能となったことで観光客の増加も見込まれ、経済の活性化が期待されるのだ。

 故カストロ国家評議会議長は社会主義の体制は変えないと言い残しているが、物資不足にあえぐ国民の思いは国の体制を変えていくようにも考えられる。

観光業と発展のジレンマ

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 キューバの観光業に関して大きな問題がある。それは、この国には国民向けと観光客向けで通貨が2つあるという点だ。
 
 かつて米企業がキューバ国内にあった頃はドルが使われていたのだが、一連の流れにより外国人は代わりにCUC/クックを使うようになった。1ドル=1クックであり、国民が使うペソに換算すると25ペソ=1クック。つまり、約25倍の価値があるというわけだ。

 キューバでは、クック通貨向けの店とペソ向け通貨の店がある。高級なものや嗜好品を買う時にはクックの店に行かなくてはならず、観光客用の店はクック・現地の人用の店はペソと分けられている場合も多い。2つの通貨を理解しないと現地の人と触れ合うことができないだけではなく、大損をするかもしれないのだ。
 
 問題はそれだけではない。先ほどキューバの人は副業をすると述べたが、この副業により社会主義国であるにも関わらず経済格差が広がっているのだ。

 クックとペソでは通貨の価値が違うので、観光客を相手にする人は地元民を相手にする人の25倍金を稼ぐことができる。国は副業に対してはなにも言っておらず、食べるものを手にするために皆必死で働くためにこのような状態が生まれてしまった。

 また、物資不足のために使われてきたクラシックカーが観光業にまわされ、ハイテクエンジン搭載のクラシックカーが登場するという事態も発生した。


 キューバではインターネットの普及率も低く、内戦があったためにレトロな雰囲気もある。米との国交正常化で発展を進めようとするキューバだが、その雰囲気に興味を持たれ観光地になりつつあるのだ。これは一種の皮肉といえるかもしれない。

 キューバを訪れる観光客は2015年に350万人を記録した。国交正常化前の14年は50万人であったので約7倍だ。渡航条件が緩和された米からの観光客は更なる増加を見込まれ、もはやキューバの第一産業は観光業といっても過言ではない。

 しかし、観光客が増えれば増えるほど経済格差が開いていくのも事実である。今後、キューバは国民に対し充分な食料の配給をすることができるのか。はたまた社会主義国であるにも関わらず副業による貧富の溝が深まるばかりなのだろうか。

 ゲバラに続きカストロという絶対的な指導者を失った国民は、社会主義民主主義のどちらを選ぶかという新たな選択を求められているのかもしれない。国を挙げての観光業に勤しむキューバのこれからに注目したい。

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