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買い手の心をくすぐる“ポップアップストア”づくりに企業が全身全霊をかけるワケ

Mariko Idehara

2016/10/23(最終更新日:2016/10/23)


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買い手の心をくすぐる“ポップアップストア”づくりに企業が全身全霊をかけるワケ 1番目の画像
出典:daman.co.id
 近年、日本でも多く見られるようになった期間限定開催の“ポップアップストア”。有名ブランドがカフェとコラボしたり、イベント会場の近くに限定販売ショップを設置したりとユニークなお店が登場するようになった。

 ファションブランドが行うイメージが強いポップアップストアに、先日Amazonが参入したと「Business Insider」が報じた。多様な業種の企業がポップアップストアを仕掛けるワケは一体どこにあるのか? 今回は、オンラインショッピングにも活用の幅を広げるポップアップストアビジネスに迫っていきたい。

ポップアップストアの魅力

 ポップアップストアの起源には様々な説があるが、“突然現れては消える”期間限定店というコンセプトは瞬く間に注目を浴び、アパレル業界などを中心に一つのマーケティング手法となった。また、空き店舗や空きスペースを利用しており、思わず足を止めてしまう展示デザインがブランドの個性を際立たせる。以下、ポップストアの魅力を三つあげる。

#1:ブランドのファンを増やせる!

 ついつい期間限定といわれると、のぞいてみたくなるのが買い手の性だ。もともとブランドを知っている人はもちろん知らなかった人が商品を手にとってもらえるのは大きい。ただ商品を陳列するのではなく、美術品を扱うような感覚で展示されている空間は買い手の心をくすぐる。わくわくするような体験は買い手の記憶に強く残り、ブランド名や商品の宣伝にはもってこいである。

 また、話題性があり多くのメディアに取り上げられる可能性が高い。SNSでの写真アップが活発に行われる現在、顧客がプロモーションの担い手となってくれる。また、ポップアップショップを閉じた後も、ECサイトへ誘導が行いやすくなる。まさにオンラインとリアルな顧客をつなげてくれる空間となる。

#2:実験場として利用できる手軽さ

 ECサイトで顧客をすでに獲得しているブランドは、実店舗を出しても経費にほぼ取り分が取られ利益につながらないのはよく聞く話だ。また、商品販売の販路がまだ確立されていないブランドにとっては、実店舗を開くのは大きなリスクとなる。

 ポップアップストアは、空きスペースを利用していることもあり、コストを抑えることができる。ポップアップショップを一つの実験場としてブランドや商品の利益率やニーズ、集客率といったデータを収集できることもメリットの一つだ。

#3:イベントに合わせた出店で購買率アップ

 マラソン大会や音楽フェスなど大きなイベントに合わせて出店を行う店舗もある。イベント参加者のみが購入できる商品だったりすると通常よりも特別感があり、買い手は買わずにはいられなくなること間違いなしだ。イベント限定商品を入り口として、今後顧客となってくれる可能性もある。

 異業種とのコラボ店の開催も多く見られており、話題性抜群である。イベント参加者はイベントの主旨を理解しているので、商品やブランドのコンセプトが伝わりやすい。商品の良さ以上にブランドの根幹にあたるコンセプトに共感してくれるのは顧客のリピート率をあげる

ユニークさが秀逸! 欧米で話題になった例

 欧米ではポップアップショップがマーケティングの主流になっているだけあって、やり方もユニークでありこれぞ話題を呼んで集客を行ったといえる例がいくつもある。今回はたくさんある中から三つご紹介しよう。

例①:“親切な行い”宣言がチョコレートに変わるお店

 デンマーク王室の御用達にもなった老舗チョコレートブランドAnthon Berg(アンソンバーグ)が手がけた“親切な行い”を大切な人に宣言することでチョコレートを購入することができるポップアップストア。

 お店に並ぶ30種類以上ある商品の値札には「お母さんの手伝いをする」「自分の愛する人へ朝食をベッドに持っていく」「悪口をいわない」といったメッセージが並ぶ。顧客は必ず行うことを宣言するため、相手にFacebook上でメッセージを送る。そのメッセージを送ることで、チョコレートの購入が完了する。

 奇想天外な心が温まるこのストアには長蛇の列ができ、購入した人は喜ぶ姿やチョコレートを写真で撮影し、SNSでの投稿を行う様子が見られた。今回はFacebookとのコラボで実現した。老舗ではあるが、素敵なプレゼントがもらえるこの企画は好感度や認知度を高め、顧客とブランドとの関係づくりに成功した。

例②:環境問題にアプローチした限定商品

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出典:citiesnext.com
 突如、オランダの郊外にあるスヘフェニンゲンの海岸に現れた木造のボックス。中をのぞくと夏の季節に合わせた商品が並ぶ。大手ファッションブランドH&Mが特定非営利活動法人WaterAid(ウォーターエイド)とコラボし、実現した。WaterAidは、水・衛生支援に取り組むNGO団体であり、今回は25%の利益をWaterAidに寄付される形で行われた。

 空きスペースを利用するといっても、浜辺に出店してしまうところが斬新である。安全な水の支援を行うWaterAidのコンセプトに沿った衝撃的なアプローチは固定された都心の店舗と顧客の関係性を打ち破り、新たなインサイトを見い出した。実店舗を数多く持つブランドでも、通常とは異なった形で世に出すことで、ブランドの新たな面を紹介する機会となった。

例③イベント参加者限定商品で宣伝と売上の相乗効果を発揮

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出典:running.competitor.com
 米国ニューイングランド発祥のランナー向けブランドが、ボストンマラソン開催に合わせて発表したランナーシャツである。マラソンにエントリーした者のみが購入でき、限定商品ということもあって、人気を博した。

 ボストンマラソンは近代オリンピックに次いで歴史が古く、多くの人が注目するイベントである。このマラソンは資格タイムを満たしていないと参加できないので、このシャツを持っているだけでも選ばれしランナーの証となる。そのイベントはメディアでも取り上げられるため、大きな宣伝効果となった。また、限定商品の売上がブランドの収益となるのでプロモーションと購買心理を巧みに利用した相乗効果を見込んだ戦略となる。

日本でも新たなスペース提供サービスが出現

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出典:shopcounter.jp
 ポップアップストアがブランド発信やマーケティング手法として期待が高まる中、日本でもポップアップストア開催を後押ししてくれるサービスが登場している。今回取り上げるのは、スペースを提供するマーケットプレイス「SHOPCOUNTER」である。

 このサービスはスペースを貸したい人と借りたい人をマッチングする役割を果たす。公式HPで会員登録し、借りたいスペースを選択。その後直接オーナーと連絡を取り合う流れとなる。出店条件がまとまり次第、オンライン決済によって完了。その時点から集客や準備ができる。最短1日から ポップアップストアを開催することができ、利用のしやすさと値段のお手軽さに利用者が増加しているそうだ。


 今回は、今後の多様な活用が見込まれるポップアップストアの魅力と創意工夫しやすい印象をつけた欧米の例、新たなサービス展開を紹介した。商品の良さだけでなく、リアルな体験やブランドのコンセプトの共感によって顧客とつながるシーンづくりがSNSの発展とともに重要性を帯びて来ている。そんな時代の流れを上手く利用できる効果的な手法がポップアップストアではないだろうか。

 私自身、イベントや期間限定ショップをきっかけに今まで知らなかったブランドに出会い、ECサイトで購入を考える経験が多々ある。多種多様な顧客のニーズを満たすための新たなコンセプト企画、世にあまり知られていない商品と出会える場としてポップアップストアは顧客側も待ち望んでいるだろう。

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