1. 「裸足の国に、靴を売り込む」けん玉業界の今:けん玉パフォーマー児玉健が語る「脱東京化」とは

「裸足の国に、靴を売り込む」けん玉業界の今:けん玉パフォーマー児玉健が語る「脱東京化」とは

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日本を代表するけん玉パフォーマンスユニット“ZOOMADANKE”のメンバーである、コダマンこと児玉健氏。明治大学で准教授を務め、自身も会社を経営する経済学者・飯田泰之氏。世界中で“けん玉”が盛り上がりを見せている昨今、そのムーブメントの秘密を解明するべく、トークセッションを行っていただいた。有識者二人の熱いトークにより、けん玉だけに限らない、世の中を動かすブームやムーブメントの仕組みが明らかになった。

児玉健 プロフィール

こだま・たけし/プロけん玉パフォーマー/人狼ゲームマスター 
1980年大阪府生まれ。リクルート系不動産会社を退社後、仕事を遊びに、遊びを仕事にするべく活動開始。大人がリアルに遊べるゲームスペース「ドイツゲームスペース@Shibuya」「人狼ルーム@Shibuya」を経営。

裸足の国に、靴を売り込む。面白い人材が集まる“けん玉”業界

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児玉:海外の方々がけん玉を商売にしました。格好良い商品がたくさん生まれて、1つの業界になりました。海外の代表的な大きなけん玉会社は客の取り合いをせずに、共にけん玉業界を盛り上げています。市場を広げようと、協力している雰囲気があるんです。みんなで業界を盛り上げようとする勢いが面白いんです。

飯田:現在の段階だと、けん玉人口がたとえ2倍になったところで、そこまで大きくないですよね。とにかく人口を広げるのが現段階での使命になっている。狭い業界で争うよりも、けん玉をまだ買ったことがない人を引き込む方が絶対に良いと皆さん分かっているのでしょうね。

裸足の国に靴を売り込みに行った場合、そこを最高のマーケットだと考えるか、厳しいマーケットだと考えるかで、その人のビジネスマンとしての素養が図れると言われています。ほとんどの人はけん玉をやったことがない、靴を履いたことがない人ばかりなんですよね。

だったら、これからけん玉を買うかもしれない潜在顧客は無限にいる。けん玉自体は長い歴史があるわけですが、現在のけん玉は新興マーケットなわけです。「新しい」ということは、それ自体が、面白いことをやろうとしている人たちが集まりやすい状態といって良いでしょう。

児玉:個人的にも、すごく可能性のある楽しい業界であると感じています。まさに靴を知らない裸足の国に、靴を売り込んでいるような感覚。海外の人はけん玉を知らないから、その新たな楽しさを売り込んでいく感覚です。

東京の公共スペースは眠っている。

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児玉:世界では盛り上がっているけん玉ですが、対して日本でどうやってけん玉人口を増やすのかということが最近の悩みであり、課題だと感じています。まず場所がないんですよね。海外は敷地が広いし、たいていのお宅には庭がある。場所に困らないんですよね。敷地面積の問題が、日本でのけん玉普及に残された大きな課題の1つです。やる場所、やる仲間をどう整備するか。

飯田:まさにその通りで、東京で何かをやろうとすると、すぐ場所の問題になりますよね。私はシノドスという会社の立ち上げに参加し、学者や特定分野の専門家の議論を一般の人が理解できる話にして発信する活動を行っています。このような活動の一環として大会・ミーティングを開いて、広く活動を知って欲しいという欲求はありますが、なかなかちょうどよい会場が用意できないんです。都内の場所代はものすごく高い。対して公共の場所は安いけれど、営利企業が使用することが許されていない。

児玉:そうなんですよね。僕らもけん玉のパフォーマンスをする上で、それがネックになることがものすごく多いです。

飯田:全くお金を取ってはいけないという会場を使うと交通費や宿泊費といった必要経費ですら捻出できない。実際に日本の公共スペースの多くは有効に使われていません。場所としてもっとも使い勝手が良いのは小学校でしょう。小学校の校庭や教室は、授業がないときに解放してくれれば良いものを、夕方以降と休日はスペースを殺してしまっている状態です。たとえば学校が休みである土日や、夜に校庭を解放してくれれば、フットサルのチームなんかはひじょうに助かりますよね。手芸教室や習い事もそうです。

海外では、校舎・校庭の貸出学校の大きな収益源になっていることもある。放課後、塾に教室を貸すことで収益を得ている。日本では都心部の私立大学などもそうですね。黒板や机が整備されていて、塾をやるにはベストなコンディションですよね。日本はただでさえ狭い都心のスペースなのに、それを眠らせてしまっている。

児玉:それこそ小学校の校庭を開放してもらって、そこでけん玉の教室を開けば、日本でのけん玉普及に役立つような気がしますよね。今日もけん玉教室がやってる、大人もやってる、となると子供達にもけん玉の素晴らしさを伝える良いきっかけになりそうな気がします。

——児玉さんも公共のスペースが使用できないことで不便してらっしゃいますか?

児玉:そうですね。自分たちで練習するだけなら利用できるのですが、何かを広げるためにはある程度のお金は必要ですから、営利目的になってしまう。そういった場合はすごく苦労してしまいますね。

飯田:都心部にオフィスを構え、それを長期的に継続すると莫大な資金が必要になってしまいますよね。それだと「趣味の世界」の場としてはあまりにも高価すぎる。その一方で公共施設を頼ると、お金を取ってはいけなくなる(または営利目的だとレンタル料が跳ね上がる)。間がないのがすごく困りますよね。そこそこの妥当な収益をあげてもよい公共施設が欲しいというのは、趣味系の業界共通の願いです。

児玉:芽を摘まれてしまっている感じがしますよね。宿泊施設であったり、レンタルスペースであったり、これからはそういったスペースの問題が肝ですよね。使っていない時間のスペースを活用していかなければいけないですよね。これはけん玉に限らない問題ですね。

——どうして公共スペースでの営利活動は原則禁止されているのですか?

飯田:公共スペースは、皆さんの税金で賄われています。税金が営利活動を支援していることになってしまうからと言われています。

児玉:言われれば、まぁそれもそうなんですけどね(笑)。たとえば公共スペースが安いからといって、企業がそこを占拠してしまったら公平性が保てないということもわかります。

飯田:しかし、公共のスペースに人が集まるということをもっとポジティブにとらえる必要もあると思うんですよね。地方都市は人を集めるのに必死です。東京は殿様商売で、そういった感覚が鈍いところがあるのでしょうね。自治体が努力しなくても人が集まってしまう。これから東京をもっと魅力的にするには、そういった公共スペースの有効活用から目を背けることができないと思います。新しいものを生むためには、そういった雑多な人々が集まる場所が重要になってきます。

児玉:人を集めやすい時代でもありますからね。公共スペースに人を集めたい場合、現在はSNSがあるから集客がしやすくなっていますもんね。しかし場所がない。すごくもったいないですよね。

地方都市の可能性。山形や広島が“けん玉”の聖地になる未来

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飯田:地方都市にはスペースが余っているし、人を積極的に集めようと努力してるところが多い。福岡なんかがすごく伸びていて、このままだと3大都市圏に追いつきかねない。市長がイベント DJ を趣味にしているので、そういったストリートカルチャーに優しいのかもしれません。若者、何か面白いモノをやりたいという人にとって居心地が良いから、人が集まり、都市としての魅力が出てくる。

政令指定都市クラスの地方がけん玉の聖地になったりするとすごく楽しいことになりそうですね。キーパーソンが5、6人集まってしまえば、そこが聖地になってしまう分野も少なくない。東京、大阪、名古屋、福岡以外の土地は結構日本中で余っている状態で、小さな集積地をどのように作っていくかがポイントになるでしょう。

——児玉さんは“ZOOMADANKE”の活動で地方に行くことも多いですよね?

児玉:年間50回くらいは行きますね。唯一のけん玉専門店は広島県の廿日市にあります。そこにはきちんとけん玉をするスペースがあって、名プレイヤーがたくさん生まれています。最近だと、世界レベルの中学生プレイヤーが生まれました。世界中のけん玉プレイヤーが絶対に一度は訪れる聖地になりつつあるんですね。

東京の家賃はやはり異常なので、そういった地方都市でムーブメントを根付かせる動きは良いかもしれませんね。山形もけん玉やこけしの特産地なので、中でも長井市は駅前にプレイ・スペースを設備するなど、市としてけん玉を押し出しています。

飯田:最近はビジネスをする上で、物を売るよりイベントの方でお金が儲かるようになっていきています。書籍の販売よりも、その後のトークショーで儲けるような時代。けん玉も、プロダクトの販売だけでなく、それに付随した楽しい時間の提供方法を提案することで、ビジネスとして花開く可能性を秘めていますよね。

児玉:僕らはパフォーマンスを見せることを仕事にしていますから、そういった体験価値を生んでいくのが役目だと思います。たとえば教室を開くこと。けん玉を一緒にやったり、教えたり、面白いけん玉を使えたり、世界レベルのプレイを見ることができたり。いろいろな付加価値を提供して、これからもけん玉の楽しさを伝えていけたらなと思います。


世界中でけん玉が盛り上がりを見せている昨今、その誕生の地「日本」でムーブメントを起こすための課題が明確になった。プロけん玉パフォーマーである児玉氏がけん玉をプレイするとき、彼は必ず満面の笑みを浮かべている。楽しそうに、自由自在にけん玉を操る。そんな彼に魅了され、日本伝統の遊びである“けん玉”が新たな脚光を浴びる日もそう遠くないかもしれない。

Interview/Text: 石川ゆうり

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