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受験者も誤解している!?ーーTOEIC Programを実施するIIBC役員が語る‟本当のTOEIC”とは?

服部真由子

2024/05/03(最終更新日:2024/05/07)


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就職や昇進試験合格を目指して、 TOEIC Listening & Readingスコアを伸ばそうと努力しているとき、英語学習の本当の目標や、学びの楽しさを忘れてしまうことがあるかもしれません。

英語を学ぶ目的は、人それぞれ。「英語を話したい私に、TOEICは関係ない」という人もいますが、それは正しい考えでしょうか。

英語によるコミュニケーション力を検定するTOEIC Programを「多くの人が誤解している」と、日本で同テストを実施するIIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)の役員をつとめる永井聡一郎さんはいいます。

U-NOTEは、IIBCの永井さんと、TOEIC Testsの英語4技能で、基準スコアを取得した受験者に贈られる「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」2022年度受賞者のおひとりである室井梨那さんにそれぞれお話をうかがいました。

その模様を、4日連続で紹介します。

【5月4日(土)18:00公開】
本当に日本は国際化してる?ーー日本でTOEIC Programを実施するIIBC役員が語る‟英語公用化の現在地
【5月5日(日)18:00公開】
英会話の楽しさが不得意科目を学ぶ動機になったーー「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」受賞者室井梨那さんインタビュー【前編】
【5月6日(月)18:00公開】
「できない原因」を見つけて弱点を克服しようーー「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」受賞者・室井梨那さんインタビュー【後編】

TOEIC L&R対策をがんばっても「英語は話せない」

TOEIC L&R公開テスト会場の様子

ーーTOEICでハイスコアを取れたけれど、英語を話せないという人もいると聞きます。これは事実でしょうか?

永井:全員ではありませんが事実です。みなさんがおっしゃる「スコア」が、英語を聞いて、読むという理解力を測るTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)のスコアのことであれば、私たちも「そうですよね」と考えています。理解力のスコアが高くても、「話せる」ようになるためには、一定期間、話すための訓練トレーニングが必要です。

ーー英語を話せるようになりたい人にとって、 TOEIC L&Rのスコアは無意味……と考えるのは早計でしょうか。

永井:話すための訓練に理解力は不可欠ですから、努力は決して無駄ではありません。TOEIC L&R400点の人、600点の人、800点の人が英語を話すトレーニングをした場合、スコアの高い人の方が能力を顕在化するスピードが早いです。

TOEIC L&Rに向けて「インプットの学習」を繰り返した方は、英語を話すときに使う「英語の在庫」をたくさん持っていらっしゃる。だから、話すトレーニングをして、その引き出しを開けることが必要です。

ーー TOEIC L&Rが「総合的な英語力」を測るもの、という誤解があったようです。

永井:もちろん、TOEIC L&Rから、その人の「話す」「書く」力をある程度推し量ることができます。しかし、あくまでも「聞く」「読む」技能を測るためのテストなので、自分の発信力を知りたい場合は、TOEIC Speaking & Writing Tests(以下、TOEIC S&W)で直接測ることを強くおすすめします。求められたスコアをクリアして「やった!英語学習卒業だ!」と完結すると、本末転倒になる可能性があります。TOEIC L&Rで600点が見えてきたら、TOEIC S&Wを受け、総合的な英語力の習得を目指してください。

英語の「技能」は「聞く」「読む」だけではありません。TOEIC Programでは、「話す」「書く」英語力を測るTOEIC S&W も実施しています。

ーーほかに、「誤解されている」と感じていることはありますか?

永井:たとえば「高いTOEICL&Rスコアを持っているのに、仕事ができない」と評価を受ける方もいらっしゃいます。TOEIC Programは、あくまでも英語のスキルをスコア化するテストで、仕事の能力を測るテストではありません。

ーーハイスコアの方を職務においても有能だと期待してしまいますね。

永井:語学力を高めようと努力できる方であることは間違いありませんし、高い英語のコミュニケーション能力をもっています。これは前提として重要なスキルです。

「英語で仕事ができる」ようになるためには、その会社や業種で求められる業務スキル、知識、ネゴシエーションやプレゼンテーションのスキル、異文化への理解力、リーダーシップなどを身につけ、それを英語で発揮できるようにしなければなりません。

AIではなく、人が聞き採点する

ーーたしかに英語と言っても、さまざまな土地でローカライズされています。

永井:インドやシンガポールでの「英語」がそれぞれ違うように、個性豊かな言語です。だからこそ、言葉に慣れていかないとなかなかADJUST(アジャスト/差異を調整すること)が難しいですね。

日本人が気にする、話すときの「たどたどしさ」は決して悪いことではありません。ネイティブスピーカーでない以上、完璧に英語を喋れなくてもいいと私は思っています。

ーーしかし、スピーキングテストでは違いませんか?

永井:もうひとつ、誤解を解くことができそうです。

TOEIC Programはノン・ネイティブ(非英語話者)の英語力を測定するテストなので「間違いを恐れず、堂々と自分の言葉で伝えよう」というコンセプトがあります。

スピーキングテストでは、たどたどしくても、何度言い直しても、言いたいことを相手に伝えられていれば、評価されます。

そのために、スピーキングテストは「人間」が「聞いて」採点します。AIの採点では、文法や発音が正しいか、ポーズ(休止)が頻繁に繰り返されないかなどを判定することになります。もちろん英語の正しさをチェックするためには有益です。

一方で、TOEIC Speakingは、英語の正しさに加えて、きちんと意思を伝えられているか、相手や場面に応じて話せているか、説得力や一貫性がある言葉を組み立てているかなど「コミュニケーションをきちんと取れているか」を評価するために人が採点しています。

TOEIC S&W 受験の様子

ーー人間が聞いているんですね……!

永井:くわしくお伝えすると、TOEIC S&Wでは1人の受験者に対して平均して8人で採点しています。採点は設問ごとに行われており、前後の問題で受験者がどのように解答しているか他の採点者にわからないなど、独自の仕組みがあります。

これは、先入観や偏見などによる不適切な採点を防ぐために行っています。また、受験者の国籍などの情報は一切知り得ません。

つまり、1人の採点者が受験者のすべての回答を採点すると、はじめの方に聞いた回答の印象が後の採点に影響してしまう可能性があります。例として、最初の回答の採点で「流ちょうな英語を話しているな」という印象を持った場合、後の採点が甘くなってしまうリスクもありますので、そうした影響がでないようにしています。

さらに、採点者数名に1人のスコアリングリーダーがつき、採点に差異が出ていないかをきちんと管理して調整します。加えてそのリーダーの上位にもチーフスコアリングリーダー、ETSアセスメントスペシャリストというポジションがあり、採点の品質を管理しています。

ーーなぜ、そこまでリソースを割いて徹底しているのでしょうか。

永井:TOEIC Programを開発するETSが「テストのスコアが受験者の人生を左右する」ことを理解し、”Test for decision making, High-Stakes purpose”というコンセプトを大切にしているからです。

就職、昇進・昇格、企業の英語力診断や教育機関でのグレード・クラス分けの指針として、グローバルにスコアが扱われている以上、信頼性を担保するために重要なことです。

ーー‟英語で話したい”と思う人なら、TOEIC S&Wが会話力を高めるきっかけになりそうですね。

永井:ぜひそうなってほしいですね。英語学習を成功に導くツールとして活用していただきたいと願っています。語学力は目で見えません。まず自分の「現在地」を知って、目標を定める。目標に向かって計画がうまく進んでいるかをスコアとして知っていただきたいですね。

‟Open the Future” 学生の未来に学びで携わる

ーー永井さんがIIBCで働くようになった経緯を教えてください。

永井:私は銀行に就職した後、転職して外資系の企業で働いていました。外資系でしたが、当時、英語を使っているのは実はマーケティング部門くらいでした。そうした環境で、マーケティングから渡された英文資料を読むのに苦労をしていた営業担当を見てきました。

IIBCは、人と企業の「国際化」を目指して、英語を学ぶ人たちを支援しようとTOEIC Programを日本で実施する団体です。

もともと、教育や英語に関心があり英語教師になりたかったんです。教師にはならなかったけれども、この協会で人材育成に関わる仕事に携わることができました。

ーー実際に学生との関わりはありますか?

永井:学生を対象にTOEIC Programを紹介する機会などもあります。たとえば、高校生なら「なぜ今から英語を学ぶ必要があるの?」と感じますよね。そういった学生に向けて、実社会で今、起きていることをお話します。

そこから、英語を学ぶことの理由や、TOEICスコアが指標としてどのように扱われているのかを説明します。学校では「将来のために」英語を学んでいる、ということも伝え、学習への動機付けをする機会をいただいています。これは本当にやりがいのある仕事です。

講演会での永井さん

ーー英語を学び、仕事に生かすだけでなく、コミュニケーションや実際の生活をさらに豊かにすることが本当の国際化なのかもしれません。カタコトの英語でもよい、中身が大事とする意見に対してどう考えますか?

永井:今では働く環境も日本国内だけでなく、チャンスは無限に広がっています。カタコトの英語なら使えるけど、それでは「伝えきれていない」「もっと英語を身につけて伝えたい」と感じている方もいるはずです。

TOEIC Programは活きたコミュニケーションを反映しています。さまざまなレベル、状況の人びとが、英語でご自分の想いや考えを伝えられるようになるサポートができる。ぜひ上手に利用してスキルアップにつなげてください。

(前編・了)

明日、5月4日(土)18:00に公開する後編では、2010年頃から多くの大企業が宣言した「英語公用化」が、現在どのように運用されているのかをうかがいます。

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