【積水化学グループ】インフラの危機を救うオメガライナー工法 若手社員が受け継ぎ、そして進化へ

2024/08/22(最終更新日:2024/08/22)


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近年、道路や橋梁(きょうりょう)などのインフラが続々と耐用年数の限界を迎えつつある。下水道も同様で、下水管路の破損を原因とする道路陥没は年間で約2600件に及び、私たちの足元には、危機が静かに忍び寄っている。国内に張り巡らされた下水道管の総延長は約49万km。標準耐用年数の50年を超える管は約3万kmで総延長の6%にのぼり、10年後は約9万km(総延長の約19%)、20年後は約20万km(同40%)に達する。老朽管が増えればトラブルも起こりやすくなる。


これらを背景に、インフラの維持管理や更新、長寿命化支援などの工事が全国的に急増している。加えて、2025年には高齢化により大量の退職者が出ることにより、建設業界が深刻な人手不足に直面する。建設業の就業者は55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%とアンバランスになっており、25年以降も慢性的な人員不足に悩まされるだろう。社会インフラをどうやって維持・管理していくのかは喫緊の課題だ。


そこでニーズが高まっているのが「管路更生」、つまり下水道管のリニューアルだ。工事の際には地面を掘り起こすことがなく、工期が短く、コストを削減できる。これらのメリットを生かして各地で管路更生が進むが、そこで注目されるのが「オメガライナー工法」だ。



積水化学は管路更生に関し、東京都下水道サービス、足立建設工業との共同開発を進め、調査診断から計画・実施設計のエンジニアリング、管路更生の材料販売や更生工事機器の開発、普及促進を進めてきた。下水道の管路更生ニーズが全国的に高まる中、オメガライナー工法はどのような優位性を持ち、全国各地の更生現場でいかに力を発揮しているのか。エンジニアリング・生産・開発・販売に携わるメンバーが語る。

形状記憶を駆使した工法のストロングポイントは

オメガライナー工法とは、形状記憶機能を備えた塩ビ管(硬質塩化ビニル管)を用いる更生工法で、内径φ150~450の小中口径に向けた工法で、20年以上の実績を持つ。Ω(オメガ)状に折り畳んだ塩ビ管をマンホールから老朽管に挿入し、蒸気で熱を加える。このアクションによって形状記憶塩ビ管は元通りの円形に復元し、既設の老朽管に密着。これにより、新たな塩ビ管の下水道管にリニューアルされるという仕組みだ。










管路更生にはさまざまな工法がある。施工現場で化学反応を起こさせて、新たな管を作る更生工法もあるが、オメガライナー工法は工場で管を造ったものを「蒸気」で加熱して現場では円形に復元・拡径させて密着をさせる工法だ。販売担当者として自治体などの発注者に拡販を行う豊田真紀子は、「そこに大きな訴求ポイントがある」と強調する。


「施工現場で化学反応を起こさないので、臭気が発生しません。このため、都市部の住宅が密集しているエリア、大学など多くの人が出入りする現場でも採用していただきやすいのです。また、塩ビ更生材として業界では初めて日本下水道協会認定の製品規格として『I類資機材』を取得しました。新設の塩ビ管と同等以上の強度を持っており、耐久性や耐食性にも優れています」


積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 西日本営業本部 西日本管路更生営業所 近畿管路更生グループ 豊田真紀子


工事機材・材料の開発や機器の販売・レンタルを手がけて施工業者をサポートする手嶋涼は、「現場では施工のしやすさがお客さまである施工パートナーからの評価ポイントになっている」と語った。


「私は施工現場に足を運んで生の声を集め、より使いやすい機材の開発、改良に携わっています。道路を掘り起こすのではなく、マンホールから更生材を挿入するため、都市部などの狭小地でも施工が可能です。スピーディーで容易な施工性を備えているため、工期の短縮やコスト削減につながる工法です。品質と施工性の両立をさらに高度化すべく、管を折り畳んでもシワになりにくいZタイプが登場するなど、オメガライナー工法もバージョンアップが進んでいます」


西日本積水工業 更生機材課 手嶋涼

優位性を持った工法を支える配合の妙、そしてDX

豊田、手嶋が語ったストロングポイントを裏打ちするのが、オメガライナー工法ならではの「材料」だ。更生管技術課の脇田美咲は、滋賀栗東工場で材料に向き合っている。独自の配合技術がもたらす優位性とは何か。


「オメガライナー工法の材料は硬質塩化ビニルを基材として、変形しやすい柔軟性などを備えた改質剤を配合して作っています。この配合でポイントになるのが、材料の『弾性率』なのです」


ここで、オメガライナー工法の施工フローをあらためて確認しよう。オメガライナーは50℃程度に予備加熱してから管内に引き込み、蒸気で70~80℃程度に加熱して復元し、既設管に密着させる。引き込む際は柔らかさが求められるが、復元~密着の流れをスムーズに行うため、温度の変化によって徐々に弾性が変化する材質が理想的だ。


積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 滋賀栗東工場 技術部 更生管技術課 脇田美咲


「こうした性質を見極めるため、私たちは材料の弾性率の温度依存性を評価します。改質剤と呼ばれる材料の配合をほんのわずか変えただけでも、施工性は大きく変化します。施工パートナーの使いやすさを念頭に置き、今なおベストを模索して試行錯誤しています」


理想とする弾性率の温度の変化をイメージしながら、脇田は配合のベストバランスを模索してきた。近年はBCPを念頭に、30社以上の商社にコンタクトして新たな材料の探索もミッションに加わった。


「現在の配合として用いている材料が将来にわたって供給される保証はないため、万が一供給停止となれば、この工法の特長が失われてしまいます。そこで、候補のサンプルを取り寄せ、性質を検査・評価しながら代替材料を探しているのです。同じ性能を出せる材料を見つけ出すのは困難な試みですが、国内のあらゆる現場に、安定した製品を届けたいという思いが私を動かしています」


施工や工事機材の開発・改良、材料の生産というプロセスを見てきたが、調査診断や、計画・実施設計のエンジニアリング領域でも、本工法の優位性は発揮される。人手不足や労働環境のソリューションになるのが「DX」だ。環境・ライフラインカンパニー 総合研究所 エンジニアリングセンターの川崎伊代は、DXによって営業スタッフや発注者である自治体、施工パートナーなどのお客さまをバックアップしつつ、設計関連の効率化を目指す。


「お客さまに最適な提案をしていくために、そして関わるメンバーの労働環境をより良いものにしていくために、DXは大きな力になります。設計・施工事例をデータベース化し、営業スタッフが逐次参照できる体制を整えていますし、ウェビナーの開催やメールマガジンの発行により、大学や事業会社などの発注者に向けた情報発信も活発に行っています。


オメガライナー工法の設計では、既設管の土被りから強度を計算し、積算を進めていきます。こうした設計や施工パートナーと連携したエンジニアリングも、今後はDXが求められる領域になります。スピード感を持ちつつ、品質を担保した施工を実現するためにも、DXによる効率化が必須です」


積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 総合研究所 エンジニアリングセンター 管路更生グループ 川崎伊代

社会インフラの維持に貢献し、安心・安全な未来を支えていく

オメガライナー工法が評価されるのは施工現場だけではない。本工法は管路更生事業の社会貢献性が評価され、第70回(令和5年度)「大河内記念生産賞」を受賞した。これは「生産工学、生産技術、生産システム」分野の「顕著な業績」を表彰する、伝統と権威のあるアワードだ。オメガライナー工法に携わる若きメンバーは、受賞をステップボードにさらなる挑戦を続けていく。



担当する近畿・北陸エリアを飛び回る豊田は「現場に根ざした販売に力を入れていきたい」と言葉に力を込めた。


「『積水化学といえばオメガライナー工法だよね』と認知してくださっている施工パートナーの方が多くいらっしゃいます。形状記憶を利用したキャッチーな工法であること、そして現場での認知が栄えある受賞につながったと感じています。下水道管だけでなく、電力、農業や通信用の老朽化した管の管路更生にも展開をしています。長期的な視点に立ち、広く工法をアピールしていきたいと思います」


「技術基盤が評価されたことをうれしく思います」と語る手嶋は、工法のさらなる進化ポイントとして「デジタルの実装」を挙げた。


「蒸気による加熱温度や圧力の管理は人の目に頼っています。センシングやAIの支援で自動化に近づけば、さらなる工期の短縮や省力化が視野に入ります。現場の機材からもDXを進められればと考えています」


建設業界が懸念する2025年問題や、日本全体で進む労働人口の減少は喫緊の課題だ。川崎は、オメガライナー工法とDXの掛け合わせに、ソリューションとしての可能性を見出す。


「老朽管が増えるに伴い、対策をしないといけない管が増えます。またウォーターPPP*の導入検討が進められており、事業化が進むプロジェクトが増え、膨大な量の設計をこなさなければいけない時代が迫っています。スピードと品質を両立したオメガライナー工法は現代にフィットする工法です。DXをマッチングし、お客さまに最適な提案を目指していきます」


*水道、下水道、工業用水道分野において、公共施設等運営事業に段階的に移行するための官民連携方式。政府のアクションプランでは10年間で225件の具体化が目標とされている。


オメガライナー工法は2000年に初施工され、設計や生産、施工といったあらゆるプロセスでブラッシュアップが進んできた。脇田は「先人が磨いてきた技術を後進にしっかり引き継いでいきたい」と視線を前に向ける。


「私は配合や代替材料に注力していますが、エンジニアリングや施工機材の改良、そして販売営業のPRなど、さまざまな技術や工夫が凝縮した工法です。20年以上の実績を考えると、20年、30年先には再度の管更生というニーズも出てきますし、環境に配慮してリサイクルを考慮した材料も求められます。社会に資するアプローチを考え、次代に継承していければと思います」


オメガライナー工法が創出する価値とは? この問いへの回答は、施工や生産、エンジニアリングの現場にとどまらない。メンバーは生活者の営み、そして地球環境にも思いを馳せる。一丸となった取り組みは、社会に確かな価値をもたらすはずだ。


【関連リンク】

エスロンタイムズ(オメガライナー工法)

https://www.eslontimes.com/system/items-view/66/


【SEKISUI|Connect with】

https://www.sekisui.co.jp/connect/

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