SMBC日興証券は、将来の日本を背負う全国の高等専門学校(以下、高専)および高専卒業生と連携し、世界に通用するイノベーター人材を創出するエコシステムの構築を目指し、2021年より「高専インカレチャレンジ」を実施しています。この「高専インカレチャレンジ」とは、解決したい課題を抱える企業が出すお題に対して、異なる高専の学生がチームを結成して取り組むもので、これまでに全4回開催されています。
現在開催中の第5回ではSMBC日興証券が課題を出し、過去最多となる29人の学生が参加しています。高専と企業をつなげるアイデアはどのようにして生まれ、どのような未来の創出を目指しているのか。SMBC日興証券のNikko Open Innovation Labに所属する磯野 太佑氏に伺います。
若い世代とともに、新しいアイデアを生み出す仕組みを構築
――高専インカレチャレンジの運営母体である「Nikko Open Innovation Lab(NOIL)」の目的、および発足の経緯について教えてください。
NOILは2020年3月に発足した部署ですが、その前段として「Nikko Ventures」という新事業開発プロジェクトがありました。将来を見据えた新規事業のアイデアを中堅・若手社員から集めるボトムアップの仕組みがなければ、企業として生き残れない。そういった理由から生まれた社内ベンチャープロジェクトです。
まず「Nikko Ventures」の第一期で採択されたプロジェクトを実現するために「Funder Storm」というチームを立ち上げました。当初は「地方創生×トークンエコノミー」というテーマを掲げ、自治体の枠を越えたコミュニティベースでの経済循環を創ることで地方の活性化につなげるという構想を描いていました。しかし、プロジェクトを永続的に回していくには人材が必要です。一時的に外部からプロの経営者を招いて地方創生に取り組んでも、そのバトンをつないでいく人が育たなければ継続はできません。そこで「次世代の人材育成」が必要と考えたのが、「高専インカレチャレンジ」のそもそものきっかけです。
次世代の人材育成を進めるにあたって最も重要なのは、私たちが当事者になることです。日本社会に新しい価値を届ける新規事業を生み出すなら、我々の世代だけではなく新しい感覚を持つ若い世代と本気で一緒にやっていかないと何も生まれない、という危機感がありました。そのために、社会人と学生が一緒に新しいアイデアを世の中に生み出せる仕組みをつくろうと決めました。
SMBC日興証券株式会社 Nikko Open Innovation Lab長 磯野 太佑氏
――中学や高校や大学ではなく、「高専」に注目した理由を教えてください。
まず、すでに社会との交流も多い大学生よりも先入観なく柔軟に物事を捉えられそうな中高生を対象に考えました。どうやって全国にある中学校、高校をまとめていけばいいのか頭を悩ませていたところ、複数の方から高専をおすすめされました。高専とは中学卒業後に5年間、理系の専門教育を行う学校であり、5年の本科を卒業したら半数以上の学生が就職して、残りは大学などに進学しています。
現在、国公立・私立合わせて全国に58校の高専がありますが、これは各都道府県にユニークかつ優れた理系教育を施す教育機関が存在するということです。そして、高専生は社会に出てからも絆が強く、異なる高専の卒業生同士での強固なコミュニティが築かれています。そして、全国の高専には56,000人以上の学生が在籍しています。高専という教育機関は今後の日本の強みとなりうる世界でも珍しい形態だと私は考え、即座にアプローチすることを決めました。
異なる組織の人間からなるチームを取りまとめ、ゴールを目指す
――高専へのアプローチはどのように行ったのでしょうか?
地方創生の取り組みを進める中で知り合った方とのネットワークから、高専機構という全国の国立高専を管轄する組織とのつながりが生まれました。高専は「高専ロボコン」や「ディープラーニングコンテスト」など数々のコンテストを開催していますが、高専対抗型のものが多く異高専同士の横のつながりが少ない印象でした。私たちは全国の高専が連携したらいろいろな面白いことができると考え、高専機構に高専同士を連携させた企画を打ち出しました。
このアイデアは高専機構にとっても新しい取り組みで、実現させるには全国の各高専にご納得いただく必要があります。全国にある高専同士を連携させる仕組みの立ち上げにあたって、私たちが協力を仰いだのが卒業生です。福井高専の卒業生で、株式会社jig.jpの代表を務める福野 泰介氏とは構想初期に知り合いまして、現在も高専インカレチャレンジのメンターとしてご協力いただいています。初回から全国の高専に参加してもらうのは難しいので、まずは福野さんと縁のある北陸地域を対象にして、第1回の高専インカレチャレンジを開催しました。第1回は2021年の5月から6月にかけて開催され、福井高専、石川高専、富山高専、長岡高専、国際高専の北陸5校が参加しました。
――異なる高専の学生たちがチームを組むスタイルは、イノベーター人材を創出するうえで有効と考えますか?
そうですね。高専生はとても実力があって優秀です。地元企業と共同で研究を行うこともありますが、まだまだグローバルを舞台に自分の力を活かす方法を考えている学生は少数派です。とても真面目で勉強熱心ではありますが、いい意味でも悪い意味でもいたずら心をもっている学生が少ないという印象です。少し視座を変えるだけで世の中の見え方は違ってきますので、異なる地域・学年・学科の学生同士がチームを組むことはとても意味のあることだと考えています。
一方で、異なる組織の人間同士がチームを組んだときに発生する問題もあります。それは価値観の違いよりも「予定が合わないこと」です。ビジネスの世界に出ると、必ずしも同じ組織に所属していない人間同士がチームを組むわけで、予定も価値観もなかなか合致しないケースが発生します。そんな人たちをどうやって取りまとめて、ゴールを目指しプロジェクトを進めていくのか。高専インカレチャレンジは、そんなビジネスの極意ともいえる経験を学べる機会だと考えています。
実際に異なる高専の学生を組んで分かったのは、高専生は強固なリアルコミュニティだということです。「違う学校の学生同士が上手く連携できるだろうか」という心配もありましたが、高専生同士、学年や学科が違ってもすぐに打ち解けて、毎回活発なコミュニケーションで盛り上がりますね。
「高専インカレチャレンジ 第5弾」のグループワークの様子
「ゲーム×雪かき」「ゲーム×アップサイクル」で企業の課題を解決
――過去の高専インカレチャレンジで印象に残っているアイデアがあれば教えてください。
高専生はゲームが好きな子が多いので、課題解決にゲームの要素を取り入れたアイデアはよく見ますね。第2回のイオンさんが出したお題に対して、雪かきとゲームを組み合わせたアイデアを出したチームがいました。地方では大雪が降ってしまうとイオンの駐車場が使えないという問題がありまして、そこで地域の学生を動員して雪かきをしてもらいます。デジタルマップ上で雪の中に宝を埋めて、それを実際の雪かきと連動させて掘り当てるとイオン内の店舗で使えるポイントが貯まるという仕組みです。
もう一つは、第3回で最優秀賞を取ったアイデアです。このときはANAさんがアップサイクル(※)にまつわる課題を出しましたが、学生にとってアップサイクルは難しい概念で、理解するのに時間がかかりました。そこで学生たちが出したアイデアが「小学生がアップサイクルを理解できるゲーム」というものです。どんなモノとモノを組み合わせればアップサイクルとして活用できるのか、パズルゲーム感覚で学べる内容でとても完成度が高かったですね。
―― 参加した学生たちからは、どのような声がありますか?
プログラムを通じて新しい知識を得ることも多く、違う高専および異学年・異学科の先輩との交流が刺激になったという声は多いですね。また、違う環境にいる人たちとどうプロジェクトを進めていくかは、ビジネスの世界でも必要なスキルではありますので、勉強になったという声も多いです。
――先日(2024年4月21日)第5回の開会式が行われました。第5回の所感を教えてください。
今回の参加学生は今までで最大の29名でしたが、その中の8人がリピーターでした。これまでと比べても圧倒的に大きい割合です。
――リピーターが増えた理由はどこにあるのでしょうか?
高専インカレチャレンジは学生たちのサポートに力を入れています。大半の高専生にとって、異高専の学生とチームを組むという経験は初めてなので、いきなり厳しい環境に放り出されるわけです。そんな中では当然いろいろな悩みも出てくるので、事務局として手厚いサポートを行っています。本当に悩んでいる課題を学生と一緒に考えるスタンスでお願いしており、企業側の熱量も高く、第4回にご参加いただいた日本郵船さんは優秀なアイデアを出した学生を丸の内の本社に迎え、ディスカッションを実施しています。このように協力企業とも同じコンセプトの下、学生との絆を深めていった結果が、今回のリピート率の高さにつながっていると思います。
(※)本来であれば捨てられるはずの製品に別の付加価値を与えることで、新しい製品に生まれ変わらせること。クリエイティブ・リユース(創造的再利用)とも呼ばれ、廃棄物をそのまま再利用するのではなく、アイデアやデザインによって新たな価値を持たせることで、製品のアップグレードや、寿命を延ばすことができる。
学生と企業が本気で繋がるプラットフォームを拡大
――今後、NOILおよび高専インカレチャレンジでどのようなことを実施していく予定でしょうか? 展望について教えてください。
先ほど、高専にはコンテスト系のイベントが多いという話をしましたが、高専インカレチャレンジにおいて「コンテスト」という言葉を使っていないのには大きな意味があります。高専インカレチャレンジの開催頻度は、他の定期的に開催されるコンテストと異なり、学生が参加できるタイミングかつ、学生と共同で解決したい課題を抱えている企業がいるタイミングで即座にスタートできるようにしています。目指しているのは、学生と企業が一緒に新しいものを世の中に生み出すプラットフォームを日常化させることです。学生と企業の本気の交流によってお互いに高め合うことができるでしょうし、時には採用に繋がることもあるかもしれません。
高専を5年間で卒業しても「学士」の学位は得られませんが、この点について私は高専生の待遇に影響していると考えています。世界の中で日本が持つユニークな教育の仕組みである高専の卒業生に対してフェアバリューが付くことは、次世代の日本の価値を上げることに直結します。この視点に立てば、証券会社が高専インカレチャレンジを主催することには大きな意味があると考えています。
これからも私たちのビジョンに賛同してくれる産業界の人たちをより多く集め、協力しながら、学生と企業が本気でつながるプラットフォームを拡大していきます。
【プロフィール】
SMBC日興証券株式会社 Nikko Open Innovation Lab長
磯野 太佑 氏
2012年SMBC日興証券に入社し、以来8年間投資銀行バンカーとして、国内外のM&A案件および資金調達案件を多数経験。社長直轄の社内公募プロジェクト「Nikko Ventures」にて採択され、オープンイノベーションチーム「Funder Storm」を立ち上げる。証券会社のリソースを活用しながら日本の未来を変革するエコシステムを構築する活動を推進しており、次世代イノベーター人材育成プログラム「高専インカレチャレンジ」(2021年)、ふるさと納税と連携した寄附型クラウドファンディング新スキーム(2022年)、Web3とアートを活用した街づくりを考える「NEO KYOTO NFT ARTs」 (2022年)、Web3を活用して日本の文化芸能を支援する Proof of Japan株式会社(2023年)の立ち上げなどを行う。
【SMBCグループ/DX-Link】
https://www.smfg.co.jp/dx_link/
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