流通に乗らない越前和紙がショッパーに生まれ変わる。伝統産業を守りながらサステナブルを追求する取り組みの裏側

2022/08/18(最終更新日:2022/08/26)


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地球環境・人間・社会の持続可能性を意味する「サステナブル」、それらを実現するための国際目標「SDGs」。これらはトレンドワードになっている一方で、実生活に取り入れているという人はまだまだ多くない。そんな中、東京のデザイン会社・ペーパーパレードは、サステナブルな商品を通じてSDGsや地球環境について考え学ぶことができるコンセプトストア「Sustainable Think.(以下、サステナブルシンク)」をプロデュースし、2021年4月に有楽町マルイにポップアップストアをオープンしました。(2022年5月、新宿ミロードへ移転。)

オープン当初から、伝統産業におけるサステナブルな在り方に触れる仕掛けとして、流通に乗らない和紙(=「損紙」という。)をショッパーに利活用するプロジェクトを立ち上げ、店舗ディスプレイとして設置。これが多くの人の目に留まり、数々のメディアを通して話題になったことを受け、実際にお客様に使ってもらえるショッパーとして店舗への導入が進められています。


今回は、どのようにして損紙の利活用を可能にしたのか、後継者不足などが課題になっている伝統産業にかける想いなどについて、取り組みを主導するペーパーパレードの守田氏と福井県越前市の老舗企業・山伝製紙の山口氏にお話をお伺いしました。

(写真左から)ペーパーパレード 守田氏、山伝製紙 山口氏

倉庫いっぱいの「損紙」

ー お二人の出会いは?

(守田)

ペーパーパレードがプロデュースしたコロナ禍のハレの日に使える「折り紙マスク」の素材を探していた時に、知り合いから「銅イオン入り消臭抗菌和紙を作っている会社がある」と紹介されたのが出会いです。

(山口)

ちょうど2年前ですね。「カミだのみ」という山伝製紙オリジナルの和紙がきっかけで、守田さんと繋がりました。紹介があってすぐ福井県越前市にある私たちの工場見学に来てもらい、伝統産業の継承の難しさや新しい挑戦について意気投合したのを覚えています。その流れで、損紙を保管している倉庫を見てもらいました。

山伝製紙の銅イオン入り消臭抗菌和紙を使った「折り紙マスク


ー 損紙はどれくらいあったのでしょうか?

(守田)

倉庫いっぱいありました。(笑)それによく見ると、損紙といっても端などが一部が欠けているだけとか、みんなが思ってるほど酷い状態ではなくて、むしろまだまだ使えるいい紙ばかりで驚きました。「これらをどうにか日の目を浴びさせたい」と思ったのを覚えています。

(山口)

ほんの少し傷がついただけでも流通に乗せられませんからね。山伝製紙では、おみくじに使われる「引っ掛け和紙」など手漉きの工程を機械化して和紙生産を行っていることもあり、損紙の数が通常の和紙のラインよりも多く出てしまいます。でも、紙のクオリティが落ちているわけではありません。

引っ掛け和紙は原料を専用の金型に"ひっかけ"て、それを地紙にかぶせて模様をつくる越前和紙固有の技法


ー 使えるものが日の目を浴びないって、悲しいですよね。

(守田)

本当にそうです。山積みになった損紙を少しずつ活用していきたいよねという最初は軽い会話だったのですが、伝統産業の新しい挑戦としてもやるべき取り組みだという確信に変わっていきました。そうやって少しずつ話を進める中でちょうどサステナブルシンクのプロデュースが決まり、伝統産業におけるサステナブルな在り方について多くの人に触れてもらえるチャンスだと思い、山口さんに利活用の第一歩にしようと提案しました。

伝統産業を守りながらサステナブルを追求することの難しさ

ー 守田さんから利活用の提案を聞いた時どう思われましたか?

(山口)

元々社員からも「損紙を活用する方法はないか」「もったいない」という声があがっていましたし、自分たちもずっと考えていたことなので抵抗はありませんでした。最近では和紙の手すき職人さんが損紙で栞を折って販売する人も出てきていますし、確実に伝統産業もサステナブルな在り方に目を向けはじめていると感じています。だから自分たちも前に進みだすタイミングだなと。

ただ一つ気を付けなければならないことは、損紙が市場にたくさん出回ることは伝統産業の市場に影響を与えてしまうので、そのバランスは絶対に守りながら進めようと思いました。伝統産業を壊したいわけではないので。


ー 市場のバランスが崩れると産業崩壊につながりかねないですよね...。

(守田)

特に伝統産業は1社が1つの伝統技術を支えていたりします。だから、1社潰れると1つの伝統技術の存続が難しくなってしまうので、市場のバランスは絶対に守るということを僕たちのルールにしています。だから今回のプロジェクトも「損紙を紙原資として売る」のではなく、何かに転用するかたちで「新しい価値を付加する」ことに力を入れました。そうすることで市場のバランスを保ちながら損紙の廃棄量を減らし、結果的には製造工程上の廃棄をなくす循環を作ることができます。伝統産業における循環モデルの一つになればいいなと。

ディスプレイの枠を超えて、お客様が手に取れるものに

ー そうしてできたのがショッパーですね。

(守田)

そうです。ただし、お客様に使ってもらうものではなく「店舗ディスプレイのアートピースとしてのショッパー」として試験的にはじめました。


ー お客様の反応はどうでしたか?

(守田)

とてもいい反応ばかりでした。サステナブルシンクのテーマカラーがSDGsカラーなので、17色に染めた和紙のショッパーは多くの人の目に留まりやすかったようです。それである日お客様がディスプレイを見て、「ディスプレイに使われているショッパーでプレゼントがしたい。サスティナブルなギフト包装があればプレゼントするときにも会話のきっかけにもなる。」とスタッフに言ったんですよ。それを受けて、ディスプレイの枠を超えることにしました。それで今、山口さんと一緒に店舗導入のための生産の仕組みづくりを強化しています。

新宿ミロード5階に移転した店舗の内観


ー ちなみに一般的にショッパーをサステナブルなものに替えるのは簡単ではないのですか?

(守田)

世の中的にショッパーの素材を再生紙に替えるなど流れは変わってきていますが、そもそも1万個以上の発注でないと経済合理性が合わないという特性があるので、大企業みたいに紙にこだわったオリジナルショッパー生産するのは中小の店舗だと難しいですね。それに大量生産・大量消費はサステナブルシンクのコンセプトにも合わないので、「適量生産」を目指しています。

和紙職人の「空き時間」を使って折る、ショッパーの適量生産

ー 損紙をショッパーにする際に工夫していることはありますか?

(守田)

損紙をそのまま折る前に、サステナブルシンクのテーマカラーに染めてもらっています。京都の職人さんに手捺染で手染めしてもらい、和紙の柄や質感がより目に入りやすくなるような工夫を施しています。それを山伝製紙の職人さんの「空いた時間」を使ってショッパーに折ってもらう、というような流れで適量生産しています。

そうすることで、「越前の産地の想い」と「サステナブルを意識しながらおしゃれを楽しみたいお客様のニーズ」をマッチングさせ、製造工程上どうしても出てしまう損紙の新しい利活用方法の一つを提案できたかなと思っています。


ー ショッパーを折る際の苦労はありますか?

(山口)

職人さんにとってショッパーを折るのは初めての挑戦なので、はじめはクオリティがまちまちで上手ではありませんでした。(笑)でも、職人さんにフィードバックしながら一歩ずつ進めていくことで、最終的にみんなのクオリティが安定しました。それに、職人さんにとっては意外にこれが気晴らしになるようで。

ショッパーは職人の手で一つずつ、丁寧に折られていく


ー ショッパーづくりを楽しんでらっしゃると?

(山口)

今はみんな楽しんでやってくれています。実はこの話をした当初、職人全員がショッパーにピンときていなくて。というのも、田舎なのでショッパーにこだわる感覚があまりないんですね。でも、徐々にカタチになってお客様の目に触れて、その声を職人さんに伝えていくにつれて「自分たちで折ったものが目に見えるプロダクトになっていくことが新鮮!」「今までにない感覚。」という喜びの声が上がるようになりました。製紙会社なので自分たちが作った紙が何に使われてるかとか、自分たちの名前が全面的に表に出る機会がなかなかありません。だから職人さんたちにとってすごく新鮮なことですし、仕事のモチベーションアップにもなっていますね。


ー 素敵な循環が出来上がっていますね!

(山口)

職人とお客様との間にコミュニケーションが生まれているように感じています。損紙に新しい価値を付けて伝統産業における新しいサステナブルへの挑戦の一歩が、こんなふうに職人さんが楽しんだり、気持ちが上がったりする循環が生まれるなんて驚きです。今後、ショッパーがお客様の手に届くようになれば越前和紙の魅力に触れてもらえる機会にもなりますし、今までにない和紙の魅力の伝え方だなと思います。

(守田)

とても嬉しいです。今後は損紙だけにとらわれず、日本ならではの技術を次世代に引き継いでいくために、今の時代に合わせてまずは「今、きとんと循環する」仕組みを作っていきたいと思います。どんどん生まれる新しい技術は等しく技術のひとつとして捉えて、山伝製紙さんとの取り組みの中で「古くから伝わる技術と新しい感性の融合」を楽しんでいきたいです。


ー 伝統産業にリスペクトを持ちながらサステナブルの考え方を上手く取り入れて、新しいことに挑戦してみようと取り組むおふたりの姿勢からは学ぶことが多く、伝統産業を守りながらサステナブルを追求するためには、時代の流れやニーズをうまく取り入れながら「進化」していくことが大切だなと感じました。


8月16日からは新宿ミロード1階の大型ウィンドウでショッパーの展示がスタート。ギフト用のショッパーとして手に取れる日も近いとのことなので、今後の展開がとても楽しみです。


会社概要

【ペーパーパレード】

デジタルとフィジカルの境界を横断しながら紙や印刷の新しい価値を生み出すことをテーマにし、産業構造の変化にともない、未来に引き継ぐことが難しくなってきている技術をすくいあげ、新しい可能性を見出し、提案するデザイン会社です。

社名:株式会社ペーパーパレード

代表:和田 由里子

設立:2020年1月22日

所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-59-8-208

WEBサイト:https://paperparade.tokyo/

Instagram:@paperparade.tokyo

プレスリリース一覧:https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/57221

 

【山伝製紙】

明治初年度より手漉きチリ紙製造を営み、昭和8年に手漉き美術小間紙に転向。越前の地に根付いてきた越前和紙の技、精神を守りつつ、時代毎の技術やチャレンジ精神を持ち、越前美術紙や機能紙を平版やロールで製造しています。

社名:山伝製紙株式会社

代表:山口 和弘

創業:1964年 9月 1日

所在地:福井県越前市南小山町13-23

WEBサイト:https://www.yamaden-seishi.com/



 インタビュー・文 / 木村 真奈美









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