HOMEライフスタイル 転倒骨折防止床材「ころやわ」開発のスタートアップMagic Shields代表取締役CEO下村明司氏からZ世代へのメッセージ(後編)

転倒骨折防止床材「ころやわ」開発のスタートアップMagic Shields代表取締役CEO下村明司氏からZ世代へのメッセージ(後編)

澤田真一

2024/10/31(最終更新日:2024/10/31)


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高齢者の転倒事故を軽減する衝撃吸収材「ころやわ」を開発・販売する静岡県浜松市の株式会社Magic Shields。前編では、同社代表取締役CEOの下村明司氏にころやわの機能や役割、導入実績などを聞きました。

後編では、世界的企業の社員だった下村氏がMagic Shieldsを設立するに至った理由や、なぜころやわを開発したのか、そしてころやわが目指す光景について聞きます。

レーサーと事故は隣り合わせ

静岡県西部の経済の中核を担うヤマハ。紫のロゴのヤマハ株式会社、赤いロゴのヤマハ発動機株式会社は、いずれも磐田・浜松・掛川などに雇用と受注をもたらしています。

「私はかつて、ヤマハ発動機に社員として14年在籍していました。バイクの設計に携わりながらも、自分でレースにも出場していました」

主にオフロードのレースに出場していたという下村氏。ヤマハ発動機の社員や関係者には、こうした「自らもレースに挑戦する」という人が少なくないようです。しかし、モーターレースには常に事故がつきもの。

「ヤマハに在籍した14年間で、幾度も事故に遭いました。鎖骨をいっぺんに2本折ったりとか……。天竜川のコースで前転して、地面とバイクの間に自分の身体が入ってしまったということもあります。それと、友人がバイク事故でなくなったという出来事もありまして……」

モトクロス(専用のオートバイで走行する競技)は、毎月のように世界のどこかのコースで死傷者が発生します。オフロードを果敢に疾走する勇者は、常に事故の危険と隣り合わせです。

そうした数々の出来事が、下村氏に「安全に対する意識」を与えたといいます。

「私はロッククライミングもやるのですが、そこでも友人が事故で亡くなりました。それらの経験から、ニュース番組で報道されている悲惨な交通事故の話題などはとても見ていられなくなりました」

センサー内蔵製品も開発

安全を担保する発明品をビジネスにする。そうした志から、下村氏は2019年にMagic Shieldsを設立します。

開発されたばかりのころやわは、現行製品よりも遥かに分厚いものでした。それが改良を経て、1.2cmにまで薄くなりました。その上で、ころやわにセンサーを埋め込んでIoT化する改良も実施され、既に販売が行われています。

「このセンサー内蔵ころやわの上で転倒すると、“アクシデントが発生した”という通知が施設の管理者に行く仕組みです。また、常に重量を検知する仕組みですから、それを要介護者の生活データとして収集・活用することもできます」

さらに、その数歩先の光景についても下村氏は語ります。

「そうしたデータを集めることができれば、保険料の算出にも活用できるのではないでしょうか。センサー内蔵のころやわを通じて、“屋根の下のデータ”を全部取れるようにしたいなと考えています」

「意識の変革」に挑戦

もちろん、当初からの目的である「高齢者の転倒による負傷の削減=医療費発生の抑制」にも焦点を当て続けると下村氏は説明します。

「我々は“転倒骨折ゼロプロジェクト”というものを行っています。日本では毎年、転倒による骨折患者が毎年100万人ほど出ています。それに対して支出される医療・介護関連費は約2兆円。骨折をゼロにできれば、当然ながら費用は発生しません。

その取り組みをまずは浜松市内から全国に広げます。日本で2兆円の費用を削減できた実績が生まれると、そのシステムを海外へ輸出する選択肢も浮上します。これはちょうど、新幹線システムを輸出するような要領です」

さらに下村氏は、「転倒骨折に対する一般市民の意識」についても触れます。

「たとえば、飲酒運転に対する意識は昔よりも大きく変わりました。お酒を飲んでハンドルを握ると、取り返しのつかないことになってしまう。そうしたことは、今や誰でも心得ています。

転倒骨折もそれと同じで、発生すると本人だけでなくその周囲の人に多大な負担を与えてしまいます。だからこそ、しっかり予防しないといけません。そうした啓蒙活動を今後していきたいと考えています」

Z世代へのメッセージ

最後に、下村氏からZ世代へ伝えたいことを聞きました。

「やっぱり、やりたいことをどんどんやってみるしかないと思います。今は正解がない時代で、しかもAIが台頭するなか、人間がやりたいことを人間自身がやるというのが大事ではないでしょうか。

理論的には不可能と言われていたことが、やっているうちにだんだんと実現可能になっていくという現象があります。

ころやわがまさにそうです。“普段は硬いけれど、転倒したら柔らかくなる”という床材は実現不可能と言われていました。しかし、あれこれやっているうちに不可能と思われていた機能が具現化し、厚さも最初の頃から大幅に薄くなりました。

そうした現象を鑑みると、“興味に基づいていろいろと試してみよう”ということが肝心だと思います」

自分の今いる場所が首都圏でなくとも、世界市場を目指すスタートアップを設立することができる。果敢な行動と安全の担保の両立を目指すヤマハスピリットの継承者は、我々に「挑戦に向けた勇気」を教えてくれるようです。

<参照>

株式会社Magic Shields

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