“きつい・汚い・危険”の頭文字を取った言葉として有名な「3K」。就活の軸を決めていくなかで、「3Kだけは避けたい……!」と心に誓う人は決して珍しくないでしょう。
「ポジティブ3Kを社員みんなで目指せば、誰もが前向きに働ける会社を作れます!」
そう語るのは、高級メガネで有名な福井県鯖江市にある『株式会社ワカヤマ』代表取締役社長の若山健太郎さん。
ワカヤマは、”色の力”で製品のあらたな価値を提供する「メッキ・塗装」の会社です。ポジティブ3Kを掲げてから約5年、入社を希望する若手人材がどんどん増え、売上も2倍以上を記録しているそうです。
地方の中小企業、それも「メッキ・塗装」と一見すると若手からの人気が集まりにくそうな業種の会社に、なぜ人材が、そしてお客様が集まるのか? 若山社長にインタビューでお話を聞きました。
会社が自然に動き出すポジティブ3K
ーーーワカヤマが掲げているポジティブ3Kとは、どのようなものなのでしょうか?
若山健太郎(以下、若山):ポジティブ3Kは、「きれい・かんたん・きもちいい」の頭文字を取ったオリジナルの言葉です。
社員がワカヤマで働くうえで、自分で考えて行動ができる指針として、この言葉を掲げています。
ーーーポジティブ3Kについて、ぜひ詳しく教えてください。
若山:「きれい・かんたん・きもちいい」は、普段から使われている言葉なので、どんなバックグラウンドの方にも伝わりやすい言葉です。また、文字数も3・4・5文字と取り組みやすい順に並んでいるので、覚えやすいと思います。
まず、「きれい」は、その名の通り会社自体をきれいにしていくことです。たとえば、就活生が「この会社で働いていきたいか?」と思う視点で考えると、社内がどれだけ「きれい」なのかは、大きな意味をもたらすと思うんですよね。
とくに、私たちのような「メッキ・塗装」の会社は、業務上どうしても汚れが出てしまいます。そのようななかでも「“きれい”な環境を維持しよう!」というシンプルかつ誰でも始めやすい行動指針を掲げました。
ーーー「かんたん」についても気になります。
若山:「かんたん」は「仕事をいまよりもシンプルにできる方法はないかな?」と、考えさせてくれる言葉です。
今までは、”生産性を向上させよう”と伝えていたのですが、社員さんたちには結局何をして欲しいのか伝わってなかった。でも、「かんたん」を掲げてからは、小さなことでも少しずつ改善が進んでいき、皆も自信がついてきたようです。
例えば、長く使い続けて切れ味が落ちたハサミを、不便だと思いながらも「そこにあるから」と使い続けているケースはないでしょうか。
「かんたん」を意識すれば、新しいハサミを使えばグッと効率がアップするなど、とても小さなことかもしれませんが、そういった効率化に社員それぞれがどんどん気付けるようになるのです。
とはいえ、仕事の効率化というものは、知識や経験をもとにして初めて「かんたん」を導き出せる場合が多くあるでしょう。そのため、まず社員には「きれい」を意識しつつ、徐々に「かんたん」を取り入れていってもらえるように話しています。
ーーー「きもちいい」についてもぜひお聞きしたいです。
若山:仕事をしていくなかで、いまやっていることは「きもちいい」のか? という視点で物事を捉えると、働くのが楽しくなるんです!
例えば、電気の消し忘れがあったとき「誰のせい?」と追求しなければならないのは、気持ちがよくありませんよね。だから私たちは、「きもちいい」状態にするために、消し忘れの多い渡り廊下の電気を人感センサーに変更しました。
ほかにも、ワカヤマの社員は、お客様との対話のなかでも「きもちいい」を常に探っています。
“自分だけが得をしていないか?” “お客様も一緒に笑っていられるような取引ができているか?”など、「きもちいい」を基準にするだけで、自然と周囲との関係が良好になっていくんです。
「3つ」「誰でも理解が同じ」
ーーーどのような発想で、ポジティブ3Kを掲げるに至ったのでしょうか?
若山:そもそも人間の頭って、物事を一気に覚えるのは3個までが限界なんですよ! 5個や6個も目標を並べられても、いざというときに全部思い出せないと思うんですよね。
見学に来られた「5S」を推進されている社長さんたちですら、「5つすべて言ってください」と言うと、ほとんど答えられません。
しかも、推進しているリーダーである社長ですら「整理」ってどういう意味なのか説明できない。つまり、今までリーダーである自分自身が理解していない言葉を使って、社員さんにそれをやってくれと頼んでいたわけなんです。これではうまくいくはずがありません。
ほかにも、社員が「どのように行動すれば良いのか?」が伝わらない内容だと、どんな素晴らしい言葉を並べても、目標を掲げている意味がありません。「生産性向上を目指そう」などが良い例です。
そのようなケースを避けるためにも、「3つ」「誰でも理解が同じ」を意識した言葉としてポジティブ3Kが生まれました。
ーーーポジティブ3Kを掲げてから、どのような効果がありましたか?
若山:私がいなくても、会社が回るようになりました(笑)。
いままでは、出張に出かけても1時間おきに会社から電話がかかってくるような状態でしたし、私が会社にいないと会社全体の歩みもストップしてしまうような不安が常にありました。
しかし、社員それぞれが自主的に物事を考え、前向きに仕事をするようになったいま、その心配は完全に消えています。
例えば、私が海外へ出張に行っているあいだに、いつの間にか大きな売上が立っているケースは珍しくありません。実際に、ポジティブ3Kを掲げるようになってから、会社全体の業績は2倍以上に上昇しています。
多様性を見える化し、チーム力を最大化
ーーーほかに、社員が伸び伸びと働くために工夫していることがあれば教えてください。
若山:「きもちいい」の一環として、社員それぞれの思考や行動の特性を見える化して、お互いを補完できるチーム作りをしています。具体的には、私を含めた社員全体に対し「EG」を取り入れるようにしています。
※EG
「エマジェネティックス」と呼ばれる脳神経科学にもとづいた心理測定ツール。人間の行動特性を「分析型・構造型・社交型・コンセプト型」の4種類を数値にして導き出す。
例えば、私は脈絡もなくいろんなことを思いつくコンセプト型なのですが、社員の多くは一つのことに集中する構造型なので、思考プロセスが全く異なるんです。
ですから「社長の言っていること分からん!」と言われても、そうだよね。と歩み寄れるため、お互いの良いところのバランスがとりやすいんです。
普段のコミュニケーションにおいても「EG」の結果を参考にすることがあります。人のために動くことに喜びを強く感じている社員には「この仕事をすると誰が喜ぶのか?」まできちんと伝えると、前向きに仕事をしてくれるようになるんです。
社員の特性をしっかりと把握したうえで、その人が一番輝ける仕事を任していく。だからこそ、ワカヤマには前向きに働いている社員が多くいるのだと感じています。
後編では「なぜワカヤマに全国からお客様が集まるのか?」を軸にしたお話をお聞きしています。
インタビュイープロフィール
株式会社ワカヤマ
代表取締役 若山 健太郎
1982年に、高級メガネのまちである福井県鯖江市に生まれる。
2005年にオレゴン大学卒業後、眼鏡フレームメーカーにて、一連の加工業務を経験。
2016年には、父親より株式会社ワカヤマを受け継ぐ。
「きれい・かんたん・きもちいい」を掲げたワカヤマ独自のポジティブ3Kは、社員から高い評価を得ているという。
当たり前に存在する物に“色彩”を加えて、あらたな価値を生み出すことに専念した結果、代表就任後の売上を2倍以上にアップさせた実績をもつ。
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