女性特有の健康問題として、月経困難症・PMS(月経前症候群)・更年期症状などが挙げられます。「女性なら経験するものだから……」と放っておく人も多く目にしますが、心身の不調により仕事のパフォーマンスに影響が出ることも。
前編では、日本女性医学学会認定 女性ヘルスケア専門薬剤師であり、大塚製薬「女性の健康推進プロジェクト」リーダーの西山和枝さんにインタビュー。女性の健康問題は女性だけの問題ではなく、社会全体がかかわることだと語りました。
後編では、「どのくらいの症状で病院に行くべき?」「周りができることは?」など、見逃されがちな女性の健康問題についての疑問を投げかけてみました。
前編「大塚製薬・女性の健康推進プロジェクトリーダーに聞いた 月経困難症・PMS・更年期症状がもたらす影響【前編】」
「女性だから仕方ない」で終わらせない
女性ホルモンの影響による健康問題は多岐にわたります。PMSをはじめ、月経や月経不順、さらには月経過多などの症状が挙げられます。
西山さんは「月経周期をみると、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモンが毎月大きく揺れ動いていて、1カ月でハッピーな時期は、月経が終わってから次の月経までのわずか1週間だけ。この時期は肌の調子がよく、仕事もはかどり、何をやっても楽しいと感じることが多いのに、その後はPMSが現れるんですよね」と話します。
また、「いまだに日本では女性に無償労働を強いられる社会背景があり、うつ病や不妊に悩む女性も多くみられます」と、女性の健康問題は社会的文脈と影響していることも言及しました。
さまざまな女性ならではの健康問題がありますが、多くの女性は身体に症状があらわれても「女性だから仕方がない」と見過ごしてしまう傾向があるのだとか。たしかに、PMSは次の月経が始まると軽くなったり消えたりするため、「仕方がない」と毎月やり過ごせてしまうのも事実です。
現代と比べると「我慢が美徳」とされてきた時代も。「鎮痛剤を飲むと、身体に悪いと叱られることもありました。リテラシーの低い親に育てられた子どもは知らないことが多く、次の世代にもそれが引き継がれてしまう。だからこそ、親御さんにはしっかりと知識をもってもらう必要があります」と話しました。
女性の7割が女性ホルモンについて「知識がない」と回答
親がリテラシーをもつことの重要性について話してもらいましたが、長年、上の世代の人たちが「これが普通だ」と思い込んできた考えを変えるのは、簡単なことではありません。そこで、女性の健康推進プロジェクトでは、若い世代に対して「自分の身体はこうやって変化していくものだから、今できることは何か? 将来のために何をすべきか?」と、問題提起しているといいます。
さらに、プレコンセプションケア、つまり妊娠前の健康管理の重要性にも言及。「痩せていることが美しいとされる風潮のなかで、朝食を抜いたり、過度なダイエットに走ったりする人が多くいます。過度な痩せすぎは骨に負荷がかからず、結果として骨がもろくなることもあるので、本当に痩せていることがいいのかを考え、外見だけでなく身体の内側から健康であることが大切であることを若い世代にも伝えていきたいです」と話しました。
「女性のヘルスリテラシー調査」によると、女性ホルモンについて「知識がない」と回答した女性は全体の7割(※)。先ほど西山さんが指摘したリテラシーの低さは、数字にも表れているようです。
リテラシーを向上するためには「知ること、気づくこと、相談すること、そして対処すること」が重要だそう。しかし、「もしかして……」と気づいても、相談や対処など、次のステップに進むことが難しいと話します。
次のステップにつなげるためには、「企業でのセミナーを開催するときは、参加したインセンティブとして弊社の製品をプレゼントすることもあります。それを使ってもらうことで、対処にもつながるのがポイントです」と、さまざまな工夫を凝らした取り組みを行っているといいます。
※ 出典:女性の健康推進プロジェクト「女性のヘルスリテラシー調査」
「これはPMSだ」と自己判断することの危険性
では、行動に移している人とそうでない人では、どのような違いがあるのでしょうか。「女性のヘルスリテラシー調査(※)」によると、医療機関を利用している人は「自然体で過ごせる」「人に対して思いやりがもてる」「心に余裕がもてる」など、現在の生活に対する満足度が高いことがわかりました。
セルフケアは、運動や栄養、サプリメントだけでなく、定期的な婦人科検診も含まれることを強調。大塚製薬の「更年期ラボ」では、PMSやそのほかの婦人科の問題について相談できる医療施設の一覧が掲載されており、相性の合う先生を見つける手助けをしています。
さらに、どのレベルで病院に行くべきかという質問に対して、西山さんは「月経が始まったら、女性の人生の伴走者となる「かかりつけ婦人科医」をもつことが理想。体調の変化や不調は個人差が大きく、一人ひとりの感じ方やレベルも異なります。『これくらいなら大丈夫』と思う人もいれば、『私にはつらい』と感じる人もいるので、その違いを理解することが大切です」と話しました。
更年期に悩んだら「更年期ラボ」内にある「更年期セルフチェック」、PMSに悩んだら「PMSラボ」内にある「PMSチェック」を活用し、病院に受診することも推奨。
「多くの人は我慢の限界まで耐え続け、病院に行ったときには言いたいことが溢れてしまって、何が問題かわからなくなってしまうことがあります。セルフチェックをしてみて、自身の状態を把握し、小さな違和感や変化を感じた時点で相談することが大切です」と活用方法を説明しました。
とはいえ、チェックシートに頼りすぎてしまうことで危険がはらむこともあるそうです。「セルフチェックは便利な一方で、それだけを頼りにして自己診断をしてしまう人もいます。自身の症状を決めつけてしまうことで、その裏に潜む別の疾患を見逃してしまう可能性もあるので、ちょっとした変化を感じたら、クリニックに行って診断を受けることが重要です」と指摘しました。
※ 出典:女性の健康推進プロジェクト「女性のヘルスリテラシー調査」
女性が働きやすい環境をつくるために企業ができること
女性当事者だけでなく、周りが健康課題に目を向けることは重要だといいます。その第一歩として「更年期ラボ」や「PMSラボ」を社内で共有することを挙げてもらいました。さらに、更年期ラボの「WAGAZINE」は、マガジンをめくるように、視覚的に楽しく自分自身について学べる内容となっているとのこと。
「これらはリテラシー向上のためのツールにもなります。情報を載せておくだけで、社員がアクセスしやすくなりますし、手軽に健康に関する知識を得られます。さらに、セミナーやワークショップ開催にもつなげていただくことで、企業全体のサポート体制が強化されるでしょう」と話しました。
さらに、同社は「女性の健康推進プロジェクト」のYouTubeチャンネルも開設しています。視覚的に情報収集をしたい人、文章を読んで理解したい人など、それぞれの好みに合わせたツールを活用して、誰もが過ごしやすい環境づくりに向けて学びを深めることができます。
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