月経困難症やPMS(月経前症候群)、更年期症状など、女性特有の体調やメンタルヘルスの問題は、いまだにオープンに語られない現状があります。これらは「女性だけの問題」として捉えられがちですが、実は社会全体に大きく影響するものです。
日本医療政策機構の調査(※)によると、働く日本人女性の約80%が月経随伴症状(月経困難症、PMS)や更年期症状(ほてり、イライラ、不眠など)により、仕事の生産性に影響を受けていることがわかりました。
さらに、月経随伴症状や更年期症状による欠勤により、日本全体で年間約3,628億円もの経済損失が発生するともいわれています。そんななか、大塚製薬株式会社(以下、大塚製薬)の「女性の健康推進プロジェクト」では、表面上には出にくい女性の健康課題を可視化するための取り組みを実施。
本記事では、日本女性医学学会認定 女性ヘルスケア専門薬剤師であり、同社「女性の健康推進プロジェクト」リーダーの西山和枝さんに、女性の健康がいかに社会に影響を及ぼすか、男性も理解することの必要性について話してもらいました。
※ 出典:日本医療政策機構「社会経済的要因と女性の健康に関する調査提言」
「他人事ではない」女性の健康課題がもたらす影響
現「女性の健康推進プロジェクト」の部署が発足して約10年。大塚製薬の女性健康を応援する製品展開とともに、女性の健康における啓発活動を行っています。
プロジェクトリーダーの西山さんは「10年前は『女性ホルモンの働きについて知っていますか』と質問しても、ご存知の方が少なかった。なので、まずは女性自身のヘルスリテラシーを高めていただくために、啓発活動を始めました」と、部署発足時を振り返りました。
本プロジェクトでは、ヘルスリテラシー向上のために、女性だけでなく企業に向けたセミナーも実施しているとか。始めた当初は、40代以降の女性が集まっていましたが、聴講者から「管理職含む男性にも知ってほしい」との声を受けて、男性に向けた啓発活動も行うようになったとのこと。
そのことについて、「働く女性の健康課題に向き合うことで、生産性向上や長期的なキャリア形成にもつながります。当時はタブー視された話題だったので、男性に啓発するのは難しかったですが、男性管理職や経営者層だけを集めてセミナーを実施するなど、地道な活動を行うことで、徐々に男性参加者が増えていきました」と、当時の苦労を振り返りました。
話を聞くなかで、「妻の体調不良はこういう理由かもしれない」といった気づきを得られた男性もいたと話します。一方で、女性の健康についてコミュニケーションが生まれたと同時に、社内でこうした話題を共有することで「セクハラにつながるのでは」といった懸念の声も。
このような意見を受け、本プロジェクトでは「こういう話を聞いたんだけどどう思う?」と、セミナーで学んだ話を第三者の意見として話題に出すことを推奨する工夫もしているそうです。
「更年期症状」で約1.9兆円の経済損失
啓発活動を行うなかで、女性の健康に対する意識の変化は「窓口によって変わる」と語る西山さん。具体的には、「会社の人事や総務、経営者層のアンテナの感度によって、受け取る情報が大きく異なる。特に地方ではその差を感じます」と言及しました。
SNS上でも「なぜ女性ばかりが優遇されているのか。男性の健康も重要だ」という意見を目にすることがあるとインタビューの中でも話題になりました。しかし、メタボ検診をはじめ、「男性の…」と枕詞をつけなくても男性の健康に着目した制度や対策はこれまでもありました。
また、生産年齢人口割合が減少していく日本において、女性の労働力確保は必至です。今や女性活躍推進法が施行され、企業における女性の管理職や役員の比率30%以上を目指す時代。女性が活躍するには、その土台となる女性の健康について、社会全体が考えなければなりません。
論理的に示すには「数値」が大事だと話します。その一例として、2月に経済産業省が公表した「女性特有の健康課題による社会全体の経済損失」の試算結果を挙げました。細かく見ると、「月経随伴症」約0.6兆円、「更年期症状」約1.9兆円、「婦人科がん」約0.6兆円など、女性特有の健康課題が大きな経済損失であることがわかります。
「PMS(月経前症候群)や他の疾患に悩む若い社員は多い印象です。しかし、ある程度成熟した企業になると、更年期世代の女性も一定数いるため、更年期症状の問題を見過ごせないと感じます」と女性の健康課題について言及しました。
出典:経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」
健康課題とどう向き合う? 今とこれから
現「女性の健康推進プロジェクト」という部署が発足して10年。西山さんは「恥ずかしい話ではなく、発信していかないといけないこととして考える人が増えてきて、時代は大きく変わったと感じます」と、話しました。
「産婦人科クリニック=子供を出産する場所」というイメージも徐々に払拭され、若者を中心に婦人科に足を運ぶことに抵抗を感じない人たちも増えつつあるなか、「これから徐々に自分の健康課題と向き合う人が増えるのではないか」と、これからの未来について話しました。
出典:女性の健康推進プロジェクト『ヘルスリテラシー調査』
10月29日午前7時配信の後編では、「どのくらいの症状で病院に行くべき?」「周りができることは?」など、見逃されがちな女性の健康問題についての疑問を聞きました。
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