生理用ナプキンが無料で提供されるディスペンサー「OiTr」。女性のなかには商業施設などで見かけたり、利用したりしたことがあるという人もいるのではないでしょうか。シンプルながらも生理のある女性なら誰もが必要とするこのサービスを開発したのは、実は男性なのです。
インタビュー後編では、生理用ナプキンディスペンサー「OiTr」を提供する株式会社オイテルの取締役の飯﨑俊彦さんに、サービス開始から3年経つOiTrの今後の展望などについてお聞きしました。
前編「生理ナプキンディスペンサー「OiTr(オイテル)」の商品企画をした飯﨑俊彦さんに聞く 女性の心理的負担に寄り添い「あるのが当たり前」を目指すまで【インタビュー前編】」
サービス開始から3年、今の問題は?
―――サービス開始から3年が経ちましたが、改善を検討している部分はありますか?
飯﨑さん:私たちは、ハードウェアやソフトウェア開発の実務経験者がいないなか、開発を始めてから1年でOiTrのプロトタイプ(試作品)を作りあげました。さらに、コロナ禍ではありましたが大型商業施設にて実証テストを行い、2021年8月にリリースすることができました。
商業施設が休業しているこのタイミングで(実証テストを)やるべきか悩みましたが、生理のあるすべての人が必要とするサービスであるため、思い切って踏み出しました。
短期間で開発したこともあり、 いくつかの課題も残っていましたが、リリース後にアップデートし課題解決を行ってまいりました。そのなかでも、ナプキンの詰まり、回線不良などの一時的な不具合により、ナプキンが受け取れない場合がどうしても発生してしまうことです。
柔らかい形状のナプキンを一枚一枚ディスペンサーから出す仕組みは難しいことは開発当初より認識して商品開発を行なってまいりました。また、ナプキンの補充はトイレットペーパーと同じく、施設の清掃員の方に補充していただくのですが、補充の仕方でも影響するため、設置導入時にマニュアルで補充方法を案内しています。
さらに、ナプキンの在庫切れです。ディスペンサーにナプキンが入っていないときには画面にお知らせの表示、また管理サイトで状況を把握できる仕様になっていますが、各施設の清掃業務運用により1日の巡回が異なることからも、迅速に補充を行えない状況もあることが現実です。
ナプキンの詰まりの解決案の一つに、生理用品メーカー様がOiTr(ディスペンサー)仕様のナプキンを開発をご協力いただくことがあります。しかし、それに至るには市場拡大を行っていかなければなりません。また、ナプキンの在庫切れを解決するには、ナプキンの補充にかかる作業費(トイレの維持管理費)をどうやって解決していくかということにかかっているんです。
全国のトイレで生理用品が当たり前にある状態にしたい
―――そのほかに3年経って変わった点はありますか?
飯﨑さん:今年になってOiTrと同じようなサービスを提供する企業が出てきました。これは、OiTrというソーシャルサービスが社会的価値のあるものである証です。
ビジネスである以上、競合他社との競争は避けられませんが、私たちの最終的なゴールは、トイレットペーパー同様に生理用品が個室トイレに行き届く社会のインフラを整えることだからです。
私たちだけでそれを実現しようとすれば、何百年もかかるかもしれませんが、競合が増えることで数十年でそういった社会が実現するかもしれないからです。
競争が激化する反面、導入施設も増え、私たちのサービスが単に生理のある方の問題ではなく、社会問題として国が認識することになるでしょう。その結果、設置施設導入の補助金制度につながる可能性もあると考えています。
私たちがまず生理用ナプキンディスペンサーに踏み出したことがきっかけで、生理のある方たちの「生活上の問題」を解決することによって、新市場を創造し、生活変化をもたらすことになるのです。
ナプキンの排出口を2つ設けた理由
―――若手ビジネスパーソンに向けて、自分と違う立場のユーザーのニーズを把握する際のポイントがあれば教えてください。
飯﨑さん:徹底的に自分をそのユーザーの立場に置くしかないと思います。
つまり、自分がターゲットではないことをしっかり認識することなんです。OiTrのターゲットを定め、どのような人にOiTrを設置してもらい、利用してもらいたいのか。どのような人たちにとってOiTrは価値を発揮し、生活を豊かにするのか。ターゲットを具体的に絞り込むことが重要でした。
具体的にターゲット層を代表するような人物を選び、ペルソナ作りをすることで認識を共有しやすくなります。同時に、自分の価値観だけで考えず、固定概念にとらわれず、きちんとターゲットを理解することが大切です。ターゲットを深く理解するために、ヒアリングを重ねながら考えていきました。
例えば、実証テストでOiTrを利用したユーザーから「ナプキンが出てくるとき静かでよかった」という声がいくつかありました。ディスペンサーからナプキンが出てくればそれでいいと思っていたので、音はあまり意識していませんでした。個室トイレ内で生理用品を使用していることすら他人に知られたくないという気持ちがあるとは、正直、想像もつきませんでした。
ユーザーの立場に身を置いて考えようと努めても、実証テストでご利用いただいてはじめて見えてくることも多かったです。特に起業した頃は男性メンバーだけでOiTrを進めていたので、このサービスが男性目線の発想だと思われたくなく、ユーザーに寄り添ったサービスとなるように努めました。
OiTrのディスペンサーに2つナプキンの排出口を設けたのも、その結果です。
機器だけにトラブルもゼロではありません。ナプキンが詰まることもあります。それを想定して、2つ排出口を設けることで、1つの排出口から受け取れなくても、もう1つの排出口から受け取れる仕様にしたのです。ナプキンの収容枚数が同じでも2つ排出口を設けることの違い、この考えが大事なんです。
小中学校・高校にOiTrを設置していくための「新OiTr」?
―――今後OiTrはどのように展開していく予定ですか?
飯﨑さん:OiTrの今後の成⻑と継続のためには、広告協賛の獲得と顧客やエンドユーザーとの関係深化が必要です。私たちはOiTrのプラットフォームであるデジタルサイネージとスマートフォンを活⽤して、顧客やエンドユーザーのニーズに応じた多⾓的なサービスの展開が重要と考えています。
ただ、現状ではOiTrは小中学校・高校には設置してはおりません。というのも、OiTrは、スマホを利用したサービスだからです。特に小中の年齢だとスマホを持っていない・持たせない親もいるので、ナプキンを受け取れる子とそうでない子が出てきて格差が生じてしまうからです。そもそもOiTrは格差をなくすものであるので、OiTrによって格差を生じるようなことはしたくないという考えからです。
実は、京都の一部の小中学校で、スマホを使わずにナプキンが受け取れるOiTrをテスト導入しています。特に小学校は初潮がくる時期で、不安も多いと思うので、できる限り早く実現できるようにしたいと思っています。
また、OiTrに設置されたデジタルサイネージは広告放映だけでなく、将来的にはコンテンツを提供できればと考えています。例えば、学校のトイレのなかで性教育のコンテンツを流し、子どもたちの学びに貢献できるようになるかもしれません。
これからも全国にOiTrの設置を増やしていき、OiTrのプラットフォームを構築することで、新たなユーザーへのサービスの提供、さらに設置導入いただいた施設様がこのプラットフォームを活用いただだき、集客、収益をあげられるようなサービスも展開したいと考えています。
「OiTr(オイテル)」公式サイト
https://www.oitr.jp/
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