大手家電メーカー、タイガー魔法瓶商品企画第2チーム村田勝則氏は、「魔法のかまどごはん」の開発者として知られています。
新聞紙を燃やして誰でも手軽に直火ごはんを作ることができるこの商品は、2024年1月1日を境に注目されるようになりました。能登半島地震をきっかけに、魔法のかまどごはんに予約注文が殺到するようになったのです。
後編では、「震災以後の魔法のかまどごはん」の話題からZ世代に向けたメッセージもお聞きしていきます。
前編「新聞紙で炊く直火炊飯器「魔法のかまどごはん」の開発者・村田勝則氏に聞く「社内でイノベーションを創出する方法」」
運命の2024年1月1日
今年の正月三が日は、例年のそれとは全く異なる光景が繰り広げられました。
元日の夕方に発生した能登半島地震は、被災各地の道路・電気・ガス・水道インフラを引き裂きました。そのため、真冬の寒い中、家電製品は使用不可能に。
そんななか、発売から3カ月も経っていない魔法のかまどごはんが意図しない形で脚光を浴びることになりました。
「能登半島地震をきっかけに、魔法のかまどごはんの売り上げが著しく伸びたのは事実です」
そう語る村田氏は、しかし決して明るい表情ではありません。
「これは、喜べる話では決してありません。一方で、南海トラフ地震のような大震災が想定されていない地域であれだけの災害が発生したという事実に対して、大変な関心が集まったのもまた事実です」
震災以後、あらゆるメディアが魔法のかまどごはんを取り上げるようになりました。それは同時に、タイガー魔法瓶の製品生産体制にインパクトを与える現象でもあったようです。
「それまでは生産体制が追いついていなかった部分があったのですが、能登半島地震をきっかけに体制が見直されました。お客様をお待たせしている間に、災害が発生するようなことはあってはいけません。今では注文からすぐにお届けできる体制に何とかなりました」
日本は「白米文化の国」
日本人と米は、切っても切り離せません。米自体は大陸から伝わった穀物ですが、村田氏は「日本は白米文化の国」と語ります。
「“白米を美味しく炊く”というのは、日本独特の文化ではないでしょうか。“始めちょろちょろ、中ぱっぱ”という炊き方も、日本独特のものです。
これが大陸の国だったら、甘みを出すために最初からお粥状にする感じで炊きます。白米で炊いたとしても、そのあとにチャーハンにしたり味噌を混ぜたり……。
しかし日本では、美味しい白米を白米のまま食べるという発想が根付いています。その白米の味を邪魔しない程度の薄味の惣菜、それが日本食だと思います」
我々が普段、当然のように受け入れている白米文化。何気ない日常が自然災害により破壊されると、否が応でも「白米の美味しさやありがたみ」を再認識させられます。
魔法のかまどごはんは「災害に対応できるアウトドア用品」としてのみならず、我々が白米文化と共にあることを改めて教えてくれる製品です。
課題に対する解決
村田氏は、前編でも紹介した通り品質管理部門に所属していました。この時代、村田氏は数々のアイディアを具現化して自身で特許を取得していたとのこと。
「スティーブ・ジョブズのように、何もないところから全く新しいモノを作ってしまうようなことは、私にはできないと思ってます。そうではなく、そこにある課題に対して“自分ならこういう対策ができる”という心構えを持っています」
その1つが、「吹きこぼれを防止する内なべ」です。
「高齢のお客様に多いのですが、柔らかいごはんを作るために水を多めに入れるというケースがよくあります。すると当然、水が吹きこぼれてしまいます。そのあたりをお客様にご説明すると、“前のモデルではそんなことはなかった”と言われてしまいます。ですから私は、吹きこぼれが起きにくい塗装を施した内なべを開発し、特許を取りました」
この話題の中で村田氏が強調したのは、「課題に対する解決」です。
「そこにある課題の解決に成功したら、特許を取れるだけの技術力が自ずとついてきます。私は品質管理担当として、お客様に対する課題解決に臨み、結果的に技術者としての爪痕を残すという経験をしてきました」
Z世代に向けたメッセージ
最後に、村田氏からZ世代の人に向けたメッセージをお伺いしました。
「野外活動施設でアルバイトしていた頃の私自身がそうだったように、学生の時はチャンスがあれば何でも体験してみるのが大事だと思います。いろいろな情報がありふれている時代ですが、レビューだけを見て満足をするのではなく、実体験に時間をかけていただきたいですね。
既に就職している方に向けては、得意ではない仕事でも1から10まで理解して取り組んでいただきたいなと思います。“こなすだけ”の仕事では、スキルは身に付きません。だから、ちゃんと理解するか“理解したつもり”になっていきただきたい。
私、昔上司に“村田は1を聞いただけで10を分かったつもりになっている”とダメ出しされたことがあります。これはあくまでもダメ出しですよ(笑)? ただ、しばらくしてそれは自分のいいところだと思いました。
10を理解したつもりになって、にもかかわらず失敗した時に“俺はどこで間違えたんだ?”という振り返りになります。1しか理解していなかったり、“こなすだけ”の仕事をしていたりすると、失敗してしまった際も“失敗して当然だ”としか思えなくなってしまいます」
エンジニアにとって一番大切なこと、それは自身の経験を活用しようとする情熱かもしれません。若い頃の多様な経験を新しい製品の開発に接続するその情熱は、結果として我々の暮らすこの国をより豊かにしているようです。
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