『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)。大ヒットとなった書籍の著者・三宅香帆さんに、インタビューの前編・中編では、働いていると本が読めなくなる原因などを聞きました。
最終回となる後編では、ChatGPTなど生成AIが発展していく時代の「働き方改革」と、三宅さんの新刊が指摘する「長時間労働がもたらした母娘問題」について語ってもらいました(全3回中3回目)。
【前編】働いていて本が読めないのは、あなたのせいじゃない 『花束みたいな恋をした』の麦くんたちに伝えたいこと
【中編】そもそも本って読まなくてはいけないの? 読めなくなった社会人はどうしたら良い?
ChatGPTは働き方改革に寄与する?
ーーーChatGPTが出始めたころは、人間の労働時間が減っていくんじゃないかという話が特にされていたと思うんですが、最近は、生成AIを使って、より仕事を効率化しようという流れに向かっていて、働く時間は結局減らないんじゃないかという気がします。
減らないと思います。みんなの精神性を変えないと絶対減らないんですよ。
働き方改革は、時間を制限するだけじゃ駄目なんです。働くことがかっこいいという理想像を変えないと、結局ChatGPTを活用しながら働こうということになっちゃうんだと思うんですよ。
ですから、「精神性を変えないと、やっぱり働き方改革は終わらない」と強く言いたいですね。
ーーー生成AIが出ようが出まいが関係なく、人の問題だということですね。
本当に人間の問題だと、とても思います。
長時間労働は家庭の“母娘問題”をもたらす?
―――話は変わりますが、三宅さんは、“娘と母の関係がなぜこじれやすいのか”を分析した『娘が母を殺すには(PLANETS)』という書籍と『なぜ働いてると本が読めなくなるのか』ではテーマが裏表になっていると自身のnoteで書いていました。その理由をお聞きしてもいいですか?
『娘が母を殺すには』は、1970年代以降の少女漫画や少女小説を通して、日本の母と娘の問題がどうやって描かれてきたかを書いている本です。
1970年代は、日本で女性の作家や漫画家が世に出始めた時代なんですよね。その時代から母子問題が日本の文芸界に出始めたのですが、それがなぜなのかというと、日本のお父さんが長時間労働によって不在となった家では、母と子供だけになったからではないかと。
父親がなかなか家にいないとなると、母親が精神的に厳しいときにケアするのは、息子より話のわかる娘になって、母親は娘に頼りになり、母と娘の共依存関係のようになる。
その結果、母娘関係がこじれやすいという話があるので、長時間労働によって、文化や家庭が犠牲になっていることを書いたつもりですね。
ーーー『娘が母を殺すには』を読んでいて面白いなと思ったのは、現実の話をしているものの、例に出てくるのはフィクションが多かったことです。この形式をとられたのは理由があるのでしょうか。
フィクションは現実の問題を映しやすいんです。
臨床心理士の方とかでしたら現実の例を使って説明する方もいらっしゃると思うんですけど、私はそれよりもフィクションを通した方が理解できる人がたくさんいらっしゃると思っていて。
娘さんとの問題に悩む方のなかにも、娘問題が描かれているフィクションを読むことで、自分が抱えている問題って自分だけの問題じゃなくて社会の問題だったんだとか、自分以外にもこういう思いをしてる人っていたんだと気づく方がたくさんいるんじゃないかなと思っています。
フィクションで理解してもらうことが、現実で何かを変えるパワーにつながることって、すごくあるんじゃないかと思うんですよ。そういう意味で、今回はフィクションを読み解きながらの批評という形を取りました。
―――それも、(前・中編で語った)新しい文脈に触れることですね。
そうですね。本当に。
―――U-NOTEの読者層は、20代前半の若手ビジネスパーソンなんですが、アドバイスやメッセージがあればお聞かせいただけますか。
働くことって楽しいし、頑張ったら良い時期だってあるんですけど、でもやっぱり頑張りすぎちゃって疲れて心身の健康を崩す可能性は誰にでもあると思うんですよ。
一度崩してしまうと、もとに戻るのって大変だったりするので、そうなる前に仕事以外の自分を思い出すとか、半身で働くことを思い出すようなきっかけとして本著を読んでもらえたらいいなと思います。
本が読めるぐらいの働き方ができているかなって思えるようなきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。
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