物価高騰が続き、生活費が家計を圧迫しているという人が増えています。日本の食料生産をめぐる問題と物価上昇には関連性があることを踏まえて、農政の憲法とも称される「食料・農業・農村基本法」を約25年ぶりに政府が改正しました。
三菱グループのシンクタンクである株式会社三菱総合研究所(以下、MRI)が、日本の食料生産・農業をめぐって、2050年の「日本の食卓」を予測。日本の農業生産の目指すべき状態と、その実現のための方策を提言として公開しました。
農林水産省|食料・農業・農村基本法
首相官邸|食料安全保障強化政策大綱
紛争や燃料費高騰が「値上げ」を招く
食品の値上げ動向やその展望・見通しを定期的に調査・公開している株式会社帝国データバンク(以下、TDB)が発表した2024年8月の動向によると、8月に実施される食品値上げは642品目だといい、物流費、為替相場の影響(円安動向)が要因だと伝えられています。
また、TDBの分析によると、値上げ要因は以下のように推移しているといいます。
現在の物価高は、2022年から続く原油価格の高騰が発端だと報じられます。原油価格が高くなれば、エネルギー価格だけでなく運送費、プラスチック素材などにも影響を及ぼし、さまざまな品目の値上げの要因となりえます。
2021年からすでに原油価格の上昇がみられていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月)以降、さらに上昇。くわえて、急速に進んだ円安相場の影響を受けて、食品に限らず輸入原材料の価格上昇にもつながっています。
日本の食料自給率は?
TDBの調査からも、海外から食料を調達(輸入)していることが、価格高騰の要因であることは間違いないようです。では、日本の食料自給率(食料供給に対する国内生産の割合のこと)はどれほどのものでしょうか。
農林水産省によると、2022年(令和4年)度の食料自給率の概算値は、カロリーベースで38%、生産額ベースで58%だといいます。これは諸外国と比較してカロリーベース、生産額ベースともに低い水準にあるということです。
海外からの食料調達ができなくなった場合や、農業生産者の高齢化・離農が増えることで、さらに国内生産力が弱まることを不安視する声が聞こえてきてもおかしくない状態です。
「有事」対応には「限界」の水準
MRIは、2024年6月に改定された「食料・農業・農村基本法」を受けて、日本の食料生産・農業の目指すべき状態と、その実現のための方策を提言したといいます。
政策目標の1つとして掲げられた「食料安全保障の強化」。国際情勢や気候変動などを背景として、国内の農業生産の振興をはかり、安定的な輸入と適切な備蓄を組み合わせて強化しようというものです。
MRIは、2050年に耕地面積が270万ha(2020年420万ha)、農業生産額が4.5兆円(2020年8.9兆円)、農業経営体が18万経営体(2020年107万経営体)まで縮小し、カロリーベースの食料自給率は29%にまで低下すると推計しています。
一方、日本の「食卓」が現時点では一定程度充実していることを認め、食料安全保障の状態に「大きな問題はない」ともいいます。しかし、「有事対応」を想定した場合には農業生産力・自給力は限界に近い水準を示していると指摘。
現在の食料安全保障レベルを2050年まで維持するには、農業生産基盤として、耕地面積350万ha・農業生産額8兆円・農業経営体21万経営体が必要だと伝えます。食料安全保障の観点からは、これらが最も重要な農業政策展開上の目標であり、農業生産の目指すべき状態だという見解を示しています。
くわしいレポート、目標達成に向けた提言はこちらから。
<参照>
【提言】食料安全保障の長期ビジョン 2050年・日本の農業が目指すべき状態
8月の食品値上げ642品目 チョコレート・アイスの値上げ続く 秋は半年ぶり値上げラッシュへ
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