今は「1人で所有する時代」から「みんなで共有する時代」になったと言われますが、作家が自身の生命線でもある執筆メソッドを共有していると聞いたら驚きませんか?
作家というと、黙々と執筆活動に集中しているイメージがありますが、ショートショート作家の田丸雅智さんは、「ショートショートの書き方講座」を定期的に開催しています。
今回U-NOTEでは、田丸さんが開催する講座の魅力についてお聞きしました。
ショートショートを広めるために腹をくくった
―――執筆活動だけでなく、「ショートショートの書き方講座」を開く理由について教えていただきたいです。
田丸さん:ひとつには、自分が執筆するだけだと、ショートショートというものが世の中に広がっていかないのではないかと思っていたからです。今でこそ、ショートショートが復興してきていますが、僕がプロデビューした10年以上前は完全に下火になっていて、ショートショートを知らない、聞いたこともないという方が少なくない状態でした。
なので、自分が作品を書くのは当然ながら、知ってもらうための普及活動を同時にやらないとだめだと感じたんです。
未熟な若手の分際で書き方を広めることにとても葛藤はあったのですが、腹をくくって自分の信じるもの・好きなものを広めるためには自分が動かないといけないなと思って書き方講座を始めました。
あとは、誰かがショートショートを書いたり、アイデアをひらめくのを見ると自分が幸せになるからやっているというところも大きいですね。
―――他にどんな普及活動をされてきたのでしょうか。
田丸さん:いろいろあるのですが、ショートショートはその場で完成させられるという特徴があるので、即興ライブというものも折に触れてやってきました。
普段の書き方講座では、来てくださった方に90分の中でワークシートを使いながら1人1作ずつ書いてもらいますが、即興ライブでは、会場の皆さんやゲストの方からもらった単語やアイデアを使って、その場でショートショートを完成させます。
芸人の錦鯉さんやウエストランドさんなど、いろんな方に参加してもらってきました。
あとは、メディアに呼んでいただいたときなども、短縮版の書き方講座をやらせていただくことがありますね。
現在は地元・FM愛媛で「コトバノまほう」というレギュラー番組を持っている田丸さん
講座では「みんなで何かを作る感覚」をやりたい
―――お聞きしていると、ショートショートの魅力を一方的に伝えるというより、インタラクティブな活動をされていると思ったのですが、双方向的であることは意識してらっしゃいますか。
田丸さん:一人が一方的に発信するだけではなく、「みんなで一緒に盛り上げたい」「ともに作っていきたい」という思いは強くあります。よく言うのが、泥遊びを一緒にしている感覚ですね。
小さい頃、砂場や庭などで友だちと川やダムを作ったりしたと思うんですが、みんなでやるということがショートショートでもできたらなと思っています。
―――ショートショートの執筆メソッドを公開することについて、抵抗はなかったのでしょうか。
田丸さん:全くなかったです。むしろ、やりたい、やらねばという思いしかありませんでした。
「ライバルや仲間を育成して大丈夫なんですか」と心配してくださる方もいるのですが、僕自身はむしろ仲間を作って、業界としてみんなで盛り上げていかないとダメだと思っているんです。
僕の活動でショートショートや僕のことを知ってくださった方が、そこで終わってしまっては意味がなくて。どんどん新しい書き手の方や、読み手の方に出てきてほしいと思っています。
夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台となった愛媛県松山市が主催の「坊ちゃん文学賞」の審査員も務める
講座では「自分にもクリエイティビティーがあったんだ」と気づく人が多い
―――「ショートショートの書き方講座」は、企業でも開催されているということですが、どのような反響が多いのでしょうか。
田丸さん:まず、「自分でも書けたんだ」「私にもクリエイティビティーがあったんだ」というようなお声をいただくことが多いですね。普段の仕事では分からなかった、同僚の才能に気づくことができたというお声も多いです。
企業向けのワークショップ「ショートショート発想法」では、普段の90分講座をその企業や業界に沿った内容にアレンジし、後半には、60分ほどの読み解きのパートも加えて、新しい商品やサービスのアイデアを考えてもらうところまでをおこないます。
僕の講座は部署・役職関係なく、いろんな方に受けてもらうので、クリエイティブな役職でない方でも「自分にもクリエイティビティーなことができるんだ」と気づいてもらえることが多いです。
少し前には、みずほ銀行の頭取をはじめとして、みずほフィナンシャルグループの4社長さんにもワークショップを受けていただくという貴重な機会をいただきました。経済界を代表するようなみなさんが素敵なショートショートを書いてくださり、とても刺激的な時間でした。
ほかにも、たとえば、ある保険会社さんで実施させてもらったときは「保険の商品・サービスはすでに開発しきったと思っていたけれど、まだまだ新しいアイデアが出てくることに気づきました」という感想をいただき、ありがたい限りでした。
このワークショップを通じて実際に開発が進んでいたり、僕のメソッドを、未来を考えるためのワークショップに取り入れて展開しはじめたという報告をいただいたりしています。
この企業向けのワークショップの内容をまとめた『ビジネスと空想 ~空想からとんでもないアイデアを生みだす思考法~』というビジネス書も出ていて、メソッドをすべて公開していたり、アイデアや発想するということについての考え方などもまとめていたりしますので、よければお手に取ってみていただけるとうれしいです。
―――ちなみに、ビジネスとの接点という観点で作品集を手に取るとしたら、どの一冊がオススメでしょうか。
そうですね、たとえば著書に、1冊を通じて猫をテーマにした『マタタビ町は猫びより』という本があります。頭にパトカーの回転灯をつけた猫のポリスがいたり、うどん屋の大将が猫だったりと、直接的にはビジネスと全然関係ないのですが、もしかすると「猫」という1つの題材に対するアプローチや膨らませ方は、ビジネスのアイデアを考える際の切り口という観点から参考にしていただけるかもしれません。
どんな人たちに向けて講座を開催していきたいか
―――今後、どんな人たちや場所に向けてショートショートの書き方講座を開催したいと思っていますか。
田丸さん:あらゆる人に向けて、開催していきたいと思っていますが、特に教育現場と企業向けには今後も幅広く開催していきたいです。
今、小4や中1の国語の教科書に僕のメソッドや作品を載せてもらっているので、それをきっかけに、子どもたちにいっぱい空想してもらって、ショートショートのお話を考えてもらう機会を広げたいと思っています。
企業向けでは、ワークショップをきっかけに新しい商品やサービスが社会に生まれるだけでなく、それによって、世の中が良い方向に変わるところまで行きたいなと思っています。
あとは、グローバルにも広げていきたいです。ここ数年、海外でも講座を行っているのですが、通訳の方に入ってもらって、僕が日本語で話して英語などで書いてもらうパターンと、海外の日本語学習者の方に日本語で受講してもらうパターンとがあります。
最近多いのは後者で、オンラインで中国や韓国、トルコなどで開催しています。
最初は、言語って国境を越えないと思っていたんです。
ですが、海外の方向けに開催する機会をいただいたところ、いつものように講座をしたのですが、みんな普通に書けていましたし、笑うポイントもほぼ同じだったので「ショートショートって、国境を越えるんじゃないか」と思ったんです。
考えてみると、ショートショートって、シンプルなアイデアとシンプルなストーリーが基本なので、神話や昔話と近いところがあるんです。神話や昔話って各国で似たようなものもあると思うのですが、ショートショートも文化や言語を越える可能性があると気づけたので、今後は海外向けの講座も広げていきたいです。
日本と海外で反応は違う?それとも…
―――逆に、日本国内と海外で、反応が違うと感じた部分はありましたか。
田丸さん:おもしろいもので、実はそんなにないんですよ。もちろん細かい言語のニュアンスの差はあると思うのですが、反応でいうと、日本でも海外でも同じです。
最初「何をさせられるのかな」と困惑気味なところも、書いた作品をお互いに聞いてニヤニヤしたりするところもほぼ同じです。
作品の内容自体も、今のところは国によって差は感じられないですね。たとえば、シンガポールの日本人学校だと、出てくる単語にマーライオンなど現地のものが混ざっていたりはするのですが、それは身近にあるものが違っただけで、本質的な差ではないように思っています。
内容の違いには、どちらかというと個人の経験や知識が大きく関わってくるように考えています。
後編では、田丸さんが大学で工学部に進みながらも作家になった理由や、空想の魅力などについてお聞きしました。
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インタビュイープロフィール
田丸 雅智(たまる・まさとも)
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。15年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。
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