1912年に創業し、100年以上の歴史を持つ老舗企業オカモトヤ。総合商社として事業を展開する中、2022年に「Fellne(フェルネ)」という新たな事業が立ち上がりました。Fellneは主に女性のQOL向上に焦点を当て、性差による働きにくさの解消を目指しています。
本記事では、オカモトヤの代表・鈴木美樹子さんにインタビュー。Fellneの取り組みを聞きながら、老舗企業が積極的にアップデートし続けている秘訣を探っていきます。
女性のQOLを上げたい
ーまずは、オカモトヤについてご紹介いただけますでしょうか。
オカモトヤは1912年に創業し、今年で112年目を迎えます。主にオフィス関連の総合商社として事業を展開しており、主な事業内容としては、オフィス空間事業が約半分、ICT構築事業が約2割、そしてサプライ事業では文房具やコピー用紙などのオフィス用事務用品の提供を行っています。
ーその中でも1番新しい事業「Fellne」について教えてください。
Fellneは女性のQOL向上を目指し、フェムアクションの選択肢を増やすことをコンセプトに掲げ、新規事業として2022年に開始しました。ここでいうフェムアクションとは、女性活躍やフェムテック(女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決するための製品やサービス)を取り入れた取り組みの総称です。
代表的な製品に「災害用レディースキット」があります。災害時に生理が来ても快適に過ごせるアイテムを装備した「3daysボックス」や「ワンデースリムボックス」を企業向けに提供しています。また、慶應義塾大学の学生が立ち上げたAmcas社との協力で、「災害用下着 survival wear」を開発し、昨年リリースしました。
総合商社がフェムテック市場に参入
ーFellneを立ち上げるまでに、どのような経緯がありましたか。
1つの背景として、現代の日本は労働力の減少や人材不足が問題視され、さらにジェンダーギャップ指数がG7で最下位、という状況があります。また、2022年4月に女性活躍推進法が改正され、中小企業も女性活躍に関する行動計画を策定・実行する必要が生じたことも大きなきっかけです。
このような状況を受けて、2022年に父から会社を承継し社長に就任したタイミングで、より社会に直結する事業を始めようと考えました。
ーオカモトヤはもともと総合商社として事業を展開していましたが、既存の事業が今のフェムアクションにつながることも?
オカモトヤは文房具やオフィス家具などを取り扱う商社で、多くのメーカー製品を扱っています。しかし、お客様はメーカーから直接製品を購入することもできるため、「お客様がなぜオカモトヤから購入するのか」という理由を明確にし、競合他社との差別化を図る必要がありました。そのために、私たちは2015年から働き方改革や健康経営に意識を向けるようになりました。
フェムテック市場において、私たちの業界でこの分野に取り組む企業はほとんどいません。直接的にはオカモトヤの商売とリンクしているように見えないかもしれませんが、こうした取り組みが新たな可能性を生み出し、また、新しい働き方やビジネスのあり方につながると考えています。
女性を含むすべての人が働きやすい環境へ
ーフェムアクションへの取り組みを始めてから、女性ならではの課題が可視化されたと感じていますか。
女性ならではの問題は存在しますが、Fellneが目指すのは「女性活躍」を超えて「多様性を受け入れる」ことの第一歩としての取り組みです。フェムアクションと聞くと、性別で分けて考えるべきではない、という意見があるかもしれません。しかし、現実には育児や介護を担う割合は女性のほうが多いという背景があります。
そのため「女性が活躍しやすい環境」という表現が使われるのだと思います。ですが、本質的にFellneは女性をはじめとするすべての従業員にとって、働きやすい環境を目指しています。
ーすべての人にとって働きやすい環境とは、具体的にはどのようなことを指しますか。
例えば、男性の育児休暇取得や介護休暇・休業取得の推進があっても良いと思っています。また、性別に関係なく昨今ではアルツハイマーの増加なども問題視されており、個々の能力を生かして働ける環境づくりが必要です。
現状、最も身近で実現しやすいのは、女性が働きやすい環境を整えることであり、それがほかの人々にとっても柔軟な働き方を可能にする環境づくりの一歩となると考えています。つまり、多様性の受け入れを広げるための出発点として「女性の活躍」があるのです。
創業100年以上の老舗企業がアップデートし続ける理由
ー1912年に創業した老舗企業が、時代の価値観に合わせてアップデートし柔軟に対応できる秘訣はなんでしょうか。
私たちは時代に合わせて変化することに対して恐怖心や拒絶感はありませんでした。その理由は祖父や父の背中を見てきたからだと思います。
祖父は戦争を経験している時代に生きていたので、戦地に行っている間、誰かに経営を任せなければならなかったと語っていました。当時の状況ならではの「1人ではできないこと」を経験しており、祖父は社長でありながらほかの人に仕事を任せる決断をしていたのです。
父は高度経済成長期に、どうやって事業を拡大していくかという課題に取り組んできました。そして、これまでにないデジタル化にも積極的に取り組んできました。彼らの姿を見てきたからこそ、私自身も躊躇せずアップデートができているのだと思います。
ー変化に対応できるからこそ、今の取り組みがあると。
私は先代社長の娘としてオヤモトヤに入社し、結婚・出産・育児とライフステージの変化にともない一時期は休業していました。その後、仕事に復帰して今に至るのですが、苦労したこともありました。でも、父には私が苦労したことは理解できないでしょうし、私は苦労した経験があるからこそ、会社をより良くしたいという気持ちがあります。
経営者だから特別なわけではなく、誰もが同じだと思っています。立場や役職に関係なく、共感できる話題を話し合える環境があることが、私自身にとっても大切にしたいことなのです。
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