リアル店舗で商品を見ても、買うのはネットで、という人も多い今、店舗での接客の必要性が問われています。
人同士の接客でしか得られない情報の価値や、今の時代に好かれる接客について、著書『「若手と一緒に成果を出したい」と思ったら』を5月に発売した販売コンサルタントの平山枝美さんにお聞きしました。
「お客様視点」の基準とは?
―――接客業でよく言われる「お客様視点になる」ためには、どんなことをしたらよいのでしょうか。
私は、お客様の表情を見て、何を考えているのか、何をしたら表情が変わるのかを観察し、自分がお客様視点になっているかの基準にしていました。お客様が何か話した時に返事が遅かったら「あまり良くないんだな、お客様は嬉しくないんだな」と判断し、返事を早くもらえるためにどういう言葉をかけたら良かったのかを考える振り返りの時間を作っていました。
新入社員の時、先輩にどうしたら接客が上手くなれるか相談したら、「自分がした接客をノートに書いてみなさい」と言われました。
自分の接客時の行動だけでなく、お客様の反応や何を聞かれ、何について自分が答えられなかったかを書いてみて、と言われ、実践したところ、自分の接客を客観視=お客様視点で見られるようになりました。
今の時代に好かれる接客って?
―――お客様に好かれる接客とはどのようなものなのでしょうか。
お客様との相性もありますが、人間味のある販売員が、今の時代は受け入れられやすいと思います。お客様がちょっとボケた時にリアクションができるなど、一緒に会話をしていてお客様が気をつかわなくてもいい接客をする人ですね。
販売員が無理やりテンションを上げたり、良く見せようと気を張っていたりすると、逆にお客様を疲れさせてしまいます。
先日、試着しようとした際、販売員さんに「今日、実は靴下に穴が開いているので、試着できないです」と言ったら、その販売員さんが「実は、私も穴が開いています」と足元を見せてくれました。そういうちょっと抜けた人だとお客様も心を許しやすく、自分の悩みも話しやすいですね。
あとは、正直であることです。今は、似合わないものを似合うと言うと、お客様に見破られてしまう時代です。「この人は心の底からそう思っているな」と、お客様に信用されることが売り上げにもつながると思います。
また、説明したものに対して理由をちゃんと伝えられることも、お客様からの信頼を得るためには必要です。今の販売員さんは、正直で一生懸命な姿勢が求められていると感じています。
「カスハラ」とは店舗の業務を妨害する行為
―――今、話題になっている「カスハラ」にはどういう対応をしていくべきでしょうか。
難しい問題ですが、私が考える「カスハラ」とは、お店の業務を妨害するお客様のことです。
会話が接客のきっかけになる場合もありますが、服を買う気がないのに世間話だけを1、2時間喋っているような人で、他のお客様の接客をしようとすると嫌がるなど、接客業務を妨げるのは明らかな妨害行為です。
つい話に付き合ってしまう優しい販売員の方が多いのですが、無理矢理にでも服の話題にもっていったり、別のお客様が来たら接客したりするといった対応をしていいと思います。
―――販売員側としては、本来の接客業務を妨害してくるという基準を設けるのはわかりやすいですね。
話を掘り下げても買ってくれない、自慢話が続く、お客様がこちらの質問に答えてくれないなどの行為が20分以上続く場合はカスハラと認定していいなど、アパレル各社で基準を設けていいのではないかと思います。
企業としてもカスハラとクレームの境目は難しいと思いますが、改善すべき部分を伝えてくれるクレームなのに「カスハラだ」と突っぱねてしまうのが一番あってはいけないことです。
―――今までは販売員個人がカスハラかどうかを判断し、うまく切り抜けてきたケースもあると思うのですが、今後は社内でカスハラの定義を決め、共有されていけたらいいと思いました。
そうですね。感じの良いスタッフばかりがカスハラに悩まされる状況は避けたいですね。私はカスハラと思われるお客様に対しては、知らないふりをするとか、電話をしているふりをするなど、避ける術を身につけていました。
いつでも正直に対応するのではなく、状況に応じてちょっとずるくなってもいいんじゃないかなと思います。
接客でしか得られないリアルなお客様の情報とは?
――― AIにはできない接客のポイントとは?
一番は、お客様の情報を知ることができる点です。接客はお客様のニーズに応えて商品を提案し、購入してもらうことが目的です。しかし、今はさまざまな販売経路があるので、接客で購入してもらえることが必ずしも購入手段とは限りません。
接客を受けてECで買う人もいるので、購入してもらうだけではなく、お客様の情報を集めることが接客の目的の1つになると私は考えています。
それも、お客様の年齢や職業ではなく、雨の日にお客様はどこを濡らしてきたのか、足元なのか、肩なのかなどのリアルな情報です。
例えば、コロナ禍による感染者数が減少してきた年末には、年内に結婚の挨拶をしておきたいと、ご挨拶用の服を買い求める方が増えたそうです。
この「コロナ感染者数が減った年内に結婚の挨拶をしておきたい」というニーズは、会話でしか引き出せないんです。お客様がECで購入時に理由まで入力することはないですから。
ネットではわからない生の情報を販売員がいかに引き出せるかは接客の大きなポイントで、商品作りだけでなく、広告やPR、SNSの戦略にも生かせると思います。
こうしたリアルな現場での情報収集は、AIには負けない、接客ならではの強みだと考えています。
お客様が「人から正解を言ってもらえる」という点も、AIにはできないことだと思います。試着時に販売員がリアクションを取ってくれるとか、似合うか似合わないかを正直に話してくれるとか、そうした接客でもお客様の満足感は高まります。
空気を読めたり相性があったりするなど、人ならではの感情的な部分もAIにはないことです。AIで接客を受けた時って、あまり印象に残らないんですよね。
ネットで買ったもの、どれだけ覚えてる?
―――確かに接客されて購入したものは、どこでどんな販売員さんから買ったかはっきり覚えています。
ネットで買ったものはどのお店で買ったのかという実感が薄いですが、接客を受けて買った時には、接客時のエピソードと一緒に覚えていられます。この「覚えてもらう」ことが大事なんです。
AIは文字だけの情報ですが、人は聴覚、視覚、触覚などいろんな感覚を駆使して物事を覚えます。五感を使ってお客様に思い出作りができる点は、AIにはない接客の大きなポイントと考えています。
今はブランド・商品数が増えていて、自分がどのお店で買ったかを忘れてしまう人が増えています。「寒くなってきたからコートがほしい」と思った時に、「あそこで買おう」と思い出してもらうことがとても大事になってきている時代です。
印象的な接客をすることで、お客様に自社の商品を思い出してもらいやすくなるんです。
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インタビュイープロフィール
平山枝美(ひらやま・えみ)
販売コンサルタント。アパレル企業で販売員・店長・エリアマネージャーを経て、顧客戦略のコンサルタントとして独立。顧客作りのための接客や、店舗マネジメントへのアドバイスを行っている。これまでの著書にベストセラー『売れる販売員が絶対言わない接客の言葉』(日本実業出版社)のほか、『あの人だけがなぜ売れるんだろう?』(幻冬舎)、イラストでひと目でわかる お客様に嫌がられる接客 喜ばれる接客』(日本実業出版社)がある。
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