動画コンテンツの普及とともに、出版不況や活字離れなどのネガティブワードが聞こえてくる現代。いまから書籍の編集者を目指すのは、リスクが高いことなのでしょうか。
今回話を聞いたのは、小・中学生のあいだでムーブメントを巻き起こしている『最強王図鑑』『5分後に意外な結末』シリーズの編集を手掛けている株式会社Gakkenの目黒哲也さんです。
本棚に「新しい熱狂」を作った秘訣だけでなく、ヒット作を生み出した立場だからこそ伝えられる“若者”が編集者を目指す意義を教えてもらいました。
前編はこちら「大ヒットシリーズ『最強王図鑑』『5分後に意外な結末』編集者・目黒哲也がつかんで離さない「棚感覚」【前編】」
若者の目の前に広がる編集者の活躍フィールド
―――ヒット作を生み出した実績のある目黒さんの視点で、編集者の役割について教えてください。
究極をいえば、編集者なんていなくても本は作れてしまいます。
実際に、著者自身で好きなことを書き連ね、何らかの手段で発表すれば、本になるんですよね。ただ、「別の視点から作品を見つめる人」は、本にとって結構大事なんです。
たとえば、『5分後に意外な結末』であれば、“はじめての読者”の観点で著者とディスカッションしています。キャラのセリフや行動をどうするべきか? 読者を引き込む物語を形成するため、厳しい視点を持って編集をおこないました。
著者が「本は自分の子どもだから、全部決めたい」と思っていても「この子には違う幸せがあるかもしれない」と意見を言える立場であることが、編集者としての役割といえますね。
―――出版不況や活字離れなどの言葉を聞くことがありますが、目黒さんは編集者の未来に関してどのように思われているのでしょうか?
編集者の道を30年以上歩み続けておりますが、仕事が縮小していると感じたことはありません。むしろ、まだまだ若い人こそ活躍できるフィールドがある仕事だと思っています。
本の出版は、多くの人に影響を与える可能性をもちながら、コンパクトに始められるのが魅力の仕事です。映画やドラマと比べると、関わる人数や予算が少ないことは想像つくのではないでしょうか。
また、まずは小さく出版してリスクを抑え、売れれば部数を増やしていけるのも本ならではのメリットです。さらに、ひとたび注目を浴びれば、映画やドラマなどの原作としてムーブメントを巻き起こすこともできてしまいます。
世の中が新しいコンテンツを求め続けていくかぎり、編集者の仕事がなくなることはないでしょう。同じ考えを持っている方なら、ぜひ一緒に本作りをしたいですね。絶賛募集中です。
本の終わりを見ないために努力を続ける
―――目黒さんのように、売れる編集者になれるかどうか不安です。
あくまで編集者として成長していく視点でお話しすると、私は本が売れることがすべてだとは思っていません。たとえば、「100万部売れた本1作品」と、「10万部売れた本10作品」なら、私は後者のほうが自分の成長につながる人材になれると思います。
極端な例ですが、どんなに売れても1冊しか経験していない人は、1冊の作り方しかわからない気がするんですよね。
若者だけでなく、我々編集者は本を作る練習ができるわけではないので、実際に制作の経験をしながら引き出しを増やしていくしかないんです。もっとも、1冊で100万部も売れたら、全然違う景色が見えるかもしれませんけど……。
―――編集者として大事な心構えがあれば教えてください。
本の終わりを知っているからこそ、終わらないために“もがく”のが編集者としての心構えです。
私たちは、自分が生み出した本の行く末を見届ける義務があります。本が売れないときには、裁断されてしまうなどの悲しい現実を受け入れることを覚悟しておかなければなりません。
本という大事なものの命をいかに守りつつ、多くの人に読んでもらうかを考える意識は、いまのうちから持っておくと良いのではと思います。
「企画を通す」ことをゴールにしない
―――編集者として欠かせない「企画」の出し方について、若者へアドバイスをお願いします。
最近の若い人の企画を見ると、リサーチもしっかりできていて、欠点が見当たらないことが多いんですよね。でも、どこか物足りないというか「本当にこの本を作りたいのかな?」と感じることがあります。
それは「企画を通す」ことがゴールになっているのが原因だと思います。私も入社してからしばらくは「企画は面白いけど、実際に出す本は面白くないね。」と上司から言われていました。
当時は、作りたいと思う企画に対して、自分の能力が追いついていなかったんですよね。「意あまって、力及ばず」という状態です。
つまり、企画を通すのがゴールではなく、あくまでその先が大切であることを理解している必要があったといえます。
いかに作った企画を妥協せずに実現するかは、私がいまも大事にしている考え方の1つです。
―――最後に、編集者を志したいと思う若者が1歩踏み出せるようなメッセージをお願いします。
若者には、失敗を恐れずに自分の作りたい作品をどんどん企画として打ち出してほしいと思っています。失敗しないように60%の作品を作っていると、いつまでも残りの40%の壁を壊せない編集者になってしまうからです。
また、無難に既存のものを踏襲した作品を出しても、編集者としての成長が期待できず、将来の自分の首を締めるだけです。どうか、思い切りチャレンジをしてみてください。
たとえ失敗をしたとしても、培ったスキルやノウハウを生かし、次にチャレンジする本で取り返せるのが、編集者の面白さです。
インタビュイープロフィール
目黒哲也(めぐろ・てつや)
株式会社Gakken マイスター/コンテンツ戦略室
神奈川県横浜市出身。1992年に学習研究社(現・学研ホールディングス)へ入社。
高校生向けの学習参考書の編集部に配属されつつも、さまざまなジャンルの書籍を手掛け、現在はコンテンツ戦略室という部署で「書籍」を制作しつつも、それだけにとらわれない商品・サービスを開発中。
代表作の『最強王図鑑』シリーズは、2024年5月時点で460万部を突破。『5分後に意外な結末』シリーズは、さまざまなランキングで「好きな本」第一位に選ばれている。
【関連記事】
大ヒットシリーズ『最強王図鑑』『5分後に意外な結末』編集者・目黒哲也がつかんで離さない「棚感覚」【前編】
動画コンテンツの普及とともに、出版不況や活字離れなどのネガティブワードが聞こえてくる現代。いまから書籍の編集者を目指すのは、リスクが高いことなのでしょうか。 今回話を聞いたのは、小・中学生...
書店の活性化にZ世代の知見を生かす! 蔦屋書店・有隣堂らと“本屋さんの復権”を目指す「みんなの書店」プロジェクト発足
ニューホライズンコレクティブ合同会社は、ミドルシニア世代+Z世代による協働プロジェクト「『〇〇のこれからを作る!プロジェクト』〜これツク!〜」を発足しました。 このプロジェクトは、株式会社...
仕事や人生に迷ったときに知っておきたい「中国古典」の格言・名言を紹介する書籍が発売!
中国古典に対して「難しそう」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか? 実は、中国古典には現代でも役に立つ名言・格言が多く、知っているだけでタメになるかもしれません。 ...
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう