動画コンテンツの普及とともに、出版不況や活字離れなどのネガティブワードが聞こえてくる現代。いまから書籍の編集者を目指すのは、リスクが高いことなのでしょうか。
今回話を聞いたのは、小・中学生のあいだでムーブメントを巻き起こしている『最強王図鑑』『5分後に意外な結末』シリーズの編集を手掛けている株式会社Gakkenの目黒哲也さんです。
本棚に「新しい熱狂」を作った秘訣だけでなく、ヒット作を生み出した立場だからこそ伝えられる“若者”が編集者を目指す意義を教えてもらいました。
目の前の1冊に集中したからこそ生まれた“最強”ヒット作
―――はじめに『最強王図鑑』シリーズが大ヒット作となった理由を、編集者の視点で教えてください。
『最強王図鑑』シリーズは、2024年5月時点で460万部の売上を突破しています。ただ、2015年に出版したシリーズ1冊目の作品『動物最強王図鑑』は、「やや売れ行きがいいな」ぐらいで、特筆すべきほどではありませんでした。
徐々に「昆虫」や「恐竜」などと種類が増えていき、世界観が認識されてきたタイミングで一気に売れ行きが伸びたイメージですね。また、「ドラゴン」や「幻獣」などのより強い存在を戦いの場に出したことも、販売部数が上昇した要因の1つです。
―――『最強王図鑑』がここまで長期シリーズになることは、企画段階で構想を練っていたのでしょうか?
いえ、自分自身でも、ここまでコンテンツが広がることは想定していませんでした。そもそも、読者調査を事前にするといったこともしていないんですよね。自分自身、そういったリサーチが得意ではないこともありますが、それよりもまずは1冊、制作に時間をかけることに重きを置いていました。
たとえば、食料品の場合は、味を気に入ってもらえば何度も買ってもらえるため、事前調査が命かもしれません。ただ、本はよっぽど気に入ってもらったとしても、2冊までは買いませんよね。なので、マーケティングをあまり細かくやるより、タイトルやデザインなどの売れ行きに直結する部分に力を注いでいました。
ヒット作を連発する編集者の“ふんばりどころ”
―――『最強王図鑑』だけでなく、目黒さんは『5分後に意外な結末』という中学生に人気のヒット作も手掛けています。両作とも映像化が実現したことについて、編集者としての思いを教えてください。
シリーズとしての広がりは予想外だったものの、常に「映像化されるコンテンツを作る」という目標は持ち続けていました。児童書は、一般書のようになかなかドラマ・映画化などの声がかからないので、そこをこじあけたいという編集者としての思いがありますね。
ただ、映像化までの道はわりと泥臭く、一部では「格好悪い」と言われるようなこともしてきました。たとえば、本の袖部分に「映像化の相談はこちらまで」と電話番号を書いたりなど……。
どんな手段を使っても作品を広めたいという編集者としての“ふんばりどころ”を見せたことが、映像化につながったのではないかと思います。
ヒット作を生み出す編集者に必要な「棚感覚」
―――売れる本を作るため、編集者として必要な要素はありますか?
編集者としての「棚感覚」が重要です。棚感覚とは、作品が書店のどこのコーナーに置かれるのかをイメージする力のことです。
たとえば、芸能人が自分の趣味についてのレクチャー本を出版したとします。本当はその趣味の領域の人に読んでほしくて出したのに、芸能人の顔写真がドカンと載っている表紙を見た書店員さんが、芸能コーナーに並べてしまう場合があるんです。
このように、“どこの棚に置かれるのか”をイメージしないまま書籍を作ると、本来届けたい人に発見されず、結果売れなくなってしまう可能性が出てきます。
ほか、比較的小さな書籍が並ぶジャンルの棚に大型の本を出しても、置きづらくて書店員さんから敬遠されてしまいます。
編集者としての「棚感覚」を持ち続けることは、ヒット作を生み出す秘訣の1つといえますね。
―――『5分後に意外な結末』シリーズは、書店に新たな棚を作ったと聞きました。棚感覚とはどのようなつながりがあるのでしょうか?
前提として『5分後に意外な結末』シリーズは、児童書としての出版であったものの、中学生に読んでもらうイメージを想定して作った本です。
企画した当時は“中学生向けの児童書”というジャンルの棚はなく、完全に「棚」としてのセオリーからは外れていたんですよね。ただ、いまは「棚」がないのであれば、新しく形成されることを目指してみたいという矛盾した思いもありました。
結果的には大ヒットして、いまは中学生向けの新しい棚が出来上がっています。『5分後に意外な結末』シリーズは、棚感覚があったからこそ生まれた新しいパターンのヒット作といえますね。
後編では、ヒット作を生み出し続ける目黒さんに、編集者の将来性だけでなく、これから挑戦する若者へのアドバイスについてお聞きしました。
インタビュイープロフィール
目黒哲也(めぐろ・てつや)
株式会社Gakken マイスター/コンテンツ戦略室
神奈川県横浜市出身。1992年に学習研究社(現・学研ホールディングス)へ入社。
高校生向けの学習参考書の編集部に配属されつつも、さまざまなジャンルの書籍を手掛け、現在はコンテンツ戦略室という部署で「書籍」を制作しつつも、それだけにとらわれない商品・サービスを開発中。
代表作の『最強王図鑑』シリーズは、2024年5月時点で460万部を突破。『5分後に意外な結末』シリーズは、さまざまなランキングで「好きな本」第一位に選ばれている。
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