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落語から人気漫画の翻訳まで! シリル・コピーニさんが語る、文化の力を使ったグローバルな生き方と必須スキル【インタビュー後編】

西岡 愛

2024/06/17(最終更新日:2024/06/17)


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東京都内で取材に応じるフランス人落語パフォーマーのシリル・コピーニさん

フランス南部出身で、大阪府在住のシリル・コピーニさんは、語学力と文化の力で国境をいとも簡単に越えていきます。日英仏の3カ国語を自在に操り、世界各地で落語を披露するほか、推理漫画『名探偵コナン』のフランス語翻訳、落語漫画『あかね噺』の外国語版の監修も手掛けています。そんなシリルさんに、文化の力を使ったグローバルな生き方と必須スキルについて聞きました。

後半では、語学の習得の仕方や、国境を越えてコミュニケーションをとる秘訣などについて聞きました。

言語は話したいという気持ちが一番

──日本人でさえ落語の言葉は難しいと感じるのに、シリルさんはどのようにして言語の壁を乗り越えているのでしょうか?

高校からずっと日本語をずっと勉強してきて、これから先も勉強するわけです。だったら絶対その勉強は楽しくした方が良いじゃないですか。その意味で、落語との出会いもよかったなと思います。楽しく、日本語の勉強の延長にもなる感じで。とくに、古典的な言葉だと知らないから全く分からないです。でも、分からないからこそ面白い。

あとは国民性の問題だと思いますが、日本人は、日本人同士でもあんまりコミュニケーションをとらないじゃないですか。「気持ちを見せない」というのは日本の美しさでもあるとは思いますが、良い悪いは別にして、自分の言葉でなかなかコミュニケーションを取らないのに、外国語となるともっと難しい。

まずは話したいっていう気持ちの問題だと思います。言語を上達したいなと思ったら、思い切って言いたいことを言った方がいいです。「失敗は成功のもと」とも言うでしょ。フランス人は普段からよく喋るし、言いたいことははっきりと言う文化があります。

130年歴史を持つパリの有名な会場「オランピア劇場」で漫画「あかね噺」のフランス語版出版記念イベントの様子/2023年10月  

ネイティブの日常会話から使いたい表現をマネして実践

──実際にシリルさんが言語を学ぶ際に実践されていたことは何かありますか?

ネイティブスピーカーの人たちの会話をたくさん聞くことですね。日本にいた時に、カフェとかで日本人が話していることを聞いて、何を言っているか分からない時にはメモをして後で調べていました。

大事なのはここからで、調べて終わりではなくて自分がその言葉を使う環境を作って使いこなすよう心掛けました。そうすると必ず覚えます!

たとえば、「具体的に」という言葉を耳で聞いて覚えたら、日本人の友達との会話のなかで機会を狙って「具体的には何を言いたいの?」とすかさず使ってみます。

間違えてもいいから肌で体験することがすごく大切です。一緒に「抽象的に」という反対の言葉も覚えて語彙を増やしていました。ネイティブが話す言葉は、その言語のリズムも学べるので、会話から聞いて消化して使いこなすのはおすすめです。

それでいうと落語も同じです。お手本を聞いてインプットして、真似をして本番のステージで披露する。全部それが生きているんでしょうね。

シリルさんは落語漫画『あかね噺』のフランス語版で落語の専門用語の監修を手掛けています

──その日本語やフランス語を生かして落語だけでなく、人気漫画『名探偵コナン』の翻訳や『あかね噺』の落語専門用語の監修なども行っていますが、どのようにして活動を広げていったのでしょうか。

これだというものを見つけたら、しつこいくらい自分からぐいぐいコンタクトを取ってつながりを作っていきました。ある時に日本で落語がテーマの漫画を見つけて、これをフランスに翻訳したら、もっとフランス人に落語を知ってもらえるんじゃないかと思い、出版社に電話をかけました。

2年間くらいかけて、いろんなところにコンタクトを取り続けたら、ある日、「落語ではないけど、前任の担当者が辞めたので、翻訳を引き継いでもらいたい」と言われて引き受けたのが漫画『名探偵コナン』でした。元々漫画にすごく興味があったわけではなかったけれど、落語がきっかけで漫画の翻訳の世界にもつながっていきました。

あとは、海外には日本とその国の協会みたいなところが必ずあるので、いわゆる地元の情報を持つ日本人とか、そういうところから情報を探っていくのも大事だと思います。

パリの「オランピア劇場」の客席。2,000人の観客。2023年10月

夢はフランスの街に自然と落語がある環境づくり

──今後についてはどのように考えていますか?

今は、フランスで落語を聴きに来る人は日本が好きだから聴くという人がほとんどなんですけど、10年以内にはフランス人が普通に、舞台芸術の1つとして落語を観てほしいなという思いがあります。落語をきっかけに日本に対しての関心が湧いてくるかもしれない。街で自然に落語がある、そんな環境を作れたらいいなと思います。正座ができる限りは、80歳、90歳まで落語を続けているんじゃないかな。

インタビュイープロフィール

Cyril Coppini シリル・コピーニさん
フランス南部・ニース出身。フランス国立東洋言語文化研究所で言語学・日本近代文学の修士号を取得。1997年に在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に入職。落語パフォーマ―としては2011年から活動を開始し、国内外で落語の公演を行っている。現在では、人気漫画のフランス語翻訳も多く手掛ける。

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