従業員を対象としたブランディング活動のことを「インナーブランディング」と呼びます。これまで、社外向けのアウターブランディングが注目されてきましたが、近年はアウターブランディングのベースに繋がるとして、インナーブランディングを重要視している企業も増えてきています。
本記事ではそんな「インナーブランディング」について解説。実施することで得られるメリットや、施策の例、インナーブランディングに取り組むべき企業の特徴などもご紹介しています。インナーブランディングの重要性を理解しているけれど何から取り組めば良いかわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。
- インナーブランディングの定義とは?
- 世代別のインナーブランディングの印象とは?
- インナーブランディングを実施するべき企業の特徴3つ
インナーブランディングとは
従業員を対象に活動が行われるインナーブランディングは、アウターブランディングの効果を高めるために必要な要素のひとつと言われています。では、インナーブランディングはビジネスシーンでどのように定義されているのでしょうか。
まずは、インナーブランディングの定義から、別名、エクスターナルブランディングとの違いについても解説します。
インナーブランディングの定義
インナーブランディングとは、自社の企業理念や価値観を全社で共有・浸透させる取り組みのことを言います。アウターブランディングが顧客や消費者に向けて自社の魅力や商品・サービスの特徴を伝える社外向けのブランディングであるのに対して、インナーブランディングは社内向けに行うのが特徴です。
インナーブランディングの別名
インナーブランディングは別名、インターナルブランディング・インナーマーケティング・インターナルマーケティングとも呼ばれます。日本ではインナーブランディングという呼称が一般的ですが、海外ではインターナルブランディングという呼び名が一般的です。
エクスターナルブランディングとの違い
インナーブランディングが社内向けのブランディング活動であるのに対して、エクスターナルブランディングは、社外向けのブランディング活動のことを指します。顧客や消費者など社外の人に対して、自社イメージや商品・サービスの価値を伝えるために行います。
エクスターナルブランディングは、アウターブランディングと同じ意味を持つ言葉です。日本ではアウターブランディングが、海外ではエクスターナルブランディングが使われるのが一般的です。
【年齢別】インナーブランディングへの印象
インナーブランディングへの印象は世代によって異なります。株式会社揚羽が実施したインナーブランディングに関する調査によれば、インナーブランディングに対してポジティブな反応を示した人が最も多かったのは20代、次いで多いのが40代だったと言います。
一方、ネガティブな反応を示したのは30代です。この世代は、インナーブランディングを実施することによるメリットを具体的にイメージすることができて初めて、インナーブランディングの価値をポジティブに受け止める傾向があります。
残る50代と60代は、ポジティブとネガティブのどちらでもない無関心層が多いのが特徴です。
インナーブランディングは年代によって印象が異なる他、ポジティブに響く施策内容も異なります。世代ごとの違いも理解した上で、インナーブランディングの施策に取り組む必要があるでしょう。
参考:
“体験・動画”の20代、“自己利益重視”の3,40代、“経営者直々”の60代…年代別に見る【社員に響く】インナーブランディング手法
インナーブランディングが注目されている理由
現代は、働き方や働くことへの価値観が多様な時代です。終身雇用制度を利用して一社で長く勤めるという考え方の労働者が減り、転職することでキャリアを構築していく労働者が増えています。そうした人材の流動性が激しい時代においては、企業が働き手を選ぶのではなく、働き手が企業を選びます。
このような時代の変化により、待遇やキャリア以外の魅力を従業員に伝える必要性が企業に求められるようになりました。自社の存在意義や社会にどんな価値を提供していくのかなどを明らかにし、従業員に共有していくために、インナーブランディング活動が注目されています。
インナーブランディングを実施する目的・メリット
インナーブランディングを実施する目的・メリットは具体的に以下のようなことがあります。
- 社員の企業理念の理解が深まる
- 社員の定着度が上がる
- 社員同士のコミュニケーションを増やせる
- 生産性アップが期待できる
- 企業のブランドイメージが上昇する
企業理念や価値観の理解から、どんな効果が得られるのか。それぞれのメリットの詳細や、アウターブランディングとの関係性についてもご紹介しています。
社員の企業理念の理解が深まる
インナーブランディングを実施する大きなメリットは、社員の企業理念への理解が深まることです。企業理念への理解は、全社で目的に対して同じ方向を向いて一丸となって取り組むために必要です。
表面的な理解のまま業務に取り組んでしまうと、意思決定の際に判断がブレる可能性があります。従業員が個々の気持ちやその場の状況から判断するのではなく、自社の理念や価値観に沿った判断ができれば、企業戦略や企業イメージの一貫性を維持することが可能。アウターブランディングもしやすくなります。
社員の定着度が上がる
インナーブランディングは、社員の定着率を上げる目的でも実施されます。日本では少子高齢化が進んでおり、今後ますます労働人口が減少していきます。優秀な人材を確保するためには、待遇以外の部分での差別化が求められます。
インナーブランディングは、従業員に対して企業理念や価値観、社内に提供する価値などを伝えていく取り組みです。従業員が自社の考えや事業の姿勢に共感することができれば、社員の定着率が上がる他、優秀な人材を確保できる可能性も上がります。
社員同士のコミュニケーションを増やせる
インナーブランディングによって得られる効果のひとつとして、従業員同士のコミュニケーションの増加が挙げられます。企業理解が深まった従業員は、他の従業員に対して同じチームで働く仲間という意識が芽生えるため、積極的に関わり合いながら業務を進行する姿勢が生まれます。
生産性の向上が期待できる
インナーブランディングにより、仲間意識が醸成され従業員同士の仲が深まると、社員間での協力が促進される可能性があります。大切にするべき価値観が共有されているため、それを軸に連携し合って業務に取り組めるようになるのです。1人では時間がかかることも協力して行えるので、生産性向上にも繋がります。
企業のブランドイメージが上昇する
インナーブランディングが成功すると、従業員一人ひとりが企業理念や価値観の体現者として業務に取り組めるようになるため、企業のブランドイメージ向上も期待できます。
例えば、担当者が変更になっても同じ品質のサービスを提供できるので取引先から信頼されやすくなったり、消費者からの問い合わせに対しても理念や価値観を軸として誠実な対応が実現できたりします。インナーブランディングは、社外に向けたアウターブランディングにも繋がる重要な取り組みです。
インナーブランディングを実施するべき企業の特徴
インナーブランディングは、全ての企業が実施するべき取り組みです。中でも、特に実施する必要がある企業の特徴を解説します。自社に当てはまる点がないかを考えながら、インナーブランディング実施の必要性を探ってみてください。
定着率が低い企業
従業員の定着率が低い企業は、インナーブランディングの効果を得やすいと言われています。定着率が低いということは、自社への愛着心や信頼がなく、また自分の仕事に誇りややりがいも感じられていないということです。これらは全て、自社理解が不足していることが関係しています。
インナーブランディングは、従業員に対して企業理念や価値観、社会に対して提供する価値について理解してもらうための取り組みです。インナーブランディングが成功すれば自社に共感する従業員が増え、定着率の向上が期待できます。
M&A直後の企業
M&Aで企業買収を行った後はインナーブランディングが欠かせません。買収した企業で働く従業員は自社について深く理解しているわけではない上、今までとは異なる理念や価値観を軸に業務に取り組む必要があるため、M&A直後には必ずインナーブランディング施策を行いましょう。
しっかりとインナーブランディングを実施できれば、買収した企業に属する従業員のモチベーション維持や定着率向上が期待できます。M&Aによる退職リスクの低下にも繋がるでしょう。
部署外との関わりが少ない企業
インナーブランディングにより企業への理解が促進されると、自然と従業員同士の交流が増えます。部署外との関わりを増やしていきたい企業にとっては大きなメリットを得られるでしょう。
部署間での交流が増えれば、生産性向上も期待できます。そこから新たな商品やサービスが誕生するなど、イノベーションが生まれる可能性もあります。
インナーブランディングの施策例
インナーブランディングの施策は複数あります。どの施策にもメリット・デメリットがある他、企業によって適合性も異なります。各施策でどんな効果が期待できるのかを理解した上で、自社の目的や課題に合った施策を実施してみてください。
社内報・社内ポータルサイト
社内報や社内ポータルサイトを活用した施策は、インナーブランディングの中でも一般的な手法です。届けられる情報量が比較的多いのが特徴で、企業理念や価値観を経営者の言葉で伝える特集企画や社内のアワード特集など、さまざまなコンテンツを掲載できます。
最近ではWeb社内報を作成する企業も増えています。紙とWebの両方で社内報を発行すれば、業務でパソコンを使う機会が少ない現場の従業員にも公平に情報を届けられます。
日報
日報は従業員に常日頃から企業理念や企業の価値観を意識してもらうのに有効なインナーブランディングの施策です。
日報で大切なのは、実施する目的と日報に書く内容を明確にすることです。目的は例えば、企業理念の浸透や、自社で大切にしている価値観を体現する従業員を増やすことなどが考えられます。
目的に合わせて日報に書いてもらう内容を決めます。例にあげた目的であれば、企業理念に関するエピソードや、理念に基づいて行った行動などを日報に書くように従業員に周知しましょう。
社内SNS
社内SNSは、従業員に対して日常的に経営者からのメッセージを伝えたり、事業の活動を報告したりと、気軽に行えるインナーブランディング施策です。
企業理念や創業者の想いは一度伝えただけでは全社に浸透しません。社内SNSを通して、繰り返し発信し続けることが大切です。社内報や社内ポータルサイトの刊行や更新を社内SNSで知らせるなど、他のインナーブランディング施策と組み合わせて活用することもできます。
社内イベント
理念や価値観は抽象的な概念であるため、言葉では理解しきれない従業員も少なくありません。理念や価値観に基づいた行動や活動の事例を取り上げて理解を深めるには、社内イベントの実施が効果的です。
インナーブランディングに繋がる社内イベントは、表彰式や周年祭、研修旅行などです。企業理念や価値観を軸としたイベントは、従業員のモチベーションアップや愛社精神の育成に繋がる可能性が高く、インナーブランディング施策の中でも高い効果を期待できます。
オフィスの席変え
インナーブランディングを成功させるには、社内の交流の活性化も重要な要素のひとつです。従業員同士が積極的に関わる機会が増えれば生産性が向上し、企業の価値向上に繋がります。
部署間の交流を促す施策としては、席替えがあります。席替え方法はさまざまですが、事業部別・職能別など共通点があるグループでくくると、従業員がそこに意味を見出して自発的な交流が自然と発生していきます。
よくあるフリーアドレス制も一案ですが、結果的に席が固定化するという問題があります。席替えは席は固定でも島そのものに変化があるため、コミュニケーションが活性化しやすいのがメリットです。
クレド
行動指針や企業理念をいつでも見返せる状態にしておくことも、インナーブランディングを行う上で大切です。近年、導入している企業が増えているクレドの制定は、指針や理念を浸透させる手段のひとつとして注目されています。
クレドを作成する上で注意したいことが2つあります。1つ目は、記載するメッセージのわかりやすさです。簡潔でわかりやすい内容を意識しましょう。2つ目は、従業員が行動に移せる内容になっているかどうかです。書かれている文章が抽象的すぎるとクレドの効果が半減してしまいます。
ワークショップ・セミナー
理解していることと、それを実際に言葉にしたり、行動にしたりすることの間には大きな差があります。対話型・体験型のワークショップやセミナーでは、理解と実践の間にあるギャップを埋めることができ、より深い理解を促進できます。
例えば、これまでの企業・ブランドイメージと現在の自社イメージを整理し、次に未来の自社イメージについて考えてもらいます。そうした未来を実現させるために自分が取るべき行動はなんなのかを考えることで、企業理念や価値観を自分ごととして捉えてもらえるようになります。
サンクスカード
サンクスカードとは、普段は言えていない感謝の気持ちを従業員同士で伝え合うメッセージカードのことです。ポジティブな想いをお互いに伝えることで、良好な関係構築が期待できます。他にもチームワークの向上やモチベーションアップなどの効果も得られます。
インナーブランディングの学び方
インナーブランディングの学び方は、大きく分けて本とセミナーの2つです。それぞれメリットや優れている点があります。インナーブランディングを学ぶ目的や自分の学習スタイルに合わせて学び方を選びましょう。
本
インナーブランディングを独学で学びたい方は、関連書籍を活用するのがおすすめです。数は少ないものの、これからインナーブランディングに取り組む人に向けて書かれた本がいくつか存在します。
書籍でインナーブランディングについて学ぶメリットは、自分のペースで学習できる点です。線を引いたり、何度も読んだりすることで着実に理解しながら勉強を進められます。インナーブランディングの基礎が学べる本と実践をサポートする本をそれぞれ用意すれば、知識を身につけつつ実務にもきちんと活かせます。
セミナー
インナーブランディングの基礎を体系的かつ実践を通して学ぶのであれば、セミナーや研修を活用しましょう。インナーブランディングの経験や知識が豊富な講師から学べるのがメリットです。
セミナーはオンライン・対面と2種類の講座形式があります。開催日時は1〜2時間程度で終わるものから1日かけて実施するものまであり、費用感もバラバラです。セミナー受講後の従業員の変化や期待する効果を明確にしてから、費用対効果のバランスが取れるセミナーを選択することがおすすめです。
インナーブランディングを実施する際の注意点
インナーブランディングを実施する際には注意したいことが3点あります。ポジティブな面だけでなくネガティブな面にも目を向けて、総合的に考えた上で自社にメリットをもたらすための取り組み方を考えていきましょう。
- 施策を実行してから効果が現れるまで時間がかかる
- インナーブランディングを実行するリソースの確保が必要
- マッチングしていない社員の心が離れる可能性がある
施策を実行してから効果が現れるまで時間がかかる
インナーブランディングは、効果が現れるまで時間がかかります。特に、従業員数が多い規模の大きな企業であるほど、理念や価値観の浸透には時間を要します。短期的ではなく中長期的に考え、取り組む必要があるでしょう。
とはいえ、効果が出ない状態で長期間取り組み続けると、モチベーションを維持できない可能性があります。そうした場合は、中長期的な目標に加えて、短期的な目標も設定しておきましょう。例えば、理念や価値観に基づいたエピソードを日報で投稿した従業員を全体の20%まで増やす、部署を横断したプロジェクトの発足件数を増やすなどの目標が挙げられます。
インナーブランディングを実行するリソースの確保が必要
インナーブランディングを実行するには、長期的にリソースを確保したうえで実施しましょう。例えば、社内報であれば印刷費用・撮影費用などがかかります。人的リソースの確保も必要です。
予算を確保するためには、実施する施策をある程度決めておきましょう。短期計画・中長期計画を立てて、どのタイミングでどの施策を実施するのかを明確にしておくと、予算配分もしやすくなります。
マッチングしていない社員の心が離れる可能性がある
インナーブランディング活動は、全従業員の理解や共感が得られるとは限りません。中には、強制的な雰囲気を感じ、逆に心が離れてしまう従業員が発生する可能性があります。そうした従業員が生まれてしまうことをある程度許容した上で、インナーブランディングに取り組むことを決断しましょう。
自社への共感が薄い従業員は、多様な考え方、視点を与えてくれる存在になり得ます。マッチングしていない従業員を排除するような雰囲気が出ないように、十分注意しましょう。
インナーブランディングのPDCAサイクルを回そう
- インナーブランディングはアウターブランディングのベース作りに繋がる
- インナーブランディングは従業員の定着率向上に効果的
- インナーブランディングは中長期的に取り組むんでこそ効果が出る
インナーブランディングには複数の施策・手法があります。多くの企業が成功している取り組みが自社にもマッチしているとは限りません。施策を1つ実施したら、必ず振り返りと改善を行い、取り組み内容をブラッシュアップしていきましょう。
目的や目標に向かうような効果が出ているかを細かく確認し、PDCAサイクルを回していきながらインナーブランディングに取り組んでみてください。
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