世界最大会計事務所のデロイト・トウシュ・トーマツにて12年間コンサルティングに従事し、8,000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をしてきた安達裕哉さん。そんな安達さんがコンサルタントの採用時に採りたいと思う人にはどんな特徴があるのでしょうか。
インタビュー後編では安達さんに、「話を聞けない人」とはどういう人なのか、コンサルに向いている人が面接時にすることなどについてお聞きしました。
インタビュー前編はこちら
「話を聴く」とは相手の話を理解すること
―――話を聞くスキルの重要性について、「話を聴けない人」というのはどういう人なのでしょうか。
まず「聴く」とは、相手の話をちゃんと理解することなんです。
理解する=聴くこと。理解していないということは、聴けていないということです。
新米コンサルタントがよく上司から怒られるのは、たとえば、相手の経営者にヒアリングをしたさい、社長が「最近、社員に元気がない」と言っていました、とだけ報告するパターンです。
確かに、社長の言葉をメモしているのですが、なぜ社長がそう言っているのかをヒアリングしていないんです。
社員が元気かどうかを社長が判断した状況が必ずあるはずなのに、そこを聞いていないので、「なんとなく聞いているだけで、状況を理解していないだろう」と怒られるわけです。
「話を聴けない人」は、聴いているように見えて全然理解していない、聞き流している人です。その原因はシンプルで、言葉に対して敏感でないからです。
先ほどの例だと、社長が言っている「元気」とは何を示しているのかに興味が向けられない人が「聴けない人」です。
業績の話をする時でも、利益なのか売上なのか把握するため、「業績とは何のことを指していますか」と聞かないといけない。1つの言葉に対しわかった気にならず、相手の定義や背景も含めて、できる限り正確に把握する。これが「聴ける人」です。新米コンサルタントはここをかなり訓練します。
―――相手の話を理解するためには、相手が使っている言葉の定義や背景について質問するのがいいんですね。
そうです。相手が話している間に、次に何を言おうか考えている人がいますが、相手が話していることを正確に理解しながら次の質問を考えるのはとても難しいんです。なので、話を聴いている時には相手の話を100%理解することに集中するのが大事です。
「この人、うなずいてはいるけれど多分理解していないな」と見抜かれてしまうので、聞いたふりはやめたほうがいいです。
良いコンサルは相手の話の途中で口を挟まない
―――他に、若手コンサルタントが陥りがちな状況について教えてください。
相手の話の途中で自分が口を挟んでしまうことです。これはメモを取っていないからです。
先ほどの例だと、「社員が元気がない」という話を受けた時、「その元気とはどういうことですか?」と途中で聞きたくなってしまうのは、メモを取っていないと質問したいことを忘れてしまうからです。
良いコンサルタントは相手の話の途中で口を挟みません。社長がせっかく話しているのに、途中で質問してしまうと、相手の話がさえぎられてしまい、話が別の方向にいってしまうことが多いんです。せっかく本音を話してくれそうだったのに、ほかの話題になってしまったりするので、できるだけ相手のリズムをさえぎらないことが重要です。
そのためにはメモを取ることです。聞いているうちに相手の話が途中でわからなくなったら、後で聞きましょう。メモを見返して、相手の話が終わった後で聞きたいことを質問すれば良いんです。
―――そのほか、若手コンサルタントがしがちなミスや注意すべき点はありますか?
自分の知識を披露しがちなことです。どうしても聞きかじったことを人に話したくなってしまうので、自分が聞く側なのに、知識を披露することがあります。
相手が話したいことだけを話させて、相手が聞きたいことだけを喋ることができるのが、良いコンサルタントです。
私の上司は「59分聞いて1分だけ話せ」とよく言っていました。極端だと思われるかもしれませんが、実際に上司はそれに近いことをしていたので決してオーバーな表現ではありません。
普段はおしゃべりな人だったのですが、仕事の時には相手の話をずっと聞いていました。そして、最後にぽろっと相手が「まさにそれを聞きたかったんだよ」と言うような話をする。あれはもう芸術でしたね。
優秀なコンサルタントは相手の話をずっと聞いていて、最後に相手の心に刺さることを言うことができます。すると相手に信用してもらえるんです。
コンサルタントの仕事は提案することだと言う人も多いのですが、上司からは、提案はするな、相手がやりたいことを後押しするだけなんだ、と言われてきました。
コンサルに向いている人が面接時にすること
―――最後に、コンサルタントの採用時にはどんな人を採りたいと思いますか?
言葉への感度が高い人です。言語能力が高い人は聞くことができるし、正確にアウトプットができます。
採用時には、「こういうシチュエーションでお客様からこう言われました、あなたならどうしますか」といったケーススタディのお題を与えて5分くらいで紙に書いて発表してもらうのですが、そこで自分がどうするかを書いたり話せたりする人は優秀な人が多いです。
なので、語彙が多い方が良いですし、本を読んでいる人や、普段から聞く・話すことを意識している人が有利ですね。
あと、面接時に「これは、〜ということでしょうか」など、相手に質問ができる人です。
質問をしたら失礼じゃないかと思っている人が多いですが、実際には失礼ではありません。
(前編で、)若手にとって重要なことの1つに、相手に反応する前に、ワンクッション置いて一度考えることと話しました。
質問するのは、「質問の意図を自分は理解できているだろうか」と一度自問自答し、ワンクッション置く癖がついている証拠なので、それが自然にできている人は優秀だとみなされる可能性が高いです。
相手の話を聞いて、自分が理解したこと・していないことを取捨選択して、理解できなかった部分について問い合わせをするという当たり前のことなのですが、一連の動作としてできるようになるためには訓練が必要になってきます。
そのためには(前編で)ご紹介した7つの黄金法則を意識することが大事です。
面接の時にすでに質問ができる人は覚えも良いし、早いです。実際にコンサルタントとして働き出すとお客様からの評価も高いですし、次の仕事もちゃんともらえたりします。
失礼ではない雰囲気を出しながら、うまく相手に質問できる人が良いコンサルタントになれますよ。
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インタビュイープロフィール
安達裕哉(あだち・ゆうや)
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。
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