HOMEビジネス ADHDの人に合う仕事の特徴とは? 臨床心理士・中島美鈴さんに聞いてみた【インタビュー後編】

ADHDの人に合う仕事の特徴とは? 臨床心理士・中島美鈴さんに聞いてみた【インタビュー後編】

大槻由実子

2024/05/30(最終更新日:2024/09/20)


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いつも時間ギリギリで遅れてしまう、すべきことの優先順位がつけられない、自分の時間が作れない、スマホに気を取られてすべきことができない……そんな方はADHDの傾向があるかもしれません。

インタビュー後編では、認知行動療法の専門家である臨床心理士・中島美鈴さんに、ADHDの特徴や合う仕事などについてお聞きしました。

ADHDの方の日常生活とは?

ーーー中島さんはご自身がADHDだと気づかれたそうですが、具体的にADHDの方の日常生活での特徴とは?

身支度など、多くの人が義務だと思ってやっていることが面倒くさくてできない。なので、いつもバタバタして身だしなみが整っていなかったり、捨てなきゃいけないゴミが溜まっていて部屋が汚かったりします。

会社だと、不用意な発言や要らない一言を言ってしまう。昼休みにみんなでご飯を食べている時も、割と口数が多くて、誰かが喋っているのにかぶせて喋り出しちゃう、会話泥棒をしてしまう。あと、気が散りやすいからケアレスミスが多く、机の上が汚い。パソコンのデスクトップのファイルがたくさんあったり、スマホの写真フォルダもメモリ不足になっていたりしています。

休みの日なら、旅行に出かけるとてんこ盛りに予定を入れてしまって、家に帰るとぐったりしてしまいます。

ギャンブルにハマってしまう人も多いです。金銭管理も得意じゃなくて、あまり貯金がない。あとは、記憶力の弱さがあります。すぐに約束を忘れてしまったり、忘れもの・なくしものが多い。カッとなりやすくて人間関係が怒りのせいで途切れてしまってるみたいな人もいますね。

新規のアイデアを出すことや社交的なところがADHDの長所

ーーーご自身がADHDだと気づかれたきっかけは何だったのでしょうか。

結婚してから、本格的に家事をやらないといけなくなった時に気づきました。それまで1人暮らしでほとんど自炊をしていなかったのですが、家族のために料理をする段になった時、1週間分の献立を立てて、買い物リストをぎっしり手帳に書いていたんです。書かないと覚えていられないので。

そのメモをほかの臨床心理士の友人が見た時、「中島さんだいぶきてるね。普通の人はこんなことしなくても日常を送れるよ」って言ったんです。

そこで初めて、ほかの人と自分が違うことに気づき、ADHDの特徴である記憶力の弱さを自覚しました。

ーーーADHDの方が得意なこととは?

新規のアイデアを出すことです。会議でブレインストーミングをさせたら、アイデアを最初にポンポン出せます。

あと、物おじしない。人見知りなく、社交的で明るい人が多いですし、大人が忘れてしまったような好奇心が強く、新しいものに飛びつくので、アイデアマンの性質を生かして起業家になる方が多いです。

衝動的だけれど行動力があるので、優秀な秘書がついてくれていたら、ミスをカバーしてもらいながら危険を顧みずに新しい企画を作ることができます。

プランは立てられないけれど瞬発力はあるので、短期間で何かをやらせるのも合っています。

ADHDの方は、自分の長所を生かしつつ、短所をカバーできるような仕組みを作ったり、他の方にサポートしてもらうことがすごく大事なんです。

ADHDの方の良さが出せる環境について

ーーーADHDの方の仕事選びのポイントは?

まず、1円単位で数字を合わせるような経理や、少しのミスも許されない厳密さが求められる医療系の仕事は避けた方がいいです。

営業のように、みんなから「ありがとう」と感謝の言葉を直接もらうことが多い仕事が良いかもしれません。

あと、図書館司書をしているADHDの方って意外と多いんです。整理整頓できないのになぜできるんですか、と聞いてみると、全て番号管理されていて、整理整頓の仕組みが出来上がっているところに自分が本を当てはめるだけだからできるみたいです。

なので、仕事の仕組みが整っている職場なら合っているかもしれません。ですが、完全にマニュアル化されたルーチンワークの仕事だとADHDの方の良さが出ないです。毎日同じところに出社して決まった手順で仕事をするのはあっという間に飽きちゃう、工場勤務がすごく嫌だった、というADHDの方がいました。

そんなに厳密なことを求められなくて、ゆるめに整っているくらいの職場、なおかつ、管理・監督する人がいる環境だと、ADHDの方は良さを出せますよ。

企画職も、どんどん新規のアイデアを出すのが得意なADHDの方にはおすすめです。ただ、企画を出しても継続することが苦手なので、そういった作業は部下や経理の方などに外注したりしてる例は多いです。

あと、新聞記者の方も多いです。メディア制作は短い納期で同時並行する瞬発力が要求されたり、フットワーク軽く、全国取材でもドンといろんなとこに飛び込めるからでしょうか。

意外なところだと消防士さんも結構います。衝動性が強いので、火災現場でも恐れずに飛び込めるし、毎回状況が違うから続けられるという声を聞いたことがあります。

ご自身がADHDだと自覚されている方は、こういう観点で仕事を選ぶと少し楽になると思います。

前編でご紹介した「すーぷもだ」で対策を取れば、「自分がだらしないせいなんだ」と自分自身を責めることなく、「ADHDという性質のせいなんだ」と正しく理解でき、自分にネガティブなレッテルを貼らず、うまく乗り越えられますよ。

ーーー最後に、中島さんが認知行動療法や時間管理術を広めていく中で、伝えたいメッセージとは。

時間管理というと「時間に縛られる」イメージを持たれる方も多いのですが、逆に「時間を使いこなす」「あなたは時間管理王国の王様になります」というものなのです。特に、社会人はTo Doをこなすことに縛られがちですが、To Doをこなすことを目的としないでほしいです。時間管理術は、やるべきことをさっさと終わらせて、やりたいことにエネルギーを注ぎ、自分の目標や夢を叶えていくためのものなのです。

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インタビュイープロフィール

中島美鈴(なかしま・みすず)
公認心理師、臨床心理士。心理学博士(九州大学)。専門は成人期のADHDの認知行動療法、時間管理、集団認知行動療法。

肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学人間環境学研究院にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。ほかに、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

朝日新聞デジタル医療サイトapitalにて認知行動療法コラムを連載中。peatixにてオンライン時間管理グループレッスン、セミナーを開催中。
 

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