いつも時間ギリギリで遅れてしまう、すべきことの優先順位がつけられない、自分の時間が作れない、スマホに気を取られてすべきことができない……そんな人に有効なのが、認知行動療法を使って時間を管理できるようになる方法です。
今回、U-NOTEでは、認知行動療法の専門家である臨床心理士・中島美鈴さんに、認知行動療法を使った時間管理術のポイント「すーぷもだ」などについてお聞きしました。
認知行動療法を使った時間管理術のコツ「すーぷもだ」とは?
ーーー「認知行動療法」とは、どういうものなのでしょうか?
カウンセリングの一種で、思考のクセ(認知)と行動パターンの2つに注目して問題を解決していくものです。
時間管理術とどう関係するかというと、たとえば先延ばしをする人の場合、「この仕事は自分にはできそうにない」という認知が働くと、恐れおののいてほかのことに逃げるという行動パターンが出るんです。でも、それは間違えた認知で、本当は早く取り組んだ方が効率良くできますよね。
また、ゴールが不明確なままタスクをこなそうとするから、回り道をしてやりたくないタスクが増えてしまうパターンもあります。そこで、上司から仕事を受けた段階で質問をしておくという行動パターンを入れてみることで、タスクをスムーズに進められます。
このように認知と行動パターンを変えることで、時間を効率的に使えるようにするのが認知行動療法を使った時間管理のやり方です。
ーーー認知行動療法を使った時間管理術のコツ「すーぷもだ」について詳しく教えてください。
まず、「すー」=スタート、仕事の取りかかり。ここができないパターンが1番多いです。さっさと取りかかればいいのに、めんどくさくてほかの仕事からやっちゃうというものです。仕事をしているならまだいいんですが、もっともらしい理由をつけてシュレッターのゴミを捨てに行ったりネットサーフィンしちゃったりといった先延ばしが多いです。
次に「ぷ」=プラン、計画立てです。時間管理ができない方は、計画を立てないまま、がむしゃらに進めていくことが多いですが、それだと効率が悪いです。
3つ目は、「も」=モニタリング、進捗状況を確認することです。プレゼン資料を作っている間に、参考資料を読み込んでしまって「もうちょっと調べてみよう」と深みにはまって行く、一本の木ばかりを見て、森全体が見えなくなっちゃうような方も多いです。それで締め切りに間に合わなくなっちゃうこともありますよね。
最後は「だ」=脱線防止です。ちょっとの休憩のつもりがゲームやSNSにはまって、他のことに脱線していくのを防ぐことです。
4つのステップのどれが欠けても計画通りに実行できない原因になるので、まずは自分がどのステップでつまずいているのかを知ることがポイントです。
「すーぷもだ」4つのステップの対策法
ーーー4つのステップについて、簡単な対策法を教えていただきたいです。
「スタート」は、「チョロい一歩目を設定する」のが効果的です。
たとえば、50枚のプレゼン資料を作ってくださいって言われると、恐れおののく方が多いと思うんですけれど、まずは「パワポを立ち上げるだけ」「使えそうな過去の資料を探すだけ」というすぐにできそうなタスクを設定すると、最初の一歩が踏み出しやすくなります。
最初の一歩さえできれば後は軌道に乗ってきたり、楽しくなって進めると思います。
「プラン」は、作業を細かいステップに分けて考えることです。
たとえば「プレゼン資料を用意する」という大きなTo Doを立てるのではなく、自分がプレゼン資料を作っているシーンを、YouTubeの動画に撮られているかのようにありありと想像してみてください。すると、作業を細かく、小さなステップに分解することができます。
また、最適なやり方を選択していない場合もあります。上司から1時間でこのプレゼン資料を作れと言われたら、そこそこラフな内容でも短めでも作ればいいのに、凝ったバージョンしか作れない場合があります。まずは全体を作ってから、そこから深掘りできそうなら深掘りする、と、事前に決めておくのも有効です。
「モニタリング」は、その前の「計画立て」の段階で細かいステップに分けることができていれば、「今はここをやっている」とチェックをつけていけばいいので問題ないと思います。時間管理はタイマーを使うのがおすすめです。
1つのステップにつき10分と決めたら、10分おきにタイマーを鳴らして確認しながら進めていくと良いです。
「ルーチンタイマー」という無料のアプリがあるんですが、たとえば「今から10分でスライドの2を作ってください」と設定すると、残り30秒になると知らせてくれるんです。1つのステップを深追いすることなく、時間で次のステップに進むことができます。
「脱線防止」は、気を取られてしまうものを隠す、遠ざける、どこかに閉じ込めてしまうという環境調整が大事です。たとえばスマホを手元に置かずにバッグの中に入れたり、設定した時間内は操作不能になるアプリを活用するのもおすすめです。
「スマホをやめれば魚が育つ」という集中タイマーアプリがあるんですけれど、設定した制限時間内にスマホを操作すると、画面内の魚の成長が台無しになるんです。
「認知行動療法」を知る前の中島さん
ーーー中島さんご自身は「認知行動療法」を知る前はどのような状態だったのでしょうか?
学生時代には受験勉強も計画的にできなくて、お腹いっぱいになると後のことを考えずに寝てしまっていました。大学入試に合格した時も、送られてきた入学手続きを申し込み締め切り日まで開かずにいたので入学金を振り込めず、入学できなかったという思い出があるくらい、時間管理ができなかったんです。
でも、認知行動療法で時間管理の仕組みを学んで子どもに伝えたら、早い段階から時間を意識して、通信教育や夏休みの宿題もスケジュールを立てて計画的に進めて、親がノータッチなくらい、コツコツやっているんです。認知行動療法を使ったら、こんなに計画性って育まれるんだと、我が子を目の当たりにしてびっくりしています。
私自身も計画的に動けるようになって、To Doだけでなく、目標や夢を達成できるようになりました。
ーーー認知行動療法を知ってから、未来に目が向けられるようになったんですね。
そうなんです。認知行動療法を知る前は、周囲から精神的に頑張れみたいに言われていたのですが、変わることができませんでした。精神論ではだめだったんです。
特に、若い男性や体育会系の人は、精神論で頑張れと言われてきている方もいると思いますが、「頑張らないといけない」と、そこで思考停止状態になって、本当はむちゃくちゃな締め切りを迫られていることに気づかなかったり、いつもとは違う仕事の仕方をプランの段階で選択すべきなのに、いつも通りのやり方でがむしゃらに頑張って体調を崩して周りに迷惑をかけたりしてしまう、ということもあるので、精神論だけで進めるのは怖いなと思っています。
インタビュー後編では、認知行動療法や「すーぷもだ」の時間管理術を特におすすめしたいADHDの方の特徴や、合う仕事などについてお聞きしました。
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インタビュイープロフィール
中島美鈴(なかしま・みすず)
公認心理師、臨床心理士。心理学博士(九州大学)。専門は成人期のADHDの認知行動療法、時間管理、集団認知行動療法。
肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学人間環境学研究院にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。ほかに、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。
朝日新聞デジタル医療サイトapitalにて認知行動療法コラムを連載中。peatixにてオンライン時間管理グループレッスン、セミナーを開催中。
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