『ドラゴン桜』『クロカン』『アルキメデスの大戦』など、数々のヒット作を生み出している漫画家の三田紀房先生。著書『ボクは漫画家もどき イケてない男の人生大逆転劇』では、意外にも「漫画家としての才能はなかった」「お金のために漫画家になった」と語っています。
インタビュー後編では、才能に恵まれない人が何をすべきか、三田先生が人生で学んだ「意外と簡単なこと」などについてお聞きしました。
インタビュー前編はこちらから
才能に恵まれない人が成功するには何をすべき?
ーーー才能に恵まれていない人間が成功するためには、何をすればいいのでしょうか?
まず、自分を正確に分析し、自分に欠けている部分や劣っている部分を把握し、そこを補強することです。今の時代、自己肯定感というものが大切に思われていますが、自己分析というのは、どうしても自分の欠けている部分を見ることになるので、自己を傷つけるものだと思われがちですが、自分の欠点とも向き合って、正確に把握しないと補強することもできないんです。
あの大谷翔平選手だって、自己分析をして自分の欠点と向き合って補強しているんです。現在の彼は体重が120キロくらいありますが、渡米するまではその70%くらいの体重だったんです。これは、アメリカに渡ってみて、自分にはパワーと筋肉量が足りないと自己分析し、トレーニングを積んで体重を増やしたんですよね。それで40本のホームランを打つようになったわけです。
自分自身に頼らず、人の力を借りよう
ーーー自己分析をし、補強するための方法とは、自分と他の人を比較したり、上手い人の真似をすることなのでしょうか?
そうですね、お手本は世の中にたくさんありますから。漫画の世界でもヒット作をちゃんと読むと、ヒットするメカニズムがわかり、自分の作品に欠けている部分が見えてきます。そして自分の漫画を設計し直しています。
日本人って純粋さを求める傾向があるので、純粋さ=自分のオリジナルな発想で克服しようとする人が多いんですよ。でも、僕は全く逆で、あまり自分を頼らない。自分1人で考えていても急に面白いことは思いつかないし、それが続くと自分を否定する方向に行ってしまう。だから、開き直って先人の面白いものを参考にしたり少しアレンジしてみよう、と考えるんです。なるべく成果を早く取りに行ったほうが効率がいいと思うので。
芥川龍之介だって日本の古典から着想を得て多くの作品を発表しています。でも、誰もそのことで何も言わないですよね。そう考えると、あまり自分自身だけに頼らず、人の力でレバレッジして成果を出すくらいの開き直った考え方でいいんじゃないかと思うんです。人間って結果しか見ないので。
三田先生が学んだ「意外と簡単なこと」とは
ーーー『ドラゴン桜』で「東大(入学)は簡単だ!」と主人公が言っていますが、三田先生が人生で学んだ意外と簡単なこととはなんでしょうか?
意外と簡単なことは、どんな世界でも自分には遠い世界だと思って思考停止してしまうのではなく、どうやったらアプローチできて、なんとかその世界に入り込むことができないかと考えることです。
東大をはるか雲の上のような手が届かない存在だと決めつけてしまうのか、いや、ちょっと待て、よく調べてみたら意外といけるんじゃないか? と思うのかで、取り組みと結果が変わってくると思うんですよ。
漫画家も一緒で、多くの人は漫画家なんて自分には縁がないと思うかもしれませんが、漫画の世界って実は絶えず新しい才能を求めているんです。漫画賞も星の数だけあるし、どの雑誌でも常に新人を募集しているので、割とハードルは低いんです。もぐりこむことならできるかな、と思えれば、描く漫画も変わってくるのではないでしょうか。
何かしらの成果をつかもうとするなら、高い壁を乗り越えるんだと思わずに、どこか低いところがないかなと探すことが大事だと思うんです。万里の長城だって実は、ずっと高い壁が続いているんじゃないんです。観光写真では高い部分しか写っていないので圧倒されますが、途中からは崩れちゃってて、ひゅっと向こう側に行けるところが意外とある。
下から見上げるのではなく、意外と目線を低くすれば抜け道、穴の開いてる部分が見えてくるので、そこを探して、そっちの世界に入り込むことはやろうと思えば誰でもできるのですが、やるかやらないかだけなんです。
よく「高い壁を乗り越えろ、それが努力だ」みたいなことを言う人がいますけれど、乗り越えられる人はそんなにいないので。乗り越えるために力を使うより、ぐるっと回った方がロスが少ないですよ。
何か大きな成果をつかむために最大限の努力をしなくちゃいけない、と思い込みすぎない方が良いと思います。なるべく最小限の力でなんとかならないかと考えることが大事です。それを姑息だという人もいますが、僕は全然そうは思わないです。そっちの方が賢いし、体にダメージが少ない。
常に100%の力を出し切っていたら絶対長続きしないので、60〜70%ぐらいの力で長く走ることを大事にしていくといいのではないでしょうか。
ーーー「常に100%の力で努力する」とか「がむしゃらに頑張る」のは以前は良い考え方として言われてきましたが、最近は「ちょっとそういう考え方は違うよね」という風潮になってきたと感じます。
僕は良いことだと思いますよ。日本人の生真面目で几帳面なところは非常に好きで尊重しているのですが、それを全てに当てはめるのは違うんじゃないかなと思うんです。
現場の作業で几帳面に綺麗に作るという点はこだわってほしいですし、僕もそこは心がけていますが、そこに至る企画の部分はもう少しラフに肩の力を抜いた状態で、余裕を持った状態で始めた方がいいと思うんです。
企画の段階からガチガチに決めてしまわず、ある程度の余白を作りながら取り組んだ方が、優れた成果物ができるのではないかなと思っています。
企画も現場も全部100%全力でなくちゃならないっていうのは、社会に過度なストレスを与えると思うので、うまくバランスを取った社会になってくれたらいいですね。
何でも100%全力ではなく、しなやかさがあった方が、長続きしてみんながハッピーな社会になるんじゃないかと思います。
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インタビュイープロフィール
三田紀房(みた・のりふさ)
1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。
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