英語を学ぶ目的は、人それぞれ。「英語を話したい私に、TOEICは関係ない」という人もいますが、それは正しい考えでしょうか。
就職や昇進試験合格を目指して、TOEIC Listening & Readingスコアを伸ばそうと努力しているとき、英語学習の本当の目標や、学びの楽しさを忘れてしまうことがあるかもしれません。
英語によるコミュニケーション力を検定するTOEIC Programを「多くの人が誤解している」と、日本で同テストを実施するIIBC(一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)の役員をつとめる永井聡一郎さんはいいます。
U-NOTEは、IIBCの永井さんと、TOEIC Testsの英語4技能で、基準スコアを取得した受験者に贈られる「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」2022年度受賞者のおひとりである室井梨那さんにそれぞれお話をうかがいました。
その模様を、4日連続で紹介します。
【5月3日(金)公開】
受験者も誤解している!?ーーTOEIC Programを実施するIIBC役員が語る‟本当のTOEIC”とは?
【5月5日(日)18:00公開】
英会話の楽しさが不得意科目を学ぶ動機になったーー「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」受賞者室井梨那さんインタビュー【前編】
【5月6日(月)18:00公開】
「できない原因」を見つけて弱点を克服しようーー「IIBC AWARD OF EXCELLENCE」受賞者・室井梨那さんインタビュー【後編】
なぜ「英語公用化」なのか
ーー先日も大手企業が、社内で英語を公用化するという報道がありました。どういった目的で行われているのでしょうか。
永井:英語公用化は、海外進出と優秀な外国人材の採用を主な目的として行われています。英語で働く環境を整えたことで、大勢の外国籍の従業員の採用を実現した企業もあります。全社をあげた「公用化」に難航していても、英語を必要とする部門に対象を絞り成功しているという企業は数多く見受けられます。
ーー英語が必要とならない部署までも公用化する必要はあるのでしょうか?
永井:日本の企業が「全社的に外国語を公用化する」となぜ宣言したのかというと、新卒社員を「総合職」として一括採用し、業務内容などを限定せずに雇用する「メンバーシップ型雇用」が主だからです。
英語を必要としない業務についていても、いつか配属されるかもしれない。「(英語から)逃げられない」という強烈なメッセージを打ち出すことで、働く人たちの意識を高める狙いかもしれません。あくまでもメッセージだからこそ、現状で、部門によって差が生じていると考えています。もちろん、海外との接点が増えたり、職場で外国籍社員が増えたりすることで、英語を必要とする部門が増えていることも事実です。
ーーしかし日本の大企業であれば、国内の外国籍従業員や海外拠点での現地雇用者のほとんどが「日本語話者」ということはありませんか?
永井:「世界のどこで働いても、日本語で仕事ができる」という企業があったかもしれませんが、それは昔のことです。優秀な外国籍従業員を採用するにあたり、日本語を要求するようでは思うように人材を獲得できなくなってきています。また、今は現地スタッフのマネジメント職への登用が進み、「英語を使えないと仕事にならない」という危機感を持つ企業が多いです。さらに、時代が大きく変化しています。かつては、誰かが「案件を背負って」海外出張にいけば、何とかなりました。
リモートワークやオンライン会議が、コロナ禍で「当たり前」になり、生産や製造部門で、海外人材とされていなくても、各国の拠点やクライアントとの会議に参加する必要に迫られています。議論に参加し、その場で自分の考えを伝えることを重視する企業が増えました。
日本企業を取り巻く環境の変化も
ーービジネスをめぐる能力が多角的に問われるようになったということですね。
永井:ひと昔前は、ステレオタイプ的に英語が使えるだけの人材でも重宝されていました。今は信頼関係を構築する、相手を説得するなど目的に対して最適なコミュニケーションを英語で成立させることが求められる時代が訪れています。
ーー日本企業やブランドが、海外マーケットでパワフルな存在ではなくなったことは関係がありますか?
永井:ジャパンブランドを理由に、相手が理解してくれる時代はもう終わったと耳にします。アグレッシブにコミュニケーションを取り「理解をしよう」と働きかけを行う、さらに意思決定のスタイル、スピード感、ビジネスの感覚がまるで違っている他国企業と競争していますね。
ーー中小企業は、よりシビアに体感しているかもしれませんね。
永井:中小企業は、人材不足が喫緊の課題です。外国籍人材の採用をしたくても言葉の壁が立ちはだかり、積極的に踏み切れないケースも多いです。
ただ、日本は経済力だけでなく、文化や観光などでも魅力がある国だとされてきましたが、インドやベトナムなどの優秀なIT人材が日本で働くためには「日本語を学ぶ」必要がある。そのような状態が続くと、将来は国際的な人材獲得競争に負けてしまうのではないかと私は危惧しています。もちろん為替レートや、他国と賃金格差、制度的な要因なども背景にありますが、同じように感じている中小企業は増えつつあるのではないでしょうか。
TOEICの生みの親”は日本人ビジネスパーソン
永井:ところで、‟TOEICの生みの親”が日本人だということはご存じですか?
北岡靖男(きたおか・やすお)という『Time(米のニュース雑誌)』を刊行するTime社に24年間勤めた日本人が発案者です。
英語力を客観的に把握する「モノサシ」を作ろうと、すでに海外の大学や大学院で学ぶために必要とされる英語運用能力を測定するTOEFLテストの開発などを行う世界最大のテスト開発機関であるETSへ働きかけをして生まれました。
英語力を正確にスコアにするというコンセプトから生まれたからこそ、「合格」「不合格」という基準が設けられていないのです。
1970年代に日本は経済大国として積極的に海外展開を進めているにも関わらず、英語でコミュニケーションが取れないというだけで、商談や会議で実力を発揮できない日本人ビジネスパーソンを憂慮して、TOEIC Programを実現しようとしたんです。
ーー日本語が不得意な外国籍の人々とコミュニケーションを図る必要に迫られているケースが増えて、その「憂慮」するべき対象が、これまで英語に関心がなかった層にも広がっているように感じます。
お話をうかがい、私もコミュニケーションをさらに上手に行うために、TOEIC Programに挑戦してみようという気持ちになりました。
永井:ぜひTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)だけでなく、TOEIC Speaking & Writing(以下、TOEIC S&W)を英語学習を成功に導くためのツールとして活用してください。
「英語を学んでから」TOEIC Testsを受ける方が多いですが、これはもったいない。学習を始めるときにスコアの高低を気にする必要はありません。正確に現在地を知ることが重要です。ご自身の得意・不得意をちゃんと知って英語学習の方法やツールを選び、学習計画に役立てるという使い方、‟Test for Learning”を広めていきたいですね。
ーースコアが低くても「伸びしろがある」と思うようにします(笑)。
永井:そして「学習」ばかりに没頭してしまわないように「生の英語」にどんどん触れていただきたいです。
海外とのリモート会議にまずはオブザーバー(傍聴者)として出席したら、「自分の考えを伝えたい」と学習意欲が芽生えるかもしれない。英語スキルで実現したいことを目標や目的にするその道しるべとしてスコアを利用するといいかもしれません。
しかし、スコア300~400台で、英語でやりたいことがみつからないという人は、まずはスコアアップを目標にしてもよいと思います。500点、600点と英語力が身についてくると、自分の目標が見えてきます。……矛盾しますが、スコアを励みにしてみてください。
スコアアップのコツは?
ーー初学なら、努力がスコアに結びつきやすいと考えていいですか?
永井:はい、まずは単語や基本の文法をしっかりと学ぶことで伸びます。
ーーほかに、どんなコツがあるんでしょうか? たとえばTOEIC Speaking Testでは?
永井:たとえば、音読のパートでは、自信なくボソボソ話すのではなく、最初は「ゆっくりはっきり大きな声で」を心がけてみる。ちゃんと伝えることを意識することが大切です。
TOEIC L&Rで600点レベルから伸び悩んでいるという方は、TOEIC S&Wを受けてみるといいですよ。
TOEIC L&R で学んだ「英語」を、 TOEIC S&W でアウトプットできなかったと感じて、再受験しようという方が多いんです。
スピーキングは難しい英語を使う必要はなく、自分が知っている英語を絞り出せば伝わります。でも、言葉にしなければ相手に伝わらないんですよね。その悔しさを忘れずにモチベーションにしてみる。たどたどしくても何度言い直しても言葉に出してみる。それだけで初級者の方はスコアがぐんと上がります。
もちろん、語彙・文法、流暢さに加えて内容の一貫性などを評価していますので、上級者になるほどビジネス場面で相応しい英語を話す力が求められるようになります。
ーー TOEIC L&Rだと、およそ2時間みっちりと200問をこなしていくことすら初心者にはハードルが高いと感じます。
永井:「TOEIC Bridge Listening & Reading Tests 」から始めてみましょう。初心者や中級者に向けて、あわせて1時間で100問。受験してみると「できた」「わかった」を実感できるテストです。英語を実際に使ってみたい・触れたいという気持ちも高まってきます。
出題は、ビジネスシチュエーションばかりではありません。空港でのアナウンス、ショッピングなどさまざまな日常の場面を取り上げています。ビジネスの経験がなくても「ビジネス英語は関係ない」とせず、学んだ言葉や表現を生かしてください。
(後編・了)
TOEIC受験をせずに英語学習することは、サイズや体重を測らずにボディメイクに挑むようなもの……なのかもしれません。TOEIC Programをめぐる「誤解」を、永井さんにさまざまな真実をうかがい「解消」した前編(5月3日に公開)はこちらから。
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