HOMEインタビュー 節水だけでなく、食糧問題にも寄与する「循環システム」ーー“世界を節水する”DG TAKANO代表・高野雅彰さんインタビュー【後編】

節水だけでなく、食糧問題にも寄与する「循環システム」ーー“世界を節水する”DG TAKANO代表・高野雅彰さんインタビュー【後編】

服部真由子

2024/04/17(最終更新日:2024/04/17)


このエントリーをはてなブックマークに追加

“世界を節水する”をビジョンに掲げる‟デザイン会社”、株式会社DG TAKANOをご存じでしょうか。

日本は、蛇口をひねれば、そのまま‟飲める”水道設備が、家庭だけでなく公園などのパブリックスペースにも設けられています。

一方、世界に目を向けてみると「当たり前のように」清潔な水を暮らしに使えるという国や地域は多くありません。2015年に国連総会で採択されたSDGsの「目標6」として「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが含まれているように、水資源をめぐる問題は国際的な社会課題のひとつです。

日本から世界を見渡し、課題解決に向けて「デザイン」をするというDG TAKANO社代表・高野雅彰さんにお話をうかがいました。

前後編として、掲載。前編はこちらから。

「人間が新しいOSで生きる」ためのアイデアが必要

ーーかつて「日本のメーカーが作ったポケットPCが、iPhoneに勝てなかった理由はデザイン」だとおっしゃっています。これは高い場所から見渡したからこそ得られた見識ですね。

高野:たしかに、高い視点を持とうとしています。DG TAKANOをアメリカのスタートアップ企業のようなスピードで成長させたいと考えて「何が違うのかな」と分析していました。日本企業が「負けている」ことや、アメリカの有力企業が10年前とガラッと入れ変わったのはなぜか……その理由が僕なりにわかるようになりました。

日本の社長さんは、同じような知識・認識を持つ人たちが集まって、内輪で情報や意見を交換をします。そこで得るもの・選ばれるものはあるんでしょうか。

ーーデザイナー不在の、技術者だけの集まりであれば、イノベーションを起こすことはできないということですね。

高野:僕はデザイナー、課題の解決策を考えます。研究者は、人類がまだ知らない知識を知ろうと研究する。技術者は、デザイナーが思い描いたものを、具現化します。

デザイナーのアイデアを実現できるかは、技術者次第です。デザインでは、観察することが大事です。お皿洗いを人類は100年以上前から、ずっと同じようにやってきています。

洗う側の蛇口と洗われる側のお皿でしている動きから、どう無駄をなくすか。キッチンのシンクというミクロの視点のデザイン思考で、最適化を考えます。パソコンやiPhoneと同じようにライフスタイルや行動をアップデートする「人間が新しいOSで生きられる」アイデアなんです。

キッチンから出る生ごみをアップサイクルする仕組み

ーー高野さんがデザインされる循環システムについて教えてください。

高野:メリオールデザインの食器を開発、販売するなかで、黙っていたことがあります。

洗い流しに使う水を減らせます。お湯を使っていたなら、お湯を沸かすエネルギーも減らせます。海を汚さない、CO2排出を削減する、洗う人の手も荒れない……良いことずくめだと言ってきました。

しかし、洗剤を使わない最大のメリットは、排水に界面活性剤を含まないこと。排水とそこに含まれる残飯を再利用できることなんです。

ーー水資源だけではなく、フードロスの問題にも寄与するということですか?

高野:食べ残した食品は、生ゴミとして捨てられます。あとはディスポーザーで砕いて下水に流して処分されます。……ビニール袋に生ゴミをまとめて、ゴミ捨て場に持っていくこと、当たり前でしょうか?

さらに、その生ゴミは、誰かがトラックで回収して、燃やします。この使われるエネルギーはすべて「もったいない」。だけど、こうやって処理することが「当たり前」ですね。

ーーたしかに、疑問をもつ人は少ないと思います。

高野:水不足だけじゃなく、世界には食糧不足の問題があるのに、食糧を捨てています。

新しく提案するシステムでは、洗剤を使わずに洗えるメリオールデザインを使い、下水ルートの排水口とは別に、リサイクルルートの排水口をシンクに設けて洗い物をした水や残飯を流します。

そのパイプをバイオタンクに通じさせる。そして作られた栄養水を農業利用し、その水が作物を育て、また食卓に戻ってくる。野菜などを生産する植物工場や、バイオガスを作るプラントへ運び、さまざまな用途に変換しようというシステムです。

「meliordesign循環システムコンセプト『TABLE to TABLE』」の概要

ーー家庭のキッチンから出る排水とそこに含まれた食べかすや生ゴミをアップサイクルするんですね!

高野:これまではゴミとして集めて燃やしていた残飯を100%リユースできます。たとえば、肥料や飼料の値段は高騰しています。だから、食肉の値段も高くなる。このシステムで集めた残飯で飼料を作れたら、最終的に食肉の価格を抑えられます。

節水をして、洗剤を使わないという技術を僕は持っている。植物工場、バイオタンクの技術はそれぞれ他の企業が持っています。全ての技術を組み合わせたら、資源が循環します。

海外での反響は?

ーーすでに海外の展示会などでそのシステムコンセプトを公表されていますが、どんな反応があったか教えてください。

2024年2月、スペインで行われた「4YearsFromNow2024」出展の様子

高野:ドイツ、スペイン、サウジアラビアで行われた展示会にそれぞれ出展しましたが(2024年3月時点)、みんな違う反応でした。

ドイツは、バイオガスにリユースできるという点が評価されました。ウクライナ紛争から、ロシアからの天然ガス輸入をやめたことで電気代が高騰しています。ロシアの資源に頼らない、新たなエネルギーの供給手段を探しています。フードロス問題を解決して、さらにクリーンエネルギーを生み出す手段にもなることが衝撃だったようです。

ーーエコシステムへの意識・関心が高い国らしい反応ですね。

高野:スペインは、バルセロナで水不足がとても深刻な問題です。だから、節水ができることが‟刺さった”ようです。スペインだけでなく、アメリカや、サウジでも水不足は本当に深刻です。水道代は高騰しているし、水を使えない時間や曜日が決まっているような国や地域が世界に多数あります。

4月にはイタリアの展示会に出展しますが、おそらく「窒素循環」に反響があるでしょう。残飯から肥料を作ることで窒素循環型農業に貢献できる点が解決策としてめちゃくちゃ‟刺さる”と予想しています。

PR TIMES|meliordesign、ミラノデザインウィーク2024初出展

ーー日本ではあまり窒素をめぐる環境問題は取り沙汰されることはありません。

高野:窒素循環システムに応用できる点を、僕自身も「すごい」と感じていますが、日本では関心を持っている人はごくわずかですね。世界では窒素をめぐる環境問題はCO2の100倍は「ヤバい」と言われ、イタリアやオランダ、農業が盛んな国では循環型農業に切り替えることに関心が高まっています。

ーー複数の企業との連携が必要で、かつ治水事業や都市計画など国家レベルでの協力や連携が求められるプロジェクトのようですね。

高野:去年のクリスマスに経済産業省の齋藤大臣と一緒にサウジに行き、このシステムコンセプトを公表しました。DG TAKANOにとって、Bubble90、メリオールデザインはホップ・ステップ。循環システムはジャンプです。

このモデルをかたちにできるかは技術にかかっています。サウジでは、ある財閥と合弁会社を設立して国家事業としてプロジェクトを進める準備をはじめています。実証実験が成功したときに、世界に広めていけると思います。

サウジアラビア国立節水センターを訪問した高野さん

循環型農業とは

循環型農業は、従来の化学肥料や農薬などにだけ頼るのではなく、一般家庭や畜産業、工業などから出た本来ならば廃棄する物を肥料として活用し、資源を循環させ環境の負荷軽減を目指す農業のシステムです。

日本科学未来館|"窒素"が環境問題を引き起こしている?

デザイン思考を身につけるには「世界へ」!

ーーデザイン思考を身につけるために、どんなことからはじめるべきでしょうか。読者へアドバイスをいただけますか?

高野:日本人がデザイン思考を苦手とする理由は、軍隊方式で一律に同じ考え方、同じ価値観を植え付けられていることだと思います。先生の言うことが絶対で、指示に従う。社会に出たら、マニュアルがあって、その通りに働くんです。

これは悪いことばかりではなくて。1月に飛行機事故がありましたが、全員が無事に脱出できたのは、日本人だからでしょう。あの事故が海外で起きてたら、勝手にドアを開けて逃げる乗務員や乗客が続出して、大惨事になっていたかもしれません。

僕は若い人へ「早く海外に行け」とアドバイスします。日本にいたら何も見えませんが、海外で日本の良いところと悪いところ、強みと弱み、全部わかります。

ーーどんな国や地域に向かえばいいのでしょうか?

高野:どこの国でもいいんです。世界がどうなっているかを、まずは見る。自分が見ているもの、見えていないものを知りましょう。日本が現状に対して危機感をどれだけ抱くべきなのかも見えてきます。

日本人の視点の距離感は、対象に近づいて、顕微鏡を覗きこんでいるような、研究者や技術者のものです。「日本人にしか作れない」部品は、ここから生まれます。複数の視点をもつこと、さらにその距離も重要です。

インタビュイープロフィール

高野雅彰(たかの・まさあき)
DG TAKANO代表取締役

1978年大阪府東大阪市生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、IT企業に就職し3年で独立。高い節水率と洗浄力を兼ね備えた節水ノズル「Bubble90」を開発し、2009年「"超"モノづくり部品大賞」でグランプリを受賞。2010年に社会課題や環境問題等を解決するデザイン会社 「DG TAKANO」を設立。2022年「サウジ・日本ビジョン2030ビジネスフォーラム」に日本代表企業として招待され、世界の水不足の解決に取り組んでいます。

2023年に、洗剤を使用せず、水ですすぐだけで汚れや細菌を落とす食器「meliordesign(メリオールデザイン)」を開発し、日経クロストレンド「マーケター・オブ・ザ・イヤー2023」優秀賞、2023年度省エネ大賞<製品・ビジネスモデル部門>にて「審査委員会特別賞」をそれぞれ受賞。

経済産業省J-Startup企業、日経ビジネス『世界を動かす日本人50』、ForbesJAPAN「ChatGPT後の日本の勝ち方10」などに選出されている。

株式会社DG TAKANO HP:https://dgtakano.co.jp/

【関連記事】


hatenaはてブ


この記事の関連キーワード