LGBT研修や同性パートナーがいる人にも適応される福利厚生の導入など、LGBTQ+に関する取り組みを行う企業は増えてきました。しかし、いまだにLGBTQ+の就労における問題は深刻なものです。
厚生労働省の調査によると、LGBの約4割、トランスジェンダーの約5割が職場で困りごとを抱えていると報告されています(※1)。具体的な例は、面接や職場でのカミングアウトへの不安、入社後の性的指向や性自認に関連する差別や不利益などです。
株式会社JobRainbowは、このような現状に目を背くことなく、LGBTQ+当事者が自分らしく働ける社会をかなえるための取り組みを行っています。
JobRainbow執行役員CSO(最高戦略責任者)・ダイバーシティ採用事業部 ゼネラルマネージャーの海老根さん、ダイバーシティ採用事業部の大朋(仮名)さんに、JobRainbowの具体的な取り組みとLGBTQ+が直面する就労の問題について伺いました。
(※1)出典:厚生労働省「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」
LGBTQ+当事者と企業の「非対称性」を解消したい
ーーーJobRainbowが誕生したきっかけについて教えてください。
海老根:弊社は2016年に創業しました。創立したCEOの星自身がゲイ当事者であり、そのことで学生時代に不登校になるなど、苦しい経験をしたこともあり、大学時代にLGBTQ+サークルを立ち上げました。
そこで、LGBTQ+当事者が直面している悩みや課題、社会の現状を目の当たりにしたことが1つのきっかけです。当時はLGBTQ+の取り組みを行う企業様が増えていたものの、当事者と企業間でLGBTQ+に関する情報に偏りがあったと語っています。星はその「非対称性」を解消したいとの思いを抱き、弊社を設立しました。
ーーー設立当初は、現在のようにLGBTQ+フレンドリーな企業を探すのは難しかった印象がありますか?
海老根:当時は「LGBTQ+ 就職」と検索すると、水商売や風俗営業系の求人がトップに出てきました。しかし、今では弊社が運営するダイバーシティ求人サイト「JobRainbow」が表示されるようになり、そこを変えられたのは大きいです。
現時点でも、ダイバーシティ採用の視点から就活者とのマッチングを図るような事業を展開する企業は、ほぼないのかなと思います。
社会に合わせるのではなく、社会が個人に合わせていく
ーーー事業内容を教えてください。
海老根:「ダイバーシティ採用事業部」「DEIBラボ事業部(※2)」「D&I AWARD推進部」の3つの事業を展開しています。
1つ目のダイバーシティ採用事業部では、求人サイト「JobRainbow」の運営や、昨年11月に開催したダイバーシティ推進企業限定の合同説明会「ジョブレインボーしごとEXPO」のようなイベントの開催に取り組んでいます。
海老根:2つ目のDEIBラボ事業部では、企業様に向けたダイバーシティ研修やコンサルティングなどを提供し昨年には「D&I検定」というD&Iを「自分ごと化」するためのサービスをリリースしました。D&Iは女性、外国人、高齢者、LGBTQ+など、身近に当事者がいたり、自分が当事者だったりなど、誰もが密接に関係するテーマなため、根本的な理解促進を目指しています。
最後のD&I AWARD推進部では、2021年から始まった企業様のD&Iに関する取り組みを評価・認定する制度「D&I AWARD」の運営が主です。
(※2)D&Iとは、「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(受容性)」を指し、多様な人材を受け入れ尊重することで、個人のスキルを発揮できる環境を整備する取り組みのことです。
ーーー3つの事業で共通して目指していることはありますか?
海老根:「差異を彩へ。自分らしくを誇らしく」をビジョンとして掲げ、1人ひとりの違いが社会としての彩りになることを目指しています。
現状、マジョリティーが享受できるサービスはあっても、マイノリティーの人が当たり前に享受することが難しい社会があるので、「個に滑らかな社会を実現する」という点を意識しています。社会に合わせていくのではなく、社会が個人に合わせていくことが大切なのかなと。
LGBTQ+の就活・就労における問題
ーーー実際に当事者の就活生と関わるなかで、特にどのような困りごとを耳にしますか?
海老根:就職活動中のフェーズでは、履歴書の性別欄で男女のどちらに丸をつけたらいいかわからないという悩みや、面接官にカミングアウトしたら内定を取り消されたという相談をいただくことがありました。
大朋:私自身、LGBTQ+当事者なのですが、これまでに新卒・中途としての就職活動を経験し、困難に直面することがありました。
たとえば、リクルートスーツは男性=ズボン、女性=スカート、女性は化粧をすることが当たり前ということから服装に困ったこと。新卒の就活時は集団面接やグループディスカッションなどが多く、テーマによっては自己開示をしなければならない場面もあり、議論がうまくいかないことがありました。自分に嘘をついて選考に臨まなければならない時があり、心が苦しかったです。
ーーー入社後に直面し得る問題はありますか?
海老根:入社して部署でカミングアウトしたらハラスメントや差別的言動を受けてしまったというケースです。あとは、同性パートナーがいらっしゃる方で、法律上結婚している同僚と同等の福利厚生を受けることができないという悩みもよく聞きます。
会社にもよりますが、たとえばパートナーと一緒に社宅に住めなかったり、お祝い金がもらえなかったりなど、不平等が生じるケースはいまだに多いです。
職場でカミングアウトはした方が良い?
ーーー職場でのカミングアウトについてはどう考えていますか?
海老根:カミングアウトがきっかけで、職場から適切なサポートを提供してもらえるといったポジティブな結果につながる可能性がある一方で、職場の理解がなくハラスメントやアウティングの被害にあってしまう可能性もあるため、1人ひとりが判断していくテーマだと考えています。
ただ、入社後にカミングアウトしたものの、ふたを開けてみたらまったくサポートがなかったといった相談をいただくこともあるので、そういった事態を防ぐためにも入社前に会社について調べるのは大切なのかもしれません。
大朋:カミングアウトに関しては、それぞれの考えがあっていいと思います。自分が働くうえで何を大事にしたいのか、自分自身をどう表現していきたいのかを考えたうえで決断されるのが良いのかなと思います。
私の場合は、自分自身のことを伝えられていた方が、自分がストレスなく働けること。また家族やパートナーに何かあった際にお休みを取りたい場合など、周囲に理解をしてもらえやすいことを考えて、会社や同僚にはカミングアウトした状態で働いていました。
ーーーLGBTQ+当事者へのサポートを行っている企業かどうかを確認する場合、なるべく当事者がハードルを感じずに行える方法はありますか?
海老根:企業様がどのような思いをもっているのか、D&Iに関してどのような取り組みを行っているのか(もしくは今後していきたいのか)を確認するといいのかなと。しかし、質問することで当事者であることがバレてしまうことを懸念する人もいるでしょう。
そういった場合、たとえば「D&Iの取り組みを行うことで、離職率が13倍改善されるといった事例※もありますが、御社は今後D&Iを推進していきたいと考えていますか?」のように、自分視点ではない質問の仕方をするのはおすすめです。
出典:BCG「A New LGBTQ Workforce Has ArrivedーIncruisive Cultures Must Follow」
ーーー個人的な質問というより会社側に焦点を当てることで、当事者も気軽に質問ができるということですね。
海老根:あとはLGBTQ+当事者だけでなく、誰しもが個別のサポートが必要になる可能性があるので、困ったことがあった場合に相談できる窓口や相手がいるかどうかも確認するうえで大切だと考えています。
ーーーカミングアウトをしようか悩んでいる就活生・新卒生に向けて、アドバイスをするとしたらどう声をかけますか?
大朋:先ほどお伝えをした内容と少し重なってしまいますが、カミングアウトをするかどうかは1人ひとりが判断するテーマだと思っています。私の個人的な意見にはなりますが、『自分がどのように働きたいか。』が一番重要だと思っています。
なので、無理にカミングアウトをする必要もないですし、カミングアウトして働けた方が自分にとってストレスなく働ける場合はカミングアウトをするというのも一つの選択肢だと思っています。ただ就職を考えている企業に理解があるか否かはきちんと確認をしたり、知った上で、カミングアウトをすることは大事かなと思っています。
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