『ポケットに冒険をつめこんで』『量産型リコ-もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』『こむぎの満腹記』ーー。2023年に放映され、話題となったこれらのドラマを生み出したのは、企画プロデューサー・脚本家・クリエイティブディレクターである畑中翔太さんです。
つい誰かと共有したくなる、心が弾むような作品を世に出し続ける畑中翔太さんに、若者ならではの企画を立てるメリットや、周囲を巻き込む力を持ったクオリティーの高いアイデアを創出する方法についてお聞きしました。
前編はこちらから「若者が企画を立てるメリット|企画プロデューサー・脚本家の畑中翔太がアイデアを生み出すときに突破する2つの壁」
企画を実現させれば自分のやりたいことが仕事になる
―――若者が、いますぐ企画を考えたくなるようなアドバイスがあればぜひ教えてください。
やりたくないことをやっているときの自分と、やりたいことをしているときの自分をくらべてみてください。
やりたいことをしているときの方が、モチベーションや生産性が上がるのではないでしょうか。私なんか、やりたくないことをしているときは、すべての能力値が何段階も下がっている状態になります。
「社会の歯車のなかでやりたいことをやるためにはどうしたらいいのか?」と聞かれたときの答えを考えてみると、やはり企画を出すことなんです。「自分のアイデア=やりたいこと」なので、企画を実現させてしまえば仕事がどんどん楽しくなると思います。
―――なかには、自分は企画が作れるような面白い人間ではないと悩む若者がいるのではと思います。
特別な考えや特性をもった人間でなくても、誰でも作れるのが企画の魅力であり、面白さです。
私の企画するドラマ作品は、明るくてホッとした気持ちになれる描写を多く入れています。しかし、実際の私は常にポジティブな発想をしているような人間ではありません。
引用:dea inc. 『夢喰い』 他人の夢を食べ、願望や希望を強制的に消し去る能力をもつ主人公を描いたコミックス
私が原作・シナリオを手掛けた『夢喰い』は、夢という言葉に踊らされていることが幸せなのか、あきらめる自分を肯定することも大切ではないのかということをテーマにしました。かなり夢のないメッセージではありますが、実は私が本質的に思っていることでもあります。
そのような考えをもつ私でも、自分が密かに憧れているハッピーな世界を描き、誰かに有意義な時間を与えることができています。自分のなかには存在しないものでも、企画であれば表現できるといえますね。
「好き」を企画に組み込むために必要なこと
―――畑中さんのように企画を考えることが仕事だと、大変に思うことも多いのでしょうか?
たしかに、大変ではありますね。企画を仕事にしていると、すべての物事をアイデアにできないかと考えてしまうので、脳が100パーセント休むことはありません。
でも、常に新しい発見を求めている時間は高揚感に満ちていて、辛いという感覚とは別のところにある気がしています。
もし企画を考えることに疲れてしまいそうな場合は、自分の「好き」を積極的にアイデアに入れ込んでみてください。私も、いままで企画したドラマを思い返すと、野球やB級グルメなど、自分の好きなものばかりをテーマにしています。
好きなことであれば、ワクワクしながら取り組めるだけでなく、具体的な企画を立てることにもつながると思います。
―――「好き」を企画にするためには、どのようなことを意識すべきでしょうか?
自分の好きなものを、大衆化する意識が大切です。「好き」をただ表現するだけでは、興味をもっていない人を惹きつける企画にはなりません。
引用:dea inc. 『量産型リコープラモ女子の人生組み立て記ー』 プラモデルとの出会いを通じて、少しずつ前向きになっていく主人公を描いたドラマ
『量産型リコ』では、プラモデルに興味ない人でも楽しめる作品づくりをしました。たとえば、プラモデルをパチパチと切り離していく描写は、誰にとっても心地よく、まさに大衆化を意識したシーンです。
「好き」を企画にするときは、興味がない人をどのようにすれば巻き込めるかを考えてみると、クオリティアップにつながると思います。
自分の気持ちより相手のメリットを意識
―――企画を周囲に納得してもらい、実現させるためにはどのようにしたらよいのでしょうか?
企画を通すときは「自分がやりたい」と言わないことが大切です。自分のやりたい気持ちだけを押し出しても、相手の気持ちを突破できるほどの効果がないのは、私自身何度も実感してきました。
企画のプレゼンを成功させたいのであれば、相手のメリットや目的などを想像して「これは面白いですよね」ではなく、「これはあなたがやりたいことに近いですよね」と説明することを意識してみてください。提案をされた人は、一気に企画が「自分ごと」になりアイデアを受け入れたくなるはずです。
つまり、企画の本質さえ変わらなければ、相手の目線に合わせた方が気持ちは伝わりやすいといえますね。
―――若者だとまだ肩書きがないので、ベテランとくらべて信頼性が低く、企画が通りにくいのではないでしょうか?
肩書きの差は、どうしても埋められないことを大前提にする必要がありますね。会社ですでに活躍している人と若者では、信頼性が異なるのは自然なことだと思います。
ただ、少しでも周囲からの信頼性をあげ、企画を通すスピードを早めたい場合は、自ら肩書きを作ることが大切です。私の場合は、会ったことがない人にも期待される存在になれるように、広告関連の賞を積極的に受賞しようと努力をしていました。
とはいえ、いきなり肩書きを手に入れるイメージが湧かない場合は、やはり企画を出し続けて信頼を積み上げる手段が有効です。アイデアを積極的に出している印象をチームや上司にもってもらえれば、話を聞いてくれるようになるかもしれません。
1度通った企画は、たとえ小さな成果だったとしても立派な実績です。実績があれば、アイデアを実現させたことのある人材として、肩書きとは別の信頼を獲得できます。
―――最後に、これから企画を出せる人間になりたいと思う若者へメッセージをお願いします。
企画をするのって、本当に楽しいんです。若者にこそ、企画を出して周囲が変わっていく感覚を味わってみてほしいと思っています。
もしかしたら、自分は企画が必要とされる環境にいないと思う人がいるかもしれません。でも決してそのようなことはなく、たとえば、日々の業務効率化や、社員に有給休暇を取らせることなどにもアイデアが必要です。
どんな仕事でも、どんな立場であっても、企画は大事だと思っています。ぜひみなさんには、企画することを楽しんでほしいです。
場数を踏めば企画を出すスピードも上昇していくので、ぜひ若いうちからアイデアを生み出す習慣を身につけてください。やりたいことをやる人生を、自分の力で手に入れられるようになりますよ。
インタビュイープロフィール
畑中翔太
1984年生まれ。中央大学法学部卒業。
2008年博報堂入社後、博報堂ケトルに参加。2021年dea inc.を設立。
現在ではコンテンツスタジオ「BABEL LABEL」にも所属。
クリエーターオブザイヤー2018メダリスト、カンヌライオンズ審査員。
これまでに国内外にて200を超えるクリエイティブアワードを受賞。
最近では、静岡市「静岡市プラモデル化計画」Pairs「本命ならペアーズ」湖池屋「この男、ピュアにつき。」などのクリエイティブディレクションとともに、ドラマ『ポケットに冒険をつめこんで』『量産型リコ-もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』『こむぎの満腹記』など、多数のコンテンツの企画・プロデュース・脚本を務める。
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